彷徨いたどり着いた先

神崎

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ライブ

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 天草裕太が中心になって組んでいるバンド「Harlem」も悪いバンドでは無いと思った。だがロックとDJのミックスは最近の流行とも言える。それに比べるとジャズの要素や演歌の要素、それにクラシックの要素を詰め込んだ「二藍」の方が若干、評価は良いようだ。客が「Harlem」では乗り切れていないのが響子でもわかったから。
「すごいなぁ。一馬さん達のバンドってメジャーデビューするのかなぁ。」
 興奮していた功太郎が圭太にそう聞いた。
 その答えはきっと響子でもわかる。デビューは出来ると思う。コレでオリジナルが作れればいつデビューしてもおかしくないと響子も思えた。だがその中に加奈子の姿があるのだろうか。そう思うと少し複雑に思える。
「どうだろうな。」
 圭太は買った水のペットボトルの水を口に入れて、首をひねった。
「どうして?みんな楽しそうだったのに。」
 香がそう聞くと、圭太は少し頷いて言う。
「牧野加奈子がいたよな。」
「キーボードの女の人?あのピアノのソロって良かったよね。でも圭君には悪いと思った?」
 すると圭太は首を横に振る。
「そうじゃ無い。多分出来ないんだ。」
 加奈子の家はヤクザの家になる。そしてあのバンドの会社は外国が本社になるのだ。当然、この国よりもそう言ったことには厳しい。国によっては関わりがあると言うだけで入国出来ないところもあるのだから。
「縁を切れば何とかなるんじゃねぇの?」
 功太郎は小腹が空いたと、屋台で売っていた大串の焼き鳥にかぶりつきながら圭太に聞く。
「縁を切れば縁を切ったという事が調べ上げられる。それから五年くらいは縁を切っても同等の扱いなんだ。だから家をすごい嫌がってたんだけどな。」
「だったらさっさと縁を切っておけば良かったのに。」
 響子はからになったカップを捨てて、ため息をついた。
「切れないんだろうな。だから見合いなんて……。」
「お見合い?圭君。お見合いしたの?」
 香が驚いたようにそう聞くと、圭太は手を振って言う。
「あっちから断られたんだよ。」
「もったいないなぁ。美人さんだったよ。あのキーボードの人。」
「でも断られたの。」
「圭君がおっさん臭いから?」
「違う。」
 香は無邪気にそう言って笑う。
 そうやって立ち話をしていた四人に、ふと一人の男が近づいてきた。そしてカップを捨てに行こうとした響子に近づいてくる。
「君……。」
 またナンパか。響子はそう思いながら、その男を見る。そして響子は顔を見て思い出した。
「天草さん。」
 相変わらずひょろ長いと思った。黒いシャツを着ていたが、それが更に細身に見える。
「いつか「flipper's」のライブに来ていた子だよね。一馬と一緒に。」
「はぁ……いつぞやはどうも。」
「俺らのライブ見た?」
「えぇ。一馬さん達のあとですよね。面白かったです。特殊なスピーカーを使わなくてもあんなに音が飛ぶなんて思っても見なくて。」
「こだわったんだよ。ミクスチャーロックって一応なってるし。」
「……。」
「でも一馬達のバンドの方が一枚上手だった。あんなメンツどこからかき集めてきたんだろうな。」
「さぁ……。」
 恐らく一馬は、顔も見たくないと思っているはずだ。この男もまた一馬を陥れた一人なのだから。やっと心を通じ合えるかもしれないメンバーと会えた一馬の邪魔をされたくない。
「バンドのことは聞いていないの?」
「えぇ。チケットを譲っていただいたのは一馬さんですけど、詳しいことは特に……。」
「そっか……。ふーん。」
 親しそうだと思っていた。だから響子には話をしていると思っていたのに、何も知らないというのだろうか。
 正直裕太にとって「二藍」は脅威だった。まだデビューもしていないし、オリジナルの曲では無い。だったら早いところ摘み取ってしまおうという作戦に出た。そしてこの女はいつか一馬と一緒にいたのだ。一緒にライブに行くくらい親しいのだから、あのバンドのことを知っていてもおかしくないと思っていたのに。
