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性癖
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港近くにあるライブハウスは大学の時に良く来ていた店で、日によっては飛び込みで客同士でセッションをしたりすることもある。それは「flipper」も同じだが、こちらの方がまだ規模が大きい。
それにジャンルもジャズにこだわっているわけではなく、フュージョンやスカのライブがあったりするのだ。
大学の時、月一でここでサークルのライブをした。学生だからと言ってハコ代はみんなで出し合い、それでも元が取れないだろうにオーナーは学生たちにノンアルコールの飲み物を一杯ずつギャラとして奢っていたのだ。
気の良いオーナーで、圭太がこの歳になってもまだ現役らしい。
「そろそろ代替わりだろうにな。あのオーナーはまだ息子に譲る気がないみたいだ。」
そういって同期は、ミキサーをいじっているオーナーの息子を見ていた。ツーブロックに刈り上げた髪型は特徴的で、頭の上の方で結べるほど長い。侍のように見える。
「お前は譲ってくれたのか?お父さんが。」
「親父は、渋ってたよ。親父の代で閉めたいと思ってたみたいだけど常連もいるし、何より活気づくって言われてさ。」
同期の家は、温泉街で風俗店をしている。小さい頃から男と女のあれこれを見過ぎていて若干麻痺しているところもあるが、大学の時に家を離れてジャズにはまりそこからまっとうな会社に着いたが、結局続けられなかった。
そして実家に帰り風俗店の手伝いをしていたが、父親が倒れたこともあって、そのあとを継いだのだという。
「何せ、温泉地だろ?俺の実家。温泉地イコール風俗とかストリップとかそんなのと直結するところもあるし。」
「それって田舎の消防団の旅行みたいな?」
「そうそう。あとほら土建会社とか。まぁ、女っ気がない職場だからそういうところにみんなで行くんだと思うけど。」
「女の子の質ってどうなんだ。」
すると同期は首を傾げる。
「質は悪くなってんな。若い子が良いって客がほとんどだけど、若いとテクはないし生でさせてくれっていう客を断れなかったりするし。」
「おばさんの方が良い?」
「俺は自身はおばさんが良いよ。テクはあるし、五分で発射。」
「早漏。」
「風俗なんてそれくらいで良いし。どうせ抜くだけじゃん。」
ステージの曲が終わり、ベースを置いた弥生が圭太たちに近づいてくる。
「圭太。旭。どうだった?さっきのアドリブ。」
「あー……。」
まさか風俗の話で盛り上がっていて、聴いていなかったなど言えない。旭と言われた男が何とか誤魔化そうとした。だが圭太がそれに言う。
「あのアドリブ。どこで習ったんだよ。」
「えー。ほらこの間、音楽番組で花岡さんがしてたのをちょっとアレンジしたの。」
「あれは花岡さんだから出来るの。」
「なんでー?」
「手の大きさが違うだろ?お前がしたらテンポが狂う。」
下世話な話をしていても、圭太はしっかり音楽を聴いていた。それに旭は感心したように圭太をみる。昔から圭太はこういうところがある。別の話をしていても、音楽だけはきちんと聴いているのだ。
「花岡さんって、瑞希の店の客?」
瑞希はさすがにこの年末で仕事を休めなかったのだ。だがこの店は、「flipper」よりも長く開店しているので、間に合えばこっちに来るらしい。
「プロ。」
「プロのベーシスト?どこで知り合ったんだよ。」
「瑞希の店でライブをしていて……。」
響子と気が合い、そのまま「clover」の常連になった。きっかけはそんなものだろう。
「「flower children」のベーシスト?すげぇじゃん。俺、あのキーボードはすごいと思うけど、あのベースもなかなかだよな。」
「あぁ。「flower children」の時よりもさらにうまくなっている感じがする。ほら、歌番組とか見たらたまーにバックで弾いてるの見るし。」
「目立つよね。あの髪型も体格も。」
旭は少し首を傾げて、思い出していることがある。その「flower children」について、思い出したことがあるのだ。
「なぁ、圭太。」
「ん?」
もう酒は止した方が良いと、ウーロン茶を飲んでいた圭太が旭に聞かれる。
