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ライブ
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ライブの会場は、海辺にあるドーム。普段はプロ野球だけでは無く、世界的な大会などの親善試合なんかもするモノで、たまにやってくる有名海外アーティストや国内の有名アーティストがツアーの最後にするようなドームの側にある公園だった。
普段は遊具があり、その脇には大きく開けた土地があり、そこは地元のサッカーやラグビーのチームが練習する場で、昨日から大がかりな野外ステージが組まれている。そしてそれに伴って屋台なども出ている。地方の郷土料理などが振る舞われていて、音楽に興味が無い人でも楽しめるようになっているらしい。
一馬はベースを背負って急ぎ足でその会場へやってくると、その会場より少し離れた野球の屋内練習場へ向かう。待ち合わせの時間ギリギリになってしまったのだ。そしてその中に入ると、普段は土を敷き詰めて練習が出来るようになっているようだが、今は青いビニールシートがひかれている。楽器などの影響を考えてのことだろう。
このイベントはデビュー前のアーティストからインディーズで活躍するアーティストまで幅広いバンドが代わる代わる出てくる。なので控え室も一つの広いところを選んだらしい。
中には一馬も知っているようなバンドもいるが、それは夜まで持ち越される。集客が見込まれるバンドは、後回しになるのだ。一馬達のバンドはコレが初お披露目であるし、どれだけ集客を見込めるかわからないと昼間に回されたのだ。ガチガチに緊張をしているギタリストを尻目に、一馬は三倉達を探す。
すると三倉達は端の方にいた。慌ててそこへ駆け寄る。
「すいません。遅くなって。」
「仕事だったんでしょう?かまわないわ。」
「朝から録音か?」
ギターを取り出して、もうチューニングを終えた夏目が少し嫌みっぽく一馬に言う。
「えぇ。アニメ映画の録音だとか。」
「アニメねぇ。」
橋倉はそう言って少し笑う。子供が好きでよく見ているが、最近のアニメの音楽も捨てたモノでは無いと思っていたのだ。本格的にオーケストラを使っているのもあったり、生の音楽にこだわっている監督もいるのだろう。
「でも……撮り直しになるかもしれませんね。」
一馬はそう言ってベースを取り出そうとしていた。
「珍しいわね。あまりそういう話は聞いたことが無いのに。」
三倉はそう言って一馬を見る。しかし一馬にとっては珍しい話では無い。音楽監督なりが駄目だと言ったら、何度でも挑戦させてくれる限りは録音する。もう良いと言われるのが一番きついのだ。
「どうも……ロック色が強すぎると言われて。のほほんとしたアニメの音楽だから、少し毛色が違うと自分でも思いました。」
最近このバンドの練習をしているからだろう。どうしてもそれが強くなってきた。それが一馬にとって良い事かどうかは、これからの一馬の行き先に関わってくる。そしてそれはここに居るメンバーみんなに言える。特に端でキーボードの確認をしていた牧野加奈子は特に将来がかかっているだろう。このバンドに入ることは無いかもしれないが、声をかけてくれれば良い。そして音楽で食べていきたい。家の縛りに囚われたくなかった。一馬のように音楽一本で食べていきたい。そのためにはジャズだ、ロックだとこだわりを捨てなければいけない。クラシックではもう食べていけないのだから。
「牧野さん。ずっとアレだよ。」
橋倉からそう言われて、ちらっと一馬は加奈子の方を見る。一番最初に来て、ずっと鍵盤とボタンの位置を確認していたのだ。
「でも最初よりはましになった。アレンジが良いんだろうな。」
数日前、三倉はガラッとアレンジを変えた。それはおそらく三倉自身もモヤモヤしていたことだったのだろう。確かに今回する曲はカバー曲ばかりだ。外国のハードロックの曲が中心で、そのアレンジに逆らわないように気をつけていたのだが、それを会社に帰って上司に聴かせたのだ。すると上司の一言が三倉のプライドを傷つけた。
