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修羅場
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クリスマスイブの直前になると、その材料がキッチンを所狭しと占領する。倉庫にはケーキを入れる箱で一杯だ。みんながそれを暇を見て組み立てていく。
そんな中、真二郎は出来上がったケーキを切り分けていく。そしてそれをまとめて一つの箱に入れていくのだ。
「なぁ、一つくらい余らないか?」
功太郎は相変わらずそのケーキに釘付けだ。「clover」にはショートケーキなどない。だが望まれればどんなケーキでも作る。真二郎が作るショートケーキは、当然のようにコンビニなんかで売っている手軽なものではないのだから。
「ダメ。ダメ。数はきっちり作ってあるんだから。」
「ケチ。」
フィルムを張りながら功太郎は頬を膨らませる。コレは今日、夏子たちAV女優のイベントに使うもので、前々から予約されていたものだ。
フロアからは圭太の声が聞こえる。
「申し訳ございません。もうクリスマスケーキの予約は終わっていまして。」
「でもここのを楽しみにしていたのよ。一つくらいどうにかならないかしら。」
「そうですね。余分は作る予定なので、午前中であればそれをお渡しすることは出来ますが。」
「何時に開店するの?」
去年もそういって余分は焼いておいたが、結局完売した。ケーキが手に入らなかった客は、他のケーキを買ったり一ピースのケーキを買ったりしていてそれでも何とかなったものだ。
「あれだな。余分ってやっぱり焼かないといけないよな。」
「そうだね。今日で予約の分は作っておく予定だけど、明日は早く来て、また余分を焼く。」
「今日は帰れるのかね。」
「クリスマスイブに帰ろうと思ってるの?」
その言葉に功太郎は肩をすくませた。明日はクリスマスイブだ。今日だってどうなるかわからないが、去年のように圭太の家で雑魚寝をするようなことはないだろう。今年は自分の家だってあるのだから。
「真二郎はホテル取ったんだっけ?」
「あぁ。ビジネスホテルでね。」
「盛るなよ。」
「どうかな。功太郎こそ、明日は起きれるか怪しいな。ここに来なきゃ、今度こそアナ○を拡張するからね。」
「げぇ。勘弁してくれよ。」
相変わらず真二郎と功太郎がキッチンにいると、下ネタが多いな。響子はそう思いながら、呆れたようにコーヒーをカップに注ぎ、ケーキを皿に盛りつけるとアイスやソース、そして冷凍のベリーを添えた。それを二つ用意する。
「はい。三番。チーズケーキとブレンドがツー。」
「ありがとう。」
そういって俊は慣れた手つきでそれをトレーに乗せるとテーブルへ向かっていく。その間、響子はホットショコラが入った鍋をかき混ぜた。
「あー。明日の朝は客がめっちゃ来るかもな。」
「覚悟してないとね。」
圭太は口を尖らせて、カレンダーを見る。
「だいたい、こんな直前にケーキをくれってのもな。予約なんてどこの店でも直前にはもう受け付けてないだろうに。」
「それでもここならやってくれるかもって思われてる。感謝しなきゃね。」
「あぁ。そうだな。」
店内は忙しさのピークを過ぎている。テーブル席はあまり人が入っていないようだ。
「オーナー。ケーキ出来たよ。」
真二郎はキッチンから顔をのぞかせて圭太にそういう。それだけでその店内の女性客が色めき立った。こういう客も多いのはありがたい。
「じゃあ、功太郎がフロアに入って良いか?片づけとかは?」
「大丈夫。何とかやれるよ。今は明日の仕込みが出来るくらい落ち着いているし。」
「響子は手があけばキッチンを手伝ってやって。フロアもな。まぁ、見ながら動けばいいから。」
「わかったわ。」
響子は基本、カウンターからそれほど出てこない。だが一人いなければそれぞれがそれぞれをカバーする。
「俊君が帰る時間までには帰ってきてよ。」
「そこまでかかんねぇよ。」
功太郎がケーキの箱を重そうに持ってきた。ピザが入っているような箱にぎっちりとケーキが詰まっている。それをカウンターに置いた。
「一つくらい余らないかと思ったのに、ぜんぜん余んねぇの。つまんねぇ。ここショートケーキなんかないから、真二郎のショートケーキってどんなのか知りたかったのに。」