「その花岡さんって人以外の「flower children」のメンツってこないのか?」
「見たこと無いな。あぁ。でもうちのバリスタが一度キーボードの人に会ったことがあるって言ってたっけ。」
「えー。響子ちゃん。良いなぁ。」
オレンジジュースを弥生は手にして、感嘆の声を上げた。
「弥生は花岡さんと会ってあれだけ舞い上がってたのに、キーボードの人も良いのか?」
「それとこれとは別じゃん。あたし、細身が好きだから。」
一馬は細身とは言い難い。がっちりした体格をしていて、アスリートのようだと思う。それに対してキーボードの男は細長くて、丸眼鏡。一馬が骨太な男だとしたら、キーボードの男は軽薄なイメージがある。
「サックスは?」
一番ちゃらくて、インタビューなんかやテレビ番組の時は、率先してインタビューに答える男だ。今は芸能人のように楽器を演奏しなくても見ることがある。
「あいつはもう芸能人だろ?こんな片隅の店になんか来ないって。」
「そっか……。うちの店の女の子がさ、そのサックスの男に騙されて、借金を負っているからここで働いているって言ってたと思って。」
「借金?」
「結構だらしない男みたいだな。女関係も、金も。ギャンブル癖があるし、結婚した奥さんだって子供が出来て堕胎したくないって言うから結婚した感じがあるし。」
「……。」
弥生と圭太は顔を見合わせて首を傾げる。
「サックスの男がそうだからって、別にベースの花岡さんがそうとは限らないだろ?」
「真面目そうに見えるけどね。」
「でも絶倫だって聞いたけど。」
その言葉に弥生が少し笑う。
「やだ。体が大きいから、あっちも大きいかもしれないって思うじゃない。それで絶倫なら、大変なことね。女の人だってアスリート並の体力がないと付いていけないかもしれないわ。」
圭太は咳払いをすると、ウーロン茶をまた手にする。
「とにかく花岡さんはそんな人に見えないけどな。借金とか女とか縁がなさそうだ。」
「まぁな。俺もまともには取ってないよ。こういう店の女の子は、まともなことをいう女ってあまり居ないし。」
旭と言われた男は、少し功太郎とかぶる。女なんてそんなものだという考えがあるからだ。そしてそれは響子もそうだと思う。響子もまた男は体しか見ていないという考え方があるからだ。
そんなものではない。そう思わせたかったのに、自分の欲望が夏子によってどんどん膨らんできそうだと思っていた。
それにジャンルもジャズにこだわっているわけではなく、フュージョンやスカのライブがあったりするのだ。
大学の時、月一でここでサークルのライブをした。学生だからと言ってハコ代はみんなで出し合い、それでも元が取れないだろうにオーナーは学生たちにノンアルコールの飲み物を一杯ずつギャラとして奢っていたのだ。
気の良いオーナーで、圭太がこの歳になってもまだ現役らしい。
「そろそろ代替わりだろうにな。あのオーナーはまだ息子に譲る気がないみたいだ。」
そういって同期は、ミキサーをいじっているオーナーの息子を見ていた。ツーブロックに刈り上げた髪型は特徴的で、頭の上の方で結べるほど長い。侍のように見える。
「お前は譲ってくれたのか?お父さんが。」
「親父は、渋ってたよ。親父の代で閉めたいと思ってたみたいだけど常連もいるし、何より活気づくって言われてさ。」
同期の家は、温泉街で風俗店をしている。小さい頃から男と女のあれこれを見過ぎていて若干麻痺しているところもあるが、大学の時に家を離れてジャズにはまりそこからまっとうな会社に着いたが、結局続けられなかった。
そして実家に帰り風俗店の手伝いをしていたが、父親が倒れたこともあって、そのあとを継いだのだという。
「何せ、温泉地だろ?俺の実家。温泉地イコール風俗とかストリップとかそんなのと直結するところもあるし。」
「それって田舎の消防団の旅行みたいな?」
「そうそう。あとほら土建会社とか。まぁ、女っ気がない職場だからそういうところにみんなで行くんだと思うけど。」
「女の子の質ってどうなんだ。」
すると同期は首を傾げる。
「質は悪くなってんな。若い子が良いって客がほとんどだけど、若いとテクはないし生でさせてくれっていう客を断れなかったりするし。」
「おばさんの方が良い?」
「俺は自身はおばさんが良いよ。テクはあるし、五分で発射。」
「早漏。」
