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共犯者
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時計を見ると、もうすぐ終電が出そうな時間だ。だがこのまま「時間なのでこれで終わりにしよう」など言えない。それに一馬の方にも責任があるのだ。
「ねぇ。もうすぐ終電が出る時間じゃない?」
夏子がそう言うと、圭太も時計に目をやる。
「そうだな。明日も仕事だし……。お前ら帰るか?」
「四人で4Pでもする?」
夏子の言葉に圭太はため息をついた。やはり少し夏子はずれたところがあるのだ。
「そんなことをするわけがないだろう。」
「あたし、興味はあるんだよね。」
夏子は立ち上がると、一馬を見上げる。だが一馬の方は全く関心がなさそうだ。
「そんなところで兄弟になってもな。」
「すでに兄弟じゃない。あたしと姉さんも姉妹だけど。」
「姉妹?」
「竿姉妹。まぁ、AVの世界なんかいれば、竿姉妹や穴兄弟なんてゴロゴロ居るけどね。」
AV女優というのは今は沢山居るようだ。企画女優まで含めると、相当な数になる。その割に男優は少ない。それ一本で生活が出来る人だって限られるのだろう。
「本当にあんたは響子の妹なのか。響子は……。」
「真面目だもんねぇ。あたしと違って。お祖父さんにも真二郎にも守られてて、羨ましいわ。」
「その分、母さんには風当たりが強かったわ。」
「母さん。いまだに言っているよ。姉さんが進んで男の車に乗り込んだんじゃないかって。体の傷跡とか火傷の跡とかあれば、いくら姉さんが男好きでも男が引くだろうって思っているみたい。」
まだそんなマスコミの噂を信じているのだろうか。勝手に想像して、響子を中学生にして淫乱な女に仕立て上げたそれを、まだ根に持っている。
「だから母さんとはわかり合えない。守ってくれるべき親がそんな風だもの。」
「でも姉さんが嘘をついたって疑うのも、わからないでもないよ。」
「……え?」
すると夏子は呆れたように言う。
「姉さんは虚言癖があるっていってたから。」
「それって……。」
虚言癖の言葉に、一馬と圭太は驚いて響子を見る。嘘とか誤魔化しというのを一番嫌がりそうなのに、まさか響子が嘘をついていたのかと思ったのだ。
「虚言癖?」
圭太は思わずそれを繰り返した。だが一馬はすぐに首を横に振って言う。
「それは無いだろう。」
「あら?あなたは姉さんを信じるの?」
「俺とのことは仕方が無いと思う。響子も俺もずっと嘘をついていた。オーナーの……いや、圭太さんの前に立つたびに俺も響子も苦しかったと思う。」
「それはあなたが思っていただけじゃ無くて?」
「いいや。響子はうなされることがあるんだ。」
「一馬。やめて。」
響子はそれを止める。言われたくなかったからだ。だが一馬はその言葉を続ける。
「……拉致をされたときの記憶もあるのだと思うが、うなされるとき謝罪の言葉を言うときがある。それはあんたに対してた。」
悪いことをしたと思っている。だから響子は圭太に対して謝っていたのだ。圭太はその言葉に、ため息をついて携帯電話を手にした。
「駄目だな。この時点で俺は響子とは続けられない。」
「え?」
「……俺は疑ったけど、一馬さんは信じてた。俺も響子の母親と一緒なのかもしれない。響子の言葉よりも他人の言葉を真に受けた。誰よりも信じなければいけなかったのに。」
結局自分は変わっていない。真子に「子供が出来た」と言われたとき「俺の子供?」とつい言葉にしてしまったときと何も変わらなかった。
「タクシー呼ぶから、もう帰ってくれないか。」
携帯電話のメモリーを呼び出そうとした。だが手が震えている。認めたくなかったからだ。
「圭太……。」
思わず夏子は一緒に居たいと思い、圭太が座っているソファに近づく。だが圭太は首を横に振った。
「お前も帰れ。」
「だってこのままだったらあなたが死にそうだわ。」
「死なない。店があるから。自分で立ち上げて、響子や真二郎や功太郎を養わないといけないんだ。それを放置して死ねるか。」
強がりに聞こえ、一馬は口を出そうとした。だがそれに答えたのは響子の方で、その口調は冷めている。
「お店ってそんなに大事?」
「大事に決まっているだろう。」
「お店が無かったらあなたは死ぬの?」
「……。」
電話のメモリーを呼び出す手が止まった。そして響子を見上げる。
