143 / 355
二年目
142
しおりを挟む
学校とバイトの往復は、夏休みという事を勘違いしてしまう。まだ私は、ヒジカタコーヒーのことを学校にも、柊さんにもいえていなかった。もし正式にそれを受けるならば、学校にちゃんとその書類を出すと言ってくれた蓮さんの言葉だけがぐるぐると回っている。
柊さんは相変わらず忙しそうだった。祭りが近いので、その兼ね合いもあるのだろう。メッセージ一つ送りあうことはなかった。
そして私は今日も「窓」のバイトを終え、食事をすませて風呂にはいる。そして部屋に戻ると、携帯を自然と手にした。
そこにはメッセージが一件。
”話があるんだけど、家に行ってもいい?”
それは向日葵からだった。向日葵の家からここまでどれくらいあるっていうのだろう。向日葵は就職ではなく、専門学校だから夏休みは本当に休んでいるらしいけどね。
”明日学校これる?明日で良いかな。”
するとすぐにメッセージが返信された。
”今、近くに来てるから、行けるけど。”
近く?え?来てるって事?戸惑いながら、私は”いいよ。”と返信した。
すると十分ほどして、家のチャイムが鳴った。
「向日葵。」
制服ではない向日葵を見るのは久しぶりだった。ショートパンツに、肩が派手に開いたシャツを着ている。
「久しぶり。」
「えぇ。どうしたの?もう電車無いんじゃない?」
「泊まらせて。」
「それはかまわないけど。家には言った?」
「うん。実はねぇ。彼氏ん家に泊まるって言ったんだけど、彼氏と喧嘩しちゃってさ。」
「彼氏出来たんだ。」
家にあげて、とりあえず部屋に通した。
「うん。ほら、終業式の日にさ、桜の彼氏紹介してもらったじゃん。」
「あぁ。そうね。」
「そのときのあの隣の人。」
あー。なんかいたなぁ。そんな人。
「合コンしてさ、そこで彼氏になった人がいたんだけど。」
「うん。」
「なんか喧嘩ばっかしてるんだよね。ガキが、オヤジがって。つまんない。」
「そうなんだ。大変ねぇ。」
「何でさ、桜たちは喧嘩しないの?」
「……喧嘩ねぇ。あったかな。」
思い出させないくらいだから無いんじゃないのかな。
「仲良くて良いねぇ。」
「そう?お茶でも飲む?麦茶しかないけど。」
「もらう。喉からっからでさ。」
キッチンへ行くとグラスを二つ用意して、氷を入れる。そして冷蔵庫から麦茶を出して、それを注いだ。部屋に持って行くと、向日葵はベッドに腰掛けている。
「はい。」
「ありがと。」
向日葵はそれを一気に飲み干して、机の上に置いた。
「もう一杯つごうか?」
「ううん。もういい。あのね。ちょっと桜に直接言わないといけないこともあったんだけど。」
「何?」
「桜の彼氏さ、ヤクザなの?」
その言葉に私は思わず麦茶を吹きそうになった。
「違うよ。前はそういう感じだったかもしれないけど、今は違うわ。」
「そう?でもさ……。この間、ヤクザみたいな人と一緒にいたの。」
「ヤクザみたいな人?」
「スーツ着た、ほっそい人。その人だけだったらさ別に何とも思わないけど、取り巻きがいかにもって感じの人でさ。皆避けて通ってたよ。」
「……そうなんだ。」
「そうなんだで済むんだ。桜ってやっぱ何考えてるかわかんないね。」
「え?そう?」
「天然なのかなって思ってたけどさ、ちょっと違う。なんか人にはあまり興味ないような感じ。」
「……。」
「ほんとに好きなの?」
「好きよ。」
たぶん、柊さんと会っていたのは蓬さんなのだろう。でも蓬さんとはもう手を切っているはずだ。何もないと思いたい。
「もし桜の彼氏がヤクザだったらさ、やっぱ売られたりとか、よくわかんない人と寝たりさ。そんなことしないといけないの?」
「映画の見すぎだよ。そんなことないと思うよ。私はよくわからないけど。」
