136 / 355
二年目
135
しおりを挟む
コーヒー豆を挽いてなくて良かった。柊さんはちょっとの休憩中に、葵さんにメッセージをもらってここに来ただけだったから。でも悪いことをしたなぁ。わざわざ来てもらうなんて。
「また夜に来る。」
そういい残して柊さんはまた行ってしまった。
それにしても他のお客さんがいなくて良かった。ほっとしながら、私は柊さんと入れ違いにきた誠さんの接客をする。葵さんはいつもと変わらなかった。仕事をしていればこういうこともあると、切り替えは早いらしい。
そしてその日の夜。宣言通り柊さんがやってきて、私を送るように一緒に「窓」を出て行った。茅さんは今日もいない。忙しいのかもしれないな。
「ヤクザの情婦か。」
「仕方なく。と言ったところでしょうか。」
「まぁな。向日葵というお前の友達に説明するのは、確かに酷なことだ。身内に椿がいるとはな。可哀想なことだ。」
「向日葵のお兄さんのことは知ってますか。」
「あぁ。なんか不器用なヤツがいた。でも組に入りたがっていたな。何がいいんだと思っていたが。確か、他の組にそそのかされて、組の情報を他の組に漏洩したとかで、簀巻きにされたはずだ。」
真実はそうだったんだ。やっぱりぞっとする。
そのとき柊さんは私の手を握ってきた。驚いて私は柊さんを見上げる。すると彼は意味ありげに私をみた。
「嫌か?」
「いいえ。嬉しいです。」
繋がれた手はとても熱い。
体を重ねることはあるけれど、こういう普通の行為は私たちに難しい。照れも少しはある。でもそのほとんどは、向日葵のように友達に会ったらなんて説明しようという卑怯な考えだった。
悪いことをしているわけでもないし、こそこそする理由もない。だけどどこか後ろめたかった。母さんの方が歳が近いからかもしれない。
だけど嬉しいし、幸せだと思う。
「ヤクザの情婦か……。」
「蓬さんにもいらっしゃったでしょう?」
「あの人は、案外潔癖でな。妻しか見ていなかったな。」
そんな風に見えない。でもそれが本当だったら私に幾度と無くデートに誘っていたのは、本当にリップサービスだったんだ。
「それに本当のヤクザの情婦は、背中に同じ彫り物をしている。それで情婦は相手を他に出来ないようにとな。」
「そんなことしないと信じれないんですね。ある意味可哀想。」
「そうだな。」
何気ない会話。そしてコンビニを過ぎて、すぐにアパートに着いてしまう。バイクをこのアパートの駐輪場においていたのだろう。見覚えのあるバイクがそこにはあった。
「直接行かないといけないな。」
「気をつけて。」
「明日から夏休みか。また時間を見てどこかへ行こう。」
「はい。」
「じゃあな。」
バイクを出して、エンジンをかける。ヘルメットをかぶる前に、私は彼の袖を引っ張った。すると彼は少し周りを見ると、私の唇に軽くキスをする。ふわんと煙草のにおいがした。
そしてヘルメットをかぶると、エンジン音ともに彼は行ってしまった。寂しいな。そう思いながら、私はアパートの階段へ向かい自分の部屋へ向かう。
鍵を開けて、部屋に入ろうとしたときだった。階段を上がってくる音が聞こえる。そちらを見ると、そこには息を切らせた茅さんがいた。
「茅さん。」
「お前……。」
何?何?怖い。どんどんと近づいてきて、私を部屋に押しこむように体を押してきた。こけはしなかったけれど、彼は玄関を背に私を見下ろしている。その視線は怖かった。
「あれがお前の恋人か。」
「あれ?」
「バイクの……。」
「そうですけど。何か?」
すると彼は私の視線に合わせるようにしゃがみ込んだ。
「葵でもかまわない。他の椿でもかまわない。だけど、柊だけはだめだ。あいつは……。」
苦しそうにいう茅さんは、私の肩をつかんだ。
「何なんですか。」
「柊だけはだめだ。お前がだめになる。」
「そんなことを言っても……もう、戻れない。」
「ガキでもいるのか。」
「いませんけど。」
あらか様にほっとした表情だった。しかしぐっと私の方を見る。
「戻れなくなる前に別れろ。」
「別れません。」
「強情なヤツだ。別れやすいようにしてやろうか。」
別れやすいようにする?何をするっていうの?
すると彼は私の肩をつかんでいる手に力を入れる。玄関先で私はそこに押し倒されたような形になった。
「やめてください。」
「ヤツより良くしてやる。忘れさせてやるから。」
そういって彼は首もとに手をかけた。
「嫌!」
嫌だ。嫌だ!
