夜の声

神崎

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一年目

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 数日で支社長は退院をしたらしい。私にも連絡があった。どうやら支社長は「躁鬱」気味で、自傷行為を繰り返していたらしい。古くからいる聡子さんなんかはそれを知っていて、そんなに気にしないでいいといってくれた。
 それを知ったのは学校が始まってからのことだった。
 久しぶりにあう向日葵は、相変わらず元気なように見える。
「おはよー。あー。桜なんか少し焼けたねぇ。」
「んー。そうかな。日焼け止め塗ってたんだけど。」
「なんだー。遊び行ったんだね。バイトばっかしてるって聞いてたけど。」
「一日だけね。」
「へぇ。どこ行ったの?」
 他愛もない会話をしていると、急にクラスの中がざわついた。
「何?」
 教室の中に入ってきたのは竹彦だった。ただその姿はいつもとは違う。
 耳まで覆うような長い髪だったのに、今は短い。さすがに刈り上げまではしていないけれど、耳はもう全開だった。おかげでピアスの穴が丸見えだ。それに眼鏡も外しているから、元々顔立ちがいいのがもうばればれ。
 いや。それより何より、クラスの女子の視線が凄い。
「あれ竹彦?」
「凄い。髪型一つでこんなに変わるんだぁ。」
 前はくらーいイメージがあったけれど、とても男らしくなった気がした。
「……写メ撮ってこよっ。」
 そう言って向日葵は席を立った。
「向日葵。」
「何?」
 それはあまりにも失礼じゃないかなぁ。そう言って止めたかったけど、他の女子がその竹彦に携帯を向けようとした。

 パン……。

 すると彼は立ち上がり、その女子の手を払いのけた。
「何?竹彦。」
「断りもなく撮らないで。失礼だ。」
 なんか……雰囲気変わった?私は驚いてそちらを見ているしかなかった。

「なにあれー。夏、何かあったの?」
「態度でも悪くなったよね。あのピアスの穴の数見た?」
「ヤンキーだったの?」
「大人しいと思ってたのに。」
 一気に女子の敵になったなぁ。まぁ。そっちの方が竹彦にとってやりやすいのかもしれないけど。でも逆にそんな竹彦に近づいてきたのは、男子達だった。
「すげぇな。お前のその耳。耳だけ?」
「いいや。口と眉。」
「へぇ。痛くねぇの?」
 それはそれで良かったのかもしれない。私はそんな彼を横目で見ながら、外を見る。体育のためにプールへ向かう女子達。そしてその向こうには、作業着を着た柊さんがいる。うん。いつも通りだ。
「そう言えばさ、祭りの時、あたし桜見たんだよね。」
 向日葵がそう言ってきた。ぐっ。それ出すか?
「あぁ。知り合いに屋台の手伝い頼まれてさ。」
「でも似合ってた。あの格好。」
「どんな格好してたの?」
「んー。パンクロッカー?」
 その答えに周りの友達が騒ぐ。
「足綺麗だしさ、もっと出したらいいのに。」
「洋服ってよくわかんない。」
「買い物行こうよ。あたし選んだけるから。」
「今度ね。」
 いつ来るかわからない今度だよなぁ。
「でもあの桜の隣にいた人も綺麗だったよね。友達?」
 ぶっ。
 思わずリンゴジュースを吹きそうになった。そしてちらりと竹彦を見た。彼は近づいてきている男子と、何か話していてこちらの話には気がついていないようだ。
「うん。まぁ、同じように手伝いを頼まれた人だから。」
「どんな人?」
「ミニスカのパンクロッカー。ショートカットでさぁ。あ、写メある。」
 そう言って友達は携帯電話を取り出し、その画像を見せた。
「凄い。化粧濃いけど綺麗な人ね。あ、桜も綺麗よ。」
「ありがと。」
 はらはらする。ばれないかって。
「ピアス凄いね。この人。何個付いてんのかなぁ。」
「さぁ。あの日だけのおつきあいだったし知らないわ。」

 夏休みが終わって、試験が終わればすぐに文化祭や体育祭の話が出てくる。この学校はそれを三日間ですべて済ませるので、その準備が大変だった。
 文化祭実行委員が二人。体育祭実行委員が二人。男女のペアになるのだ。それがどれだけ面倒かはわかっているので、その実行委員の話になるとみんな目を逸らせる。
 私もなぁ……。バイトあるしあまり時間はとれないんだよなぁ。去年は事情を話して、葵さんに無理をさせてしまったし。今年はどうなるだろう。
「誰かいませんか。」
 一学期はクラス委員をしたけれど、今期は違う人に変わった。黒板の前に男子と女子が実行委員の選出を促している。その横には担任が座っているけど、「誰でもいいからやれよ」というのが凄く目に見えているようだった。
「このままこうしてても誰もしないから、とりあえず男子と女子で話し合って下さい。」
 珍しく担任が提案した。そこでクラスの端と端に分かれて、男子同士、女子同士で話し合った。
「桜はどうなの?去年してたじゃん。」
「だいぶバイト先に迷惑かけたんだよね。どうしようかな。」
 向日葵から言われたけれどどうしようかな。
「経験がある人がやった方がいいかもしれないわね。桜、どうしても出来ない?どうしてもって時はカバーするからさ。」
 ため息を付いて、周りをみる。あぁ。もうなんかお前やれよみたいな雰囲気になっているなぁ。
「とりあえず、バイト先に連絡してみる。それからかな。」
「お願い。」
 自分の机へ行き携帯電話を取り出していると、廊下に柊さんの姿があった。「めんどくさそうなことをまた引き受けて。」という視線を感じる。うぅ。確かに面倒だよ。
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