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一年目
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初めてのキスはここで、相手も柊さんではなかった。あれよあれよという間に逃げられない状況になって、葵さんは唇を合わせてきた。だから彼の口から流れてくるコーヒーの匂いは、お酒が入っていないのに酔いそうになる。
何度もキスをされて、そしてそのまま体を抱き抱えられた。
「軽いですね。」
ベッドに押し倒されて、私の上に葵さんが多い被さるように乗ってきた。そしてその細い指がシャツのボタンを外そうとしてくる。それに私は最後の拒否をした。その手を掴む。細い手首に手をおいて、首を横に振った。すると彼の動きが止まる。
「柊ではないから抵抗しているのですか。」
「あなたじゃない。」
「私はあなたのことを思って言っているのです。」
「きっと……あなたは私のことを思って、抱こうとしてるのではないと思っています。」
その言葉に彼の笑顔が一瞬消えた。しかしいつもの笑顔に戻る。
「ではなんだと思いますか。」
「……きっと……嫉妬だと思うから。」
「私が柊に嫉妬していると?」
すると彼は少し笑った。
「それはないです。私は、あなたを愛している。ずっと前から。あなたを雇おうと思ったのは、半分はあなたのバリスタとしてのセンスを見て。もう一つはあなたへの恋心から。」
「……。」
「ずっとこうなればいいと思っていました。今夜はあなたを抱きたい。」
「それは……肉欲ですか。」
「違いますよ。あなただからそう思ったんです。」
「だったら今日、この場でこのようなことをしているのは、おかしいんです。」
「……。」
その言葉に彼は私の手から、腕を放した。そして私の上から体を避けた。体から彼の重さがなくなり、解放された体を私は起きあがる。
「倒れたのだと聞きました。」
「はい。」
「確かに無理をさせてしまうかもしれませんね。今日はやめておきましょう。いいチャンスだったのですが。」
そういって彼は私の方に手を差し出す。それを払いのけると、彼は少し笑った。
「あなたとのキスは、嫌悪感でしかない。」
「そうでしょうか。さっきも言いましたが、いくらでも拒否することは出来たはずです。それをしないと言うのは、あなたの心の隅にでも私がいるはずだ。」
「……。」
「このことは柊には内緒にしておきましょう。この関係を、私は続けてもいいと思ってますし。」
「どんな関係ですか。」
「柊には言いましたが、あなたをシェアしたい。私は柊とあなたがセックスをしていても何とも思いません。でもあなたを抱きたいと思っている。だからたまに抱かせてもらえればそれでいい。」
「……それは愛ですか?」
「えぇ。私なりの。そして、あなたは私しかみないようになると思いますから。」
「……そんな日は来ません。私も強情なのです。柊さんしか見ていませんから。」
「そのようです。でも一度、私があなたを抱けば、あなたは考えを改めますよ。」
「ずいぶん自信があるんですね。」
「えぇ。一時はそういうことばかりをしていましたから。柊も同じ事を進めましたが、彼は向いていませんでしたね。潔癖でしたし。」
彼はそういってベッドから立ち上がった。私もベッドから降り、部屋を出ていった。玄関先で、彼はまたいつもの表情に戻る。
「近いうちに、あなたはきっと私を求めますから。」
「そんな日は来ません。」
「どうでしょうね。」
葵さんはそういって扉を開けて出ていった。私は壁にもたれて、座り込む。
ずきっ。
またお腹が痛くなる感覚があった。鈍い痛みは、今までとは違う痛みに感じる。
文化祭と体育祭が終わればいつもの日常が始まった。足の痛みはテープでしのぎ、それより早くお腹の痛みはそれより早く収まる。本当に薬が合わなかっただけだったらしい。
クラスの中では打ち上げをしたいと盛り上がっている。
「カラオケ行こうよ。」
向日葵はそういって私を誘ってくる。カラオケ苦手なんだけどなぁ。
「歌苦手なんだよね。」
「気が進まないのわかるけどさ、高校生なんだし打ち上げなんて結構限られるじゃん。カラオケが無難だよ。日曜日も桜バイト?」
「うん。」
「途中で抜けていいからさ。」
まぁ、歌わなかったらいいか。
「今時の歌知らないよ。」
「いいよぉ。やった。やっと桜とどっか行けるね。」
どっか行くんだったら、別の人とがいいなぁ。なんて言えないけど。ちらりと校庭をみる。棗さんは体育祭の時からもういない。代わりにいつものおじいさんが柊さんと一緒に行動している。秋になってしまった校庭は、今度は落ち葉が多いらしく掃いても掃いてもきりがなさそうだ。
「でも、桜ってホント高校生じゃないみたい。」
「へ?」
「最近の曲も知らないし、流行ってるものもわからない。洋服なんかもわからないって言ってたじゃん。」
「うん。」
「ちゃんとメイクしてさ。足出したら、絶対みんな振り向くよ。」
「別にみんな振り向かなくていいよ。一人だけで十分。」
「あー。彼氏か。あーあ。あたしも早く彼氏ほしー。」
向日葵はそういってため息をついた。向日葵だってもててる方だと思う。知らない一年から告白されてるのを何度か見た。まぁ、女子だけどね。
「でもさ、年上の社会人の彼なんて、どこで知り合ったの?」
「どこって……。」
「そういえば馴れ初めとか聞いてない。ねーどこで知り合ったの?どんな人なの?」
そのときチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。