私の頭の中に、あの出来事が浮かんできた。それは私がレイプされそうになったときのことだった。
「大人しくしてればいい思いをさせる。」
払いのけられるはずだ。だけど手が震える。
「やめてください!」
涙がでそうになる。さっきまで幸せだったのに。繋いだ手が熱かったのに。今は手を握られている相手が違う。この人じゃない。私が手を握りたいのは、違う人なのに。
首もとの手が顎にかかる。そして彼はさっき私が柊さんと唇を重ねたところに、唇を寄せようとした。
「嫌!」
「良いから大人しくしろ。」
そのとき玄関のドアが開いた。そして茅さんは私の上から離れていく。
助かった?私は起き上がり、震える足で後ずさりしてリビングへ逃げていった。
「また夜に来る。」
そういい残して柊さんはまた行ってしまった。
それにしても他のお客さんがいなくて良かった。ほっとしながら、私は柊さんと入れ違いにきた誠さんの接客をする。葵さんはいつもと変わらなかった。仕事をしていればこういうこともあると、切り替えは早いらしい。
そしてその日の夜。宣言通り柊さんがやってきて、私を送るように一緒に「窓」を出て行った。茅さんは今日もいない。忙しいのかもしれないな。
「ヤクザの情婦か。」
「仕方なく。と言ったところでしょうか。」
「まぁな。向日葵というお前の友達に説明するのは、確かに酷なことだ。身内に椿がいるとはな。可哀想なことだ。」
「向日葵のお兄さんのことは知ってますか。」
「あぁ。なんか不器用なヤツがいた。でも組に入りたがっていたな。何がいいんだと思っていたが。確か、他の組にそそのかされて、組の情報を他の組に漏洩したとかで、簀巻きにされたはずだ。」
真実はそうだったんだ。やっぱりぞっとする。
そのとき柊さんは私の手を握ってきた。驚いて私は柊さんを見上げる。すると彼は意味ありげに私をみた。
「嫌か?」
「いいえ。嬉しいです。」
繋がれた手はとても熱い。
体を重ねることはあるけれど、こういう普通の行為は私たちに難しい。照れも少しはある。でもそのほとんどは、向日葵のように友達に会ったらなんて説明しようという卑怯な考えだった。
悪いことをしているわけでもないし、こそこそする理由もない。だけどどこか後ろめたかった。母さんの方が歳が近いからかもしれない。
だけど嬉しいし、幸せだと思う。
「ヤクザの情婦か……。」
「蓬さんにもいらっしゃったでしょう?」
「あの人は、案外潔癖でな。妻しか見ていなかったな。」
そんな風に見えない。でもそれが本当だったら私に幾度と無くデートに誘っていたのは、本当にリップサービスだったんだ。
「それに本当のヤクザの情婦は、背中に同じ彫り物をしている。それで情婦は相手を他に出来ないようにとな。」
「そんなことしないと信じれないんですね。ある意味可哀想。」
「そうだな。」
何気ない会話。そしてコンビニを過ぎて、すぐにアパートに着いてしまう。バイクをこのアパートの駐輪場においていたのだろう。見覚えのあるバイクがそこにはあった。
「直接行かないといけないな。」
「気をつけて。」
「明日から夏休みか。また時間を見てどこかへ行こう。」
「はい。」
「じゃあな。」
バイクを出して、エンジンをかける。ヘルメットをかぶる前に、私は彼の袖を引っ張った。すると彼は少し周りを見ると、私の唇に軽くキスをする。ふわんと煙草のにおいがした。
そしてヘルメットをかぶると、エンジン音ともに彼は行ってしまった。寂しいな。そう思いながら、私はアパートの階段へ向かい自分の部屋へ向かう。
鍵を開けて、部屋に入ろうとしたときだった。階段を上がってくる音が聞こえる。そちらを見ると、そこには息を切らせた茅さんがいた。
「茅さん。」
「お前……。」
何?何?怖い。どんどんと近づいてきて、私を部屋に押しこむように体を押してきた。こけはしなかったけれど、彼は玄関を背に私を見下ろしている。その視線は怖かった。
「あれがお前の恋人か。」
「あれ?」
「バイクの……。」
「そうですけど。何か?」
すると彼は私の視線に合わせるようにしゃがみ込んだ。
「葵でもかまわない。他の椿でもかまわない。だけど、柊だけはだめだ。あいつは……。」
苦しそうにいう茅さんは、私の肩をつかんだ。
「何なんですか。」
「柊だけはだめだ。お前がだめになる。」
「そんなことを言っても……もう、戻れない。」
「ガキでもいるのか。」
「いませんけど。」
あらか様にほっとした表情だった。しかしぐっと私の方を見る。
「戻れなくなる前に別れろ。」
「別れません。」
「強情なヤツだ。別れやすいようにしてやろうか。」
別れやすいようにする?何をするっていうの?
すると彼は私の肩をつかんでいる手に力を入れる。玄関先で私はそこに押し倒されたような形になった。
「やめてください。」
「ヤツより良くしてやる。忘れさせてやるから。」
そういって彼は首もとに手をかけた。
「嫌!」
嫌だ。嫌だ!
私の頭の中に、あの出来事が浮かんできた。それは私がレイプされそうになったときのことだった。
「大人しくしてればいい思いをさせる。」
払いのけられるはずだ。だけど手が震える。
「やめてください!」
涙がでそうになる。さっきまで幸せだったのに。繋いだ手が熱かったのに。今は手を握られている相手が違う。この人じゃない。私が手を握りたいのは、違う人なのに。
首もとの手が顎にかかる。そして彼はさっき私が柊さんと唇を重ねたところに、唇を寄せようとした。
「嫌!」
「良いから大人しくしろ。」
そのとき玄関のドアが開いた。そして茅さんは私の上から離れていく。
助かった?私は起き上がり、震える足で後ずさりしてリビングへ逃げていった。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる