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二年目
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刺激的な夜というのはどういう意味なのだろう。不安になり、今すぐ家を出て柊さんを追いたいと家の中に入る。そしてシャツだけでも着替えようと、クローゼットを開けた。しかしその後ろから葵さんがやってきて、その手を止める。
「だめです。」
「何をしているのか、私にはきっと知る権利があると思うんです。」
「ですがあなたを今晩外に出すわけにはいきません。もう何時だと思っているのですか。」
時計を見る。二十二時三十分。確かに高校生がこの時間に外に出たら、補導されてしまう時間だ。
「柊さんに何をしたんですか。」
「私がしたわけじゃありませんよ。」
葵さんはそういって後ろから、私の手を握る。体も近いはずだ。止めるならそんなに近くなくてもいい。その距離はきっと隙あれば襲うという、彼の距離なのだ。だから私は振り返ったりしない。振り返ったら終わりだ。
「じゃあ、誰がしたんですか。」
「……彼を恨んでいる人間ですよ。そんな人は沢山いる。」
「でも彼は流されない。私ほど弱い人間じゃないから。」
「しかし彼にも弱みはある。その弱みが彼に近づいてきたんです。」
「弱み?」
柊さんの弱み。それは一つしか心当たりがない。椿として傷つけた女性のことだ。
「私のも弱みですが、彼にとってはさらに弱みでしょう。だから今日、彼はここにやってきません。寂しいでしょうがね。」
「寂しい?」
「えぇ。あんなにきらきらした場所にいた彼を目の当たりにした。あなたにとってそれは寂しいものだったのではないんですか。」
首を横に振って私はそれを否定した。
「寂しくなんかありませんよ。去年……確かにそう考えたこともありました。でも今日の彼は私が好きな曲ばかりをかけてくれました。それだけで、私は嬉しかったんです。」
椿さんが居るようだった。そう勘違いをさせてくれるようなステージは、私の心が躍る。
握られている彼の手の力が強くなった。
「桜さん。彼があなたを裏切っていても、あなたは彼を追うのですか。」
「裏切ることなんか想定しますか?私は信じてますから。」
「都合のいい言葉ですね。まぁ、あなたも彼を裏切ったことがありますから。」
おそらく去年の話を出している。私は彼と一度寝たから。
「二度はありません。」
「私は二度目どころか、ずっと想定してます。あなたの表情を忘れられないので。」
ぞっとした。近いところにいるからアルコールの匂いがする。それがわかるくらい近くにいるのはわかっていた。
たぶん無理矢理抱くことくらいはすぐにできるはずだ。酔った勢いだといえばそれでいいのだから。それをしようとしている?今?
また舌を噛む?それくらいしなければ、彼は離れないの?
「この柔らかいところも、白い肌がすぐ赤くなるところも、甘い声も、ずっと忘れられませんよ。」
「柊さんが帰ってきます。」
「帰りませんよ。少なくともこんな時間には。」
手を引き寄せられて、その手にぬめっとした温かい感触が伝わってきた。
「んっ!」
丁寧にそれを舐めあげているようだった。少なくともそんなことを柊さんはしない。顔が赤くなる。
「駄目。」
「駄目ですか?言葉とは裏腹ですよ。頬が赤い。ここからでもわかる。」
指から唇を離されたのに、さらに舐めあげてくる。まるで愛撫をするように。
「やっ……。」
「いい反応ですね。ずいぶんそそられます。」
後ろから今度は髪をかき分けられて、首もとに唇を当てる。
「んっ!」
つうっと舌が首もとから耳へ上がっていく。耳たぶに唇が触れてきた。
「はぁっ……。」
ぞくぞくする。気持ちは嫌がっているのに、体が快感を求めているようだった。
「いい声です。正直になってください。」
「やだ。イヤです。」
「彼はきっと裏切る。」
「信じてるから。」
「無駄です。」
ピンポーン。
そのとき玄関のチャイムが鳴った。その音に、彼の手の力が緩む。
それを離して、私はすっと部屋を取びだした。そして玄関を開けると、そこには茅さんがいる。
「茅さん。」
「葵が居るだろう。」
「……はい。」
「出せ。」
明らかに不機嫌そうだ。何があったんだろう。後ろを振り返ると、葵さんがいた。
「葵!てめぇ!」
葵さんの姿を見つけると、茅さんは部屋の中に入ってこようとした。しかしその雰囲気に、私はそれを止めようと彼の体を体で外に押し込む。
「桜。止めんな!」
彼も私の体をつかみ、葵さんに向かっていこうとしていた。その様子に、葵さんは呆れたようにいう。
「まるで桜さんを抱きしめているようだ。茅。人のことは言えないな。」
「……てめぇのやってることに比べれば屁みたいなものだろう。」
葵さんは鼻で笑い、私を引き離そうとした。だけど、まだ怒りが収まらない茅さんをこのまま離したら、きっと葵さんに向かっていく。それは止めて欲しい一心で、彼を止めた。
「茅さん。せめて暴力は止めて。」
「桜。」
