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一年目
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土曜日の今日は、明日は仕事が休みになる。だから今日の配送は多かったのだと聡子さんはフォローしてくれたが、内心は穏やかじゃない。
ミスばっかりするし、手は遅いし、何の役に立ったんだろうって思ってしまう。しかも早く帰るし。仕事終わってないのに。
帰ってきていた支社長は笑いながら「そんなもんよ」と言ってくれたが、申し訳無い気がする。
「どうしたらいいかしら。」
せめて商品の名前でも覚えようと、パンフレットを貰ったがそれも相当厚い。これ全部あるのかと思ったけど、あるのは一部だからと言ってくれた。
ずたぼろになりながら、「窓」のドアを開ける。
「いらっしゃい。」
「すいません。遅くなってしまって。」
「連絡をもらえたから大丈夫ですよ。初日のバイトどうでしたか?」
「「すいません」しか言ってない気がします。」
「そんなものですよ。あなたがここで働き始めた時もそうだったじゃないですか。さぁ、着替えてきてください。ちょっと買い出しに行きたいので。」
そういって葵さんは冷蔵庫の中をメモし始めた。
「あ、すいません。葵さん。これを預かってました。」
私はそういってバックから、蓮さんから預かった豆の袋を取り出した。
「コーヒー豆?どうしました?これ。」
「昼の仕事の会社の上司が、葵さんに渡して欲しいと。」
「……ずいぶん粒がそろっている豆ですね。誰からでしょうか。」
「……その……。」
名前を言っていいのだろうか。私は少し戸惑っていたが、蓮さんからは渡せばわかると言われていたことを思い出した。
「渡せばわかると。」
「わからないですね。でもまぁ、しそうな人に心当たりはあります。」
彼はそういってその豆をゴミ箱に捨てた。
「あっ!」
「いりません。そう言っておいてください。」
笑顔のままその袋をゴミ箱に捨てた。その目の奥は、本当に怖かった。
憎しみが目に宿る。そんな言葉がぴったりだと思った。
土曜日の夜は喫茶店も忙しい。私は二十一時少しすぎた頃に、クタクタになりながらアパートに戻っていった。
食欲無い。とりあえず眠りたいなぁ。
その前にお風呂だけは入っておかないと、体がべたべたする。今日は、本当に椿さんの声が子守歌になりそうだ。
お風呂に入り、キッチンへとりあえず行ってみる。カレーとサラダがあった。食べれないなぁ。今日は。ご飯をラップにくるみ、カレーは冷蔵庫に入れた。そして部屋に戻るとヘッドフォンを付けると、ラジオをつけてそのままベッドにダイブした。
はーっ。気持ちいい。このままベッドに吸い込まれそうだ。
目を覚ますと、男の人が隣で眠っている。
一瞬誰がいるのかわからなかった。でもすぐに我に返る。
「柊さん?」
何でここに?彼は私を抱きしめているまま眠っているようだった。だけど、私の声ですっと目を開ける。
「おはよう。」
「どうしてここに?」
「メッセージ送ったけど、返ってこなかったから朝来てみた。そしたら母さんから入っていいって言われたから。」
何考えてんだよ。母さん。
「よっぽど疲れてたのか。」
「……ごめんなさい。メッセージ気がつかなかったんです。」
「初日だから仕方ないだろう。でも続くようだったら、どっちかに絞った方がいい。」
「どっちか?」
「「窓」か。そのバイト先か。二つは無理と言うことだろうし。」
「そんな中途半端なこと出来ないですから。」
「まぁ。お前ならそう言うと思った。妙なところで責任感が強いからな。」
彼はそう言って私の体をぎゅっと抱きしめた。
「でも飯くらいは食べとかないといけない。せっかく用意してくれていたんだろう。」
「そうですね……。」
「謝っておけよ。お前は謝るところをたまに間違えるから。」
そう言って彼は私の額にキスをした。
私が起きて、柊さんは用事があるからと帰ってしまった。そして家の用事をしていると、母が起きてきた。彼女もあまり寝ていないだろうに。
「おはよう。」
「もう昼ね。おはようもないわね。」
そう言って彼女は煙草に火をつけた。私はキッチンでコーヒーを入れて、彼女の前に置いた。
「どうしたの。珍しいわね。」
「うん。夕べ、ご飯食べれなかったから。」
「いいのよ。別に。食べれないだろうって、紅葉さんもいってたから。」
「紅葉さん?」
「あぁ。支社長のことよ。それよりも、起きてびっくりしたでしょ?」
「何であげるかなぁ。娘の部屋に。」
「目を開けて恋人が目の前にいるなんて、いいシチュエーションよね。ねぇ。柊さんって、すごく強そうよね。」
「何が?」
「ナニが。」
下世話すぎる。たまにこの人本当にバカなんじゃないかって思っちゃう。
「すぐ帰ったわよ。」
すると彼女は呆れたようにコーヒーを飲んだ。
「本当、体は大きいのに心はちいっちゃい人ね。でもだから信用できるのよね。ん、コーヒー美味しいわ。どこの豆?」
「夕べの豆だけど、一日経ったらまた味が変わっちゃうからって、貰ってきたのよ。」
「そんなに変な味じゃないけど。葵がこだわるんでしょ?全く、変な人ね。そこまでこだわってもわからないのに。」
豆といえば、昨日蓮さんに貰った豆をそのまま捨ててしまった葵さん。でもどうしてだろう。蓮さんからだとも何とも言ってなかったのに。
想像は付くって、蓮さんのことだろうか。それともその向こうの誰かなのだろうか。
