86 / 355
一年目
86
しおりを挟む
休憩を終えて、クラスに戻る。相変わらずクラスの中は盛り上がっていて、歓喜の声とどよめきが渦巻いていた。適当に行った女装、男装カフェは一応成功したのかもしれない。
十五時。文化祭は終わり、クラスの片づけを始めた。私は借りているエプロンとスカートズボン、ベストの数を数えて段ボールに積めていた。
これはクリーニングして返さないといけない。幸いにもクリーニング屋の娘がくらすにいるので格安でクリーニングしてくれる。ただし持って行かないといけないけどね。
「数は合ってる?」
化粧を落として制服に着替えた竹彦が聞いてきた。
「大丈夫みたい。そっちは?集計はどう?」
「結構売り上げているみたいだ。まだ正確な数字は出ていないけど。」
学年一位どころか学校で一位も考えられるかもしれないと皆張り切っていた。
「次は体育祭か。」
「そうね。」
「出れないの?」
「無理ではないわ。でも出てまた痛くなっても困るわね。」
「それもそうだね。」
荷物をまとめ終わると、私は向日葵のところへ行った。そしてメイク落としを借りる。
「落とさなくてもいいよ。これくらい普通じゃん。」
そうは言われたけれど、どうも気持ち悪い。普段は眉毛をかいているだけだもんな。タオルとメイク落としを借りた私は、教室外の水道まで行く。
そしてメイク落としで丁寧にメイクを落として、水道を出す。思ったよりも疲れてたのかもしれない。水道を止めて、私は少しため息をついた。
そして眉毛だけを書くと、またクラスに戻ろうとした。そのとき向こうから柴田先生が歩いてきているのが見える。やだな。なんか言われるかもしれない。
「桜さん。」
やっぱり言われた。
「どうしましたか。」
「Syuのことだけど。」
やっぱり。とぼけたふりをして聞き返した。
「え?」
しかし彼女はそれが聞こえなかったように、言葉を続ける。
「あの人、本当にSyuじゃないの?」
しつこい。まだ疑ってるのか。
「本人が違うと言ってますから、違うのでしょう。」
「でも似てるのよね。サングラスいつもかけてて、目元が見えないけど。」
「先生はいつもクラブ行ってるんですか。」
ちょっと嫌みを一つ言ってみた。でも彼女は全く悪びれた様子もなく言う。
「クラブくらい行くわよ。まだ私二十六よ。教師だって遊びたいのよ。もちろん生徒には勧めないけどね。それにSyuが出てるときは、大抵行ってる。」
「ふーん。」
あまり興味なさそうに私は相づちを打った。興味がないので早くその場を去って欲しいと遠回しに言ったけれど、それは通じなかったみたいだ。
「でもSyuって恋人いるみたいだから、遠くで見ているだけでもいいんだけど。」
うーん。こう言うときに母さんの噂は役に立つなぁ。
「でもあの人、Syuではないにしても、あの人よく見るとイケメンね。桜さんの家の近所の人って言ってたかしら。」
「えぇ。」
「窓」のことはあえて言わなかった。こんな人が来られても困る。きっと今度は葵さんに「かっこいい」とか何とか言って私を敵視するはずだから。
「狙っちゃおうかしら。歳はいくつ?」
「さぁ。」
だんだんむかむかしてきた。なんか股が緩い人ってこういう人のことを言うのだろうかと思ってきたし。
「でも、あの人恋人いますよ。」
思わず言ってしまった。さすがに私の恋人ですとは言わなかったけど、これくらい言わないと会話を終わらせてくれそうにない。
「え?そうなの?」
「えぇ。」
「でも結婚してるわけじゃないんでしょ?まぁしてても関係ないけどね。」
「え?」
「奪っちゃおうかしら。結婚してるなら、恋人になればいいわけだし。」
「そんなものなんですか。」
「そんなものよ。ノートに名前が書いていればそれはその人のものだけど、人には名前が書けないの。だから奪ったもの勝ち。」
「恋人や奥さんに悪いと思わないんですか。」
「桜さんって堅いわね。内緒にする関係の方が燃え上がるのよ。」
話が通じない。英語の教師だけに、英語に関しては教師をしているんだからで切る人なんだろうけど、人間としては最低だ。
