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ブレスレット
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良い店だと思ったが、響子を連れてくるのは難しいかもしれない。響子は口にしないモノがあるからだ。食べれないモノは少ないが、それも条件による。キムチなどのニンニクの利いたモノも、スパイスの利いたモノも次の日は仕事なら口にしないのだ。
年末にしようとしていた忘年会も、結局忙しさにかまけて出来なかった。新年会の形で年が明けたらする事にするし、そのときも鍋にしようと思うがチゲ鍋なんかは出せない。圭太はその辛さが好きなのに。
「美味しかったですね。カレー。」
また黄色のコートに袖を通した加奈子がそう言って笑っていた。こうしてみると真子とは違うが、綺麗な女だと思う。もしも響子と出会ってなければ、こういう女と一緒になると楽だったかもしれない。
いや。違う。響子がいたから真子を忘れることが出来たのだ。加奈子ではそれが出来なかったかもしれない。
「そうですね。本格的なカレーだった。俺、辛いのが好きだから。」
「口の中がまだひりひりするみたい。」
顔を赤くしてカレーを口にしていた加奈子もまた可愛らしいと思う。自分でカレーが良いと言っておきながら、あまりにも辛いモノは苦手らしい。
「少し歩きますか。ほら、そこの公園で屋台がでている。」
「平日なのに屋台なんて。」
「ビジネスマンを狙ったテイクアウトの屋台ですね。甘いモノもありますよ。」
「本当ですか。行きましょう。」
甘いモノは苦手だが、加奈子が望むならそれでも良い。そう思いながら、圭太は二人で並んで公園の中を歩く。
屋台には珍しいお菓子を売っていたり、飲んだことのないような飲み物を売っているところもあるが主は弁当らしい。変わったところではローストビーフ丼なんて言うモノもあったり、ケバブを売っているところもあった。
「本格的なケバブですね。知ってますか。こうお肉をナイフで削いで食べるんです。」
「パンに挟んで食べるものですよね。これも香辛料がよく利いていそうだ。ここまで香りが漂ってくる。」
カレーを食べたばかりで入らないが、こういうモノも響子が好きだろうか。真子なら真っ先に飛びついていったと思うが、響子は興味はあるのだが口にはしないだろう。
「あ……。」
片隅に手作りだろうというアクセサリーを売っている屋台があった。何かの石を組み込まれた銀の指輪や、ネックレス。またはシルバーの指輪や革のブレスレットなんかもある。
「可愛い。」
「一つどうですか。」
「あー……。可愛いけれど、ピアノの仕事の時は手先は邪魔になるからつけないことにしているんです。でも良いなぁ。」
加奈子が手にしたのは、クローバーをモチーフにした深い青の石が付いたブレスレットだった。
「ネックレスはないですか?」
すると浅黒い肌をした女性が、片言の言葉で言う。
「ハンドメイドで、作ってる。同じものない。」
ハンドメイドであれば、ネックレスなどは難しいだろう。すると圭太はそれを手にして、加奈子の手首につける。
「よく似合ってますよ。これいくらですか。」
「新山さん。そんなこと……。」
「良いんです。たまには。」
すると女性は金額を言って、その通りに圭太は支払う。
「良いんですか?」
「普段付けれないなら、たまにつけて楽しめばいいでしょう?装飾品ってそんなものですよ。」
すると加奈子は少し笑って、そのブレスレットをみた。細い手首に良く合っているようだ。
「あ、CDの屋台がありますね。」
「行きたい。」
加奈子はそう言ってその屋台に近づく。するとそこにはCDだけではなく、レコードもあるようだ。ただし、店主の趣味が入っているのかジャンルは偏っているように見える。
「いらっしゃい。」
ドレッドヘアの男が声をかける。だが並んでいるCDはジャズが主だった。
「レゲエか何かかと思ったのに。」
圭太はそう言って、CDを一枚手にする。だがそれは圭太が持っていないお気に入りのアーティストのCDだった。今だったら配信なんかで手に入れられるかもしれないが、CDは貴重だ。手に入れるのも難しいだろう。値札を見るとその価値がわかっていないのだろうかと思う。
「マジで?」
「どうかしたのか。お客さん。」
「いいや……これをください。」
「はいよ。」
CDを袋に入れてもらい、金を払う。そして加奈子の方を見ると、加奈子は一枚のCDを手にしてぼんやりとしていた。
