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二年目
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打ち上げに言った柊さんは、確かにリリーと同じ席に着いていたが大した話はしなかった。元々音楽を勉強しているわけでもないし、職業音楽家の人と何の話が出来るだろうと思っていた。
それにリリーは彼に何か話そうとしていたようだったが、どうも彼女から立ち上るお香のような匂いが苦手だったため、なるべく離れておこうと思っていた。
そして打ち上げの一次会が終わり、二次会へ行こうと盛り上がっていたのだが、このときは桜のことが頭に引っかかり帰ろうとした。
だが向こうから蓬さんがやってきた。彼を見てふっと笑う。
「柊か。」
「違う。」
いくら髪を下ろしても、サングラスをかけていても誤魔化しはきかないだろう。そう思っていたが、蓬さんは柊さんの向こうを見てふっと笑う。
「どうやら人違いだな。」
蓬さんが去ったあと、彼は蓬さんが見た視線の先を見る。そこにはリリーの姿があった。リリーが何かあるのかもしれない。そう思っていたが、もう多分これから会うかどうかもわからない人に、蓬のことなど聞けるはずがない。それに彼女は今やトップアーティストだ。個人的なことなど聞けるはずもないし、自分のことも話すつもりはない。
気にならないことはない。だが、このまま話せることでもない。
「Syu。二次会行くか?」
誘われて、彼は生返事のままその仲間たちと次の店へ行った。
なんだかんだ行っても土曜日。次の日は日曜日だ。大抵の人が次の日が休みで、羽目を外している。途中でリリーは帰り、最終的には五人ほどの男たちと明け方くらいまで飲んでいたのだという。
誰かわからない人の家に行き、雑魚寝をしていたらしい。そしてそのまま帰ってきたのだという。
「呆れた。」
母さんは本当に呆れていたようだった。
「大学生じゃないんだから、そんな飲み方しないの。バカじゃないの?」
柊さんはソファに座らずに、カーペットの上に座ったまま反省しているようだった。
まぁでも責められないよ。つき合いって多分とても大事だと思うし……。まぁ、大人じゃないからわからないけど。
「俺あんまり慕われたこともなかったから。」
「だからって来るって言ったものを、来ないなんてなんて人なの。連絡一つ入れられたでしょ?」
「携帯、充電切れた。」
ますます母さんはため息を付くと煙草を消して立ち上がった。
「もうあたしは何も言いたくないわ。あとはあんたたちで話し合いなさい。仕事もあるしね。」
「今日休みにするって言ってたのに?」
「あぁ。そうだったわ。じゃあ、席を外すから。彼氏のところでも行こうかな。」
母さんはそう言って自分の部屋に戻っていった。そして次に出てきたときは、いつもの遊びに行くような格好のまま出てくる。
そのとき部屋のチャイムが鳴る。
「早いわねぇ。迎えに来てくれたのかしら。」
そう言って母さんは玄関に向かう。そしてそのまま帰ってこなかった。
「携帯、充電する?機種同じだから、充電できるわ。」
「あぁ。そうしようか。」
私の部屋にやってくると、彼は携帯電話を取り出して充電コードをつなげる。そのとたん、携帯電話が鳴り出した。どうやら不在着信やメッセージが沢山あったらしい。
その画面を見おわり、彼は携帯電話の画面を落とす。そしてこちらを見た。
「待ってたのか。」
「えぇ。」
「悪かったな。」
「ほんとね。」
本当はもっと怒りたかった。だけど怒っても何が変わる訳じゃない。
「信じてるのが揺らぎそうになったわ。」
「そんなつもりはなかったんだがな。つい……。」
「楽しかったんでしょう?別に責めるつもりもないわ。」
「……久しぶりに記憶が無かった。」
「でも一つ聞きたいわ。」
「何だ。」
「女性がいたの?」
すると彼は私の頭を撫でて言う。
「いない。ヤローばっかだ。」
「……そう。」
確かにDJをしていた人は男性ばかりだった。その中にいたのだから、不思議はないのかもしれない。
「茅さんにもお礼を言わなきゃ。」
「茅に?どうしてだ。」
「心配してくれたから。」
「それだけか?」
それだけじゃない。だけど言えない。リリーさんと茅さんのこと。恨んでいるということ。言えるわけない。
「柊と連絡が取れないっていったら、そんな奴は捨ててしまえって言ってた。それから……。」
好きだって言われた。その言葉に私は少し揺らぎそうになったのは事実。
「あなたが浮気をしているんじゃないかって。」
「俺が?」
「男性が連絡が取れないって言うのはそういうことだって言ってたから。ずいぶん心配してくれたし、夜の町に探しに行くのもつき合ってくれたから。」
「連れて行ったのか。あいつ……。」
「私が望んだのよ。」
「桜。」
彼はそういって私の体を抱きしめた。あぁ、やっぱりこの体がいい。私はこの温もりを欲しがっていたのだ。
「最初に俺が連れていきたかったのにな。」
「……連絡つかなかったあなたが悪いのよ。」
「お前と初めてのことがない。」
「あるわ。」
「何だ。」
私は体に手を伸ばした。
「初めて抱きしめられた。男を感じたわよ。」
すると彼は私の体を抱きしめる力を強める。そして頭にキスをした。
「お願いがあるの。」
「何?」
「連絡だけは付けれるようにしてくれる?出れないときは構わないの。でも後で連絡してくれる?」
「桜。」
