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二年目
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葵さんに抱かれたこともあるし、キスはもう何度もした。だけど全くと言っていいほど心は彼に馴染まない。でも心とは裏腹に、体はきっと感じている。ぬるっとした感触がしたから。
彼が電話にでている間、私は下着を身につけた。これ以上襲われないように。
「えぇ。熱中症です。私の部屋にいます。」
葵さんの表情は変わらない。相手は誰なのだろう。彼の表情は変わらないので相手は見えない。
やがて彼は電話を切る。そして私の方をみた。
「あなたのお母さんからでした。」
「……母さんが?」
「えぇ。お母さんはここにこれないので、柊に連絡を取ると。」
「柊さんに?」
薄暗い部屋の中には時計がない。だけど彼がこの時間に連絡が付いたことはない。きっとそれは葵さんも知っているはずだ。
「手を出すなと言ってきましたよ。柊には手を出せとせっついていたくせに。」
「恋人があなたではないからです。」
「それだけじゃありませんよ。あなたのお母さんからは、私はあまりいい印象ではない。昔やっていたことを知っているからでしょう。」
「……。」
彼はベッドに乗ると、私に近づいてきた。まだ何かするのだろうか。どうしたらいいだろう。どうやったら彼を止められるだろう。
「昔やっていたことに興味はありますか。」
「……多少聞きましたけど。」
「えぇ。昔はやんちゃばかりしてましたから。それに目を付けられて、蓬に声をかけられました。私が鉄砲玉としていくことはあまりありませんでしたが、女性に貢がせるのは得意でしたね。こうして……。」
彼はそういって私と視線を合わせてきた。うん。確かに男前だ。視線が熱い。そんな感じがする。そして手にキスをしてきた。
「やめてください。」
でも私には嫌悪感しかない。
「落ちないのはあなたぐらいですよ。」
苦笑いをして、手を離した。ん?もう何もしないのか。ほっとした。
「お母さんが、あなたに手を出すなと言ってきたのですよ。それがなければあなたとセックスがしたかったですけどね。」
「悪夢です。」
「……桜さん。一つ賭をしませんか。」
「賭?」
「えぇ。」
にっこりと笑う彼。とても嫌な予感がする。
「柊がここにくるかどうかです。そうですね。今、十時三十分。十一時にここに来るか。」
「来たら?」
「大人しくあなたを彼に渡しますよ。」
「こなかったら?」
「私が今晩、あなたを柊から忘れさせます。それだけの自信はありますから。」
来ないことはわかっていてそれをいってるのだろうか。だから自信があるのか。
確かにこの時間帯は、柊さんと連絡は付かないことが多い。それが不安だと思う。だけどだからといって賭に負け、彼に一晩中抱かれても彼に転ぶようなまねはしない。絶対に。
「わかりました。」
「それまでは、あなたに指一本触れません。そのかわり来なかったら触れていないところはないくらいあなたに触れます。」
ぞっとした。そんな殺し文句、あっていいのだろうか。
「お茶を飲みますか。あぁ。そうだ。お茶よりもスポーツドリンクが良いかもしれませんね。」
ベッドから下りて、彼は部屋を出ていった。私もベッドから下りると、隣の部屋へ向かった。
「あぁ。ベッドでも良かったのに。」
「もう体調は悪くないので。」
「そうですか。」
ここには時計がある。
時間がよくわかるはずだ。
彼は私にスポーツドリンクのはいったペットボトルを手渡して、部屋を出ていった。きっと階下にある入り口を開けるためだ。
十一時といえば、椿さんのラジオのある時間だ。
もしかして柊さんがここへ来るということは、柊さんが椿であるっていうことはないんじゃないのか?
