彷徨いたどり着いた先

神崎

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墓園と植物園

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 花見をする日。圭太は前日から弥生にメッセージをもらっていた。弥生は弁当を作るのに忙しいので、圭太に迎えに行って欲しいと言われたのだ。瑞希が住んでいるアパートは二階建てのアパートで、ワンルームの部屋で大学生が一人暮らしをするようなところだった。それに相当古い。住めば都だと瑞希はそこに住んでいるのには、少しわけもあった。
 何度かここに来たことがある。だから車を停める所も知っているのだ。そこに車を停めると、圭太は車の外に出る。そしてそのアパートの階段を上がると、三番目の部屋のドアベルを鳴らす。しばらくして頭もボサボサでスウェット姿の瑞希が出てきた。
「よう。」
「今起きたのか?昨日は遅かった?」
「あぁ。そうでも無いけどな。もう夜の仕事は辛くなってきたかね。まぁいいや。上がれよ。」
 そういって瑞希が部屋に圭太をあげる。外見はぼろいが、案外片付いている。瑞希も割と綺麗に片付いていないと嫌なタイプだが、もっと綺麗好きなのは弥生なのだ。しょっちゅうここへやってきては布団を干したり、換気扇の掃除をしたりしているらしい。。
「仕事は辞められないだろ?」
「んー。そうだけどな。食べていくためには仕方ないだろ。それに俺が酒を飲んでるわけじゃ無いし。」
 そう言えば響子もカクテルなんかも作れると言っていた。だがそれを選ばなかったのは、カクテルでは無くコーヒーを淹れたいからだろう。だから信也が勧めるどこかのホテルのバーテンダーの職よりも、「clover」のような小さい店でコーヒーを淹れることを望んだのだ。それが少し嬉しい。
「あれ?やっと引っ越すのか?」
 瑞希は着替えだけを済ませている間コーヒーを淹れる為にお湯を沸かしていた。その間、圭太はソファーに座りテーブルに置いていた大きめの封筒に目を留めたのだ。そしてその封筒には不動産会社の名前が印刷されていた。
「あぁ。さすがにここに二人は住めないだろう?」
「え?」
「結婚するから。」
 弥生とやっと結婚出来る。五年間我慢してたのだ。
「そっか。もう五年か。」
 五年前。大学の時から付き合っていた弥生にプロポーズした。弥生もその時は一人暮らしをしていて、一緒に住むだけだろうと思いそれを受けた。指輪を買い、式場を選んでいるまさにそのくらいの時だった。
 「flipper」で仕事をしていた瑞希の前に、いつか「flipper」のフリーライブにてピアノを弾いていた女が、瑞希に詰め寄ってきたのだ。結婚をするというので慌ててきたのだろう。そして瑞希に捨てられたと騒いできたのだ。それはその場にいなかった弥生の耳にも届く話になり、しばらく瑞希は肩身が狭い思いをしたのだ。
 それでも弥生は瑞希と別れることは無かった。そもそも瑞希の女癖が悪いことは大学に通っていた頃から知っていることだったのだ。それを承知でずっと付き合っていた。大目に見ていた弥生だが、さすがに結婚となれば話は違う。特に弥生の母からは反対された。弥生にお見合いまで勧めてくる始末に、弥生はそれを断るため瑞希や互いの両親に条件を出した。それはつまり、五年間、瑞希が浮気をしなければ結婚をするというもので、それに瑞希や身内もその条件を飲んだのだ。
 そしてその五年が過ぎようとしている。
「でも今は時期が悪いかなぁ。」
「まぁ、春だしな。ちょっと家を探すのは遅らせても良いと思うけど。」
「不動産屋にもそう言われたよ。でも弥生の父親の結婚が早くなりそうだから、今のうちと思ってて。」
「弥生の父親が結婚?」
「春には一緒に住むらしい。その辺も探してる。いっそ借家を借りれないかって。」
「何でそんなに急いで……。」
「子供が出来たからだろ?」
「へぇ……。」
