彷徨いたどり着いた先

神崎

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カモフラージュ

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 ワインのボトルが開き、つまみもほとんど無くなった。そろそろお開きかと、響子はキッチンで紅茶を淹れた。それは一馬のお土産の紅茶で、「clover」で出すような紅茶では無いにしろ、とても香りの良いものだと思う。
 トレーにカップを乗せて、四人の前に紅茶を置く。すると四人もその香りに頬を緩ませた。
「良い香りだね。」
「それにほんのり甘いかな。香りのせいか?」
 響子もその紅茶に口を付ける。店で出すと厳しい紅茶だろうが、プライベートで飲む分には十分なモノだろう。
「こういう紅茶を淹れるんだったら、ケーキは何が良いだろうね。ベリーは味が強すぎるし。」
「アップルパイとか?」
「それはうちでは出さないし。」
 真二郎はそう言うと、またその紅茶に口を付ける。
「本当、仕事しか考えてないな。真二郎。ウリセンの仕事は今日は無かったのか?」
 圭太がそう聞くと、真二郎は少し笑って言う。
「毎日しているわけじゃないよ。そりゃ、一日しなきゃ溜まるけどね。」
「はぁ。すげぇな。俺、女居ないけど、毎日はオナ○ーはしないなぁ。」
「どうだろうね。そこだけは血筋なのかな。」
 本当の父親は真二郎のような立場の妾とか、愛人とか、そういった人の子供を産ませているらしい。真二郎がレアなケースというわけでも無いのだ。そしてその真二郎や桜子を養えるだけの財力もある。
「家に呼んだりしていないの?」
 響子が気になるところだ。一緒に住んでいたときは、さすがに響子のことを考えて家に男なり女なりを連れてきたことは無かったが、一人になったのだから気兼ねしなくても良いと思う。
「家はちょっとね。俺、恋人もいないし。」
「モテそうなのにな。」
 功太郎がそう言うと、真二郎は少し笑って言う。
「確かにモテるよ。ゲイバーなんかに行くと特にね。でも一晩限りって言うのが多いかな。」
「その中でもほら、すごい相性の良い奴とか居ただろ?」
「まぁね。」
 寝た中では一番合っていると思ったのは、有佐だろう。性欲が強いし体力もあって何度も求めてくる。それにとても気持ちが良かった。響子とは結局寝ていないが、響子ももしかしたら相性がいいのかもしれないとは思っていたが、もう手を出すことは無いのだ。
「セフレの中から選べば良いのに。」
「冗談。あぁいう人から恋人を選ぶなんてね。それよりも功太郎はいないの?」
 その言葉に響子の手が止まった。功太郎はずっと響子のことが好きだと言っていたのだ。ことあるごとに手を出してこようとする男なのだから、こんな場でも一馬のことを考えずに響子のことを言う可能性だってある。そうなれば一馬だって大人の対応を出来るかわからない。
「俺?んー……。好きなヤツなら居るよ。」
 その言葉にますます響子が焦る。それ以上言ってはいけないと。そして一馬を見上げると、一馬もその紅茶に口を付けていた。あまり興味はなさそうだ。
「彼女じゃ無いってこと?」
「うん。まぁ今のところは。」
「いつかほら見たことがある雑貨屋の子?」
 たまたま真二郎が見かけたのは、小さい女と功太郎が歩いていたところだった。合コンで出会い、連絡をなんだかんだと付けているように見えて、真二郎は微笑ましいと思っていたのだ。
「何だよ。功太郎。そんなヤツがいるのか?」
 圭太は初耳だったらしい。驚いて功太郎の方を見る。
「終わったんだよ。そいつとは。まぁ、始まっても無かったけど。」
 不機嫌そうに紅茶をすすり、功太郎はため息をつく。
「「今の彼氏と別れそうだから、別れたら次に付き合ってくれる?」とか言う女と付き合えるか。」
 その言葉に圭太と真二郎は顔を見合わせた。確かにあまり上等では無い女性のようだ。
「お前、女運が無いな。」
「うるせぇ。」
