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裏切り
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前座のバンドも、悪くはなかった。そして「flipper's」のライブになり、響子は目を輝かせていた。
重低音の利いたベースとドラム。高い声でシャウトをするボーカル。技術を惜しみなく発揮するギター。体全体を使って弾くキーボード。そしてその音を上手くまとめているのが、ターンテーブルやミキサーを操っているDJ。
外国のアーティストが来日してライブをするとき、この小さな国だからといって手を抜くようなバンドも多い。それはこの国のバンドもそうだ。地方にツアーで回っていても、田舎だからといって手を抜くバンドもある。そういうバンドは徐々に売れなくなったりするものだが、「flipper's」に関してはそんな風に聞こえなかった。
トークをしていても拾いながら聞く言葉の端々に、この国の言葉が聞き取れた。おそらく演奏の前に、習っていたのだろう。
そういうところにも好感が持てた。
アンコールは二曲。そのうちの一曲が響子が一番好きな曲で、響子はその曲を聴いたとたん飛び上がって嬉しがっていた。それを見て、一馬は少し笑う。確かに「flipper's」の演奏が聴きたくて、チケットを取ったのだが横でこんな風に喜んでもらえると誘ったかいがあったと思う。
「楽しいライブでした。外国の限定のCDも手に入ったし。」
「そうだな。あのベースはやはり生で聴くといい。あぁいう演奏をしたいと思うな。」
いつかどんなジャンルの曲を弾きたいんだと聞かれたことがある。そのときはぴんとこなかったが、自分が好きなのはこういう音楽なのだと実感できた。
ジャズは嫌いじゃない。それにずっとやっていたクラシックだって、嫌いではなかった。だが自分が好きなのはこういうハードロックなのかもしれない。
「事務所を変えるか。」
「え?」
帰る人たちが駅へ向かっている。その人並に紛れるようにある居ていた二人が、少し足を止める。そして一馬は携帯電話を取り出す。
「ここ最近、事務所がうるさくてな。」
「ジャズバンドには入れって話ですか?」
「あぁ。だがやはり俺が好きなのはジャズではないようだ。」
「……ロック?」
「そうみたいだ。」
すると響子はその手を止める。驚いて一馬は響子をみた。
「一時の感情ですよ。今日、「flipper's」のライブをみたからそう思っただけかもしれない。ロックをして、やはり違うって思うかもしれない。もっと時間を置くべきです。」
「しかし……このままでは、自分の本意ではないことをしないといけないかもしれないんだ。」
「それは嫌かもしれない。だけど、自分の意志で思うように人生を歩んできた人なんかほんの一握りですよ。」
「……。」
「祖父がそうでしたから。」
元々営業をしていた祖父が、好きで喫茶店をしていたというのだろうか。いや違う。祖父だってやらないといけなかったからしていた。そしてやるからには徹底的にコーヒーの味を追求した。それが一馬が在籍していたバンドを長生きさせたのだ。
「……年上みたいなことを言うな。」
「年上ですけど。」
「そうだった。ここは、人生の先輩に従うか。」
そういって一馬は携帯電話をしまった。そしてまた人波に沿うように歩き出そうとした。そのとき、一馬の携帯電話に着信が入る。携帯電話を再び取り出すと、その相手を見て響子の手を引くとわき道にそれた。
「もしもし?あぁ今は……そうだな、郵便局の前あたりだ。え?あぁ……別に良いが……うん。だったら待っておく。」
そういって一馬は携帯電話を切る。すると響子が不安げに一馬を見上げた。
「心配するな。裕太がこっちに向かっているだけだ。」
「裕太って……。天草さん?」
「あぁ。」
しばらくすると、ライブの前に会った格好と同じ格好の天草裕太がやってきた。
「一馬。悪い。待たせて。」
「良い席を持ってたんだ。出るのも時間がかかったんだろう?」
「そーだけどさ。ほら、Tシャツ買ってきてさ。」
そういって手に持っている袋から黒いシャツの入ったビニール袋を取り出す。
「それを来てライブか?」
「事務所から怒られそうだ。お前は買わなかったのか?」
「サイズが切れてた。」
「あー。まぁお前はどっちにしても普段着れないよな。」
「どうして?」
「まだジャズのイメージが強いから。」
「そうか。着るものも指定されるのは嫌だな。」
「でもさ、この間のテレビの音楽番組に出てたのはお前の趣味じゃないだろ?」
「歌ってる歌手の趣味だろうな。」
年末が近くなると歌番組が多くなる。女性の歌手がジャズ風の曲を歌ったので、それに併せて周りのバックバンドもスーツを着込んでいたのだ。しかも胸元は、ネクタイや蝶ネクタイではなくクラバットを付けた。鏡の向こうの自分を見て、「恥ずかしくて死ぬ」と思ったくらいだ。こんな仕事も受けないといけないのは本意ではない。
「一馬。これから飲みに行かないか?」
「え?どこに行ってもこの辺は一杯だろう?」
「穴場があるんだよ。お前日本酒が好きじゃん。そこ地酒が結構置いててさ。」
ちらっと響子を見る。響子は少しうなづいて行ってこいと促しているようだ。だがそれも響子の本意ではない。
「悪い。これから家に送らないといけなくてな。」
「彼女を?」
響子をちらっと見て、一馬の恋人だと思ったのだ。二人でいたい時間を気にするのだろうか。だから断っているのか。