「そんなことしないにしてもさ、やっぱ危ない人というのには変わりないよ。もう一回考え直した方がいいんじゃない?」
私はいすを回して、向日葵の方をみる。
「向日葵。柊さんってね、もう三十一歳なの。」
「三十一?マジで?ちょっと歳離れすぎてない?って言うか桜の母さんと同じくらいの歳じゃん。」
「うん。そうね。母さんの方が歳が近いわ。でもそれでもいいの。」
「……何で?」
「歳離れてると、話も合わないこともあるし、知らないことも沢山あるし、知らない人とつながりが沢山ある。でもそれを一つ一つ、聞くにはまだ時間がないの。一年つきあっているけれど、まだ話していないことも、知らないことも沢山あるわ。」
「……。」
「その一つ一つをまた今から聞いていくの。そのヤクザみたいな人は何者なのって。」
「それでも好きなんでしょ?」
「ヤクザだとしても好きね。きっと。私には暴力を振るったりしないもの。」
「はー。そんなものかしらね。」
感心したように向日葵は、枕を抱えた。
「向日葵の彼氏は暴力振るうの?」
「ううん。そんな人じゃないから。」
「話が合わないだけ?」
「そうね。知らない人と繋がりがあったり……。」
「同じじゃない。だったらもっと話し合うべきね。私も話すわ。」
「でもあたしには無理。たぶん幻滅しちゃうな。ね、もっと聞いてもいい?」
「その前にお風呂入る?今私入ったばかりだから。まだお湯温かいけど。」
「そうしよう。ありがと。お風呂場どこ?」
「そっち。」
向日葵をお風呂場に連れて行って、コップを片づけた。そして向日葵が寝る布団を用意する前に、母さんと柊さんにメッセージを送った。
”友達が泊まりに来ています。”
久しぶりに送ったメッセージがとても事務的で、ちょっと笑える。
柊さんは相変わらず忙しそうだった。祭りが近いので、その兼ね合いもあるのだろう。メッセージ一つ送りあうことはなかった。
そして私は今日も「窓」のバイトを終え、食事をすませて風呂にはいる。そして部屋に戻ると、携帯を自然と手にした。
そこにはメッセージが一件。
”話があるんだけど、家に行ってもいい?”
それは向日葵からだった。向日葵の家からここまでどれくらいあるっていうのだろう。向日葵は就職ではなく、専門学校だから夏休みは本当に休んでいるらしいけどね。
”明日学校これる?明日で良いかな。”
するとすぐにメッセージが返信された。
”今、近くに来てるから、行けるけど。”
近く?え?来てるって事?戸惑いながら、私は”いいよ。”と返信した。
すると十分ほどして、家のチャイムが鳴った。
「向日葵。」
制服ではない向日葵を見るのは久しぶりだった。ショートパンツに、肩が派手に開いたシャツを着ている。
「久しぶり。」
「えぇ。どうしたの?もう電車無いんじゃない?」
「泊まらせて。」
「それはかまわないけど。家には言った?」
「うん。実はねぇ。彼氏ん家に泊まるって言ったんだけど、彼氏と喧嘩しちゃってさ。」
「彼氏出来たんだ。」
家にあげて、とりあえず部屋に通した。
「うん。ほら、終業式の日にさ、桜の彼氏紹介してもらったじゃん。」
「あぁ。そうね。」
「そのときのあの隣の人。」
あー。なんかいたなぁ。そんな人。
「合コンしてさ、そこで彼氏になった人がいたんだけど。」
「うん。」
「なんか喧嘩ばっかしてるんだよね。ガキが、オヤジがって。つまんない。」
「そうなんだ。大変ねぇ。」
「何でさ、桜たちは喧嘩しないの?」
「……喧嘩ねぇ。あったかな。」
思い出させないくらいだから無いんじゃないのかな。
「仲良くて良いねぇ。」
「そう?お茶でも飲む?麦茶しかないけど。」
「もらう。喉からっからでさ。」
キッチンへ行くとグラスを二つ用意して、氷を入れる。そして冷蔵庫から麦茶を出して、それを注いだ。部屋に持って行くと、向日葵はベッドに腰掛けている。
「はい。」