ううん違うな。別に声が似てるからって、彼が椿だって事はないし、似ている声はそうだもう一人知っている。それは蓬さんだった。
でも蓬さんがあんな説教臭いことをいうだろうか。それに音楽には興味がなさそうだし。
ペットボトルのふたを開けて、私はそれを口にする。甘い味がして、かえって喉が渇きそうだ。
「まぁ、ここにいた方が彼がやってきたときに何をしているか一目瞭然ですね。それに……。」
指を指す首もと。思わずそこに触れた。
「跡を付けたんですか。」
「えぇ。それで彼が幻滅する可能性は高いです。あなたがそういう女性だったと。」
「弁解は出来ます。そして彼はそれを聞く耳を持っています。」
「あなたは信じてるんですね。」
「はい。」
「……羨ましいことだ。」
そういって彼はソファに座る。私はその向かいに座った。シンプルな部屋に似つかわしくない真っ赤なソファ。この部屋の中で一番存在感がある。
「私も昔は彼を信じていました。」
「……。」
「柊とは刑務所で初めて会いました。彼を初めて見たとき、ほかのものと全く交わらないが、人一倍の努力をしていましたよ。だからあらゆる資格を持っているはずです。」
確かに電気のこととか、あらゆる事に精通している。だからいろんな職場から呼ばれているのだろう。
「私にはこれしかありませんでしたから。」
葵さんのいうこれとはたぶんコーヒーのことだろう。
「ここでコーヒーを入れたかった。誰に何を言われてもね。」
彼はいつも肝心なことを話さない。だから彼は信用されないと言うことを、彼自身が知らないのかもしれない。
彼が電話にでている間、私は下着を身につけた。これ以上襲われないように。
「えぇ。熱中症です。私の部屋にいます。」
葵さんの表情は変わらない。相手は誰なのだろう。彼の表情は変わらないので相手は見えない。
やがて彼は電話を切る。そして私の方をみた。
「あなたのお母さんからでした。」
「……母さんが?」
「えぇ。お母さんはここにこれないので、柊に連絡を取ると。」
「柊さんに?」
薄暗い部屋の中には時計がない。だけど彼がこの時間に連絡が付いたことはない。きっとそれは葵さんも知っているはずだ。
「手を出すなと言ってきましたよ。柊には手を出せとせっついていたくせに。」
「恋人があなたではないからです。」
「それだけじゃありませんよ。あなたのお母さんからは、私はあまりいい印象ではない。昔やっていたことを知っているからでしょう。」
「……。」
彼はベッドに乗ると、私に近づいてきた。まだ何かするのだろうか。どうしたらいいだろう。どうやったら彼を止められるだろう。
「昔やっていたことに興味はありますか。」
「……多少聞きましたけど。」
「えぇ。昔はやんちゃばかりしてましたから。それに目を付けられて、蓬に声をかけられました。私が鉄砲玉としていくことはあまりありませんでしたが、女性に貢がせるのは得意でしたね。こうして……。」
彼はそういって私と視線を合わせてきた。うん。確かに男前だ。視線が熱い。そんな感じがする。そして手にキスをしてきた。
「やめてください。」
でも私には嫌悪感しかない。
「落ちないのはあなたぐらいですよ。」
苦笑いをして、手を離した。ん?もう何もしないのか。ほっとした。
「お母さんが、あなたに手を出すなと言ってきたのですよ。それがなければあなたとセックスがしたかったですけどね。」
「悪夢です。」
「……桜さん。一つ賭をしませんか。」
「賭?」
「えぇ。」
にっこりと笑う彼。とても嫌な予感がする。
「柊がここにくるかどうかです。そうですね。今、十時三十分。十一時にここに来るか。」
「来たら?」
「大人しくあなたを彼に渡しますよ。」
「こなかったら?」
「私が今晩、あなたを柊から忘れさせます。それだけの自信はありますから。」
来ないことはわかっていてそれをいってるのだろうか。だから自信があるのか。
確かにこの時間帯は、柊さんと連絡は付かないことが多い。それが不安だと思う。だけどだからといって賭に負け、彼に一晩中抱かれても彼に転ぶようなまねはしない。絶対に。
「わかりました。」
「それまでは、あなたに指一本触れません。そのかわり来なかったら触れていないところはないくらいあなたに触れます。」
ぞっとした。そんな殺し文句、あっていいのだろうか。
「お茶を飲みますか。あぁ。そうだ。お茶よりもスポーツドリンクが良いかもしれませんね。」
ベッドから下りて、彼は部屋を出ていった。私もベッドから下りると、隣の部屋へ向かった。
「あぁ。ベッドでも良かったのに。」
「もう体調は悪くないので。」
「そうですか。」
ここには時計がある。
時間がよくわかるはずだ。
彼は私にスポーツドリンクのはいったペットボトルを手渡して、部屋を出ていった。きっと階下にある入り口を開けるためだ。
十一時といえば、椿さんのラジオのある時間だ。
もしかして柊さんがここへ来るということは、柊さんが椿であるっていうことはないんじゃないのか?
ううん違うな。別に声が似てるからって、彼が椿だって事はないし、似ている声はそうだもう一人知っている。それは蓬さんだった。
でも蓬さんがあんな説教臭いことをいうだろうか。それに音楽には興味がなさそうだし。
ペットボトルのふたを開けて、私はそれを口にする。甘い味がして、かえって喉が渇きそうだ。
「まぁ、ここにいた方が彼がやってきたときに何をしているか一目瞭然ですね。それに……。」
指を指す首もと。思わずそこに触れた。
「跡を付けたんですか。」
「えぇ。それで彼が幻滅する可能性は高いです。あなたがそういう女性だったと。」
「弁解は出来ます。そして彼はそれを聞く耳を持っています。」
「あなたは信じてるんですね。」
「はい。」
「……羨ましいことだ。」
そういって彼はソファに座る。私はその向かいに座った。シンプルな部屋に似つかわしくない真っ赤なソファ。この部屋の中で一番存在感がある。
「私も昔は彼を信じていました。」
「……。」
「柊とは刑務所で初めて会いました。彼を初めて見たとき、ほかのものと全く交わらないが、人一倍の努力をしていましたよ。だからあらゆる資格を持っているはずです。」
確かに電気のこととか、あらゆる事に精通している。だからいろんな職場から呼ばれているのだろう。
「私にはこれしかありませんでしたから。」
葵さんのいうこれとはたぶんコーヒーのことだろう。
「ここでコーヒーを入れたかった。誰に何を言われてもね。」
彼はいつも肝心なことを話さない。だから彼は信用されないと言うことを、彼自身が知らないのかもしれない。
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