「コレはカラオケなのか?ロックバンドのイベントでカラオケを聴かせるつもりなのか?」
カチンとした。だからどうしたら良いのかと五人に相談した。すると一馬がぽつりと言ったのだ。それは響子が言っていたこと。
「それぞれ違うジャンルで活躍している人たちです。だったらその良さを弾き出せば良い。ベースはハードロックかもしれないですが、そこにクラシックの要素を入れてもおかしくは無い。メタルだってクラシックと似ていると言われているのですから。」
響子は音楽には素人だろう。だがその感覚は鋭い。だから言えることだ。そしてそれを素直に言ったまでのことだった。それがどれだけこのバンドを救うかわからないまま。
「アレンジしたって言えば、この原曲のバンドは怒るかしらね。」
「どうですかね。このイベントって録音禁止ですか?」
「お客様はね。ちゃんとイベンターが録画してて、それは明日にでも動画のサイトでアップされる。それによっては、デビューも早まるかもしれないわね。」
「やばい。とちられないな。」
夏目はそう言ってまたギターのソロを指で確認していた。何度も練習をしていたところだ。もうよっぽどのことが無い限りとちらないだろう。
「夕べのケーキとコーヒーがふっと緊張を取ってくれたと思ったけどな。」
橋倉がそう言うと、夏目も少し笑いながら言う。
「一瞬な。あの紅茶もケーキも別世界の食べ物みたいだった。」
栗山もそれには賛同する。そしてそのやり方は「古時計」によく似ていた。あの年老いた男が淹れるコーヒーとは別物だが、もっと精度は上げられる。それは音楽も一緒なのだ。あの女性が少しずつ、栗山の中で大きくなっていく。
「美味しいかったのは美味しかったんだけどな……あーもう。嫌になるわ。」
三倉は相変わらずこの調子だ。ケーキも美味しかったし、紅茶も良かったのに何が悪かったのだろう。マスクをしていた栗山が思わず声をかける。
「何が悪いんですか?あの店。」
本番前はあまり言葉を発したくないと言っていた栗山だったが、それより三倉の態度が気になったのだろう。
「……ほら。あのパティシエ。ちょっと出てきたでしょう?」
後ろ姿しか見えなかったが、どこかで見た男だと思った。そうだ。あの男は、いつか一馬と一緒に駅のホームへ消えていった男だ。そして一馬の恋人かもしれないと栗山が勘違いしていた。
「あいつゲイの世界で有名なのよ。」
「ゲイ?」
思わず夏目が驚いて声を上げる。だが肝心の一馬は興味が無いようにベースのチューニングを始めた。
「ちょっと可愛い子がいたらつまみ食いをして、ぽいって捨てるような。ガムみたいなモノなのよ。男の子は。」
「へぇ……。ゲイの世界でもそんなヤツっているんだな。」
橋倉は感心したように言うと、夏目は少し笑いながら言う。
「いるよ。いるいる。でもあのパティシエはあまりゲイの中ではモテそうに無いのに。」
「え?」
驚いて橋倉が夏目を見る。すると夏目は首を横に振っていった。
「違うよ。妹がそういうのが好きで、良く見せられてたんだ。」
本当だろうか。誤魔化すために言ったのではないかと疑ってしまう。なんせ、地域によってはゲイだのレズだのがゴロゴロいるところだってあるのだから。
「ゲイの好みってどんなの?」
橋倉が聞くと、夏目はちらっと一馬の方を見る。
「ドストライクだろ?」
「そうなのか?」
一馬はチューニングの手を止めて二人を見た。
「俺がなんだって?」
「ゲイのストライクなんだってさ。」
「髪が短かったらまさしくゲイって感じだよ。」
すると一馬は手を振って言う。
「いや。俺は男は勘弁です。」
「マジで?」
「そうだよ。彼女がいるって言ってたじゃん。」
すると加奈子の手が止まった。彼女がいる?誰なのだろう。ちらっと一馬を見るが、一馬の表情は変わらない。だが僅かに頬が赤くなっている。「彼女」を思い出したのかもしれない。
「昔、AVに入れる音楽を録音したことがあるんですけど、そこの監督に男優をしないかと誘われたこともあるんです。でも無理ですね。」
「彼女にしかその暴れん坊は出したくないって事か?」
「その通りですね。」
