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一年目
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「年齢差のある恋はダメになる」という言葉が、頭から抜けることはなく、私は午後の仕事にはいった。それでもしっかりしないといけない。ミスは許されないのだ。特に今は発注の量も多いし、出荷の数も多い。きちんと数を数えなきゃいけないのだから。
「桜ちゃん。」
今日は特別暑いのか、Tシャツを脱いでタンクトップ一枚と半パンになっている明さんが、私に声をかけてきた。
「はい。」
「俺、ちょっと外出て、頭冷やしてくるから。」
「はい。」
「熱中症になりそうだ。桜ちゃんも時間を見て外出ていいから。それから水分もよくとってね。」
一応換気はしてあるけれど、冷房とか付いていない倉庫内は蒸し風呂だ。支社長が気を利かせて二リットル入りのスポーツドリンクを一人一本ずつ置いてくれてはいるが、飲んだとたんに汗になる。
着てきたTシャツもびっしょりで、最近は着替えも一緒に持ってこなければ、そのまま「窓」なんか行けない。
「桜さん。」
来たよ。強者が。
脚立に乗って、品物を取っている私の足下にはスーツの上着まで着込んだ蓮さんがいた。事務所は空調が利いているとはいえ、その格好はさすがにないだろう。
「はい。」
彼は手を伸ばして、紙を私に差しだそうとしていた。
「こっちを先に用意してくれませんか。急遽欲しいそうです。」
えー?何でそんな我が儘。
「わかりました。こっちを仕上げたら、そちらに移ります。注文書は、置いてて貰って大丈夫です。」
そう言って私は目の前の品物を二つ手に取ると、脚立を降りていこうとした。大きめの品物は足下が見づらい。だからかもしれない。
足を滑らせてた。
「危ない!」
どん!
思わず目をつぶる。背中に柔らかいモノが伝わってきた。目を開けると、天井が見える。
「大丈夫ですか。」
はっと体を起こした。そして後ろを振り向く。
「すいません。」
目の前に蓮さんがいた。彼も私を支えようとして、こけてしまったらしい。
「怪我はないですか。」
「大丈夫です。こけたのなんて、子供の時以来ですけど。」
彼はその体勢のままそのままじっと私を見ていた。何だろう。この体勢。明さんが帰ってきたら、「桜さんが蓮さんを襲っている!」って騒ぐ体勢じゃない!まずい。
私はあわててその場から離れようとした。しかし、彼が私の二の腕をつかんだ。
「あの……。」
すると彼は我に返ったように、その腕を放した。そして私たちは立ち上がる。
「水分を取ってください。また立ちくらみを起こしますよ。」
立ちくらみ……。そうか。立ちくらみをしたんだ。
「すいません。」
「そうですね。すいませんじゃなくて、ありがとうといって欲しかったです。」
そうだ。柊さんからも言われたんだ。「謝るところをたまに間違える」と。
「そうでしたね。ありがとうございました。」
「どういたしまして。それに、よく倒れてもその商品を握ってましたね。それだけは誉めますよ。」
そうか。私、商品だけはずっと持ってたんだ。
「それから、白いシャツはこれから着ない方がいいです。」
「え?」
着ているシャツをふと見る。はっ。汗で下着が透けてる。
「やっ!見ないでくださいよ。」
「見ませんよ。でも見えますからね。でもその辺はあまり女性らしくない……。失礼。」
頬を膨らませたのを見て、さすがに悪かったと思ったのかもしれない。
「……まぁ、好き好きですから。私は嫌いではないですがね。」
「は?」
「兄とは好みが似てるんですよ。特にあなたみたいなタイプは虐めたくなります。」
「そんな趣味はありません。」
モノをコンテナに入れて、持ってきて貰った注文書を見る。
「じゃあ、あとお願いします。」
そう言って蓮さんは倉庫を出ていった。私はふっとため息を付いて、注文書の横にあるペットボトルを手にして口に水分を含ませる。
何だったの。あれ。
絞れそうなほど汗をかいたシャツから、新しいシャツに袖を通した。まぁ、「窓」へ行けばまた着替えるんだけど。
ついでに髪も結び直した。そして鞄を手にすると、休憩中の人たちを後目に会社をでていく。
「お先に失礼します。」
外にでると、日差しが眩しい。でも倉庫よりはましかな。体感気温は外の方が涼しく感じるなんて、なんかおかしい。
ふと向かいの道路に目を留めた。するとそこには柊さんの姿があった。黒いシャツと色あせたジーパン。そして結んだ髪。もう仕事終わったのかな。
「ひ……。」
声をかけようとしたけれど、それをためらってしまった。彼の表情がいつになく険しかったから。彼の向かいにいるのはスーツの男。痩せ形の黒いスーツ。オールバックにしていて、少し強面だった。顔立ちは整っているけど、柊さんよりは一回り年上のように見える。
誰なんだろう。柊さんはしきりに首を横に振り、話しかけている男を拒否しているように見えた。だが男はしつこいように柊さんに何か話しかけている。
「桜さん。」
ぼんやりしていたら、声をかけられた。私はふとそちらを見る。そこには蓮さんの姿があった。
「良かった。間に合って。」
「どうしました?」