「それに男はね、穴があればいいのよ。だから風俗業が廃れないの。」
だめだ。もう話すの限界。人間的に無理だ。
「すいません。私クラスに戻らないと。」
「あぁ。そうだったわね。足を止めてごめんね。」
そういって私はその場を逃げるように去っていった。
これ以上この人と話していたら、どうにかなりそうだ。
クラスの片づけが終わり、ゴミをまとめた。飾り付けも、紙の皿も、すべて明日体育祭のあとに燃やされるのだ。
そして私は学校を出るとその足で「窓」へ向かった。「窓」はいつも通りの開店をしている。
「いらっしゃいませ。」
学校でしたことを、私はまたここでもするのだ。
そしてカウンターの奥では葵さんがいる。正直、今日飲んでもらったコーヒーの感想は聞きたくない。恐ろしすぎる。
着替えて店に出ると、カウンターに設置されているコンロで小さな鍋がくつくつと何かを煮ているようだった。
「これは?」
「あぁ。今日食べたリンゴのコンポートが美味しかったので、同じようなものができないかと思ったんです。手作りでしたよね。」
「えぇ。そういうのが得意な子と、八百屋の息子がいたので古いリンゴをいただいたんです。」
「そうでしたか。でもあれはヨーグルトなんかと添えてもいいと思いますよ。味、見てみますか。」
鍋の蓋を開けて、葵さんは小皿にその甘いリンゴを置いた。そして私に差し出す。
「すごい。これレシピ見なくて?」
「えぇ。シナモンが利いてる気がしましたけど。どうですか。」
「そのままですね。」
「良かった。」
こういう才能もあるんだ。すごいな。
十五時。文化祭は終わり、クラスの片づけを始めた。私は借りているエプロンとスカートズボン、ベストの数を数えて段ボールに積めていた。
これはクリーニングして返さないといけない。幸いにもクリーニング屋の娘がくらすにいるので格安でクリーニングしてくれる。ただし持って行かないといけないけどね。
「数は合ってる?」
化粧を落として制服に着替えた竹彦が聞いてきた。
「大丈夫みたい。そっちは?集計はどう?」
「結構売り上げているみたいだ。まだ正確な数字は出ていないけど。」
学年一位どころか学校で一位も考えられるかもしれないと皆張り切っていた。
「次は体育祭か。」
「そうね。」
「出れないの?」
「無理ではないわ。でも出てまた痛くなっても困るわね。」
「それもそうだね。」
荷物をまとめ終わると、私は向日葵のところへ行った。そしてメイク落としを借りる。
「落とさなくてもいいよ。これくらい普通じゃん。」
そうは言われたけれど、どうも気持ち悪い。普段は眉毛をかいているだけだもんな。タオルとメイク落としを借りた私は、教室外の水道まで行く。
そしてメイク落としで丁寧にメイクを落として、水道を出す。思ったよりも疲れてたのかもしれない。水道を止めて、私は少しため息をついた。
そして眉毛だけを書くと、またクラスに戻ろうとした。そのとき向こうから柴田先生が歩いてきているのが見える。やだな。なんか言われるかもしれない。
「桜さん。」
やっぱり言われた。
「どうしましたか。」
「Syuのことだけど。」
やっぱり。とぼけたふりをして聞き返した。
「え?」
しかし彼女はそれが聞こえなかったように、言葉を続ける。
「あの人、本当にSyuじゃないの?」
しつこい。まだ疑ってるのか。
「本人が違うと言ってますから、違うのでしょう。」
「でも似てるのよね。サングラスいつもかけてて、目元が見えないけど。」
「先生はいつもクラブ行ってるんですか。」
ちょっと嫌みを一つ言ってみた。でも彼女は全く悪びれた様子もなく言う。
「クラブくらい行くわよ。まだ私二十六よ。教師だって遊びたいのよ。もちろん生徒には勧めないけどね。それにSyuが出てるときは、大抵行ってる。」
「ふーん。」
あまり興味なさそうに私は相づちを打った。興味がないので早くその場を去って欲しいと遠回しに言ったけれど、それは通じなかったみたいだ。
「でもSyuって恋人いるみたいだから、遠くで見ているだけでもいいんだけど。」