しばらく抱いてない。コレが終わったら明日はどちらも仕事だ。だが思いっきり抱きたいと思う。そのためにまたあのアダルトショップでコンドームを買わないといけないか。そう思いながら、またチューニングを再開する。
普段は遊具があり、その脇には大きく開けた土地があり、そこは地元のサッカーやラグビーのチームが練習する場で、昨日から大がかりな野外ステージが組まれている。そしてそれに伴って屋台なども出ている。地方の郷土料理などが振る舞われていて、音楽に興味が無い人でも楽しめるようになっているらしい。
一馬はベースを背負って急ぎ足でその会場へやってくると、その会場より少し離れた野球の屋内練習場へ向かう。待ち合わせの時間ギリギリになってしまったのだ。そしてその中に入ると、普段は土を敷き詰めて練習が出来るようになっているようだが、今は青いビニールシートがひかれている。楽器などの影響を考えてのことだろう。
このイベントはデビュー前のアーティストからインディーズで活躍するアーティストまで幅広いバンドが代わる代わる出てくる。なので控え室も一つの広いところを選んだらしい。
中には一馬も知っているようなバンドもいるが、それは夜まで持ち越される。集客が見込まれるバンドは、後回しになるのだ。一馬達のバンドはコレが初お披露目であるし、どれだけ集客を見込めるかわからないと昼間に回されたのだ。ガチガチに緊張をしているギタリストを尻目に、一馬は三倉達を探す。
すると三倉達は端の方にいた。慌ててそこへ駆け寄る。
「すいません。遅くなって。」
「仕事だったんでしょう?かまわないわ。」
「朝から録音か?」
ギターを取り出して、もうチューニングを終えた夏目が少し嫌みっぽく一馬に言う。
「えぇ。アニメ映画の録音だとか。」
「アニメねぇ。」
橋倉はそう言って少し笑う。子供が好きでよく見ているが、最近のアニメの音楽も捨てたモノでは無いと思っていたのだ。本格的にオーケストラを使っているのもあったり、生の音楽にこだわっている監督もいるのだろう。
「でも……撮り直しになるかもしれませんね。」
一馬はそう言ってベースを取り出そうとしていた。
「珍しいわね。あまりそういう話は聞いたことが無いのに。」
三倉はそう言って一馬を見る。しかし一馬にとっては珍しい話では無い。音楽監督なりが駄目だと言ったら、何度でも挑戦させてくれる限りは録音する。もう良いと言われるのが一番きついのだ。
「どうも……ロック色が強すぎると言われて。のほほんとしたアニメの音楽だから、少し毛色が違うと自分でも思いました。」
最近このバンドの練習をしているからだろう。どうしてもそれが強くなってきた。それが一馬にとって良い事かどうかは、これからの一馬の行き先に関わってくる。そしてそれはここに居るメンバーみんなに言える。特に端でキーボードの確認をしていた牧野加奈子は特に将来がかかっているだろう。このバンドに入ることは無いかもしれないが、声をかけてくれれば良い。そして音楽で食べていきたい。家の縛りに囚われたくなかった。一馬のように音楽一本で食べていきたい。そのためにはジャズだ、ロックだとこだわりを捨てなければいけない。クラシックではもう食べていけないのだから。
「牧野さん。ずっとアレだよ。」
橋倉からそう言われて、ちらっと一馬は加奈子の方を見る。一番最初に来て、ずっと鍵盤とボタンの位置を確認していたのだ。
「でも最初よりはましになった。アレンジが良いんだろうな。」
数日前、三倉はガラッとアレンジを変えた。それはおそらく三倉自身もモヤモヤしていたことだったのだろう。確かに今回する曲はカバー曲ばかりだ。外国のハードロックの曲が中心で、そのアレンジに逆らわないように気をつけていたのだが、それを会社に帰って上司に聴かせたのだ。すると上司の一言が三倉のプライドを傷つけた。
「コレはカラオケなのか?ロックバンドのイベントでカラオケを聴かせるつもりなのか?」
カチンとした。だからどうしたら良いのかと五人に相談した。すると一馬がぽつりと言ったのだ。それは響子が言っていたこと。