「でも好きな人って言うのは、その子じゃ無いんだろう?だったら誰に片思いをしているの?」
 はっきりさせた方が良い。圭太だってまだ響子に気があるのだ。功太郎はどうなのか。圭太と付き合っていてもかまわないで響子に手を出そうとしてきた男なのだから、その好きな人というのが響子である可能性は否定できない。
「まぁ……うん……。」
 思い切って功太郎は紅茶を一気に飲み干す。そして囁くような小さな声で言う。
「香。」
「え?」
 その名前に三人は耳を疑った。まさか本当に小学生に手を出していると思っていなかったからだ。
「響子。香というのは誰だったか。」
 一馬だけが顔と名前がはっきりしないようで、響子に聞いてきた。
「あぁ……。えっと……一度会ったことがあったかしら。け……オーナーの同級生の恋人の妹。小学六年生。」
 響子も動揺しているようだ。そして少し顔色が悪くなる。自分がされたことを思い出したからだ。
「思い出した。あのずいぶん大人びた感じに見える女か。」
 やっと圭太は我を取り戻して、功太郎に詰め寄る。
「大人びて見えても小学生だぞ。お前、まさか手を出したんじゃ無いんだろうな。そんなことをしたら俺が弥生にどやされる。」
 真二郎も驚いたように功太郎に詰め寄った。
「って言うか……。ロリコンだったのか?俺、男も女もいけるけどロリコンだけは犯罪だと思ってるからしないんだけど。」
「……駄目なのか?」
 一馬が真二郎に聞くと、真二郎はゆっくり頷いた。
「うちのウリセンの店は、一応予約するときに年齢確認はするんだ。でも実際に会ったら高校生だったって言うオチもある。そうすると厳しくなるのはこっちだから。」
「法律か何かで決まっているのか?」
「風営法と場合によっては強制わいせつ罪になる。」
「なるほど。法律で決まっているなら仕方が無いな。」
 すると響子は首を横に振る。
「そんな法律意味ないけどね。」
「響子。」
 響子がレイプされたのは十四歳の頃。なのに望んで行ったのではないかとか、同意があったとか、勝手な憶測をされ響子はずっと肩身が狭かったのだ。
「セックスはしてねぇよ。」
 功太郎はぽつりと言う。すると圭太が首を横に振っていった。
「セックスはしてないってことは、違うことはしたってことだ。キスぐらいはしたのか?」
 すると真二郎は少し眉を潜ませる。
「もしかして、俊君としたから意地になったの?」
「俊と?」
 俊は後悔していた。して欲しいと香から言われ、自分もしてみたいと思ったからしたキスは、小説のようでは無かったと思う。
「そうじゃねぇよ。そんなことで手を出すか。」
「だったら何なんだよ。お前、いくら高校生くらいに見えるからって……。」
 反対されるとは思っていた。だがここまで強く言われると思ってなかった功太郎は、少し反抗するように強い口調で口走る。
「だから好きなんだよ。」
 すると一馬は首をひねって言う。
「それは悪いことか?」
 うつむきかけていた響子が驚いたように顔を上げる。だが一馬の顔色は変わらない。
「お互いに気持ちがあれば問題は無いだろう。」
「でも小学生で……。」
「セックスはしていないんだろう?」
「してねぇよ。さすがにそれは抵抗があるし。」
 すると一馬は頷いて言う。
「だったら想い合っているだけだろう。好きだと思うなら触れたいと思うかもしれないが、抵抗があると言うんだったらその女がもう少し成長してからでもかまわないだろうし、それ以前にそこまでその女が気持ちを保てるかどうかは怪しいところだが。」
「……あいつが十八の時、俺、もう三十代なんだよな。捨てられるかも。」
「自信が無いのか?」
「いや……そんなこと……。」
 焦ったように功太郎は言うと、一馬は少し笑う。
「だったらそれまで我慢していれば良い。気持ちがあった上での関係だって言うんだったら。」
 自分なら我慢が出来ない。少し離れていただけでこんなに響子を欲しがっているのだから。
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