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二年目
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お風呂から出てきた向日葵のすっぴんは、初めて見る。眉毛がなくて笑いそうになってしまった。
「笑ったなぁ。」
「ごめん。ごめん。あまりにも違ってさ。」
「桜ってすっぴんでも変わらないよね。」
「眉毛くらいは書いてるよ。」
「それくらいですんでいいね。」
布団に向日葵が座り、私はベッドに座った。
「ねぇ。もう一年つきあってんならさ、もうしてるわけでしょ?」
「何を?」
「ナニを。」
その意味がわかって、私は思わず赤面した。
「んー。確かにしてるけど……。ほら、うちさ、母さんがあんなんだし、早く手を出せってせっつかれてた。」
「桜の母さんも奔放だもんね。うちほどじゃないけど。」
「相変わらず?」
「うん。恥ずかしいよ。四十二でさ、また妊娠したんだって。」
「良かったじゃん。」
「明るい家族計画なんていう人たちじゃないしさ。あーあ。普通の両親が良かったなぁ。」
「普通って何だろうね。」
「さぁ。あぁ、そんなこと聞きたいんじゃないの。でさ、やっぱさ体大きいわけじゃん。」
「うん。そうね。背も高いし、ガタイも良いし。」
「体力もあるわけじゃん。」
「うん。」
「毎回死にそうになんない?」
「……わかんないな。初めてだし、一人……。」
そういえば一人しかしてないわけじゃないんだっけ。
「そっか一人しかしてないから、そんなものかって思うわよね。」
正確には一人じゃない。葵さんと一度寝た。葵さんとのセックスは、正直とろけそうで自分が自分じゃないような気になったのを覚えている。
「ん?どうしたの?ぼんやりして。」
「……向日葵はさ、女の子っぽい体つきしてるじゃん。」
ショートパンツと白いシャツを着ていた向日葵の胸元からは、白いものが見え隠れしている。それは薄いシャツの上からでも大きさはわかり、自分と全く違う体つきにため息をついた。
「やーだ。そんなことを気にしているの?男はおっぱい大きい方が好きかもしれないけど、そんなの気にしないんでしょ?彼氏。」
「うん。まぁ、口ではね。」
ふと思い出した。柊さんの口から出た言葉。それは彼が初めて愛した女性。年上だといっていた。きっと体だって私よりも女性らしいのだろう。
「彼氏ってそれで文句言う?」
「別に。」
「じゃあいいんじゃない?彼氏も桜がいいんでしょ?」
「……そう信じてるけどね。」
「なら大丈夫よ。それに桜気がついていないかもしれないけど、彼氏が出来たーっていってたころから、体つき全然違うよ。」
「そう?」
「丸くなった。」
「太ってないよ。太りたいけど。」
「マジ、羨ましいわ。でもそんな問題じゃなくて、角が取れたっていう感じ?だから匠君が狙ってるじゃん。」
違う。匠は絶対私を狙わない。匠は柊さんのことを知っている。だから絶対手を出したりしない。怖いことを知っているから。
「匠君はないよ。」
「じゃあ、竹彦君は?ずいぶん変わってたけど、なんかあったのかな。」
「何かあったんじゃない?よくわからないわ。」
しばらく他愛もない話をして、もう眠いと向日葵は言い出して布団に横になった。私もベッドに横になり、目を閉じよう。
だけど眠れなかった。
柊さんはまだ蓬さんと繋がりがあるのかな。確かに蓬さんのことを聞く前、そう去年だったか、私は一度蓬さんと柊さんが話しているところを見ている。
あのときはまだ恋人じゃなかった。キスはしていたけれど。
だけど今は違う。だけど今でも聞けるわけがない。その辺は前と変わっていないのだ。
携帯電話を手にして、暗い部屋の中、メッセージを送りかけてやめた。そんなことを確認してどうするんだろう。そして繋がりがあるからって、私が止められるわけじゃないし。
でも別れたくない。
母さんが言っていた。もし蓬さんと繋がりが今でもあるのなら、私と有無も言わずに引き離すと。それに対して彼は「絶対ない」と公言していた。でもそれは嘘だったかもしれない。
