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一年目
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掃除の時間を真面目にしている人はあまりいない。でも一部の人は、チャラいけれど真面目に掃除をしている。その中の一人が向日葵だった。
「あたし、掃除は徹底的にしないときが済まないんだよねぇ。」
きっと潔癖性気味なんだろう。鞄の中も机の中もきちんと整理整頓されているのを何度も見た。課題だけがいつも遅れるだけであって、基本的にはいい子なんだよねぇ。
外周の掃除をしながら、柊さんがいないか自然に目を追ってしまうけれど、今はいないようだ。どうやら校舎の中にいるらしい。
つまんないの。
ゴミを集めて袋に入れると、今日はこのゴミを収集所に持って行く。校舎の隅にある倉庫みたいな建物。そこが収集所だった。
「向日葵ー。せんせーが呼んでるよ。」
そのゴミを持って二人で収集所に向かおうとしたとき、不意に向こうから女子が向日葵を呼んだ。
「えー?なんか悪いことしたかなぁ。」
向日葵はゴミをおいたのを見て、私はそのゴミを両手で二つ持つ。
「あ、いいよ。あたし行くから。」
「大丈夫よ。先生に呼ばれているんでしょ?行きなよ。」
「うん。」
向日葵は校舎の中に入っていく。そして私はそのゴミを持って隅の収集所へ向かおうとした。するとほうきを持っていた竹彦が私に近づいてくる。
「持つよ。」
「あー大丈夫。いけるから。」
「でも重いでしょ?燃やせない方を持つから。」
確かに燃やせないゴミは、缶なんかも入っていて、ずっしりと重い。
「ありがとう。」
「そっちも?」
視線の先にはプラごみがある。
「うん。だけどほうき持ってるから、そっちだけでいいよ。」
「そう。」
結局私は両手で片方は燃やせるごみ。片手にはプラごみをもっていた。そして隣には竹彦の姿がある。彼は片手にほうきを持っていた。
男子は竹彦以外いない。掃除なんかやってられっかよ。と言う男子が圧倒的に多いんだろうな。
「竹彦君は掃除好き?」
「そうだね。掃除というのとはちょっと違うかもしれないけど。小学校の時、ウサギ小屋があってね。その世話とか、小屋の掃除とかは好きだったな。」
「動物好きだっていってたね。」
「うん。動物は嘘を付かないから。」
何か嘘を付かれたことがあるんだろうか。あるなぁ。いじめの対象になってるもんなぁ。
高校生にもなって何やってるんだかって思うけど。
「桜さんは?」
「掃除?嫌いじゃないわ。休みの日は毎回大掃除だもの。」
「毎回?」
「そう。布団を干したり、窓を拭いたり、換気扇の掃除したり。」
「すごいね。そんなことまでするんだ。」
「えぇ。する人がいないからね。」
収集所に付くと、燃やせるごみ、プラごみ、燃やせないごみと分かれているところにそれを置く。もうみんなごみを持ってきているのか、あまり人はいなかった。
多分集められたごみは、柊さんたちが連絡をして業者に持って行ってもらうんだろうな。
「そう言えばさ。」
「何?」
「この間、猫の件の時に桜さんと一緒にいた男の人。」
「あぁ。柊さん?」
ドキリとした。竹彦からその言葉が出ると思っていなかったから。
「あの人、知り合いって言ってたよね。」
「えぇ。バイト先のお客さん。」
何か言いたそうにもごもごと口の中で何か言ったあと、竹彦はこう言った。
「……格好いいね。」
「そうね。」
そんなことを言いたかったのだろうか。わからないけど、竹彦はそれ以上、何も言わなかった。
ほうきをおいて、靴箱へ行く。上履きに履き替えて、ふと廊下の方をみる。するとそこには用務員のおじいさんと、柊がいた。
「電気が切れてると言われてねぇ。」