コーヒー豆って、この国では作るの難しいと思うけど他の国のモノかなぁ。
疑問が浮かんでは消える。
ミスばっかりするし、手は遅いし、何の役に立ったんだろうって思ってしまう。しかも早く帰るし。仕事終わってないのに。
帰ってきていた支社長は笑いながら「そんなもんよ」と言ってくれたが、申し訳無い気がする。
「どうしたらいいかしら。」
せめて商品の名前でも覚えようと、パンフレットを貰ったがそれも相当厚い。これ全部あるのかと思ったけど、あるのは一部だからと言ってくれた。
ずたぼろになりながら、「窓」のドアを開ける。
「いらっしゃい。」
「すいません。遅くなってしまって。」
「連絡をもらえたから大丈夫ですよ。初日のバイトどうでしたか?」
「「すいません」しか言ってない気がします。」
「そんなものですよ。あなたがここで働き始めた時もそうだったじゃないですか。さぁ、着替えてきてください。ちょっと買い出しに行きたいので。」
そういって葵さんは冷蔵庫の中をメモし始めた。
「あ、すいません。葵さん。これを預かってました。」
私はそういってバックから、蓮さんから預かった豆の袋を取り出した。
「コーヒー豆?どうしました?これ。」
「昼の仕事の会社の上司が、葵さんに渡して欲しいと。」
「……ずいぶん粒がそろっている豆ですね。誰からでしょうか。」
「……その……。」
名前を言っていいのだろうか。私は少し戸惑っていたが、蓮さんからは渡せばわかると言われていたことを思い出した。
「渡せばわかると。」
「わからないですね。でもまぁ、しそうな人に心当たりはあります。」
彼はそういってその豆をゴミ箱に捨てた。
「あっ!」
「いりません。そう言っておいてください。」
笑顔のままその袋をゴミ箱に捨てた。その目の奥は、本当に怖かった。
憎しみが目に宿る。そんな言葉がぴったりだと思った。
土曜日の夜は喫茶店も忙しい。私は二十一時少しすぎた頃に、クタクタになりながらアパートに戻っていった。
食欲無い。とりあえず眠りたいなぁ。
その前にお風呂だけは入っておかないと、体がべたべたする。今日は、本当に椿さんの声が子守歌になりそうだ。
お風呂に入り、キッチンへとりあえず行ってみる。カレーとサラダがあった。食べれないなぁ。今日は。ご飯をラップにくるみ、カレーは冷蔵庫に入れた。そして部屋に戻るとヘッドフォンを付けると、ラジオをつけてそのままベッドにダイブした。
はーっ。気持ちいい。このままベッドに吸い込まれそうだ。
目を覚ますと、男の人が隣で眠っている。
一瞬誰がいるのかわからなかった。でもすぐに我に返る。
「柊さん?」
何でここに?彼は私を抱きしめているまま眠っているようだった。だけど、私の声ですっと目を開ける。
「おはよう。」
「どうしてここに?」
「メッセージ送ったけど、返ってこなかったから朝来てみた。そしたら母さんから入っていいって言われたから。」
何考えてんだよ。母さん。
「よっぽど疲れてたのか。」
「……ごめんなさい。メッセージ気がつかなかったんです。」
「初日だから仕方ないだろう。でも続くようだったら、どっちかに絞った方がいい。」
「どっちか?」
「「窓」か。そのバイト先か。二つは無理と言うことだろうし。」
「そんな中途半端なこと出来ないですから。」
「まぁ。お前ならそう言うと思った。妙なところで責任感が強いからな。」
彼はそう言って私の体をぎゅっと抱きしめた。
「でも飯くらいは食べとかないといけない。せっかく用意してくれていたんだろう。」
「そうですね……。」
「謝っておけよ。お前は謝るところをたまに間違えるから。」
そう言って彼は私の額にキスをした。
私が起きて、柊さんは用事があるからと帰ってしまった。そして家の用事をしていると、母が起きてきた。彼女もあまり寝ていないだろうに。
「おはよう。」
「もう昼ね。おはようもないわね。」
そう言って彼女は煙草に火をつけた。私はキッチンでコーヒーを入れて、彼女の前に置いた。
「どうしたの。珍しいわね。」
「うん。夕べ、ご飯食べれなかったから。」
「いいのよ。別に。食べれないだろうって、紅葉さんもいってたから。」
「紅葉さん?」
「あぁ。支社長のことよ。それよりも、起きてびっくりしたでしょ?」
「何であげるかなぁ。娘の部屋に。」
「目を開けて恋人が目の前にいるなんて、いいシチュエーションよね。ねぇ。柊さんって、すごく強そうよね。」
「何が?」
「ナニが。」
下世話すぎる。たまにこの人本当にバカなんじゃないかって思っちゃう。
「すぐ帰ったわよ。」
すると彼女は呆れたようにコーヒーを飲んだ。
「本当、体は大きいのに心はちいっちゃい人ね。でもだから信用できるのよね。ん、コーヒー美味しいわ。どこの豆?」
「夕べの豆だけど、一日経ったらまた味が変わっちゃうからって、貰ってきたのよ。」
「そんなに変な味じゃないけど。葵がこだわるんでしょ?全く、変な人ね。そこまでこだわってもわからないのに。」
豆といえば、昨日蓮さんに貰った豆をそのまま捨ててしまった葵さん。でもどうしてだろう。蓮さんからだとも何とも言ってなかったのに。
想像は付くって、蓮さんのことだろうか。それともその向こうの誰かなのだろうか。
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疑問が浮かんでは消える。
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