「牧田さん。」
声をかけると、加奈子はふと圭太の方を振り向く。
「あぁ。すいません。」
そのCDは「flower children」のものだった。一馬が在籍していたバンドで、ジャケットには今よりも少し髪が短いがやはり一つにして結んでいる一馬の姿が見えた。
「「flower children」ですか。」
「えぇ……。」
すると店主はため息を付いて言う。
「そのバンドはジャズなのか何なのかわかんねぇな。」
「は?」
圭太はそう言うと、店主は肩をすくませて言う。
「ロックよりでさ。でもロックの編成じゃないし、人気も長続きするとは思ってなかったよ。」
「……そうですか?こう言うのは流行っているんじゃないんですかね。」
「流行を作ったと言えば体は良いけどな。そんなんばっかりが今売れてて、スタンダードがさっぱりだ。」
「心配しなくても、一過性の流行ならまたスタンダードに戻ると思いますよ。」
「そうあればいいんだけどな。」
一馬のバンドは良くも悪くも、音楽業界に影響を受けたらしい。そしてその一馬は、バンドを組むのを今は拒否している。痛い目にあったからだ。
屋台を離れて、少し離れたベンチに腰掛けるとそのCDを取り出した。見たことのないモノだったので、かえってじっくり聴いても良い。圭太はそう思いながら、中の歌詞カードを取り出した。英語ではない言葉が連なっている。
「そのCDは持ってなかったんですか?」
「知らなかったです。こんなCDがあんな安い値で売ってると思ってなかった。」
「「flower children」のCDもあれはインディーズで出したCDだったんです。」
「え?」
「今じゃ手に入らなかっただろうなと思ってました。」
「買わなくて良かったんですか?」
「今は大丈夫です。って言うか……今は辛いから。」
加奈子はぽつりという。
「……辛い?」
「花岡さんの顔を見るのが辛い。」
それは恋する女の顔だ。そして一馬から拒否されたのだろう。こんなにいい女なのに、一馬はどうして断ったのだろう。確か、彼女はいないといっていたのに。
「花岡さんは……フリーでしたよね。」
「いいえ。恋人がいると思います。でも……見たことはないですけど。いつも携帯電話で連絡を取り合うような相手がいるようです。」
その言葉に響子を思い出した。響子も最近ずっと携帯電話で誰かにメッセージを送っている。その相手がもしかしたら一馬ではないかと、圭太の頭の中で葛藤が始まった。
年末にしようとしていた忘年会も、結局忙しさにかまけて出来なかった。新年会の形で年が明けたらする事にするし、そのときも鍋にしようと思うがチゲ鍋なんかは出せない。圭太はその辛さが好きなのに。
「美味しかったですね。カレー。」
また黄色のコートに袖を通した加奈子がそう言って笑っていた。こうしてみると真子とは違うが、綺麗な女だと思う。もしも響子と出会ってなければ、こういう女と一緒になると楽だったかもしれない。
いや。違う。響子がいたから真子を忘れることが出来たのだ。加奈子ではそれが出来なかったかもしれない。
「そうですね。本格的なカレーだった。俺、辛いのが好きだから。」
「口の中がまだひりひりするみたい。」
顔を赤くしてカレーを口にしていた加奈子もまた可愛らしいと思う。自分でカレーが良いと言っておきながら、あまりにも辛いモノは苦手らしい。
「少し歩きますか。ほら、そこの公園で屋台がでている。」
「平日なのに屋台なんて。」
「ビジネスマンを狙ったテイクアウトの屋台ですね。甘いモノもありますよ。」
「本当ですか。行きましょう。」
甘いモノは苦手だが、加奈子が望むならそれでも良い。そう思いながら、圭太は二人で並んで公園の中を歩く。
屋台には珍しいお菓子を売っていたり、飲んだことのないような飲み物を売っているところもあるが主は弁当らしい。変わったところではローストビーフ丼なんて言うモノもあったり、ケバブを売っているところもあった。
「本格的なケバブですね。知ってますか。こうお肉をナイフで削いで食べるんです。」
「パンに挟んで食べるものですよね。これも香辛料がよく利いていそうだ。ここまで香りが漂ってくる。」
カレーを食べたばかりで入らないが、こういうモノも響子が好きだろうか。真子なら真っ先に飛びついていったと思うが、響子は興味はあるのだが口にはしないだろう。
「あ……。」
片隅に手作りだろうというアクセサリーを売っている屋台があった。何かの石を組み込まれた銀の指輪や、ネックレス。またはシルバーの指輪や革のブレスレットなんかもある。