「はぁ。だったら電球はあと一つなので発注しないといけませんね。」
ちらりと私の方に視線を送ってきた。それに対して私は少し手を上げる。それだけの合図。だけどそれが嬉しかった。
「桜さん。」
竹彦からまた声をかけられる。
「何?」
「やっぱり彼氏じゃないの?」
「違うわ。あなたもそうでしょう?知り合いがいたら手を上げたりするでしょう?」
「そうだね。」
すると向こうから柊さんを押しのけて、一人の生徒がやってきた。それは言つも竹彦をいじめている匠とその仲間たちだった。
「竹彦ー。掃除いつまでもやってんじゃねぇよ。こっち来いよ。」
「……。」
そんなとき竹彦の表情は、さっきと違うふっと無表情になるのだ。多分この匠とは、関わりたくないと思っているのだろうに。
「また遊んでやるから。ほらっ。」
体をどんと押されて、靴のまま廊下にあがってしまった。
「あー靴のままだぁ。いけねぇんだ。」
はー。なんて子供。関わりたくないけど、見て見ぬ振りも出来ないよなぁ。
「ちょ……。」
声をかけようとしたそのときだった。電球を持った柊さんが、匠の前に立った。まるで壁のように立っている柊さんも、どことなく怖い雰囲気を持っていて、一瞬匠も黙ってしまったように思える。
「んだよ。こいつ。」
「年長者にこいつだ?どんな口の聞き方してるんだ。」
「……。」
柊さんは匠を見下ろして、詰め寄ってくる。
「ぶつかっておいて謝りもしないのか。ろくな育て方をされてないな。お前。」
「んだよ!用務員のくせに偉そうに!」
すると周りの生徒も何の騒ぎかと近寄ってきた。そして教師もやってくる。
「何の騒ぎだ!」
すると匠は教師に弁解する。「いきなりあの用務員が、喧嘩をふっかけてきた。」と。教師はいぶかしげに柊さんを見た。
「本当ですか。」
誰も柊さんの見方をしていないように見えた。ダメだ。こんな事では。
「違う!違います!」
私はつい叫んでいた。すると匠は私の方を見て、舌打ちをする。これで私も目を付けられたかもしれない。だけどこれでいい。
柊さんがここにこれないくらいなら、私が目を付けられた方がいい。そう思った。
「あたし、掃除は徹底的にしないときが済まないんだよねぇ。」
きっと潔癖性気味なんだろう。鞄の中も机の中もきちんと整理整頓されているのを何度も見た。課題だけがいつも遅れるだけであって、基本的にはいい子なんだよねぇ。
外周の掃除をしながら、柊さんがいないか自然に目を追ってしまうけれど、今はいないようだ。どうやら校舎の中にいるらしい。
つまんないの。
ゴミを集めて袋に入れると、今日はこのゴミを収集所に持って行く。校舎の隅にある倉庫みたいな建物。そこが収集所だった。
「向日葵ー。せんせーが呼んでるよ。」
そのゴミを持って二人で収集所に向かおうとしたとき、不意に向こうから女子が向日葵を呼んだ。
「えー?なんか悪いことしたかなぁ。」
向日葵はゴミをおいたのを見て、私はそのゴミを両手で二つ持つ。
「あ、いいよ。あたし行くから。」
「大丈夫よ。先生に呼ばれているんでしょ?行きなよ。」
「うん。」
向日葵は校舎の中に入っていく。そして私はそのゴミを持って隅の収集所へ向かおうとした。するとほうきを持っていた竹彦が私に近づいてくる。
「持つよ。」
「あー大丈夫。いけるから。」
「でも重いでしょ?燃やせない方を持つから。」
確かに燃やせないゴミは、缶なんかも入っていて、ずっしりと重い。
「ありがとう。」
「そっちも?」
視線の先にはプラごみがある。
「うん。だけどほうき持ってるから、そっちだけでいいよ。」
「そう。」
結局私は両手で片方は燃やせるごみ。片手にはプラごみをもっていた。そして隣には竹彦の姿がある。彼は片手にほうきを持っていた。
男子は竹彦以外いない。掃除なんかやってられっかよ。と言う男子が圧倒的に多いんだろうな。
「竹彦君は掃除好き?」