「私がもし味覚が無くなってコーヒーの味がわからなくなっても死なないわ。コーヒーを淹れるしか能が無くても、それだけはまれることが出来るなら他のことも出来ると思うから。」
すると一馬もそれに頷いた。
「俺もそうだな。もしベースが弾けなくなったら、土建会社にでも勤めよう。」
「土建?」
「一応資格はあるから。」
大学の時に音楽の片手間で取っていたモノだ。役立つときが無ければいいと思っていたし、いまだにそれが役立つときは無い。だがもし体に何かあれば、そうせざるえないだろう。
「俺は……。」
「逃げないで。真子さんを失った時のように。」
響子はそう言って圭太に背を向けた。
人通りはもうほとんど無い。終電は終わってしまった時間だし、この辺は住宅街で帰宅する人もそんなに居ないのだろう。
「姉さんにしては厳しい言葉だったよね。」
夏子はそう言ってヒールを鳴らしながら、二人の隣で歩く。
「オーナーは多分、ずっと逃げてたと思うから。」
「真子というのは誰のことだ。」
「オーナーの死んだ恋人だった人。」
写真でしか見たことの無い女だった。響子に似ていると信也の妻である小百合は言ったことがある。だがどこをどう見ても似ていない。そうやって波風を立てたい女だったのだろう。
「写真でなら見たことがある?どんな女だったの?」
「地味な子。体は小さそうに見えたわ。ショートボブくらいの髪型で……オーナーとは同じくらいの歳だと言っていたかな。」
「地味系が好きなのか。だったらあたしは無いのかもしれないな。」
「あなたも地味にしたら?」
「あたしが地味にしたら、あたしじゃ無くなる気がするから。」
夏子はそう言って自分の爪先を見る。人妻の役が多くなってきたので、あまり派手なネイルは出来なくなった。だがオフの時は、つけ爪なんかをしてネイルを楽しんでいる。それにつけまつげもやめられない。思いっきり派手で、思いっきり色彩を楽しみたいと思うから。
「一馬さんも地味なのが好きなの?」
すると一馬は首を横に振った。
「いいや。外見のこだわりは無い。派手だろうと地味だろうと、大事なのは中身だと思うから。」
「中身ねぇ……。ねぇ姉さん。本当に母さんのことって嘘だと思う?」
すると響子は、咳払いをしていった。
「あなたは私をそんなに嘘つきにしたいの?」
「そうじゃないけどさ。」
「何なら聞いてみようか。母さんの浮気相手の子供に。」
「え?」
「はっきりしたの。相手が。」
優斗はそれを見ていた。だから肉親すら信じられないのだという。被害者は、ここにも居たのだ。
「ねぇ。もうすぐ終電が出る時間じゃない?」
夏子がそう言うと、圭太も時計に目をやる。
「そうだな。明日も仕事だし……。お前ら帰るか?」
「四人で4Pでもする?」
夏子の言葉に圭太はため息をついた。やはり少し夏子はずれたところがあるのだ。
「そんなことをするわけがないだろう。」
「あたし、興味はあるんだよね。」
夏子は立ち上がると、一馬を見上げる。だが一馬の方は全く関心がなさそうだ。
「そんなところで兄弟になってもな。」
「すでに兄弟じゃない。あたしと姉さんも姉妹だけど。」
「姉妹?」
「竿姉妹。まぁ、AVの世界なんかいれば、竿姉妹や穴兄弟なんてゴロゴロ居るけどね。」
AV女優というのは今は沢山居るようだ。企画女優まで含めると、相当な数になる。その割に男優は少ない。それ一本で生活が出来る人だって限られるのだろう。
「本当にあんたは響子の妹なのか。響子は……。」
「真面目だもんねぇ。あたしと違って。お祖父さんにも真二郎にも守られてて、羨ましいわ。」
「その分、母さんには風当たりが強かったわ。」
「母さん。いまだに言っているよ。姉さんが進んで男の車に乗り込んだんじゃないかって。体の傷跡とか火傷の跡とかあれば、いくら姉さんが男好きでも男が引くだろうって思っているみたい。」
まだそんなマスコミの噂を信じているのだろうか。勝手に想像して、響子を中学生にして淫乱な女に仕立て上げたそれを、まだ根に持っている。
「だから母さんとはわかり合えない。守ってくれるべき親がそんな風だもの。」
「でも姉さんが嘘をついたって疑うのも、わからないでもないよ。」
「……え?」
すると夏子は呆れたように言う。
「姉さんは虚言癖があるっていってたから。」
「それって……。」
虚言癖の言葉に、一馬と圭太は驚いて響子を見る。嘘とか誤魔化しというのを一番嫌がりそうなのに、まさか響子が嘘をついていたのかと思ったのだ。
「虚言癖?」
圭太は思わずそれを繰り返した。だが一馬はすぐに首を横に振って言う。
「それは無いだろう。」