「まぁ、普通ではないよね。」
真二郎がそういうが、圭太はあまり興味がなさそうにバックヤードから車の鍵を持ってきた。
「帰りに飯を買って帰るわ。」
「夜ご飯?」
「当たり前だろ。今日、帰るつもりか?」
その会話に俊はぞっとした。俊はここに泊まることはないし、きちんと定時で帰らせてくれるが、他の人たちは泊まるつもりなのだろうか。
「じゃあ、よろしくな。」
俊がドアを開けて上げて、圭太は一抱えあるそのケーキの箱を持って出て行く。
「泊まるんですか?」
俊がおそるおそる響子に聞くと、響子も肩をすくませた。
「そうね。去年はみんなでオーナーの家に雑魚寝をしたけど。今年は帰れるかしらね。真二郎はビジネスホテルを取っているけれど、そこに泊まれるのかしらね。」
「そんなに忙しいモノなんですか。」
「洋菓子屋が、クリスマスイブに忙しくないわけがないわ。さ、ホットショコラがスリー。一番ね。」
「ありがとう。」
俊はそういってカップをトレーに乗せて、テーブルへ向かっていった。すると後ろから功太郎が戻ってくる。
「オーダーって入ってる?」
「えぇ。今からバナナミルクと、ブレンド。あ、会計ね。行ってくれる?」
「あぁ。ありがとうございます。」
功太郎はそういってレジへ向かって、伝票を受け取った。
一時期、功太郎は響子が好きだとだいぶ迫ってきたこともあった。だが最近はそれもない。功太郎も何か思うことがあるのだろうか。それは香が原因なのかもしれない。
明らかに香を意識しているのに、本人が認めようとしない。それは香がまだ小学生だからということだろうか。
響子も香には少し気がかりなことがある。母親が父親以外の人とセックスをしていたのを「悪い」とは教わっていないことだ。響子自身も幼い頃そう思っていたことがある。
小学生の時、体調が悪くなって早く家に帰ってきたときだった。母親が父親ではない誰かとセックスをしていたのを偶然見てしまったのだ。
「……。」
見て見ぬ振りをしようとした。だがそれは出来なくて、響子は母親にそれを聞いたことがある。だが母親はその時「響子に虚言癖がある」と言い放ったのだ。
その時から母親とは一枚の壁があるように思えた。
そんな中、真二郎は出来上がったケーキを切り分けていく。そしてそれをまとめて一つの箱に入れていくのだ。
「なぁ、一つくらい余らないか?」
功太郎は相変わらずそのケーキに釘付けだ。「clover」にはショートケーキなどない。だが望まれればどんなケーキでも作る。真二郎が作るショートケーキは、当然のようにコンビニなんかで売っている手軽なものではないのだから。
「ダメ。ダメ。数はきっちり作ってあるんだから。」
「ケチ。」
フィルムを張りながら功太郎は頬を膨らませる。コレは今日、夏子たちAV女優のイベントに使うもので、前々から予約されていたものだ。
フロアからは圭太の声が聞こえる。
「申し訳ございません。もうクリスマスケーキの予約は終わっていまして。」
「でもここのを楽しみにしていたのよ。一つくらいどうにかならないかしら。」
「そうですね。余分は作る予定なので、午前中であればそれをお渡しすることは出来ますが。」
「何時に開店するの?」
去年もそういって余分は焼いておいたが、結局完売した。ケーキが手に入らなかった客は、他のケーキを買ったり一ピースのケーキを買ったりしていてそれでも何とかなったものだ。
「あれだな。余分ってやっぱり焼かないといけないよな。」
「そうだね。今日で予約の分は作っておく予定だけど、明日は早く来て、また余分を焼く。」
「今日は帰れるのかね。」
「クリスマスイブに帰ろうと思ってるの?」
その言葉に功太郎は肩をすくませた。明日はクリスマスイブだ。今日だってどうなるかわからないが、去年のように圭太の家で雑魚寝をするようなことはないだろう。今年は自分の家だってあるのだから。
「真二郎はホテル取ったんだっけ?」
「あぁ。ビジネスホテルでね。」
「盛るなよ。」
「どうかな。功太郎こそ、明日は起きれるか怪しいな。ここに来なきゃ、今度こそアナ○を拡張するからね。」
「げぇ。勘弁してくれよ。」
