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二年目
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祭りの会場には茅さんの昔なじみも数人居て、イベントが終われば居酒屋になだれ込んだ。世界をさまよっていた彼にとって、ガード下の汚い居酒屋でも、お洒落なダイニングバーでもどんな場でも酒が飲めるとついて行くことは可能だ。
酒は好きだ。普段からそんなに自分を隠さない彼だが、飲む相手も隠したりしないで腹を割って飲むことができるから。
イベントの会場でもビールを飲んでいたが、本格的に飲めるとまた居酒屋へ入っていったときだった。
「リリーがいる。」
「飾らない奴だな。こんな所で飲めるなんてなぁ。」
イベント自体にはそんなに興味はなかった。だが歌声は気になっていた。聞き覚えのある声だったから。
「……。」
そちらに目を向けると、ドレッドヘアの女性がいた。背が高く、よく焼けている肌を持っていたのでまるでこの国の人ではないように思えた。
「……!」
その顔を見たとき彼は一気に酔いが醒めた。そしてリリーの元へいく。
「姉さん。」
「姉さんを柊に近づけて何の目的だ。」
怒りがとりあえず収まって、茅さんは私を離した。ソファに座り、彼は煙草に火をつけた。また殴りかからないかと、私は彼の隣に座った。そしてその向かいには葵さんがいる。
葵さんはいつもの表情だ。笑顔のまま茅さんを見ている。いつもの表情だ。
「あなたも柊には恨みがあるでしょう。そしてリリーにも恨みがある。共通の恨みですよ。」
「……。」
彼はそう言うと、腕を組む。悔しいくらい余裕綽々だ。
「……そう言えば、リリーさんはSyuは恨むべき人間にそっくりだといってましたね。」
「あなたもリリーに会ったのですか。」
その言葉に葵さんも驚いたようだった。
「えぇ。バックヤードで。」
「……。
そう言えば茅さんとリリーはよく似ている気がする。
「それは想定外でしたね。リリーはきっと柊のことには気が付いていないのか。それとも……気が付いていて、知らないふりをしていたのか。」
「……葵から打ち上げに是非来てくれと言われたといっていた。柊と会わせるつもりだったのか。あの二人が会ったらどんなことになるかわかってて……。」
「それが狙いだ。」
「え?」
葵さんは表情を変えずに、茅さんに言う。
「リリーと百合はよく似ている。さすが姉妹だ。」
「姉妹?」
「えぇ。姉妹です。」
と言うことは茅さんもリリーさんと百合さんはみんな兄弟だってこと?
「柊のお陰で兄弟が手を取り合って助け合って生きていたのを、バラバラにされた。特に末っ子のあなたは苦労されたでしょう。」
「……。」
「それに柊に刺された百合の一つ下の兄は、坂本組に入り殺された。柊のことがなければ、死ぬことはなかったのに。そうずっと思っているのでしょう。あなた方、兄弟は。」
茅さんの拳はぎゅっと握られて、じっと葵さんを見ていた。
「リリーは椿の入れ墨が柊にあることを知りました。そして確信に変わったと言っています。自分の家族を崩壊させた相手に、復讐すると。」
「姉さんにさせるわけにはいかない。俺が……する。」
「それがリリーの願いだ。黙っていろ。そして、あなたもね。」
葵さんはそう言って私を見る。
「……だからあんなことを?」
「半分は。もう半分はあなたのことを思ってのことです。」
「……嘘くせぇ話だ。俺には全てあんたの思い通りになっているような気がするぜ。」
葵さんは微笑みを消さないまま、また茅さんを見る。
「私の思い通り?どういうことだ。」
煙草を消して、彼は私を見下ろす。
「桜。着替えろ。」
「え?」
「柊を探す。」
そう言って茅さんは私を部屋に促した。すると葵さんがそれを止めようとした。
「未成年ですよ。繁華街に促すなんて……。」
「保護者がいればいい。」
「あなたは保護者ではない。淫行で捕まりますよ。」
「前科一犯が二犯になったところで何が変わるんだよ。全てが無くなっても、俺はまた作り直せれる。あんたとは違ってな。」
茅さんは私の手を引っ張り、部屋に押し込んだ。そのときの葵さんの表情はわからない。笑顔ではなかった。たぶんそれが彼の素の顔だったのだろう。
部屋に戻ってくると、葵さんの姿はなかった。そして私は茅さんに引きずられるように外に出て行く。
タクシーで繁華街に向かう。そしてさっきいたという居酒屋へ向かった。茅さんの馴染みという人たちはまだ居たようだ。
「茅。どこ行ってたんだよ。ん?誰だその女。」
「茅の女だろ?」
「かーっ。もう女が出来てるとはなぁ。」
煙草の煙と、炭火焼きの煙でもくもくしている店内でも、柊さんの姿はないようだ。私はすぐにそこをでたかった。だけどそれは許してもらえそうにない。
「何飲む?茅の女。」
「……飲みません。探してる人が居て……。」
「リリーがさっきまで居たんだよ。それ探しに来たの?」
