夜の声

神崎

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二年目

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 いつもの店にでるようなワンピースではなく、母さんの格好は案外ラフな格好だった。ジーパンなんて持ってたんだ。この人。でもシャツは肩が見えてて、その色は透き通るような白だった。
「柊さんにはなるべく早く来るように言っておいたわ。」
「ありがとう。」
 多分いつもだったら「余計なことをして!」とか何とか言ってたのかもしれない。だけど今日はその母さんの優しさに甘えよう。
「じゃあ、行ってくるわね。」
 そう言って玄関ドアを開けたときだった。
「……!」
 母さんの動きが一瞬止まった。何?
「あんた……。」
 母さんの向こうにいたのは茅さんだった。茅さんは母さんを見てふっと笑う。そして私の方を一瞬見て、すっといなくなった。
 母さんは何も言わなかった。そして部屋を出ていく。何だったんだろう。あれは。

 一人で食事をして、明日の朝食の準備をすると部屋に戻ってきた。そしてラジオをつける。でもラジオはどこのチャンネルも台風情報だった。同じような内容ばかりが繰り返され、私は結局ラジオのスイッチを切る。多分テレビも同じようなものだろう。
 静かな部屋だな。音がなければ何もない部屋だ。机の上にある問題集に触れてみる。もう開くことはないのかもしれない。公務員は無理だったかもしれないけど、やって出来ないことはないのかもしれない。ううん。もう考えない。私は普通に就職できるのだから。
 そっとその問題集を手にすると、本棚にしまう。そして外を見る。雨風はどんどんと強くなり、嵐のようだった。
 そのときチャイムが鳴った。誰だろう。こんなときに。
 玄関へ向かうと、そこには茅さんの姿があった。
「茅さん。」
「一人か?」
「えぇ。」
「平気か?」
「いつも一人ですよ。」
「怖がってねぇかと思ってな。」
 彼は少し笑い、私をみる。
「もう少ししたら柊さんがきます。」
「何か忙しそうだな。あいつ。何してんの?」
「知りません。」
 その答えに彼は呆れたようだった。
「知らねぇって、そんなんでいいのか。」
「えぇ。それでちょっと今日一悶着あったんですけどね。解決しました。」
「解決したのか。そうか……。」
 良かったなとは言わない。呆れているから。
「お前さ、葵には気をつけろよ。」
「葵さん?どうして?」
「あいつ昔から考えは読めない奴だけど、久しぶりに会ったらさらに読めねぇ。何考えてんのかな。」
「……何を考えているかなんて、その人しかわかりませんよ。」
「それもそれでいいのか。」
「えぇ。」
「……危ない奴。騙されそうだな。」
「葵さんには騙されても技術は盗んでますから。」
「まぁな。柊に騙されてるとは思わないのか。」
「……柊さんは騙してませんよ。信じてますから。」
「お得意の信用か。まぁいい。それでお前がいいなら。」
 ふと私は思いだしたことがあった。それはさっきの母の態度。茅さんを知っているような感じだった。
「茅さん。」
「何だよ。」
「母さんを知ってるんですか。」
「……大人のつきあいをしたことがある。それだけだな。」
 大人のつきあいって……。ん?あれ?
「元彼ってことですか。」
「違う。まぁ、いずれわかるけど一つ言えるのは、母親の店の子を俺が一度連れて行った。」
「売ったってことですか。」
「人聞き悪いな。あのな、借金こさえて返さない奴らが悪いんだよ。本当だったら首根っこ捕まえて、ソープでも海外でも売りてぇんだ。そんなことをしないで、あくまで人的に船に乗せようってんだから、ある程度人間らしいだろ?」
 う……ん。まぁ。そう言うことなのかな。
「あんたの恋人はそれが出来なかった。潔癖だったからな。百合以外知らなかっただろう?あんたとヤるまで。」
「……経験豊富だと思ってました。」
 すると彼は私の肩に手をかける。
「あんた、悪いこといわねぇから、一度違う奴でもやってみればいい。俺が相手しても良いけど。」
「結構です。」
「あれが本当だと思ったら、大間違い。」
 私は手を振り払って、彼を拒否した。すると彼はふっと笑う。
「まぁいいや。とりあえず、無事ならそれでいい。」
「……。」
「じゃあ帰るわ。会社も気になるしな。」
「そうですか。ありがとうございます。わざわざ。」
「別に。構わんよ。ついでだし。」
 玄関ドアを閉めた。そして自分の部屋に戻り、再びラジオをつけた。相変わらず台風情報ばかりだ。でももう峠は過ぎたようで、これから風も雨も弱まっていくという。
 そのときだった。ラジオの音がやみ、部屋の電気が消えた。
「え?」
 停電?私は机の上を手探りで探し、携帯電話を手にした。そしてぱっと明るくなるように、携帯電話のライトをつける。そして窓の外を見た。
 主たる家はどうやらみんな真っ暗になってる。街灯も消えている所を見ると、どうやらこの辺が全体的に停電になっているらしい。
 困ったなぁ。
 そのとき家のチャイムが再び鳴った。柊さんかな?私はそう思いライトで足下を照らしながら、玄関へ向かった。
 そしてドアを開けると風が勢いよく吹き込んできた。
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