「ありがと。」
向日葵はそれを一気に飲み干して、机の上に置いた。
「もう一杯つごうか?」
「ううん。もういい。あのね。ちょっと桜に直接言わないといけないこともあったんだけど。」
「何?」
「桜の彼氏さ、ヤクザなの?」
その言葉に私は思わず麦茶を吹きそうになった。
「違うよ。前はそういう感じだったかもしれないけど、今は違うわ。」
「そう?でもさ……。この間、ヤクザみたいな人と一緒にいたの。」
「ヤクザみたいな人?」
「スーツ着た、ほっそい人。その人だけだったらさ別に何とも思わないけど、取り巻きがいかにもって感じの人でさ。皆避けて通ってたよ。」
「……そうなんだ。」
「そうなんだで済むんだ。桜ってやっぱ何考えてるかわかんないね。」
「え?そう?」
「天然なのかなって思ってたけどさ、ちょっと違う。なんか人にはあまり興味ないような感じ。」
「……。」
「ほんとに好きなの?」
「好きよ。」
たぶん、柊さんと会っていたのは蓬さんなのだろう。でも蓬さんとはもう手を切っているはずだ。何もないと思いたい。
「もし桜の彼氏がヤクザだったらさ、やっぱ売られたりとか、よくわかんない人と寝たりさ。そんなことしないといけないの?」
「映画の見すぎだよ。そんなことないと思うよ。私はよくわからないけど。」
「そんなことしないにしてもさ、やっぱ危ない人というのには変わりないよ。もう一回考え直した方がいいんじゃない?」
私はいすを回して、向日葵の方をみる。
「向日葵。柊さんってね、もう三十一歳なの。」
「三十一?マジで?ちょっと歳離れすぎてない?って言うか桜の母さんと同じくらいの歳じゃん。」
「うん。そうね。母さんの方が歳が近いわ。でもそれでもいいの。」
「……何で?」
「歳離れてると、話も合わないこともあるし、知らないことも沢山あるし、知らない人とつながりが沢山ある。でもそれを一つ一つ、聞くにはまだ時間がないの。一年つきあっているけれど、まだ話していないことも、知らないことも沢山あるわ。」
「……。」
「その一つ一つをまた今から聞いていくの。そのヤクザみたいな人は何者なのって。」
「それでも好きなんでしょ?」
「ヤクザだとしても好きね。きっと。私には暴力を振るったりしないもの。」
「はー。そんなものかしらね。」
感心したように向日葵は、枕を抱えた。
「向日葵の彼氏は暴力振るうの?」
「ううん。そんな人じゃないから。」
「話が合わないだけ?」
「そうね。知らない人と繋がりがあったり……。」
「同じじゃない。だったらもっと話し合うべきね。私も話すわ。」
「でもあたしには無理。たぶん幻滅しちゃうな。ね、もっと聞いてもいい?」
「その前にお風呂入る?今私入ったばかりだから。まだお湯温かいけど。」
「そうしよう。ありがと。お風呂場どこ?」
「そっち。」
向日葵をお風呂場に連れて行って、コップを片づけた。そして向日葵が寝る布団を用意する前に、母さんと柊さんにメッセージを送った。
”友達が泊まりに来ています。”
久しぶりに送ったメッセージがとても事務的で、ちょっと笑える。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます
柚木ゆず
恋愛
ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。
わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?
当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。
でも。
今は、捨てられてよかったと思っています。
だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる