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二年目
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その日から終業式の日まで、向日葵たちに「彼氏って茅さんのことじゃないの」とずっと聞かれて、うんざりしていた。そのたびに違う、違う、と言い続けていた。面倒だ。
「年上だけどさ、まぁぎりだよ。二十七って言ってたよね。」
何がギリなんだろう。よくわかんないや。
終業式の日。校長先生の長ーい話を聞いたあと、教室に戻ろうとした私に向日葵が近づいてきた。
「ねぇ。桜。茅さんが彼氏じゃないって言ってたけど、じゃあほんとは誰なの?」
「向日葵が知らない人だよ。」
「いっつもそういってるじゃん。でもさ、友達じゃん。紹介してくれても良いでしょ?言ったらいけない人なの?一緒に歩いているとこも見たことないしさ。」
真っ昼間に柊さんと町中を歩いていても、恋人と思われないからじゃないのかなぁ。
でもまぁ向日葵の言うこともわからなくはない。去年の体育祭に、友達だって彼女を連れてきたりしてちょっと利用したりしたもんね。
「向日葵。今日時間ある?」
「え?」
「美貴とかとカフェ行ったり、遊びに行ったりしないってこと。」
「しないよ。今日は何もない。」
「じゃあ、ちょっと私とつきあってくれる?」
向日葵なら。何もいわないだろう。きっと引いたりしない。そう思うから。
私たちは学校を出ると、コンビニでスポーツドリンクを買った。それを手にして向かったのは、高校からから歩いて十五分くらいのところにある小学校。私が通った学校だ。小学校ももう終業式らしくて、大きな荷物を持った小学生が行き交っていた。
「どこも小学校って一緒ね。プール、良いなぁ。暑いね。」
確かに今日は暑い。雲一つ無い晴天で、ぎらぎらと太陽が照っている。
「うん。」
「ねぇ。この学校に用事があるの?」
「うん。」
学校の外周を回る。私たちがこの学校の敷地内に用事がないのにはいるわけにはいかないから。
やがて灰色の作業着を着た人が目に付いた。ただし、上着は暑くて脱いでいるらしい。一人は白いTシャツを着ていて、袖をまくり上げている。若い男の人だ。多分この人も派遣で来ている人なんだろうな。帽子から見える髪が、金色だ。彼は草刈り機で刈っている草を集めて、袋に詰めていた。彼のそばには大量の袋がある。
そして草刈り機を扱っているのが、柊さんだった。彼は黒いシャツの袖をまくり上げて、汗だくだった。
「柊さん。」
金網フェンスの向こうから私は声をかけても、草刈り機の音で気がついていない。その声に気がついたのは、草を集めていた若い男の人だった。柊さんに近づいて、私の方を指さす。
すると柊さんは少しほほえみ、草刈り機のスイッチを切ると私の方へ近づいてきた。
「桜。」
「暑いのに大変ですね。」
「あぁ。すぐ喉が渇く。」
「だと思いました。スポーツドリンク持ってきたんですよ。」
「助かる。」
金網フェンス越しに、私はそのドリンクを二本、柊さんに渡す。
「気が利くな。こいつのも買ってきたのか。」
「もう一人一緒に働く方がいらっしゃると聞いたので。」
「夏樹。ほら。」
そういって柊さんは、そのドリンクを一本もう一人の男に手渡した。
「あざっす。なんすか。じょしこーせー?柊さんもやりますねぇ。」
「ちゃかすな。」
「どっちが彼女なんすか。」
多分向日葵の方も見えたんだろう。向日葵はぼんやりとこっちを見ているだけだった。多分こんなに年上だと思ってなかったのかもしれない。
「こっち。」
そういって彼は私を指さした。
「可愛いっすね。じょしこーせー。今度俺らと合コンしない?」
「私は結構ですけど……。」
向日葵の方を見ると、彼女は我に返ったように微笑んだ。
「是非。あたし彼氏募集中だから。」
「マジで?連絡先交換して。」
なんなんだよ。その軽いのり。そんなもんなのかな。
「あー。ロン毛のおいちゃん。さぼってるー。」
小学生たちがめざとく近寄ってきた。
「うるさいな。休憩くらいさせろ。」
「遊んで、遊んで。」
「お前等と遊んでたら休憩になんねぇだろ。さっさと帰れ。」
なんか柊さんたじたじだな。子供苦手だっていってたけど、本当はそうでもないのかもしれないな。
「じゃあ、私たち失礼しますね。」
「あ、桜。」
「どうしました?」
「今日、店行くから。」
「わかりました。」
そういって背を向けた。するとその夏樹という男性が「なんの店っすか。」とか「遊んで、遊んで。」と言う子供の声が聞こえた。
高校で作業していたときよりも、きっと楽しい職場なんだろう。初めて見たけど。
「桜の彼氏って、あの人なんだね。」
少し歩いて、向日葵が口を開いた。
「えぇ。そうよ。」
「桜って、あんまり表情変わらない人棚って思ってたけど、あの人の前じゃ笑うんだ。」
「仕事でも笑うわ。仕事だから。」
「でも自然だった。好きなのね。」
「えぇ。一番好きよ。」
「今のところ、でしょ?」
その言葉が少し引っかかった。だけど私はそうね。とだけ言った。
「ねぇ。桜。あの人さ、刺青あったじゃん。」
「うん。そうね。」
「ペイントじゃないんでしょ?」
「おしゃれには無頓着な人よ。」
「あの刺青さ……椿だったよね。」
「……向日葵。」
向日葵も何か知っているのか。何か関係があるのだろうか。わからないけれど、彼女はそれからいつもよりも口数が少なかった。