「……そんなところだ。どこに行った?」
「男とどっか行ったぜ。ほら。誰だったか。」
「Syuだろ?」
最悪だ。頭から血の気が引いていく音がした。
酒は好きだ。普段からそんなに自分を隠さない彼だが、飲む相手も隠したりしないで腹を割って飲むことができるから。
イベントの会場でもビールを飲んでいたが、本格的に飲めるとまた居酒屋へ入っていったときだった。
「リリーがいる。」
「飾らない奴だな。こんな所で飲めるなんてなぁ。」
イベント自体にはそんなに興味はなかった。だが歌声は気になっていた。聞き覚えのある声だったから。
「……。」
そちらに目を向けると、ドレッドヘアの女性がいた。背が高く、よく焼けている肌を持っていたのでまるでこの国の人ではないように思えた。
「……!」
その顔を見たとき彼は一気に酔いが醒めた。そしてリリーの元へいく。
「姉さん。」
「姉さんを柊に近づけて何の目的だ。」
怒りがとりあえず収まって、茅さんは私を離した。ソファに座り、彼は煙草に火をつけた。また殴りかからないかと、私は彼の隣に座った。そしてその向かいには葵さんがいる。
葵さんはいつもの表情だ。笑顔のまま茅さんを見ている。いつもの表情だ。
「あなたも柊には恨みがあるでしょう。そしてリリーにも恨みがある。共通の恨みですよ。」
「……。」
彼はそう言うと、腕を組む。悔しいくらい余裕綽々だ。
「……そう言えば、リリーさんはSyuは恨むべき人間にそっくりだといってましたね。」
「あなたもリリーに会ったのですか。」
その言葉に葵さんも驚いたようだった。
「えぇ。バックヤードで。」
「……。
そう言えば茅さんとリリーはよく似ている気がする。
「それは想定外でしたね。リリーはきっと柊のことには気が付いていないのか。それとも……気が付いていて、知らないふりをしていたのか。」
「……葵から打ち上げに是非来てくれと言われたといっていた。柊と会わせるつもりだったのか。あの二人が会ったらどんなことになるかわかってて……。」
「それが狙いだ。」
「え?」
葵さんは表情を変えずに、茅さんに言う。
「リリーと百合はよく似ている。さすが姉妹だ。」
「姉妹?」
「えぇ。姉妹です。」
と言うことは茅さんもリリーさんと百合さんはみんな兄弟だってこと?
「柊のお陰で兄弟が手を取り合って助け合って生きていたのを、バラバラにされた。特に末っ子のあなたは苦労されたでしょう。」
「……。」
「それに柊に刺された百合の一つ下の兄は、坂本組に入り殺された。柊のことがなければ、死ぬことはなかったのに。そうずっと思っているのでしょう。あなた方、兄弟は。」
茅さんの拳はぎゅっと握られて、じっと葵さんを見ていた。
「リリーは椿の入れ墨が柊にあることを知りました。そして確信に変わったと言っています。自分の家族を崩壊させた相手に、復讐すると。」
「姉さんにさせるわけにはいかない。俺が……する。」
「それがリリーの願いだ。黙っていろ。そして、あなたもね。」
葵さんはそう言って私を見る。
「……だからあんなことを?」
「半分は。もう半分はあなたのことを思ってのことです。」
「……嘘くせぇ話だ。俺には全てあんたの思い通りになっているような気がするぜ。」
葵さんは微笑みを消さないまま、また茅さんを見る。
「私の思い通り?どういうことだ。」
煙草を消して、彼は私を見下ろす。
「桜。着替えろ。」
「え?」
「柊を探す。」
そう言って茅さんは私を部屋に促した。すると葵さんがそれを止めようとした。
「未成年ですよ。繁華街に促すなんて……。」
「保護者がいればいい。」
「あなたは保護者ではない。淫行で捕まりますよ。」
「前科一犯が二犯になったところで何が変わるんだよ。全てが無くなっても、俺はまた作り直せれる。あんたとは違ってな。」
茅さんは私の手を引っ張り、部屋に押し込んだ。そのときの葵さんの表情はわからない。笑顔ではなかった。たぶんそれが彼の素の顔だったのだろう。
部屋に戻ってくると、葵さんの姿はなかった。そして私は茅さんに引きずられるように外に出て行く。
タクシーで繁華街に向かう。そしてさっきいたという居酒屋へ向かった。茅さんの馴染みという人たちはまだ居たようだ。
「茅。どこ行ってたんだよ。ん?誰だその女。」
「茅の女だろ?」
「かーっ。もう女が出来てるとはなぁ。」
煙草の煙と、炭火焼きの煙でもくもくしている店内でも、柊さんの姿はないようだ。私はすぐにそこをでたかった。だけどそれは許してもらえそうにない。
「何飲む?茅の女。」
「……飲みません。探してる人が居て……。」
「リリーがさっきまで居たんだよ。それ探しに来たの?」
「……そんなところだ。どこに行った?」
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最悪だ。頭から血の気が引いていく音がした。
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