相変わらず真二郎と功太郎がキッチンにいると、下ネタが多いな。響子はそう思いながら、呆れたようにコーヒーをカップに注ぎ、ケーキを皿に盛りつけるとアイスやソース、そして冷凍のベリーを添えた。それを二つ用意する。
「はい。三番。チーズケーキとブレンドがツー。」
「ありがとう。」
そういって俊は慣れた手つきでそれをトレーに乗せるとテーブルへ向かっていく。その間、響子はホットショコラが入った鍋をかき混ぜた。
「あー。明日の朝は客がめっちゃ来るかもな。」
「覚悟してないとね。」
圭太は口を尖らせて、カレンダーを見る。
「だいたい、こんな直前にケーキをくれってのもな。予約なんてどこの店でも直前にはもう受け付けてないだろうに。」
「それでもここならやってくれるかもって思われてる。感謝しなきゃね。」
「あぁ。そうだな。」
店内は忙しさのピークを過ぎている。テーブル席はあまり人が入っていないようだ。
「オーナー。ケーキ出来たよ。」
真二郎はキッチンから顔をのぞかせて圭太にそういう。それだけでその店内の女性客が色めき立った。こういう客も多いのはありがたい。
「じゃあ、功太郎がフロアに入って良いか?片づけとかは?」
「大丈夫。何とかやれるよ。今は明日の仕込みが出来るくらい落ち着いているし。」
「響子は手があけばキッチンを手伝ってやって。フロアもな。まぁ、見ながら動けばいいから。」
「わかったわ。」
響子は基本、カウンターからそれほど出てこない。だが一人いなければそれぞれがそれぞれをカバーする。
「俊君が帰る時間までには帰ってきてよ。」
「そこまでかかんねぇよ。」
功太郎がケーキの箱を重そうに持ってきた。ピザが入っているような箱にぎっちりとケーキが詰まっている。それをカウンターに置いた。
「一つくらい余らないかと思ったのに、ぜんぜん余んねぇの。つまんねぇ。ここショートケーキなんかないから、真二郎のショートケーキってどんなのか知りたかったのに。」
「まぁ、普通ではないよね。」
真二郎がそういうが、圭太はあまり興味がなさそうにバックヤードから車の鍵を持ってきた。
「帰りに飯を買って帰るわ。」
「夜ご飯?」
「当たり前だろ。今日、帰るつもりか?」
その会話に俊はぞっとした。俊はここに泊まることはないし、きちんと定時で帰らせてくれるが、他の人たちは泊まるつもりなのだろうか。
「じゃあ、よろしくな。」
俊がドアを開けて上げて、圭太は一抱えあるそのケーキの箱を持って出て行く。
「泊まるんですか?」
俊がおそるおそる響子に聞くと、響子も肩をすくませた。
「そうね。去年はみんなでオーナーの家に雑魚寝をしたけど。今年は帰れるかしらね。真二郎はビジネスホテルを取っているけれど、そこに泊まれるのかしらね。」
「そんなに忙しいモノなんですか。」
「洋菓子屋が、クリスマスイブに忙しくないわけがないわ。さ、ホットショコラがスリー。一番ね。」
「ありがとう。」
俊はそういってカップをトレーに乗せて、テーブルへ向かっていった。すると後ろから功太郎が戻ってくる。
「オーダーって入ってる?」
「えぇ。今からバナナミルクと、ブレンド。あ、会計ね。行ってくれる?」
「あぁ。ありがとうございます。」
功太郎はそういってレジへ向かって、伝票を受け取った。
一時期、功太郎は響子が好きだとだいぶ迫ってきたこともあった。だが最近はそれもない。功太郎も何か思うことがあるのだろうか。それは香が原因なのかもしれない。
明らかに香を意識しているのに、本人が認めようとしない。それは香がまだ小学生だからということだろうか。
響子も香には少し気がかりなことがある。母親が父親以外の人とセックスをしていたのを「悪い」とは教わっていないことだ。響子自身も幼い頃そう思っていたことがある。
小学生の時、体調が悪くなって早く家に帰ってきたときだった。母親が父親ではない誰かとセックスをしていたのを偶然見てしまったのだ。
「……。」
見て見ぬ振りをしようとした。だがそれは出来なくて、響子は母親にそれを聞いたことがある。だが母親はその時「響子に虚言癖がある」と言い放ったのだ。
その時から母親とは一枚の壁があるように思えた。
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