彼は嘘が下手な人だ。
だから本当に繋がりがないのかもしれない。だけど嘘に見えない嘘をついていたとしたら。
ううん。もう考えるのをやめよう。疑い出したらきりがない。
私は体を起こして、ベッドから下りると部屋を出てリビングのドアからベランダにでた。むわっとした空気が体にまとわりつく。
そして携帯電話を開き、メッセージを送る。
”夜遅くごめんね。ちょっと聞きたいことがあるんだけど。”
すぐに彼から電話がかかってきた。
「もしもし。」
「どうしたの?急に。」
馴染みのある声はもう無い。低いかすれたような声の竹彦の声。
「蓬さんの周辺で、柊さんを見ることはあるのかしら。」
その言葉に竹彦は少し黙った。かちっという音が聞こえる。ライターか何かの音かもしれない。
「無いね。僕の知っている限りでは。」
「そう。」
ほっとした。と同時に、また疑問が浮かんでくる。
「でも彼を組に入れたがっているのは確か。若頭が一人引退するらしい。その穴を幹部の誰にするかで、少し今もめている。」
「……。」
「蓬さんの推薦は、椿の存続を後押ししてくれている人。でも椿の働きで自分の立場が危うくなっている人もいるのは事実。その人をつぶしたいと、蓬さんは考えているようだ。だからその鉄砲玉に、柊さんを入れたいと思うのは自然の流れかもしれない。」
「……そうだったの。」
「気を付けて。君の周辺も危なくなってくるかもしれない。」
「……。」
「本当なら、柊さんとはこのごたごたが終わるまで距離を置いた方がいいのかもしれないけど、そうはいかないんだろう?」
「そうね。」
「だったら自己防衛も少し身につけた方がいい。最低でも、夜の道を堂々と歩けるくらいにして。」
「……そうね。ありがとう。」
「じゃあ、僕は行くから。」
「忙しいのにごめんね。」
「かまわないよ。君のためだから。」
電話を切る。そして私は少しため息をついて部屋に戻り、またベッドに横になった。
いろんな事をいわれ、それでも私はきっと柊さんから離れることなんか出来ないのだ。
「笑ったなぁ。」
「ごめん。ごめん。あまりにも違ってさ。」
「桜ってすっぴんでも変わらないよね。」
「眉毛くらいは書いてるよ。」
「それくらいですんでいいね。」
布団に向日葵が座り、私はベッドに座った。
「ねぇ。もう一年つきあってんならさ、もうしてるわけでしょ?」
「何を?」
「ナニを。」
その意味がわかって、私は思わず赤面した。
「んー。確かにしてるけど……。ほら、うちさ、母さんがあんなんだし、早く手を出せってせっつかれてた。」
「桜の母さんも奔放だもんね。うちほどじゃないけど。」
「相変わらず?」
「うん。恥ずかしいよ。四十二でさ、また妊娠したんだって。」
「良かったじゃん。」
「明るい家族計画なんていう人たちじゃないしさ。あーあ。普通の両親が良かったなぁ。」
「普通って何だろうね。」
「さぁ。あぁ、そんなこと聞きたいんじゃないの。でさ、やっぱさ体大きいわけじゃん。」
「うん。そうね。背も高いし、ガタイも良いし。」
「体力もあるわけじゃん。」
「うん。」
「毎回死にそうになんない?」
「……わかんないな。初めてだし、一人……。」
そういえば一人しかしてないわけじゃないんだっけ。
「そっか一人しかしてないから、そんなものかって思うわよね。」
正確には一人じゃない。葵さんと一度寝た。葵さんとのセックスは、正直とろけそうで自分が自分じゃないような気になったのを覚えている。
「ん?どうしたの?ぼんやりして。」
「……向日葵はさ、女の子っぽい体つきしてるじゃん。」
ショートパンツと白いシャツを着ていた向日葵の胸元からは、白いものが見え隠れしている。それは薄いシャツの上からでも大きさはわかり、自分と全く違う体つきにため息をついた。
「やーだ。そんなことを気にしているの?男はおっぱい大きい方が好きかもしれないけど、そんなの気にしないんでしょ?彼氏。」
「うん。まぁ、口ではね。」