「「窓」に届けるのを忘れていたモノがあったので、これをついでに持って行ってもらえませんか。」
「わかりました。」
私はそのビニール袋を蓮さんから受け取り、その場をあとにした。
「桜ちゃん。」
今日は特別暑いのか、Tシャツを脱いでタンクトップ一枚と半パンになっている明さんが、私に声をかけてきた。
「はい。」
「俺、ちょっと外出て、頭冷やしてくるから。」
「はい。」
「熱中症になりそうだ。桜ちゃんも時間を見て外出ていいから。それから水分もよくとってね。」
一応換気はしてあるけれど、冷房とか付いていない倉庫内は蒸し風呂だ。支社長が気を利かせて二リットル入りのスポーツドリンクを一人一本ずつ置いてくれてはいるが、飲んだとたんに汗になる。
着てきたTシャツもびっしょりで、最近は着替えも一緒に持ってこなければ、そのまま「窓」なんか行けない。
「桜さん。」
来たよ。強者が。
脚立に乗って、品物を取っている私の足下にはスーツの上着まで着込んだ蓮さんがいた。事務所は空調が利いているとはいえ、その格好はさすがにないだろう。
「はい。」
彼は手を伸ばして、紙を私に差しだそうとしていた。
「こっちを先に用意してくれませんか。急遽欲しいそうです。」
えー?何でそんな我が儘。
「わかりました。こっちを仕上げたら、そちらに移ります。注文書は、置いてて貰って大丈夫です。」
そう言って私は目の前の品物を二つ手に取ると、脚立を降りていこうとした。大きめの品物は足下が見づらい。だからかもしれない。
足を滑らせてた。
「危ない!」
どん!
思わず目をつぶる。背中に柔らかいモノが伝わってきた。目を開けると、天井が見える。
「大丈夫ですか。」
はっと体を起こした。そして後ろを振り向く。
「すいません。」
目の前に蓮さんがいた。彼も私を支えようとして、こけてしまったらしい。
「怪我はないですか。」
「大丈夫です。こけたのなんて、子供の時以来ですけど。」
彼はその体勢のままそのままじっと私を見ていた。何だろう。この体勢。明さんが帰ってきたら、「桜さんが蓮さんを襲っている!」って騒ぐ体勢じゃない!まずい。
私はあわててその場から離れようとした。しかし、彼が私の二の腕をつかんだ。
「あの……。」
すると彼は我に返ったように、その腕を放した。そして私たちは立ち上がる。
「水分を取ってください。また立ちくらみを起こしますよ。」
立ちくらみ……。そうか。立ちくらみをしたんだ。
「すいません。」
「そうですね。すいませんじゃなくて、ありがとうといって欲しかったです。」
そうだ。柊さんからも言われたんだ。「謝るところをたまに間違える」と。
「そうでしたね。ありがとうございました。」
「どういたしまして。それに、よく倒れてもその商品を握ってましたね。それだけは誉めますよ。」
そうか。私、商品だけはずっと持ってたんだ。
「それから、白いシャツはこれから着ない方がいいです。」
「え?」
着ているシャツをふと見る。はっ。汗で下着が透けてる。
「やっ!見ないでくださいよ。」
「見ませんよ。でも見えますからね。でもその辺はあまり女性らしくない……。失礼。」
頬を膨らませたのを見て、さすがに悪かったと思ったのかもしれない。
「……まぁ、好き好きですから。私は嫌いではないですがね。」
「は?」
「兄とは好みが似てるんですよ。特にあなたみたいなタイプは虐めたくなります。」
「そんな趣味はありません。」
モノをコンテナに入れて、持ってきて貰った注文書を見る。
「じゃあ、あとお願いします。」
そう言って蓮さんは倉庫を出ていった。私はふっとため息を付いて、注文書の横にあるペットボトルを手にして口に水分を含ませる。
何だったの。あれ。
絞れそうなほど汗をかいたシャツから、新しいシャツに袖を通した。まぁ、「窓」へ行けばまた着替えるんだけど。
ついでに髪も結び直した。そして鞄を手にすると、休憩中の人たちを後目に会社をでていく。
「お先に失礼します。」
外にでると、日差しが眩しい。でも倉庫よりはましかな。体感気温は外の方が涼しく感じるなんて、なんかおかしい。
ふと向かいの道路に目を留めた。するとそこには柊さんの姿があった。黒いシャツと色あせたジーパン。そして結んだ髪。もう仕事終わったのかな。
「ひ……。」
声をかけようとしたけれど、それをためらってしまった。彼の表情がいつになく険しかったから。彼の向かいにいるのはスーツの男。痩せ形の黒いスーツ。オールバックにしていて、少し強面だった。顔立ちは整っているけど、柊さんよりは一回り年上のように見える。
誰なんだろう。柊さんはしきりに首を横に振り、話しかけている男を拒否しているように見えた。だが男はしつこいように柊さんに何か話しかけている。
「桜さん。」
ぼんやりしていたら、声をかけられた。私はふとそちらを見る。そこには蓮さんの姿があった。
「良かった。間に合って。」
「どうしました?」
「「窓」に届けるのを忘れていたモノがあったので、これをついでに持って行ってもらえませんか。」
「わかりました。」
私はそのビニール袋を蓮さんから受け取り、その場をあとにした。
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