「四十くらいだって言ってたっけ。あっちが。遅くは無いよな。」
 コーヒーを淹れて、それをカップにわけると瑞希はその一つを圭太に手渡す。そしてもう一つを自分で飲んだ。コーヒーを淹れるのは圭太にも適わないし、響子とは全く別の飲み物に感じる。だがそれはそれと言って割り切っているのだ。
「何か……あっちの父親も早いよな。多分、前の奥さんがいたときから浮気してたんじゃ無いかって思うくらい。」
「だと思うよ。詳しくは聞かないし、弥生も聞いていないみたいだ。けどなぁ……。」
「どうしたんだよ。」
「向こうにも子供がいるんだ。中学生の。香ちゃんとは二つ上で、今度三年の。」
「あぁ。多感な時期だよな。」
「どうも結婚するのを嫌がっているみたいだ。直接は言えないから、香ちゃんに当たり散らしてるって聞いた。それを弥生がずっと気にしてて。」
 弥生らしい悩みだと思う。自分のことよりも父親と香のことを気にしている。
「今日の花見は来るのか?」
「来るらしいけど、素直に来るかなぁ。あっちにとっては他人だらけのところだろう?」
「響子ほど人見知りじゃ無いだろ。」
 コーヒーを飲む。やはりインスタントに毛が生えたくらいのようなコーヒーだ。それでも淹れてくれたのだからと、黙って圭太はそれを飲む。それに個人が淹れるモノにそこまでクオリティを求めない。
「……何かアレだな。」
「アレ?」
 向かいに座っている瑞希もコーヒーに口を付けて、圭太に言う。
「お前、まだ未練があるな。」
「……。」
 その通りだ。響子にまだ気がある。というかまだ好きで、女々しいかもしれないが、忘れられていない。
「お前の浮気相手ってまだ繋がりがあるの?」
「……無いこともない。」
 女王様のイメージが抜けきれない夏子は、まだマゾヒストのイメージはそこまで無い。メーカーが求めるのは、サディストで男を足蹴にするような女なのだ。しかし圭太の前では違う。
 尻の穴に突っ込めば、性器から汁を漏らし床が派手に濡れるような女なのだ。
「響子さんの妹って言ってたっけ。そこでも姉妹になるなんてな。」
「うるさいな。」
「いっそ嫁にもらってやれば?」
「絶対無いわ。」
「嫁にしたいのは響子さんだけか?」
 その言葉に言葉を詰まらせた。圭太のその様子に瑞希は呆れたように圭太に言う。
「響子さんはもう先に進んでいるよ。一緒に住んでるって言ってたし。」
「そうだよ。だから俺の出る幕じゃ無くて……でも少し苦しいよ。女々しいよな。どんな女でもそんな気持ちにならなかったのに。」
「……それだけ本気だったんだろ?その妹では代わりにならないくらい。」
 瑞希の言う通りだ。きっぱりと忘れれば良いと、信也はお見合いを勧めてくる。だがそんな女に用があるわけが無い。響子以上の女は居ないと思っていたから。
「圭太ってそんな感じじゃ無かったのにな。」
「は?どういうイメージだよ。」
「大学の時に付き合ってたほら……何だっけ。岸先輩。」
「あぁ。」
「浮気されたからってすぐ別れて、次の日には合コンに行ってたのに。」
「……それだけ、響子のことは本気だったんだよ。」
 夏子とセックスをすると、響子とかぶる。夏子が感じている表情が響子とかぶるから。だが夏子と響子は決定的に違う所がある。それはなかなか響子は圭太のことを好きだと言ってくれなかったのに対して、夏子は簡単にその言葉を告げる。それが少し嘘っぽい。
「響子さんは今は一緒に暮らしてる男が居るんだろう?」
「喧嘩もしないで仲が良さそうだ。」
「へぇ。期間を考えると響子さんも浮気してたって事?」
「そうだけど……俺が悪かったと思ってる。」
「……。」
「俺、響子を信じれなかった。でもあっちは初めから響子しか信じてなかった。それがあっちとの差だったと思う。それだけであっちには適わない。」
 その言葉に瑞希は頭をかいた。本当に圭太が不器用に思えたから。
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