うーん。こう言うときに母さんの噂は役に立つなぁ。
「でもあの人、Syuではないにしても、あの人よく見るとイケメンね。桜さんの家の近所の人って言ってたかしら。」
「えぇ。」
「窓」のことはあえて言わなかった。こんな人が来られても困る。きっと今度は葵さんに「かっこいい」とか何とか言って私を敵視するはずだから。
「狙っちゃおうかしら。歳はいくつ?」
「さぁ。」
だんだんむかむかしてきた。なんか股が緩い人ってこういう人のことを言うのだろうかと思ってきたし。
「でも、あの人恋人いますよ。」
思わず言ってしまった。さすがに私の恋人ですとは言わなかったけど、これくらい言わないと会話を終わらせてくれそうにない。
「え?そうなの?」
「えぇ。」
「でも結婚してるわけじゃないんでしょ?まぁしてても関係ないけどね。」
「え?」
「奪っちゃおうかしら。結婚してるなら、恋人になればいいわけだし。」
「そんなものなんですか。」
「そんなものよ。ノートに名前が書いていればそれはその人のものだけど、人には名前が書けないの。だから奪ったもの勝ち。」
「恋人や奥さんに悪いと思わないんですか。」
「桜さんって堅いわね。内緒にする関係の方が燃え上がるのよ。」
話が通じない。英語の教師だけに、英語に関しては教師をしているんだからで切る人なんだろうけど、人間としては最低だ。
「それに男はね、穴があればいいのよ。だから風俗業が廃れないの。」
だめだ。もう話すの限界。人間的に無理だ。
「すいません。私クラスに戻らないと。」
「あぁ。そうだったわね。足を止めてごめんね。」
そういって私はその場を逃げるように去っていった。
これ以上この人と話していたら、どうにかなりそうだ。
クラスの片づけが終わり、ゴミをまとめた。飾り付けも、紙の皿も、すべて明日体育祭のあとに燃やされるのだ。
そして私は学校を出るとその足で「窓」へ向かった。「窓」はいつも通りの開店をしている。
「いらっしゃいませ。」
学校でしたことを、私はまたここでもするのだ。
そしてカウンターの奥では葵さんがいる。正直、今日飲んでもらったコーヒーの感想は聞きたくない。恐ろしすぎる。
着替えて店に出ると、カウンターに設置されているコンロで小さな鍋がくつくつと何かを煮ているようだった。
「これは?」
「あぁ。今日食べたリンゴのコンポートが美味しかったので、同じようなものができないかと思ったんです。手作りでしたよね。」
「えぇ。そういうのが得意な子と、八百屋の息子がいたので古いリンゴをいただいたんです。」
「そうでしたか。でもあれはヨーグルトなんかと添えてもいいと思いますよ。味、見てみますか。」
鍋の蓋を開けて、葵さんは小皿にその甘いリンゴを置いた。そして私に差し出す。
「すごい。これレシピ見なくて?」
「えぇ。シナモンが利いてる気がしましたけど。どうですか。」
「そのままですね。」
「良かった。」
こういう才能もあるんだ。すごいな。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
性欲のない義父は、愛娘にだけ欲情する
如月あこ
恋愛
「新しい家族が増えるの」と母は言った。
八歳の有希は、母が再婚するものだと思い込んだ――けれど。
内縁の夫として一緒に暮らすことになった片瀬慎一郎は、母を二人目の「偽装結婚」の相手に選んだだけだった。
慎一郎を怒らせないように、母や兄弟は慎一郎にほとんど関わらない。有希だけが唯一、慎一郎の炊事や洗濯などの世話を妬き続けた。
そしてそれから十年以上が過ぎて、兄弟たちは就職を機に家を出て行ってしまった。
物語は、有希が二十歳の誕生日を迎えた日から始まる――。
有希は『いつ頃から、恋をしていたのだろう』と淡い恋心を胸に秘める。慎一郎は『有希は大人の女性になった。彼女はいずれ嫁いで、自分の傍からいなくなってしまうのだ』と知る。
二十五歳の歳の差、養父娘ラブストーリー。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる