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一年目
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次の日。私は竹彦にメッセージを送った。体育祭の種目についてだった。そしてよく晴れたいい天気の空の下。私は布団を干す。こんなことでもないと布団を干せないからなぁ。
柊さんからはまだ連絡はない。連絡をすると言いながらも、メッセージの一つ送っては来なかった。
「そんなモノなのかもしれないな。」
だけど不安はないことはない。あのお客さんの言葉がまだぐるぐると回っているから。
「Syuは女がつきないから。」
言い寄られる人も多いだろうし、その中には私よりも女らしい人もいるし、大人の人もいるんだろう。誘われればついて行くのは当たり前だ。
だけど彼はそんなことをしていない。そう信じたい。
だったら何で連絡はないの?
そんな自分が頭の中をぐるぐると回っている。そのときだった。
ぽーん。
驚いた。メッセージが来たらしい。私は携帯電話を手にして、それをみる。相手は柊さんではなく、竹彦だった。
”騎馬戦でお願い。”
短いメッセージだった。私は了解とだけ打って、体調は回復したのかと聞いてみた。するとすぐにメッセージは返信された。
”熱が出た。”
熱?大丈夫なの?月曜日も一人じゃ対応しきれないなぁ。
私は布団をそのままに、部屋を出た。すると起き抜けの母親が煙草を吹かしながら、携帯電話をいじっていた。
「おはよ。」
「もう昼近いよ。」
「あんた、どっか行くの?」
「ん、ちょっとそこまで。」
「だったら帰りに牛乳買ってきて。」
「いいけど飲まないよ。」
「シチューにしたいのよ。今日は。」
私はそういわれながら、部屋を出た。いい天気だ。空がもう高いような気がする。
途中でコンビニによって、プリンとスポーツドリンクを買った。そしていつもは行かない葬儀屋の道へ向かった。看板が立っているところを見ると、誰か死んだらしい。
歩いて五分ほどで葬儀屋と自宅が隣接した家の前に立った。多分そこが竹彦の家なんだろう。何か喪服だらけの人たちばかりで、クリーム色のスカートをはいている自分がとても浮いて見える。
「ん?」
そこから出てきたのは、一人の女性だった。弁当のからをまとめたゴミ袋を大量に持っている。
「あ、すいません。大野さんのお宅ですよね。」
「竹彦の友達?」
幸薄そうな雰囲気の人だ。まるで風で倒れてしまいそう。
「あ、クラスメイトです。昨日体調悪そうだったんで。」
「そうなのよ。熱中症になったとかで、それからちょっと熱が出てしまってね。なのに昨日からお通夜が入ってしまって。」
大変だな。こういう自宅の仕事も。
「よかったら隣が家なの。様子見てもらえないかしら。」
「私でいいんですか。」
「えぇ。どうぞ。二階の一番奥の部屋だから。」
そういって彼女は家の鍵を開けた。私はその中に入ると、その家の匂いに包まれた。何というか、生活感のあるようなそんな匂いだった。夕べはカレーだったのかもしれない。
すぐそばの階段を上がり、一番奥の部屋の扉をノックする。すると竹彦の声の高いがした。
「どうぞ。」
扉を開けると、カーテンを閉めていて薄暗い部屋が目に飛び込んできた。あまり広い部屋ではないようだ。正面にベッドがあり、勉強机とかが所狭しとおいてある。
「桜さん?」
「そう。大丈夫?様子を見に来たわ。」
彼は横になっていたけど、起きあがろうとしたのでそれを止めた。
「熱、下がんなくて。」
「何か食べた?」
「あまり食べたくない。」
「少しでも食べないと駄目よ。プリン。食べる?」
コンビニの袋を開けて、そのプリンを取り出した。
「ありがとう。」
体を起こして、蓋を開けた。
「お通夜が入ってたのね。」
「うん。今日、葬儀。今真っ最中だと思うけど。」
彼はそういってそのプリンにプラスチックのスプーンを突き刺した。
「大変ね。息子に熱があるのに、何も出来ないなんて。」
「昔からだから。僕は、結構熱出やすくてね。」
「そう。」
「母親にしてみたらいつものことかって思われているかもしれないな。」
「……それはそれで寂しいわね。」
「そうでもないよ。もう慣れたし。」
改めて部屋を見渡すと、棚には参考書と一緒に並んでいる本に目が止まった。それはヨーロッパの方にいたシリアルキラーの自伝だった。
どこか彼は冷めたところがあると思っていた。それはきっとこういうモノに興味があるからなんだろう。
「部屋に誰か来るのは、小学生以来かな。」
「それは随分ぶりなのね。」
「んー。母親すら来るの嫌だからね。」
「お姉さんがいるっていってたわね。」
「妹もいるよ。」
「女性ばかりなのね。」
自分が女性になることに興味があるのは、そういうところからかもしれない。口紅やファンデーションの匂いに囲まれている彼は、自分も付けてみたいと思ったのかもしれないな。
「……今日、柊さんは?」
「連絡がないのよ。寝てるのかしらね。」
「大変そうな仕事だ。そういう時間もいるのかもね。」
「そうね。私たちのペースにあわせていたらいけないのよ。」
すると彼はプリンのからを持ったまま、私の方を向く。
「言い聞かせているみたいだね。」
「え?」
「やっぱり、柊さんにずっと合わせてるの辛くない?」
「そんなこと考えたこともないわ。」
合わせてる?そう見えるのかな。
「ずっとつき合っていくの?」
「そうね。ずっと一緒にいられればいいけど。」
「現実的な話、無理じゃない?」
「どうして?」
「だって十三個か十四個年上でしょ?僕らが二十の時三十三か四ってことでしょ?前科もあるって聞いたし。」
「そんなこと関係ないわ。」
「あるよ。どうやって食べていくの?」
黙ってしまった。確かにそうかもしれない。派遣で学校にいるって聞いたし、だったらいつ切られてもおかしくないんだ。
私は黙ってしまうと、彼が手を伸ばしてきた。
「僕じゃ代わりにならない?」
「ならない。」
その手を振り払い、私は立ち上がった。
「そんなつもりで来たんじゃないの。帰るわ。お大事にね。」
「桜さん。」
ベッドから立ち上がると、少しよろけた。
「大丈夫?」
それを支えるように私は手を伸ばした。すると彼はその手に捕まる。その手がとても熱くて驚いた。
「熱、あがった?早く寝て。」
「桜さん。」
名前を呼ぶ。ふと見上げると彼の顔が近い。
「ちょ……。」
吐息が唇にかかってきた。そして彼は私の唇に唇を重ねてきた。
「や……。」
思わず突き飛ばした。そして部屋を取びだした。一瞬だったけど、嫌だった。
柊さん。ごめんなさい。また私は……。
家を出たところで、携帯電話が鳴る。相手は柊さんだった。それを手にして出ようとしたとき、母親が隣から出てきた。
「お邪魔しました。」
私はそれだけを言うと、逃げるようにそこをあとにした。そして柊さんの電話に出る。
柊さんからはまだ連絡はない。連絡をすると言いながらも、メッセージの一つ送っては来なかった。
「そんなモノなのかもしれないな。」
だけど不安はないことはない。あのお客さんの言葉がまだぐるぐると回っているから。
「Syuは女がつきないから。」
言い寄られる人も多いだろうし、その中には私よりも女らしい人もいるし、大人の人もいるんだろう。誘われればついて行くのは当たり前だ。
だけど彼はそんなことをしていない。そう信じたい。
だったら何で連絡はないの?
そんな自分が頭の中をぐるぐると回っている。そのときだった。
ぽーん。
驚いた。メッセージが来たらしい。私は携帯電話を手にして、それをみる。相手は柊さんではなく、竹彦だった。
”騎馬戦でお願い。”
短いメッセージだった。私は了解とだけ打って、体調は回復したのかと聞いてみた。するとすぐにメッセージは返信された。
”熱が出た。”
熱?大丈夫なの?月曜日も一人じゃ対応しきれないなぁ。
私は布団をそのままに、部屋を出た。すると起き抜けの母親が煙草を吹かしながら、携帯電話をいじっていた。
「おはよ。」
「もう昼近いよ。」
「あんた、どっか行くの?」
「ん、ちょっとそこまで。」
「だったら帰りに牛乳買ってきて。」
「いいけど飲まないよ。」
「シチューにしたいのよ。今日は。」
私はそういわれながら、部屋を出た。いい天気だ。空がもう高いような気がする。
途中でコンビニによって、プリンとスポーツドリンクを買った。そしていつもは行かない葬儀屋の道へ向かった。看板が立っているところを見ると、誰か死んだらしい。
歩いて五分ほどで葬儀屋と自宅が隣接した家の前に立った。多分そこが竹彦の家なんだろう。何か喪服だらけの人たちばかりで、クリーム色のスカートをはいている自分がとても浮いて見える。
「ん?」
そこから出てきたのは、一人の女性だった。弁当のからをまとめたゴミ袋を大量に持っている。
「あ、すいません。大野さんのお宅ですよね。」
「竹彦の友達?」
幸薄そうな雰囲気の人だ。まるで風で倒れてしまいそう。
「あ、クラスメイトです。昨日体調悪そうだったんで。」
「そうなのよ。熱中症になったとかで、それからちょっと熱が出てしまってね。なのに昨日からお通夜が入ってしまって。」
大変だな。こういう自宅の仕事も。
「よかったら隣が家なの。様子見てもらえないかしら。」
「私でいいんですか。」
「えぇ。どうぞ。二階の一番奥の部屋だから。」
そういって彼女は家の鍵を開けた。私はその中に入ると、その家の匂いに包まれた。何というか、生活感のあるようなそんな匂いだった。夕べはカレーだったのかもしれない。
すぐそばの階段を上がり、一番奥の部屋の扉をノックする。すると竹彦の声の高いがした。
「どうぞ。」
扉を開けると、カーテンを閉めていて薄暗い部屋が目に飛び込んできた。あまり広い部屋ではないようだ。正面にベッドがあり、勉強机とかが所狭しとおいてある。
「桜さん?」
「そう。大丈夫?様子を見に来たわ。」
彼は横になっていたけど、起きあがろうとしたのでそれを止めた。
「熱、下がんなくて。」
「何か食べた?」
「あまり食べたくない。」
「少しでも食べないと駄目よ。プリン。食べる?」
コンビニの袋を開けて、そのプリンを取り出した。
「ありがとう。」
体を起こして、蓋を開けた。
「お通夜が入ってたのね。」
「うん。今日、葬儀。今真っ最中だと思うけど。」
彼はそういってそのプリンにプラスチックのスプーンを突き刺した。
「大変ね。息子に熱があるのに、何も出来ないなんて。」
「昔からだから。僕は、結構熱出やすくてね。」
「そう。」
「母親にしてみたらいつものことかって思われているかもしれないな。」
「……それはそれで寂しいわね。」
「そうでもないよ。もう慣れたし。」
改めて部屋を見渡すと、棚には参考書と一緒に並んでいる本に目が止まった。それはヨーロッパの方にいたシリアルキラーの自伝だった。
どこか彼は冷めたところがあると思っていた。それはきっとこういうモノに興味があるからなんだろう。
「部屋に誰か来るのは、小学生以来かな。」
「それは随分ぶりなのね。」
「んー。母親すら来るの嫌だからね。」
「お姉さんがいるっていってたわね。」
「妹もいるよ。」
「女性ばかりなのね。」
自分が女性になることに興味があるのは、そういうところからかもしれない。口紅やファンデーションの匂いに囲まれている彼は、自分も付けてみたいと思ったのかもしれないな。
「……今日、柊さんは?」
「連絡がないのよ。寝てるのかしらね。」
「大変そうな仕事だ。そういう時間もいるのかもね。」
「そうね。私たちのペースにあわせていたらいけないのよ。」
すると彼はプリンのからを持ったまま、私の方を向く。
「言い聞かせているみたいだね。」
「え?」
「やっぱり、柊さんにずっと合わせてるの辛くない?」
「そんなこと考えたこともないわ。」
合わせてる?そう見えるのかな。
「ずっとつき合っていくの?」
「そうね。ずっと一緒にいられればいいけど。」
「現実的な話、無理じゃない?」
「どうして?」
「だって十三個か十四個年上でしょ?僕らが二十の時三十三か四ってことでしょ?前科もあるって聞いたし。」
「そんなこと関係ないわ。」
「あるよ。どうやって食べていくの?」
黙ってしまった。確かにそうかもしれない。派遣で学校にいるって聞いたし、だったらいつ切られてもおかしくないんだ。
私は黙ってしまうと、彼が手を伸ばしてきた。
「僕じゃ代わりにならない?」
「ならない。」
その手を振り払い、私は立ち上がった。
「そんなつもりで来たんじゃないの。帰るわ。お大事にね。」
「桜さん。」
ベッドから立ち上がると、少しよろけた。
「大丈夫?」
それを支えるように私は手を伸ばした。すると彼はその手に捕まる。その手がとても熱くて驚いた。
「熱、あがった?早く寝て。」
「桜さん。」
名前を呼ぶ。ふと見上げると彼の顔が近い。
「ちょ……。」
吐息が唇にかかってきた。そして彼は私の唇に唇を重ねてきた。
「や……。」
思わず突き飛ばした。そして部屋を取びだした。一瞬だったけど、嫌だった。
柊さん。ごめんなさい。また私は……。
家を出たところで、携帯電話が鳴る。相手は柊さんだった。それを手にして出ようとしたとき、母親が隣から出てきた。
「お邪魔しました。」
私はそれだけを言うと、逃げるようにそこをあとにした。そして柊さんの電話に出る。
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