夜の声

神崎

文字の大きさ
上 下
12 / 355
一年目

12

しおりを挟む
 掃除の時間を真面目にしている人はあまりいない。でも一部の人は、チャラいけれど真面目に掃除をしている。その中の一人が向日葵だった。
「あたし、掃除は徹底的にしないときが済まないんだよねぇ。」
 きっと潔癖性気味なんだろう。鞄の中も机の中もきちんと整理整頓されているのを何度も見た。課題だけがいつも遅れるだけであって、基本的にはいい子なんだよねぇ。
 外周の掃除をしながら、柊さんがいないか自然に目を追ってしまうけれど、今はいないようだ。どうやら校舎の中にいるらしい。
 つまんないの。
 ゴミを集めて袋に入れると、今日はこのゴミを収集所に持って行く。校舎の隅にある倉庫みたいな建物。そこが収集所だった。
「向日葵ー。せんせーが呼んでるよ。」
 そのゴミを持って二人で収集所に向かおうとしたとき、不意に向こうから女子が向日葵を呼んだ。
「えー?なんか悪いことしたかなぁ。」
 向日葵はゴミをおいたのを見て、私はそのゴミを両手で二つ持つ。
「あ、いいよ。あたし行くから。」
「大丈夫よ。先生に呼ばれているんでしょ?行きなよ。」
「うん。」
 向日葵は校舎の中に入っていく。そして私はそのゴミを持って隅の収集所へ向かおうとした。するとほうきを持っていた竹彦が私に近づいてくる。
「持つよ。」
「あー大丈夫。いけるから。」
「でも重いでしょ?燃やせない方を持つから。」
 確かに燃やせないゴミは、缶なんかも入っていて、ずっしりと重い。
「ありがとう。」
「そっちも?」
 視線の先にはプラごみがある。
「うん。だけどほうき持ってるから、そっちだけでいいよ。」
「そう。」
 結局私は両手で片方は燃やせるごみ。片手にはプラごみをもっていた。そして隣には竹彦の姿がある。彼は片手にほうきを持っていた。
 男子は竹彦以外いない。掃除なんかやってられっかよ。と言う男子が圧倒的に多いんだろうな。
「竹彦君は掃除好き?」
「そうだね。掃除というのとはちょっと違うかもしれないけど。小学校の時、ウサギ小屋があってね。その世話とか、小屋の掃除とかは好きだったな。」
「動物好きだっていってたね。」
「うん。動物は嘘を付かないから。」
 何か嘘を付かれたことがあるんだろうか。あるなぁ。いじめの対象になってるもんなぁ。
 高校生にもなって何やってるんだかって思うけど。
「桜さんは?」
「掃除?嫌いじゃないわ。休みの日は毎回大掃除だもの。」
「毎回?」
「そう。布団を干したり、窓を拭いたり、換気扇の掃除したり。」
「すごいね。そんなことまでするんだ。」
「えぇ。する人がいないからね。」
 収集所に付くと、燃やせるごみ、プラごみ、燃やせないごみと分かれているところにそれを置く。もうみんなごみを持ってきているのか、あまり人はいなかった。
 多分集められたごみは、柊さんたちが連絡をして業者に持って行ってもらうんだろうな。
「そう言えばさ。」
「何?」
「この間、猫の件の時に桜さんと一緒にいた男の人。」
「あぁ。柊さん?」
 ドキリとした。竹彦からその言葉が出ると思っていなかったから。
「あの人、知り合いって言ってたよね。」
「えぇ。バイト先のお客さん。」
 何か言いたそうにもごもごと口の中で何か言ったあと、竹彦はこう言った。
「……格好いいね。」
「そうね。」
 そんなことを言いたかったのだろうか。わからないけど、竹彦はそれ以上、何も言わなかった。
 ほうきをおいて、靴箱へ行く。上履きに履き替えて、ふと廊下の方をみる。するとそこには用務員のおじいさんと、柊がいた。
「電気が切れてると言われてねぇ。」
「はぁ。だったら電球はあと一つなので発注しないといけませんね。」
 ちらりと私の方に視線を送ってきた。それに対して私は少し手を上げる。それだけの合図。だけどそれが嬉しかった。
「桜さん。」
 竹彦からまた声をかけられる。
「何?」
「やっぱり彼氏じゃないの?」
「違うわ。あなたもそうでしょう?知り合いがいたら手を上げたりするでしょう?」
「そうだね。」
 すると向こうから柊さんを押しのけて、一人の生徒がやってきた。それは言つも竹彦をいじめている匠とその仲間たちだった。
「竹彦ー。掃除いつまでもやってんじゃねぇよ。こっち来いよ。」
「……。」
 そんなとき竹彦の表情は、さっきと違うふっと無表情になるのだ。多分この匠とは、関わりたくないと思っているのだろうに。
「また遊んでやるから。ほらっ。」
 体をどんと押されて、靴のまま廊下にあがってしまった。
「あー靴のままだぁ。いけねぇんだ。」
 はー。なんて子供。関わりたくないけど、見て見ぬ振りも出来ないよなぁ。
「ちょ……。」
 声をかけようとしたそのときだった。電球を持った柊さんが、匠の前に立った。まるで壁のように立っている柊さんも、どことなく怖い雰囲気を持っていて、一瞬匠も黙ってしまったように思える。
「んだよ。こいつ。」
「年長者にこいつだ?どんな口の聞き方してるんだ。」
「……。」
 柊さんは匠を見下ろして、詰め寄ってくる。
「ぶつかっておいて謝りもしないのか。ろくな育て方をされてないな。お前。」
「んだよ!用務員のくせに偉そうに!」
 すると周りの生徒も何の騒ぎかと近寄ってきた。そして教師もやってくる。
「何の騒ぎだ!」
 すると匠は教師に弁解する。「いきなりあの用務員が、喧嘩をふっかけてきた。」と。教師はいぶかしげに柊さんを見た。
「本当ですか。」
 誰も柊さんの見方をしていないように見えた。ダメだ。こんな事では。
「違う!違います!」
 私はつい叫んでいた。すると匠は私の方を見て、舌打ちをする。これで私も目を付けられたかもしれない。だけどこれでいい。
 柊さんがここにこれないくらいなら、私が目を付けられた方がいい。そう思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...