すると彼は私の体を包み込むように抱きしめた。そしてその耳元で囁く。
「よく聞け。桜。柊は今……。」
嘘だと思った。だけど茅さんはそれを見てしまったのだという。
「だめです。」
「何をしているのか、私にはきっと知る権利があると思うんです。」
「ですがあなたを今晩外に出すわけにはいきません。もう何時だと思っているのですか。」
時計を見る。二十二時三十分。確かに高校生がこの時間に外に出たら、補導されてしまう時間だ。
「柊さんに何をしたんですか。」
「私がしたわけじゃありませんよ。」
葵さんはそういって後ろから、私の手を握る。体も近いはずだ。止めるならそんなに近くなくてもいい。その距離はきっと隙あれば襲うという、彼の距離なのだ。だから私は振り返ったりしない。振り返ったら終わりだ。
「じゃあ、誰がしたんですか。」
「……彼を恨んでいる人間ですよ。そんな人は沢山いる。」
「でも彼は流されない。私ほど弱い人間じゃないから。」
「しかし彼にも弱みはある。その弱みが彼に近づいてきたんです。」
「弱み?」
柊さんの弱み。それは一つしか心当たりがない。椿として傷つけた女性のことだ。
「私のも弱みですが、彼にとってはさらに弱みでしょう。だから今日、彼はここにやってきません。寂しいでしょうがね。」
「寂しい?」
「えぇ。あんなにきらきらした場所にいた彼を目の当たりにした。あなたにとってそれは寂しいものだったのではないんですか。」
首を横に振って私はそれを否定した。
「寂しくなんかありませんよ。去年……確かにそう考えたこともありました。でも今日の彼は私が好きな曲ばかりをかけてくれました。それだけで、私は嬉しかったんです。」
椿さんが居るようだった。そう勘違いをさせてくれるようなステージは、私の心が躍る。
握られている彼の手の力が強くなった。
「桜さん。彼があなたを裏切っていても、あなたは彼を追うのですか。」
「裏切ることなんか想定しますか?私は信じてますから。」
「都合のいい言葉ですね。まぁ、あなたも彼を裏切ったことがありますから。」
おそらく去年の話を出している。私は彼と一度寝たから。
「二度はありません。」
「私は二度目どころか、ずっと想定してます。あなたの表情を忘れられないので。」
ぞっとした。近いところにいるからアルコールの匂いがする。それがわかるくらい近くにいるのはわかっていた。
たぶん無理矢理抱くことくらいはすぐにできるはずだ。酔った勢いだといえばそれでいいのだから。それをしようとしている?今?
また舌を噛む?それくらいしなければ、彼は離れないの?
「この柔らかいところも、白い肌がすぐ赤くなるところも、甘い声も、ずっと忘れられませんよ。」
「柊さんが帰ってきます。」
「帰りませんよ。少なくともこんな時間には。」
手を引き寄せられて、その手にぬめっとした温かい感触が伝わってきた。
「んっ!」
丁寧にそれを舐めあげているようだった。少なくともそんなことを柊さんはしない。顔が赤くなる。
「駄目。」
「駄目ですか?言葉とは裏腹ですよ。頬が赤い。ここからでもわかる。」
指から唇を離されたのに、さらに舐めあげてくる。まるで愛撫をするように。
「やっ……。」
「いい反応ですね。ずいぶんそそられます。」
後ろから今度は髪をかき分けられて、首もとに唇を当てる。
「んっ!」
つうっと舌が首もとから耳へ上がっていく。耳たぶに唇が触れてきた。
「はぁっ……。」
ぞくぞくする。気持ちは嫌がっているのに、体が快感を求めているようだった。
「いい声です。正直になってください。」
「やだ。イヤです。」
「彼はきっと裏切る。」
「信じてるから。」
「無駄です。」
ピンポーン。
そのとき玄関のチャイムが鳴った。その音に、彼の手の力が緩む。
それを離して、私はすっと部屋を取びだした。そして玄関を開けると、そこには茅さんがいる。
「茅さん。」
「葵が居るだろう。」
「……はい。」
「出せ。」
明らかに不機嫌そうだ。何があったんだろう。後ろを振り返ると、葵さんがいた。
「葵!てめぇ!」
葵さんの姿を見つけると、茅さんは部屋の中に入ってこようとした。しかしその雰囲気に、私はそれを止めようと彼の体を体で外に押し込む。
「桜。止めんな!」
彼も私の体をつかみ、葵さんに向かっていこうとしていた。その様子に、葵さんは呆れたようにいう。
「まるで桜さんを抱きしめているようだ。茅。人のことは言えないな。」
「……てめぇのやってることに比べれば屁みたいなものだろう。」
葵さんは鼻で笑い、私を引き離そうとした。だけど、まだ怒りが収まらない茅さんをこのまま離したら、きっと葵さんに向かっていく。それは止めて欲しい一心で、彼を止めた。
「茅さん。せめて暴力は止めて。」
「桜。」
すると彼は私の体を包み込むように抱きしめた。そしてその耳元で囁く。
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嘘だと思った。だけど茅さんはそれを見てしまったのだという。
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