「はーい。授業始めます。」
げっ。柴田先生だ。
「今日は前田先生が出張なので、私がします。」
タイミング悪いなぁ。私はそう思いながら、授業を受けていた。
何度もキスをされて、そしてそのまま体を抱き抱えられた。
「軽いですね。」
ベッドに押し倒されて、私の上に葵さんが多い被さるように乗ってきた。そしてその細い指がシャツのボタンを外そうとしてくる。それに私は最後の拒否をした。その手を掴む。細い手首に手をおいて、首を横に振った。すると彼の動きが止まる。
「柊ではないから抵抗しているのですか。」
「あなたじゃない。」
「私はあなたのことを思って言っているのです。」
「きっと……あなたは私のことを思って、抱こうとしてるのではないと思っています。」
その言葉に彼の笑顔が一瞬消えた。しかしいつもの笑顔に戻る。
「ではなんだと思いますか。」
「……きっと……嫉妬だと思うから。」
「私が柊に嫉妬していると?」
すると彼は少し笑った。
「それはないです。私は、あなたを愛している。ずっと前から。あなたを雇おうと思ったのは、半分はあなたのバリスタとしてのセンスを見て。もう一つはあなたへの恋心から。」
「……。」
「ずっとこうなればいいと思っていました。今夜はあなたを抱きたい。」
「それは……肉欲ですか。」
「違いますよ。あなただからそう思ったんです。」
「だったら今日、この場でこのようなことをしているのは、おかしいんです。」
「……。」
その言葉に彼は私の手から、腕を放した。そして私の上から体を避けた。体から彼の重さがなくなり、解放された体を私は起きあがる。
「倒れたのだと聞きました。」
「はい。」
「確かに無理をさせてしまうかもしれませんね。今日はやめておきましょう。いいチャンスだったのですが。」
そういって彼は私の方に手を差し出す。それを払いのけると、彼は少し笑った。
「あなたとのキスは、嫌悪感でしかない。」
「そうでしょうか。さっきも言いましたが、いくらでも拒否することは出来たはずです。それをしないと言うのは、あなたの心の隅にでも私がいるはずだ。」
「……。」
「このことは柊には内緒にしておきましょう。この関係を、私は続けてもいいと思ってますし。」
「どんな関係ですか。」
「柊には言いましたが、あなたをシェアしたい。私は柊とあなたがセックスをしていても何とも思いません。でもあなたを抱きたいと思っている。だからたまに抱かせてもらえればそれでいい。」
「……それは愛ですか?」
「えぇ。私なりの。そして、あなたは私しかみないようになると思いますから。」
「……そんな日は来ません。私も強情なのです。柊さんしか見ていませんから。」
「そのようです。でも一度、私があなたを抱けば、あなたは考えを改めますよ。」
「ずいぶん自信があるんですね。」
「えぇ。一時はそういうことばかりをしていましたから。柊も同じ事を進めましたが、彼は向いていませんでしたね。潔癖でしたし。」
彼はそういってベッドから立ち上がった。私もベッドから降り、部屋を出ていった。玄関先で、彼はまたいつもの表情に戻る。
「近いうちに、あなたはきっと私を求めますから。」
「そんな日は来ません。」
「どうでしょうね。」
葵さんはそういって扉を開けて出ていった。私は壁にもたれて、座り込む。
ずきっ。
またお腹が痛くなる感覚があった。鈍い痛みは、今までとは違う痛みに感じる。
文化祭と体育祭が終わればいつもの日常が始まった。足の痛みはテープでしのぎ、それより早くお腹の痛みはそれより早く収まる。本当に薬が合わなかっただけだったらしい。
クラスの中では打ち上げをしたいと盛り上がっている。
「カラオケ行こうよ。」
向日葵はそういって私を誘ってくる。カラオケ苦手なんだけどなぁ。
「歌苦手なんだよね。」
「気が進まないのわかるけどさ、高校生なんだし打ち上げなんて結構限られるじゃん。カラオケが無難だよ。日曜日も桜バイト?」
「うん。」
「途中で抜けていいからさ。」
まぁ、歌わなかったらいいか。
「今時の歌知らないよ。」
「いいよぉ。やった。やっと桜とどっか行けるね。」
どっか行くんだったら、別の人とがいいなぁ。なんて言えないけど。ちらりと校庭をみる。棗さんは体育祭の時からもういない。代わりにいつものおじいさんが柊さんと一緒に行動している。秋になってしまった校庭は、今度は落ち葉が多いらしく掃いても掃いてもきりがなさそうだ。
「でも、桜ってホント高校生じゃないみたい。」
「へ?」
「最近の曲も知らないし、流行ってるものもわからない。洋服なんかもわからないって言ってたじゃん。」
「うん。」
「ちゃんとメイクしてさ。足出したら、絶対みんな振り向くよ。」
「別にみんな振り向かなくていいよ。一人だけで十分。」
「あー。彼氏か。あーあ。あたしも早く彼氏ほしー。」
向日葵はそういってため息をついた。向日葵だってもててる方だと思う。知らない一年から告白されてるのを何度か見た。まぁ、女子だけどね。
「でもさ、年上の社会人の彼なんて、どこで知り合ったの?」
「どこって……。」
「そういえば馴れ初めとか聞いてない。ねーどこで知り合ったの?どんな人なの?」
そのときチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。
「はーい。授業始めます。」
げっ。柴田先生だ。
「今日は前田先生が出張なので、私がします。」
タイミング悪いなぁ。私はそう思いながら、授業を受けていた。
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