「向日葵。お茶して帰る?暑いでしょ?私今からバイト行くし。」
「窓?うん。じゃあ行こうかな。」
多分向日葵は何かいいたいのだと思う。だから「窓」に誘った。少し早い時間だったけれど、それくらいは大目に見てくれるだろう。
「年上だけどさ、まぁぎりだよ。二十七って言ってたよね。」
何がギリなんだろう。よくわかんないや。
終業式の日。校長先生の長ーい話を聞いたあと、教室に戻ろうとした私に向日葵が近づいてきた。
「ねぇ。桜。茅さんが彼氏じゃないって言ってたけど、じゃあほんとは誰なの?」
「向日葵が知らない人だよ。」
「いっつもそういってるじゃん。でもさ、友達じゃん。紹介してくれても良いでしょ?言ったらいけない人なの?一緒に歩いているとこも見たことないしさ。」
真っ昼間に柊さんと町中を歩いていても、恋人と思われないからじゃないのかなぁ。
でもまぁ向日葵の言うこともわからなくはない。去年の体育祭に、友達だって彼女を連れてきたりしてちょっと利用したりしたもんね。
「向日葵。今日時間ある?」
「え?」
「美貴とかとカフェ行ったり、遊びに行ったりしないってこと。」
「しないよ。今日は何もない。」
「じゃあ、ちょっと私とつきあってくれる?」
向日葵なら。何もいわないだろう。きっと引いたりしない。そう思うから。
私たちは学校を出ると、コンビニでスポーツドリンクを買った。それを手にして向かったのは、高校からから歩いて十五分くらいのところにある小学校。私が通った学校だ。小学校ももう終業式らしくて、大きな荷物を持った小学生が行き交っていた。
「どこも小学校って一緒ね。プール、良いなぁ。暑いね。」
確かに今日は暑い。雲一つ無い晴天で、ぎらぎらと太陽が照っている。
「うん。」
「ねぇ。この学校に用事があるの?」
「うん。」
学校の外周を回る。私たちがこの学校の敷地内に用事がないのにはいるわけにはいかないから。
やがて灰色の作業着を着た人が目に付いた。ただし、上着は暑くて脱いでいるらしい。一人は白いTシャツを着ていて、袖をまくり上げている。若い男の人だ。多分この人も派遣で来ている人なんだろうな。帽子から見える髪が、金色だ。彼は草刈り機で刈っている草を集めて、袋に詰めていた。彼のそばには大量の袋がある。
そして草刈り機を扱っているのが、柊さんだった。彼は黒いシャツの袖をまくり上げて、汗だくだった。
「柊さん。」
金網フェンスの向こうから私は声をかけても、草刈り機の音で気がついていない。その声に気がついたのは、草を集めていた若い男の人だった。柊さんに近づいて、私の方を指さす。
すると柊さんは少しほほえみ、草刈り機のスイッチを切ると私の方へ近づいてきた。
「桜。」
「暑いのに大変ですね。」
「あぁ。すぐ喉が渇く。」
「だと思いました。スポーツドリンク持ってきたんですよ。」
「助かる。」
金網フェンス越しに、私はそのドリンクを二本、柊さんに渡す。
「気が利くな。こいつのも買ってきたのか。」
「もう一人一緒に働く方がいらっしゃると聞いたので。」
「夏樹。ほら。」
そういって柊さんは、そのドリンクを一本もう一人の男に手渡した。
「あざっす。なんすか。じょしこーせー?柊さんもやりますねぇ。」
「ちゃかすな。」
「どっちが彼女なんすか。」
多分向日葵の方も見えたんだろう。向日葵はぼんやりとこっちを見ているだけだった。多分こんなに年上だと思ってなかったのかもしれない。
「こっち。」
そういって彼は私を指さした。
「可愛いっすね。じょしこーせー。今度俺らと合コンしない?」
「私は結構ですけど……。」
向日葵の方を見ると、彼女は我に返ったように微笑んだ。
「是非。あたし彼氏募集中だから。」
「マジで?連絡先交換して。」
なんなんだよ。その軽いのり。そんなもんなのかな。
「あー。ロン毛のおいちゃん。さぼってるー。」
小学生たちがめざとく近寄ってきた。
「うるさいな。休憩くらいさせろ。」
「遊んで、遊んで。」
「お前等と遊んでたら休憩になんねぇだろ。さっさと帰れ。」
なんか柊さんたじたじだな。子供苦手だっていってたけど、本当はそうでもないのかもしれないな。
「じゃあ、私たち失礼しますね。」
「あ、桜。」
「どうしました?」
「今日、店行くから。」
「わかりました。」
そういって背を向けた。するとその夏樹という男性が「なんの店っすか。」とか「遊んで、遊んで。」と言う子供の声が聞こえた。
高校で作業していたときよりも、きっと楽しい職場なんだろう。初めて見たけど。
「桜の彼氏って、あの人なんだね。」
少し歩いて、向日葵が口を開いた。
「えぇ。そうよ。」
「桜って、あんまり表情変わらない人棚って思ってたけど、あの人の前じゃ笑うんだ。」
「仕事でも笑うわ。仕事だから。」
「でも自然だった。好きなのね。」
「えぇ。一番好きよ。」
「今のところ、でしょ?」
その言葉が少し引っかかった。だけど私はそうね。とだけ言った。
「ねぇ。桜。あの人さ、刺青あったじゃん。」
「うん。そうね。」
「ペイントじゃないんでしょ?」
「おしゃれには無頓着な人よ。」
「あの刺青さ……椿だったよね。」
「……向日葵。」
向日葵も何か知っているのか。何か関係があるのだろうか。わからないけれど、彼女はそれからいつもよりも口数が少なかった。
「向日葵。お茶して帰る?暑いでしょ?私今からバイト行くし。」
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