「じゃあないと、知らないところで何かあったんじゃないかって不安になるの。そこにつけ込む人もいるのよ。」
「……つけ込まれたのか?葵か?」
「……秘密。」
「教えろ。」
彼はそういって私を抱き抱えた。そのままベッドに押し倒すと、深くキスをした。
それにリリーは彼に何か話そうとしていたようだったが、どうも彼女から立ち上るお香のような匂いが苦手だったため、なるべく離れておこうと思っていた。
そして打ち上げの一次会が終わり、二次会へ行こうと盛り上がっていたのだが、このときは桜のことが頭に引っかかり帰ろうとした。
だが向こうから蓬さんがやってきた。彼を見てふっと笑う。
「柊か。」
「違う。」
いくら髪を下ろしても、サングラスをかけていても誤魔化しはきかないだろう。そう思っていたが、蓬さんは柊さんの向こうを見てふっと笑う。
「どうやら人違いだな。」
蓬さんが去ったあと、彼は蓬さんが見た視線の先を見る。そこにはリリーの姿があった。リリーが何かあるのかもしれない。そう思っていたが、もう多分これから会うかどうかもわからない人に、蓬のことなど聞けるはずがない。それに彼女は今やトップアーティストだ。個人的なことなど聞けるはずもないし、自分のことも話すつもりはない。
気にならないことはない。だが、このまま話せることでもない。
「Syu。二次会行くか?」
誘われて、彼は生返事のままその仲間たちと次の店へ行った。
なんだかんだ行っても土曜日。次の日は日曜日だ。大抵の人が次の日が休みで、羽目を外している。途中でリリーは帰り、最終的には五人ほどの男たちと明け方くらいまで飲んでいたのだという。
誰かわからない人の家に行き、雑魚寝をしていたらしい。そしてそのまま帰ってきたのだという。
「呆れた。」
母さんは本当に呆れていたようだった。
「大学生じゃないんだから、そんな飲み方しないの。バカじゃないの?」
柊さんはソファに座らずに、カーペットの上に座ったまま反省しているようだった。
まぁでも責められないよ。つき合いって多分とても大事だと思うし……。まぁ、大人じゃないからわからないけど。
「俺あんまり慕われたこともなかったから。」
「だからって来るって言ったものを、来ないなんてなんて人なの。連絡一つ入れられたでしょ?」
「携帯、充電切れた。」
ますます母さんはため息を付くと煙草を消して立ち上がった。
「もうあたしは何も言いたくないわ。あとはあんたたちで話し合いなさい。仕事もあるしね。」
「今日休みにするって言ってたのに?」
「あぁ。そうだったわ。じゃあ、席を外すから。彼氏のところでも行こうかな。」
母さんはそう言って自分の部屋に戻っていった。そして次に出てきたときは、いつもの遊びに行くような格好のまま出てくる。
そのとき部屋のチャイムが鳴る。
「早いわねぇ。迎えに来てくれたのかしら。」
そう言って母さんは玄関に向かう。そしてそのまま帰ってこなかった。
「携帯、充電する?機種同じだから、充電できるわ。」
「あぁ。そうしようか。」
私の部屋にやってくると、彼は携帯電話を取り出して充電コードをつなげる。そのとたん、携帯電話が鳴り出した。どうやら不在着信やメッセージが沢山あったらしい。
その画面を見おわり、彼は携帯電話の画面を落とす。そしてこちらを見た。
「待ってたのか。」
「えぇ。」
「悪かったな。」
「ほんとね。」
本当はもっと怒りたかった。だけど怒っても何が変わる訳じゃない。
「信じてるのが揺らぎそうになったわ。」
「そんなつもりはなかったんだがな。つい……。」
「楽しかったんでしょう?別に責めるつもりもないわ。」
「……久しぶりに記憶が無かった。」
「でも一つ聞きたいわ。」
「何だ。」
「女性がいたの?」
すると彼は私の頭を撫でて言う。
「いない。ヤローばっかだ。」
「……そう。」
確かにDJをしていた人は男性ばかりだった。その中にいたのだから、不思議はないのかもしれない。
「茅さんにもお礼を言わなきゃ。」
「茅に?どうしてだ。」
「心配してくれたから。」
「それだけか?」
それだけじゃない。だけど言えない。リリーさんと茅さんのこと。恨んでいるということ。言えるわけない。
「柊と連絡が取れないっていったら、そんな奴は捨ててしまえって言ってた。それから……。」
好きだって言われた。その言葉に私は少し揺らぎそうになったのは事実。
「あなたが浮気をしているんじゃないかって。」
「俺が?」
「男性が連絡が取れないって言うのはそういうことだって言ってたから。ずいぶん心配してくれたし、夜の町に探しに行くのもつき合ってくれたから。」
「連れて行ったのか。あいつ……。」
「私が望んだのよ。」
「桜。」
彼はそういって私の体を抱きしめた。あぁ、やっぱりこの体がいい。私はこの温もりを欲しがっていたのだ。
「最初に俺が連れていきたかったのにな。」
「……連絡つかなかったあなたが悪いのよ。」
「お前と初めてのことがない。」
「あるわ。」
「何だ。」
私は体に手を伸ばした。
「初めて抱きしめられた。男を感じたわよ。」
すると彼は私の体を抱きしめる力を強める。そして頭にキスをした。
「お願いがあるの。」
「何?」
「連絡だけは付けれるようにしてくれる?出れないときは構わないの。でも後で連絡してくれる?」
「桜。」
「じゃあないと、知らないところで何かあったんじゃないかって不安になるの。そこにつけ込む人もいるのよ。」
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