「そうだね。掃除というのとはちょっと違うかもしれないけど。小学校の時、ウサギ小屋があってね。その世話とか、小屋の掃除とかは好きだったな。」
「動物好きだっていってたね。」
「うん。動物は嘘を付かないから。」
何か嘘を付かれたことがあるんだろうか。あるなぁ。いじめの対象になってるもんなぁ。
高校生にもなって何やってるんだかって思うけど。
「桜さんは?」
「掃除?嫌いじゃないわ。休みの日は毎回大掃除だもの。」
「毎回?」
「そう。布団を干したり、窓を拭いたり、換気扇の掃除したり。」
「すごいね。そんなことまでするんだ。」
「えぇ。する人がいないからね。」
収集所に付くと、燃やせるごみ、プラごみ、燃やせないごみと分かれているところにそれを置く。もうみんなごみを持ってきているのか、あまり人はいなかった。
多分集められたごみは、柊さんたちが連絡をして業者に持って行ってもらうんだろうな。
「そう言えばさ。」
「何?」
「この間、猫の件の時に桜さんと一緒にいた男の人。」
「あぁ。柊さん?」
ドキリとした。竹彦からその言葉が出ると思っていなかったから。
「あの人、知り合いって言ってたよね。」
「えぇ。バイト先のお客さん。」
何か言いたそうにもごもごと口の中で何か言ったあと、竹彦はこう言った。
「……格好いいね。」
「そうね。」
そんなことを言いたかったのだろうか。わからないけど、竹彦はそれ以上、何も言わなかった。
ほうきをおいて、靴箱へ行く。上履きに履き替えて、ふと廊下の方をみる。するとそこには用務員のおじいさんと、柊がいた。
「電気が切れてると言われてねぇ。」
「はぁ。だったら電球はあと一つなので発注しないといけませんね。」
ちらりと私の方に視線を送ってきた。それに対して私は少し手を上げる。それだけの合図。だけどそれが嬉しかった。
「桜さん。」
竹彦からまた声をかけられる。
「何?」
「やっぱり彼氏じゃないの?」
「違うわ。あなたもそうでしょう?知り合いがいたら手を上げたりするでしょう?」
「そうだね。」
すると向こうから柊さんを押しのけて、一人の生徒がやってきた。それは言つも竹彦をいじめている匠とその仲間たちだった。
「竹彦ー。掃除いつまでもやってんじゃねぇよ。こっち来いよ。」
「……。」
そんなとき竹彦の表情は、さっきと違うふっと無表情になるのだ。多分この匠とは、関わりたくないと思っているのだろうに。
「また遊んでやるから。ほらっ。」
体をどんと押されて、靴のまま廊下にあがってしまった。
「あー靴のままだぁ。いけねぇんだ。」
はー。なんて子供。関わりたくないけど、見て見ぬ振りも出来ないよなぁ。
「ちょ……。」
声をかけようとしたそのときだった。電球を持った柊さんが、匠の前に立った。まるで壁のように立っている柊さんも、どことなく怖い雰囲気を持っていて、一瞬匠も黙ってしまったように思える。
「んだよ。こいつ。」
「年長者にこいつだ?どんな口の聞き方してるんだ。」
「……。」
柊さんは匠を見下ろして、詰め寄ってくる。
「ぶつかっておいて謝りもしないのか。ろくな育て方をされてないな。お前。」
「んだよ!用務員のくせに偉そうに!」
すると周りの生徒も何の騒ぎかと近寄ってきた。そして教師もやってくる。
「何の騒ぎだ!」
すると匠は教師に弁解する。「いきなりあの用務員が、喧嘩をふっかけてきた。」と。教師はいぶかしげに柊さんを見た。
「本当ですか。」
誰も柊さんの見方をしていないように見えた。ダメだ。こんな事では。
「違う!違います!」
私はつい叫んでいた。すると匠は私の方を見て、舌打ちをする。これで私も目を付けられたかもしれない。だけどこれでいい。
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