ふと思い出した。柊さんの口から出た言葉。それは彼が初めて愛した女性。年上だといっていた。きっと体だって私よりも女性らしいのだろう。
「彼氏ってそれで文句言う?」
「別に。」
「じゃあいいんじゃない?彼氏も桜がいいんでしょ?」
「……そう信じてるけどね。」
「なら大丈夫よ。それに桜気がついていないかもしれないけど、彼氏が出来たーっていってたころから、体つき全然違うよ。」
「そう?」
「丸くなった。」
「太ってないよ。太りたいけど。」
「マジ、羨ましいわ。でもそんな問題じゃなくて、角が取れたっていう感じ?だから匠君が狙ってるじゃん。」
違う。匠は絶対私を狙わない。匠は柊さんのことを知っている。だから絶対手を出したりしない。怖いことを知っているから。
「匠君はないよ。」
「じゃあ、竹彦君は?ずいぶん変わってたけど、なんかあったのかな。」
「何かあったんじゃない?よくわからないわ。」
しばらく他愛もない話をして、もう眠いと向日葵は言い出して布団に横になった。私もベッドに横になり、目を閉じよう。
だけど眠れなかった。
柊さんはまだ蓬さんと繋がりがあるのかな。確かに蓬さんのことを聞く前、そう去年だったか、私は一度蓬さんと柊さんが話しているところを見ている。
あのときはまだ恋人じゃなかった。キスはしていたけれど。
だけど今は違う。だけど今でも聞けるわけがない。その辺は前と変わっていないのだ。
携帯電話を手にして、暗い部屋の中、メッセージを送りかけてやめた。そんなことを確認してどうするんだろう。そして繋がりがあるからって、私が止められるわけじゃないし。
でも別れたくない。
母さんが言っていた。もし蓬さんと繋がりが今でもあるのなら、私と有無も言わずに引き離すと。それに対して彼は「絶対ない」と公言していた。でもそれは嘘だったかもしれない。
彼は嘘が下手な人だ。
だから本当に繋がりがないのかもしれない。だけど嘘に見えない嘘をついていたとしたら。
ううん。もう考えるのをやめよう。疑い出したらきりがない。
私は体を起こして、ベッドから下りると部屋を出てリビングのドアからベランダにでた。むわっとした空気が体にまとわりつく。
そして携帯電話を開き、メッセージを送る。
”夜遅くごめんね。ちょっと聞きたいことがあるんだけど。”
すぐに彼から電話がかかってきた。
「もしもし。」
「どうしたの?急に。」
馴染みのある声はもう無い。低いかすれたような声の竹彦の声。
「蓬さんの周辺で、柊さんを見ることはあるのかしら。」
その言葉に竹彦は少し黙った。かちっという音が聞こえる。ライターか何かの音かもしれない。
「無いね。僕の知っている限りでは。」
「そう。」
ほっとした。と同時に、また疑問が浮かんでくる。
「でも彼を組に入れたがっているのは確か。若頭が一人引退するらしい。その穴を幹部の誰にするかで、少し今もめている。」
「……。」
「蓬さんの推薦は、椿の存続を後押ししてくれている人。でも椿の働きで自分の立場が危うくなっている人もいるのは事実。その人をつぶしたいと、蓬さんは考えているようだ。だからその鉄砲玉に、柊さんを入れたいと思うのは自然の流れかもしれない。」
「……そうだったの。」
「気を付けて。君の周辺も危なくなってくるかもしれない。」
「……。」
「本当なら、柊さんとはこのごたごたが終わるまで距離を置いた方がいいのかもしれないけど、そうはいかないんだろう?」
「そうね。」
「だったら自己防衛も少し身につけた方がいい。最低でも、夜の道を堂々と歩けるくらいにして。」
「……そうね。ありがとう。」
「じゃあ、僕は行くから。」
「忙しいのにごめんね。」
「かまわないよ。君のためだから。」
電話を切る。そして私は少しため息をついて部屋に戻り、またベッドに横になった。
いろんな事をいわれ、それでも私はきっと柊さんから離れることなんか出来ないのだ。
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