「あら?あなたは姉さんを信じるの?」
「俺とのことは仕方が無いと思う。響子も俺もずっと嘘をついていた。オーナーの……いや、圭太さんの前に立つたびに俺も響子も苦しかったと思う。」
「それはあなたが思っていただけじゃ無くて?」
「いいや。響子はうなされることがあるんだ。」
「一馬。やめて。」
響子はそれを止める。言われたくなかったからだ。だが一馬はその言葉を続ける。
「……拉致をされたときの記憶もあるのだと思うが、うなされるとき謝罪の言葉を言うときがある。それはあんたに対してた。」
悪いことをしたと思っている。だから響子は圭太に対して謝っていたのだ。圭太はその言葉に、ため息をついて携帯電話を手にした。
「駄目だな。この時点で俺は響子とは続けられない。」
「え?」
「……俺は疑ったけど、一馬さんは信じてた。俺も響子の母親と一緒なのかもしれない。響子の言葉よりも他人の言葉を真に受けた。誰よりも信じなければいけなかったのに。」
結局自分は変わっていない。真子に「子供が出来た」と言われたとき「俺の子供?」とつい言葉にしてしまったときと何も変わらなかった。
「タクシー呼ぶから、もう帰ってくれないか。」
携帯電話のメモリーを呼び出そうとした。だが手が震えている。認めたくなかったからだ。
「圭太……。」
思わず夏子は一緒に居たいと思い、圭太が座っているソファに近づく。だが圭太は首を横に振った。
「お前も帰れ。」
「だってこのままだったらあなたが死にそうだわ。」
「死なない。店があるから。自分で立ち上げて、響子や真二郎や功太郎を養わないといけないんだ。それを放置して死ねるか。」
強がりに聞こえ、一馬は口を出そうとした。だがそれに答えたのは響子の方で、その口調は冷めている。
「お店ってそんなに大事?」
「大事に決まっているだろう。」
「お店が無かったらあなたは死ぬの?」
「……。」
電話のメモリーを呼び出す手が止まった。そして響子を見上げる。
「私がもし味覚が無くなってコーヒーの味がわからなくなっても死なないわ。コーヒーを淹れるしか能が無くても、それだけはまれることが出来るなら他のことも出来ると思うから。」
すると一馬もそれに頷いた。
「俺もそうだな。もしベースが弾けなくなったら、土建会社にでも勤めよう。」
「土建?」
「一応資格はあるから。」
大学の時に音楽の片手間で取っていたモノだ。役立つときが無ければいいと思っていたし、いまだにそれが役立つときは無い。だがもし体に何かあれば、そうせざるえないだろう。
「俺は……。」
「逃げないで。真子さんを失った時のように。」
響子はそう言って圭太に背を向けた。
人通りはもうほとんど無い。終電は終わってしまった時間だし、この辺は住宅街で帰宅する人もそんなに居ないのだろう。
「姉さんにしては厳しい言葉だったよね。」
夏子はそう言ってヒールを鳴らしながら、二人の隣で歩く。
「オーナーは多分、ずっと逃げてたと思うから。」
「真子というのは誰のことだ。」
「オーナーの死んだ恋人だった人。」
写真でしか見たことの無い女だった。響子に似ていると信也の妻である小百合は言ったことがある。だがどこをどう見ても似ていない。そうやって波風を立てたい女だったのだろう。
「写真でなら見たことがある?どんな女だったの?」
「地味な子。体は小さそうに見えたわ。ショートボブくらいの髪型で……オーナーとは同じくらいの歳だと言っていたかな。」
「地味系が好きなのか。だったらあたしは無いのかもしれないな。」
「あなたも地味にしたら?」
「あたしが地味にしたら、あたしじゃ無くなる気がするから。」
夏子はそう言って自分の爪先を見る。人妻の役が多くなってきたので、あまり派手なネイルは出来なくなった。だがオフの時は、つけ爪なんかをしてネイルを楽しんでいる。それにつけまつげもやめられない。思いっきり派手で、思いっきり色彩を楽しみたいと思うから。
「一馬さんも地味なのが好きなの?」
すると一馬は首を横に振った。
「いいや。外見のこだわりは無い。派手だろうと地味だろうと、大事なのは中身だと思うから。」
「中身ねぇ……。ねぇ姉さん。本当に母さんのことって嘘だと思う?」
すると響子は、咳払いをしていった。
「あなたは私をそんなに嘘つきにしたいの?」
「そうじゃないけどさ。」
「何なら聞いてみようか。母さんの浮気相手の子供に。」
「え?」
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