彷徨いたどり着いた先

神崎

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修羅場

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 毎年クリスマスイブに予約してくる女性客の相手が終わり、タクシーでアパートに帰ってきた。一階のアダルトショップも二階のイメクラもまだ開いているようだ。そう思いながら、真二郎は階段を上がろうとした。そのとき、一階の店員が入り口から出てくる。
「真さん。」
 真二郎の姿が見えたので、声をかけたのだろう。若い男だった。
「どうしたの。」
 男の事は知っている。大学へ行きながら、夜のバイトとしてここにいるのだ。
「ちょっと相談があって。」
「相談?聞かれても良い話?」
「いいっす。」
 可愛らしい男の子で、真二郎のストライクではない。だがこういう無理して背伸びしたタイプもたまには悪くない。
「この間、彼女と……。」
 恋人が居るらしい男は童貞ではなかったが、恋人が出来てこの間やっとセックスが出来ると思ったらしい。だが彼女の性器が小さいのか、自分のモノが大きいのかわからないが、上手く入らなかったらしい。
「すげぇ痛がって。」
「処女?」
「じゃないんですけどね。」
 響子の処女を奪った男は未だに捕まっていない。だがそれを見ていた男が捕まり、その証言によると響子は痛がっていたがそれとは裏腹にすんなりとそこは男のモノをくわえ込んだらしいのだ。
 それに徐々に響子も感じてきたので、結果的には和姦だと主張してきた。あり得ないと思う。
「真さん?」
 そのことを思い出すと吐き気がしそうだ。だが真二郎はすぐに我を取り戻し、男に言う。
「前戯、どれくらいしてる?」
 あらかたのことを聞いて、アドバイスをする。男の事しかアドはいすは出来ないと思っていた人も多いが、こうやって女の子とも話はすることが出来るのだ。
「ローション……。」
「あるだろ?店に。」
「買ってみます。ありがとう。あ、ちょっと待ってください。」
 そういって男は店に入り、再び戻ってきたときには手にはこのようなモノが握られていた。
「これ。良かったら。試供品ですけど。」
「コンドーム?」
「店長が来た客に今日は付けてやれって言ってたけど、今日は閑古鳥だし。」
「だろうね。ありがとう。男相手でも女相手でも必要だから助かるよ。」
「イチゴ味だそうですよ。」
「ふーん。」
 人工のイチゴの味だ。こんなモノが響子が喜ぶとは思えないが、それをバッグの中に入れて階段を上がっていく。
 響子は今日、圭太の所にいるのだろうか。夕べもあまり寝れていなかったようなのに、今日も圭太に付き合っているとしたらあまりにも可哀想だ。
 ちょっと脅した方が良いかもな。
 真二郎はそう思いながら、玄関のドアの鍵を開ける。すると玄関には見覚えのある靴があった。響子が居るのだろう。急いで靴を脱ぎ、ベッドルームへ向かう。すると寝息が聞こえた。薄暗い部屋の中で、響子は布団にくるまって寝ているようだ。
「良く返したな。」
 イベントごとにはこだわるようなのに、どうしてあっさり家に返したのだろう。そう思いながら、ベッドに近づく。相変わらず壁に向かって丸まるようにしながら、眠っているようだ。よく眠っている。
 ベッドに腰掛けて顔にかかっている髪を避けた。いつだったか、そこに字のようなモノが付いていた。それは明らかにキスマークで、圭太以外の人に付けられたように見える。
 誰に付けられたのだろう。功太郎なのか。一馬なのか。それとも自分の知らないところで、響子が何かをしているのだろうか。
 だが今日は何もない。大人しく家に帰ってきたのだろう。そう思って、ベッドから立ち上がる。ベッドサイドには充電している携帯電話と、何か小さいモノがある。それを良く見ると、そこにはブレスレットある。細いチェーンのモノで、モチーフには緑色の宝石のようなモノがはめ込まれていた。
「これは……。」
 圭太からではない。圭太は響子が装飾品が苦手だと知っている。こんなモノを送ることはないと思っていた。
 だったら誰がこんなモノを響子に送ったのだろう。

 響子が目を覚ますと、背中に温かいモノがあるのに気が付いた。振り返るとそこには真二郎の姿がある。
「……真二郎。」
 着衣の乱れはない。ただ寄り添って寝ていただけだろう。響子はため息を付くと、体を起こそうとした。だが真二郎の手が響子の手首を掴んで離そうとしない。
「……全く……。」
 夕べも遅かったのだろう。少し眠らせてやりたいが、自分は起きたい。麻のランニングへ行きたいのだ。
「真二郎。いったん離して。」
 だが手首を掴む力は強くなる。それに気が付いて、響子はあきれたように真二郎に言う。
「起きてるんでしょう?」
 すると真二郎は少し笑って目を開ける。
「寝てて良いわ。私走ってくるから。」
「走る先に、誰か居るの?」
「え?」
 真二郎はそういってベッドサイドに置いていたブレスレットを手にする。
「……誰にもらったの?オーナーじゃないよね。」
 最近、真二郎はこうして一緒のベッドで寝ることは少なくなった。だから安心して、一馬からのプレゼントを置いていたのだがそれが裏目に出た。
 響子は少し舌打ちをすると、そのブレスレットを手にする。
「……まだ言えないわ。」
「響子。良いモノがあるんだ。」
 真二郎はベッドから起きて、リビングへ向かう。そして再びベッドルームへやってきたとき、手に小さな箱を持っていた。
「これ、あげるよ。」
 それはコンドームだった。響子はそれを手にすると首を横に振った。
「いらない。オーナーはこだわりがあるみたいだから。」
「いいの?イチゴ味みたいだけど。」
「大丈夫だから。」
 そういって響子はそれを真二郎に返すと、クローゼットからジャージを取り出した。
「あなたはもう少し寝れるでしょう?私、走ってくるから。」
 真二郎はまだ寝ようとしない。その様子にあきらめて、響子はそのジャージを手にバスルームへ向かおうとした。そのとき、響子の背後から手が伸びた。
「何……。」
 背中から抱き寄せられる。それは真二郎の温かさだった。
「俺にもクリスマスプレゼントが欲しいよ。」
「や……。何を言っているの。」
 響子は真二郎をふりほどいて、その様子を見上げる。それはいつもの真二郎とは違うように思えた。ただ響子が欲しいというだけに思えて、思わず後ずさりをする。
「駄目だから……。」
「だったら正直に言って。」
「え?」
「響子のオーナー以外の相手って誰?」
 洗面所のドアに背中が付いてしまった。これ以上下がれない。徐々に真二郎の体が、響子に近づいてくる。もう抱きしめられるほど近く、真二郎は膝を折って響子の顔を持ち上げようとした。
「や……。」
「だったら正直に言って。」
 肩を押さえつけられ、顎をもたれる。唇に吐息がかかってきた。響子はそれに思わず、首を横に振って言う。
「こんな強引なことはしない人。あなたとは違うの。」
 だが真二郎はその顎を持ち直すと、名前を言わなかったと響子の唇に唇を重ねた。
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