「一馬とは連絡を取り合っている?」
「ほどほどに。元々はお客様でしたし。」
「何の?まさかクラブとかじゃ無いよね?」
 クラブの女にしては色気がなさ過ぎる。そう思っていたのだが、事情は違うらしい。
「洋菓子店です。それから一緒に飲みに行ったりとかもしてましたが、一馬さんは口数が多い方では無いし、バンドのこととなれば更に口数は少なくなります。」
「なるほどね。」
 これ以上は何も聞けないか。裕太はそう思っていたときだった。響子を後ろから声をかける男がいた。
「響子。どうしたんだ。」
 ナンパをまたされたのかと圭太は心配になってやってきたのだろう。しかし響子に声をかけてきたその男を見て、少し驚いたように見た。
「え?「flower children」の?」
「天草です。」
 また違う男か。案外男関係が派手だと裕太は勘違いをしていた。
「オーナー。一馬さんのバンドのあとに出てきたでしょう?「Harlem」よ。今は。」
「そうだったな。良かったです。あぁいうロックも好きになれそうでした。」
「オーナー?」
 すると圭太はバッグから名刺を取り出す。そして裕太にそれを手渡した。
「洋菓子店のオーナーをしてます。新山と言います。」
「あぁ……。よろしく。」
「オーナーもロックを聴くようになったの?前は酔っ払いとジャンキーの音楽だって言ってたのに。」
「そんな昔のことを掘り起こすなよ。今は何でも聴くようにしてるから。」
「どういった風の吹き回しかしら。」
「うるさいな。」
 オーナーと従業員の関係にしてはフランクすぎる。裕太はそう思いながら、その場をあとにした。だがふと足を止める。
 一馬が言うには響子には恋人がいると言うことだった。その恋人があの男なのだろうか。だからあんなにフランクな言葉遣いなのだろうか。
 そして前に一馬と響子が一緒にいたところを見たとき、一馬はいつになく響子を守るようにしていた。一馬が響子に惚れているのは何となくわかる。
「……って事は……。」
 一馬が横恋慕しているのだろうか。あんな女のどこが良いのかわからないが、よっぽど具合が良いのか。嫌……。
 サックスの男の女を近づけたとき素直に一馬はその女とセックスをして、気絶しても責めあげていたという。それくらい相手のことを考えないセックスをするような男だ。そしてそんなセックスをしても場合によっては女が一馬に夢中になってしまう。もしかして響子は、それについていけるくらいの女なのだろうか。
 弱みを握ればデビューなどさせない。あんなバンドが上がってくれば驚異なのだから。この音楽業界だって、椅子取りゲームでずっとトップにいられるわけではない。一馬にまたその位置に立って欲しくなかった。
 そのためには弱みを握りたいと思う。
 その時、向かいから一馬の姿が見えた。もう響子と圭太の姿は無い。偶然を装って、近づこう。そう思ったときだった。一馬の方から声をかけられる。
「裕太。お疲れさん。」
「お前らのバンド良かったよ。袖で聴いてた。」
「あぁ。そうだったな。ちょっと細かいミスがあってな……。評価はどう出るかわからないが、俺自身は満足は出来てない。」
 いつもこんな感じだ。客が盛り上がっていても、一馬は満足することは無いのだ。それがいつもいらつかせる。
「裕太のバンドも聴いてた。今度……タイアップになる曲が良かったな。」
「キャッチーだろ?でもCMだからなぁ。どうしても受けが良い曲じゃ無いといけないし。」
「……。」
「お前らデビューは決まってんだろ?」
 すると一馬は首を横に振った。その言葉に裕太は焦ったように聞く。
「何で?」
「キーボードがいない。まぁ……それ以前に、一度きりという約束だった。もしデビューをして欲しいと言われれば……どうするかな。」
 この男に付いていくような男がいるのだろうか。何をしても満足をしない強欲な男。そして女も奪い取ろうとしているのだろうか。ぎりっと裕太の奥歯が鳴った。
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