「風俗なんてそれくらいで良いし。どうせ抜くだけじゃん。」
ステージの曲が終わり、ベースを置いた弥生が圭太たちに近づいてくる。
「圭太。旭。どうだった?さっきのアドリブ。」
「あー……。」
まさか風俗の話で盛り上がっていて、聴いていなかったなど言えない。旭と言われた男が何とか誤魔化そうとした。だが圭太がそれに言う。
「あのアドリブ。どこで習ったんだよ。」
「えー。ほらこの間、音楽番組で花岡さんがしてたのをちょっとアレンジしたの。」
「あれは花岡さんだから出来るの。」
「なんでー?」
「手の大きさが違うだろ?お前がしたらテンポが狂う。」
下世話な話をしていても、圭太はしっかり音楽を聴いていた。それに旭は感心したように圭太をみる。昔から圭太はこういうところがある。別の話をしていても、音楽だけはきちんと聴いているのだ。
「花岡さんって、瑞希の店の客?」
瑞希はさすがにこの年末で仕事を休めなかったのだ。だがこの店は、「flipper」よりも長く開店しているので、間に合えばこっちに来るらしい。
「プロ。」
「プロのベーシスト?どこで知り合ったんだよ。」
「瑞希の店でライブをしていて……。」
響子と気が合い、そのまま「clover」の常連になった。きっかけはそんなものだろう。
「「flower children」のベーシスト?すげぇじゃん。俺、あのキーボードはすごいと思うけど、あのベースもなかなかだよな。」
「あぁ。「flower children」の時よりもさらにうまくなっている感じがする。ほら、歌番組とか見たらたまーにバックで弾いてるの見るし。」
「目立つよね。あの髪型も体格も。」
旭は少し首を傾げて、思い出していることがある。その「flower children」について、思い出したことがあるのだ。
「なぁ、圭太。」
「ん?」
もう酒は止した方が良いと、ウーロン茶を飲んでいた圭太が旭に聞かれる。
「その花岡さんって人以外の「flower children」のメンツってこないのか?」
「見たこと無いな。あぁ。でもうちのバリスタが一度キーボードの人に会ったことがあるって言ってたっけ。」
「えー。響子ちゃん。良いなぁ。」
オレンジジュースを弥生は手にして、感嘆の声を上げた。
「弥生は花岡さんと会ってあれだけ舞い上がってたのに、キーボードの人も良いのか?」
「それとこれとは別じゃん。あたし、細身が好きだから。」
一馬は細身とは言い難い。がっちりした体格をしていて、アスリートのようだと思う。それに対してキーボードの男は細長くて、丸眼鏡。一馬が骨太な男だとしたら、キーボードの男は軽薄なイメージがある。
「サックスは?」
一番ちゃらくて、インタビューなんかやテレビ番組の時は、率先してインタビューに答える男だ。今は芸能人のように楽器を演奏しなくても見ることがある。
「あいつはもう芸能人だろ?こんな片隅の店になんか来ないって。」
「そっか……。うちの店の女の子がさ、そのサックスの男に騙されて、借金を負っているからここで働いているって言ってたと思って。」
「借金?」
「結構だらしない男みたいだな。女関係も、金も。ギャンブル癖があるし、結婚した奥さんだって子供が出来て堕胎したくないって言うから結婚した感じがあるし。」
「……。」
弥生と圭太は顔を見合わせて首を傾げる。
「サックスの男がそうだからって、別にベースの花岡さんがそうとは限らないだろ?」
「真面目そうに見えるけどね。」
「でも絶倫だって聞いたけど。」
その言葉に弥生が少し笑う。
「やだ。体が大きいから、あっちも大きいかもしれないって思うじゃない。それで絶倫なら、大変なことね。女の人だってアスリート並の体力がないと付いていけないかもしれないわ。」
圭太は咳払いをすると、ウーロン茶をまた手にする。
「とにかく花岡さんはそんな人に見えないけどな。借金とか女とか縁がなさそうだ。」
「まぁな。俺もまともには取ってないよ。こういう店の女の子は、まともなことをいう女ってあまり居ないし。」
旭と言われた男は、少し功太郎とかぶる。女なんてそんなものだという考えがあるからだ。そしてそれは響子もそうだと思う。響子もまた男は体しか見ていないという考え方があるからだ。
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