彷徨いたどり着いた先

神崎

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疾走

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 シャワーを浴びた響子はいつもと変わらない様子に見えた。圭太とは本当に食事をしただけなのだろう。真二郎はソファーベッドに腰掛けていた状態で、目線だけを響子に向けると響子に言う。
「美味しかった?食事は。」
 すると響子はキッチンへ向かい、買ってきたお茶をコップに注いで真二郎に言う。
「えぇ。本格的な割烹料理のようで、でもその枠にとらわれていない。コース料理を食べたのだけど、ぶりのあらを大根で煮たモノもの出てきた。ご飯が進むわね。あぁいう料理は。」
 母も同じようなモノを作ることがあった。だが母のモノはもっと甘みが強い。母が育ったのは南の方で、基本甘い物が多いのだ。
「ザラメを使っているようで、あまり甘さもしつこくない。今度、私がごった煮を作るときはザラメにしようかしら。」
「……良い店だったようだね。何ていう店?」
「S街にあるわ。あなたはお客様と行くことがあるでしょうね。半個室だったし、他のお客とも顔を合わせることも無かったから。」
 ウリセンで使うような食事屋は、基本他の客と顔を合わせるのを嫌う人がほとんどだ。自分がゲイですというのは言い辛いのだろう。
「オーナーはそういう店をよく知っているようだ。女性が好みそうなところ。」
「そうね。付き合っていたときも、そういう店によく誘われていたわ。でもほら、イタリアンなんかはニンニクが効いているモノが多いから、あまり行くことは無かったけれど。」
「そうだね。響子はどっちかというと酒が美味しいような店が良いようだ。」
「酒豪みたいにいわないでよ。」
「ははっ。ごめん。ごめん。」
 携帯電話の画面を閉じて、真二郎はため息をつく。その様子にお茶を飲んだ響子は真二郎に聞いた。
「何かあったの?」
「んー。今日は仕事だったんだけど、ホテルへ行かない客だったんだ。食事だけ。だからまぁ、セフレのところで抜こうかと思ってたんだけどね。「結婚をするからもう連絡をしないで」と言われてさ。」
「そういうこともあるわね。セフレって割り切っているのだから。」
「ちょっと落ち込むよ。」
 自分よりも体の相性がいい相手なのだろうか。そんな相手が居るのかわからない。だが体だけの相性では無いのは、最近思うところだ。体の相性だけだったら、響子は圭太を捨ててまで一馬をまず選ばないだろう。
「いつか言っていたわね。あなたにとって女性も男性も、体にしか興味が無いって。自分はその相手にとっては生きるディルドだからって。」
「俺もそう思うよ。」
「それだけでは無い相手も居るんじゃ無いのかしら。」
 その言葉に真二郎は少し笑う。
「ストーカーのようになった女もいるよ。ただ、それは俺にとっては気持ち悪いと思うだけだった。俺……まだ響子よりも好きだと思える相手が居ないんだろうね。」
 響子しか居なかった。だが響子は真二郎を選ばなかった。キスをしたのも抱きしめたのも無理矢理だった。求められることなど無い。
「……いつか出会えるときは来ると思うけど。」
「そうかな。」
「私以外の人に目を向けること。そうね……。一馬が言っていた言葉を引用するようだけど、人って悪いところを見ると悪いところしか目に付かなくなる。そうなればその相手を「嫌い」だと思ってしまうのよね。でも好きなところをを見るのは結構難しい。」
「俺、響子の好きなところは沢山言えるよ。」
「嬉しいわ。」
「そしてそういう人がもう一人居たはずなんだよ。」
 その言葉に響子は違和感を持って真二郎に聞く。
「それって……ねぇ。前にも聞いたことがあるけれど、オーナーなの?」
 真二郎はその言葉に少し笑っただけだった。そして立ち上がると、着替えを手にする。
「それは言えない。前にも言ったけれど、それを知りたいなら俺と寝てくれる?俺、今日誰とも寝てないから、響子を満足させることは出来るけど。」
「嫌。寝るわ。お休み。」
 コップを洗い、響子はそのままベッドルームへ向かう。そしてその様子を少し笑いながら真二郎も見ていた。

 バレンタインデーの日。相変わらずチョコレートを買い求める女性客で溢れかえる。そしてそれに圭太や功太郎は対応をしていた。響子もホットショコラのオーダーに、普段のオーダーにと目が回るような忙しさだ。そしてキッチンもバレンタインデー限定のパフェやクレープがよく出る。
「バナナと生クリーム。それからチョコレートは相性がいいからね。」
 相変わらず真二郎の作ったモノはよく出る。見た目が可愛いと、写真を撮ってSNSにアップしているようだ。
 そして夕方ほどになると、やっと客の流れが緩やかになる。圭太はそのチョコレートの在庫を数えていた。ノンアルコールのモノがよく出ていて、アルコールの入っているモノは割と売れ残っているようだ。だがこれも夜には完売するだろう。そしてチョコレートをベースにしたケーキも残りわずかだ。コレもよく出る商品だが、今日は特別出るように思える。
 ドアベルが鳴り、圭太は振り返るとそこには弥生の姿があった。
「おー。弥生。いらっしゃい。」
「チョコレートを買いに来たんだけど、まだ在庫ってある?」
「あるよ。アルコール入りとノンアルコールな。」
「あぁ。良かった。だったら一つずつもらって良いかしら。」
「良いよ。でも二つ買うのか?」
「えぇ。瑞希と、それから俊君にね。」
「あぁ。俊な。」
 世話をかけているのだ。それくらいはするだろう。そう思いながら圭太はチョコレートを包装したモノをレジカウンターに置く。
「香から渡した方が良いんじゃねぇの?俊のヤツは。」
 その言葉に皿を下げてきた功太郎がそれを落としそうになった。それをやっと掴むと、カウンターの中にそれをしまう。
「そうなんだけどね。なんか嫌がってるのよ。香が。」
「香が?」
「最近ご飯を一緒に食べるのも嫌がってね。やっと俊君を男の人だって意識し始めたのかしら。」
「好きとか言ってんの?」
「あの子の好きは、ちょっと違うじゃ無い。恋愛感情がある好きという言葉じゃ無いと思うから。」
「そっかな。」
 すると功太郎がそれに近づいてきた。
「俊はなんか言ってるの?」
 すると弥生は首をかしげて言う。
「あたし最近俊君とは会わないから。」
「ふーん。」
 弥生は功太郎の方を見ると、少し笑って言う。
「焼きもち?」
「何がだよ。」
「俊君に焼きもち焼いてる?功太郎。」
「何で……俺が。」
 顔が赤くなっている。まるで中学生のような反応に、弥生は少し笑った。
「お前、香に手を出したら淫行だぞ。」
「わかってるよ。」
 不機嫌そうにまた功太郎はカウンターの方へ向かう。オーダーが上がりそうなのだ。響子は、カップにコーヒーを淹れてカウンターにそれを置いた。それとともにチョコレートのケーキを盛り付けたモノも置く。
「はい。ブレンドと、ショコラブラック、ダージリンとイチゴのムースが四番。」
「はいよ。」
「……。」
 そのまま響子は次の作業に入る。だがその手はわずかに震えていた。
 功太郎が香に手を出したとしたら、その年の差は十を超している。それは響子が十五年前に輪姦された時と同じだ。しかし功太郎がめったなことで香に手を出すはずは無い。もし手を出したとしたら、その間には強烈な愛情がある。それを信じたいと思っていたのだ。
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