「可愛い。」
「一つどうですか。」
「あー……。可愛いけれど、ピアノの仕事の時は手先は邪魔になるからつけないことにしているんです。でも良いなぁ。」
加奈子が手にしたのは、クローバーをモチーフにした深い青の石が付いたブレスレットだった。
「ネックレスはないですか?」
すると浅黒い肌をした女性が、片言の言葉で言う。
「ハンドメイドで、作ってる。同じものない。」
ハンドメイドであれば、ネックレスなどは難しいだろう。すると圭太はそれを手にして、加奈子の手首につける。
「よく似合ってますよ。これいくらですか。」
「新山さん。そんなこと……。」
「良いんです。たまには。」
すると女性は金額を言って、その通りに圭太は支払う。
「良いんですか?」
「普段付けれないなら、たまにつけて楽しめばいいでしょう?装飾品ってそんなものですよ。」
すると加奈子は少し笑って、そのブレスレットをみた。細い手首に良く合っているようだ。
「あ、CDの屋台がありますね。」
「行きたい。」
加奈子はそう言ってその屋台に近づく。するとそこにはCDだけではなく、レコードもあるようだ。ただし、店主の趣味が入っているのかジャンルは偏っているように見える。
「いらっしゃい。」
ドレッドヘアの男が声をかける。だが並んでいるCDはジャズが主だった。
「レゲエか何かかと思ったのに。」
圭太はそう言って、CDを一枚手にする。だがそれは圭太が持っていないお気に入りのアーティストのCDだった。今だったら配信なんかで手に入れられるかもしれないが、CDは貴重だ。手に入れるのも難しいだろう。値札を見るとその価値がわかっていないのだろうかと思う。
「マジで?」
「どうかしたのか。お客さん。」
「いいや……これをください。」
「はいよ。」
CDを袋に入れてもらい、金を払う。そして加奈子の方を見ると、加奈子は一枚のCDを手にしてぼんやりとしていた。
「牧田さん。」
声をかけると、加奈子はふと圭太の方を振り向く。
「あぁ。すいません。」
そのCDは「flower children」のものだった。一馬が在籍していたバンドで、ジャケットには今よりも少し髪が短いがやはり一つにして結んでいる一馬の姿が見えた。
「「flower children」ですか。」
「えぇ……。」
すると店主はため息を付いて言う。
「そのバンドはジャズなのか何なのかわかんねぇな。」
「は?」
圭太はそう言うと、店主は肩をすくませて言う。
「ロックよりでさ。でもロックの編成じゃないし、人気も長続きするとは思ってなかったよ。」
「……そうですか?こう言うのは流行っているんじゃないんですかね。」
「流行を作ったと言えば体は良いけどな。そんなんばっかりが今売れてて、スタンダードがさっぱりだ。」
「心配しなくても、一過性の流行ならまたスタンダードに戻ると思いますよ。」
「そうあればいいんだけどな。」
一馬のバンドは良くも悪くも、音楽業界に影響を受けたらしい。そしてその一馬は、バンドを組むのを今は拒否している。痛い目にあったからだ。
屋台を離れて、少し離れたベンチに腰掛けるとそのCDを取り出した。見たことのないモノだったので、かえってじっくり聴いても良い。圭太はそう思いながら、中の歌詞カードを取り出した。英語ではない言葉が連なっている。
「そのCDは持ってなかったんですか?」
「知らなかったです。こんなCDがあんな安い値で売ってると思ってなかった。」
「「flower children」のCDもあれはインディーズで出したCDだったんです。」
「え?」
「今じゃ手に入らなかっただろうなと思ってました。」
「買わなくて良かったんですか?」
「今は大丈夫です。って言うか……今は辛いから。」
加奈子はぽつりという。
「……辛い?」
「花岡さんの顔を見るのが辛い。」
それは恋する女の顔だ。そして一馬から拒否されたのだろう。こんなにいい女なのに、一馬はどうして断ったのだろう。確か、彼女はいないといっていたのに。
「花岡さんは……フリーでしたよね。」
「いいえ。恋人がいると思います。でも……見たことはないですけど。いつも携帯電話で連絡を取り合うような相手がいるようです。」
その言葉に響子を思い出した。響子も最近ずっと携帯電話で誰かにメッセージを送っている。その相手がもしかしたら一馬ではないかと、圭太の頭の中で葛藤が始まった。
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