夜の声

神崎

文字の大きさ
上 下
203 / 355
二年目

202

しおりを挟む
 筑前煮を持って柊さんの家へ行く。たぶんその足はとても浮き立っていたと思う。
 アパートの脇を通り、金網フェンスのとぎれたところから裏通りに向かう。そしてアパートに踏み入れた。すると後ろから女性が一緒に階段を上がる。胸元が広く開いたワンピース。その胸元からは、大きな胸がこぼれ落ちそうだった。
 綺麗なマニキュアと、綺麗に化粧されている彼女は私の横をすり抜けて、柊さんの部屋の隣の部屋のチャイムを鳴らした。
「トモでーす。」
「入れよ。」
「おじゃましまーす。あ、一応禁止事項とオプションがぁ……。」
 禁止事項?オプション?なんの話だろう。
 まぁいいや。私は柊さんの部屋のドアの鍵を開けて、中に入った。すると彼はエアコンの利いた部屋の中で、ベッドに横になると気持ちよさそうに眠っていた。どうやらシャワーを浴びてそのまま眠ってしまったらしい。
 私はテーブルの上に風呂敷包みのタッパーを開け、そしてキッチンへ行くとからのタッパーをまた包んだ。
 そしてまた部屋へ戻ると、ベッドの側に座った。
 端整な顔立ちだった。彫りが深くて、少し面長。厚い唇。なんだかこの国の人じゃないようだ。でもやっぱり藤堂先生には似ているような気がする。
 ベッドに肘をかけて、彼を見ていると自然に眠気がくる。私はそのまま彼の伸ばしている腕を枕にして、彼の横で横になった。

 テーブルの上の携帯電話が鳴って、目が覚めた。珍しく柊さんのモノではなく、私の携帯電話が鳴っているようだ。
 手を伸ばしてテーブルの上の携帯電話を取ると、相手はどうやら茅さんのようだった。私はベッドから降りると、そのメッセージをチェックする。
「桜?」
 柊さんも目を覚ましたらしい。チェックを終えると、私はまた彼の腕の中で横になる。
「何時?」
「十八時。」
「一時間くらい寝てたか。」
 あくびを一つ。そして彼は私を見下ろす。そして唇にキスをした。
「疲れてるのよ。」
「あぁ。そうだな。また温泉でも行くか。」
「今度はゆっくり出来るかしら。」
「そうだな。一泊でも出来ればいいが。」
「遊びに行くんじゃないわ。」
「瑠璃さんの元か。フフ。そうだな。でもお前を一晩中独占できるのは嬉しい。」
「母さんが許してくれるかしら。」
「直談判するから。」
 すると彼はまたキスをして、今度は私の体の上に乗る。すると薄い壁の向こうからまた例のあえぎ声が聞こえる。

「駄目ですって。それ追加料金になりますからぁ。」
「うるせえ。デリヘル嬢だな。黙って股開けよ。」
「あぁん!」
「よがってんじゃねぇかよ。ほら。ここ、超大洪水。べっちゃべちゃ。吸ってやるよ。ほら、ここも超気持ちよさそうにひくついてるぜ。」
「あぁん!やん!」

 今日も激しいなぁ。すると柊さんは一度私の上から体を避けると、ベッドから降りた。そしてCDを一枚かける。
 するとスピーカーから聞き覚えのあるパンク音楽が流れた。そして私が横になって寝ている上に、また覆い被さった。
「声が気になるなら、音を流す。」
「うるさいっていわれないかしら。」
「うるさいのはお互い様だろ?」
 私は体を起こして、彼の黒いシャツを脱がせる。すると彼も私のワンピースに手をかけようとして、手を止めた。
「可愛いな。そういう格好も。」
「たまにはね。」
「バイクだとそういう格好出来ないからな。」
 すると彼は後ろのチャックに手を伸ばした。そして一緒に下着のホックも取り去った。

 気が遠くなりそうな行為は、全身が敏感になり何度も絶頂を迎えた。彼も私の体に何度も打ち込んでくる度に、表情が変わっていく。
「だんだん変わってくるな。お前の体は。」
「いや?」
「いいや。角が取れて女らしくなった。もう痛くはないのだろう?」
「そうね。痛くはないけど……。不安になるわ。」
「どうしてだ。」
「こんな体になって……軽蔑されないかって。」
「俺がか?そんな訳ないだろう。だいたいそんな体にしたのは……俺だし。」
「……そうね。責任とってね。」
「あぁ。高校を卒業したらな。」
 そういって彼は体を起こして、煙草に手を伸ばした。
「あのね……。柊。」
「なんだ。」
「来週当たり……出来ないと思う。」
「……そうか。まぁ、それだけが目的じゃない。一緒にいたいだけだ。知ってたか?俺はお前が好きだからな。」
「えぇ。私も好きよ。で……ね。もしそのとき来てなかったら……その……。」
「……。」
 言わんとしていたことがわかったらしい。私は顔から火がでそうだったほど、赤くなっているようだった。彼が背中を向けててよかったと思う。
「それにこだわっていないが、どうしてもしたければしようか?」
「……本当?」
「……本当は、不安じゃないのか?」
「そうね。不安は不安ね。」
「まぁ。こんな薄いゴムも、避妊の可能性はゼロではない。でも……。」
 彼は煙草を消すと、私を見る。
「何?」
「いいや。子供がいても悪くないと思ってな。お前が不安じゃなければな。」
 母さんは今の私よりも遙かに若いときに私を産んだ。一人で。その不安に比べれば、屁みたいなものじゃないだろうか。だって私には柊さんがいるんだもの。
「柊さん。不安がないことなんか無いわ。でもあなたがいてくれるなら、それもいいかもしれないわね。」
「……。」
「でもコーヒー飲めないのよ。妊婦さんって。」
「マジか。」
 私は彼を後ろから抱きしめた。
「コーヒーを淹れれるようになるまで、待ってくれる?」
「籍は入れよう。」
「えぇ。」
 その言葉に、彼は私のその手を握った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...