「それぞれ違うジャンルで活躍している人たちです。だったらその良さを弾き出せば良い。ベースはハードロックかもしれないですが、そこにクラシックの要素を入れてもおかしくは無い。メタルだってクラシックと似ていると言われているのですから。」
響子は音楽には素人だろう。だがその感覚は鋭い。だから言えることだ。そしてそれを素直に言ったまでのことだった。それがどれだけこのバンドを救うかわからないまま。
「アレンジしたって言えば、この原曲のバンドは怒るかしらね。」
「どうですかね。このイベントって録音禁止ですか?」
「お客様はね。ちゃんとイベンターが録画してて、それは明日にでも動画のサイトでアップされる。それによっては、デビューも早まるかもしれないわね。」
「やばい。とちられないな。」
夏目はそう言ってまたギターのソロを指で確認していた。何度も練習をしていたところだ。もうよっぽどのことが無い限りとちらないだろう。
「夕べのケーキとコーヒーがふっと緊張を取ってくれたと思ったけどな。」
橋倉がそう言うと、夏目も少し笑いながら言う。
「一瞬な。あの紅茶もケーキも別世界の食べ物みたいだった。」
栗山もそれには賛同する。そしてそのやり方は「古時計」によく似ていた。あの年老いた男が淹れるコーヒーとは別物だが、もっと精度は上げられる。それは音楽も一緒なのだ。あの女性が少しずつ、栗山の中で大きくなっていく。
「美味しいかったのは美味しかったんだけどな……あーもう。嫌になるわ。」
三倉は相変わらずこの調子だ。ケーキも美味しかったし、紅茶も良かったのに何が悪かったのだろう。マスクをしていた栗山が思わず声をかける。
「何が悪いんですか?あの店。」
本番前はあまり言葉を発したくないと言っていた栗山だったが、それより三倉の態度が気になったのだろう。
「……ほら。あのパティシエ。ちょっと出てきたでしょう?」
後ろ姿しか見えなかったが、どこかで見た男だと思った。そうだ。あの男は、いつか一馬と一緒に駅のホームへ消えていった男だ。そして一馬の恋人かもしれないと栗山が勘違いしていた。
「あいつゲイの世界で有名なのよ。」
「ゲイ?」
思わず夏目が驚いて声を上げる。だが肝心の一馬は興味が無いようにベースのチューニングを始めた。
「ちょっと可愛い子がいたらつまみ食いをして、ぽいって捨てるような。ガムみたいなモノなのよ。男の子は。」
「へぇ……。ゲイの世界でもそんなヤツっているんだな。」
橋倉は感心したように言うと、夏目は少し笑いながら言う。
「いるよ。いるいる。でもあのパティシエはあまりゲイの中ではモテそうに無いのに。」
「え?」
驚いて橋倉が夏目を見る。すると夏目は首を横に振っていった。
「違うよ。妹がそういうのが好きで、良く見せられてたんだ。」
本当だろうか。誤魔化すために言ったのではないかと疑ってしまう。なんせ、地域によってはゲイだのレズだのがゴロゴロいるところだってあるのだから。
「ゲイの好みってどんなの?」
橋倉が聞くと、夏目はちらっと一馬の方を見る。
「ドストライクだろ?」
「そうなのか?」
一馬はチューニングの手を止めて二人を見た。
「俺がなんだって?」
「ゲイのストライクなんだってさ。」
「髪が短かったらまさしくゲイって感じだよ。」
すると一馬は手を振って言う。
「いや。俺は男は勘弁です。」
「マジで?」
「そうだよ。彼女がいるって言ってたじゃん。」
すると加奈子の手が止まった。彼女がいる?誰なのだろう。ちらっと一馬を見るが、一馬の表情は変わらない。だが僅かに頬が赤くなっている。「彼女」を思い出したのかもしれない。
「昔、AVに入れる音楽を録音したことがあるんですけど、そこの監督に男優をしないかと誘われたこともあるんです。でも無理ですね。」
「彼女にしかその暴れん坊は出したくないって事か?」
「その通りですね。」
しばらく抱いてない。コレが終わったら明日はどちらも仕事だ。だが思いっきり抱きたいと思う。そのためにまたあのアダルトショップでコンドームを買わないといけないか。そう思いながら、またチューニングを再開する。
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