「お姉さんも来て良いよ。酒は飲める?」
「まぁ……程々に。」
「程々?」
一馬はからかうように響子に言う。だが響子は頬を膨らませて、一馬を責めた。
「酒豪みたいに言わない。」
「ざるのくせに。」
すると裕太は少し笑うと、響子に言う。
「地酒が美味しい店があるんだ。一緒に来ないかな。」
「あー……。」
「悪いな。裕太。本当に彼女を送らないといけないんだ。この人の家に送り届けるようにと、この人の恋人から言われている。」
その言葉に響子は驚いて一馬を見る。だが裕太はその言葉に納得したようにうなづいた。
「あぁ。そうだったのか。それは無理を言えないな。一馬、また連絡をするよ。番号変わってないか?」
「変わっていない。都合が合えば、その……地酒か?美味いところに連れて行ってくれ。」
「お姉さんも彼氏の許可が出たら一緒に行こうか。ザルなんだったら楽しみだ。」
「えぇ。そうですね。」
誤魔化すために圭太の存在をちらつかせた。それは一馬の本意ではないのだろう。だがこうでもしないと二人の時間は取れないのだ。
重低音の利いたベースとドラム。高い声でシャウトをするボーカル。技術を惜しみなく発揮するギター。体全体を使って弾くキーボード。そしてその音を上手くまとめているのが、ターンテーブルやミキサーを操っているDJ。
外国のアーティストが来日してライブをするとき、この小さな国だからといって手を抜くようなバンドも多い。それはこの国のバンドもそうだ。地方にツアーで回っていても、田舎だからといって手を抜くバンドもある。そういうバンドは徐々に売れなくなったりするものだが、「flipper's」に関してはそんな風に聞こえなかった。
トークをしていても拾いながら聞く言葉の端々に、この国の言葉が聞き取れた。おそらく演奏の前に、習っていたのだろう。
そういうところにも好感が持てた。
アンコールは二曲。そのうちの一曲が響子が一番好きな曲で、響子はその曲を聴いたとたん飛び上がって嬉しがっていた。それを見て、一馬は少し笑う。確かに「flipper's」の演奏が聴きたくて、チケットを取ったのだが横でこんな風に喜んでもらえると誘ったかいがあったと思う。
「楽しいライブでした。外国の限定のCDも手に入ったし。」
「そうだな。あのベースはやはり生で聴くといい。あぁいう演奏をしたいと思うな。」
いつかどんなジャンルの曲を弾きたいんだと聞かれたことがある。そのときはぴんとこなかったが、自分が好きなのはこういう音楽なのだと実感できた。
ジャズは嫌いじゃない。それにずっとやっていたクラシックだって、嫌いではなかった。だが自分が好きなのはこういうハードロックなのかもしれない。
「事務所を変えるか。」
「え?」
帰る人たちが駅へ向かっている。その人並に紛れるようにある居ていた二人が、少し足を止める。そして一馬は携帯電話を取り出す。
「ここ最近、事務所がうるさくてな。」
「ジャズバンドには入れって話ですか?」
「あぁ。だがやはり俺が好きなのはジャズではないようだ。」
「……ロック?」
「そうみたいだ。」
すると響子はその手を止める。驚いて一馬は響子をみた。
「一時の感情ですよ。今日、「flipper's」のライブをみたからそう思っただけかもしれない。ロックをして、やはり違うって思うかもしれない。もっと時間を置くべきです。」
「しかし……このままでは、自分の本意ではないことをしないといけないかもしれないんだ。」
「それは嫌かもしれない。だけど、自分の意志で思うように人生を歩んできた人なんかほんの一握りですよ。」
「……。」
「祖父がそうでしたから。」
元々営業をしていた祖父が、好きで喫茶店をしていたというのだろうか。いや違う。祖父だってやらないといけなかったからしていた。そしてやるからには徹底的にコーヒーの味を追求した。それが一馬が在籍していたバンドを長生きさせたのだ。
「……年上みたいなことを言うな。」
「年上ですけど。」
「そうだった。ここは、人生の先輩に従うか。」
そういって一馬は携帯電話をしまった。そしてまた人波に沿うように歩き出そうとした。そのとき、一馬の携帯電話に着信が入る。携帯電話を再び取り出すと、その相手を見て響子の手を引くとわき道にそれた。
「もしもし?あぁ今は……そうだな、郵便局の前あたりだ。え?あぁ……別に良いが……うん。だったら待っておく。」
そういって一馬は携帯電話を切る。すると響子が不安げに一馬を見上げた。
「心配するな。裕太がこっちに向かっているだけだ。」
「裕太って……。天草さん?」
「あぁ。」
しばらくすると、ライブの前に会った格好と同じ格好の天草裕太がやってきた。
「一馬。悪い。待たせて。」
「良い席を持ってたんだ。出るのも時間がかかったんだろう?」
「そーだけどさ。ほら、Tシャツ買ってきてさ。」
そういって手に持っている袋から黒いシャツの入ったビニール袋を取り出す。
「それを来てライブか?」
「事務所から怒られそうだ。お前は買わなかったのか?」
「サイズが切れてた。」
「あー。まぁお前はどっちにしても普段着れないよな。」
「どうして?」
「まだジャズのイメージが強いから。」
「そうか。着るものも指定されるのは嫌だな。」
「でもさ、この間のテレビの音楽番組に出てたのはお前の趣味じゃないだろ?」
「歌ってる歌手の趣味だろうな。」
年末が近くなると歌番組が多くなる。女性の歌手がジャズ風の曲を歌ったので、それに併せて周りのバックバンドもスーツを着込んでいたのだ。しかも胸元は、ネクタイや蝶ネクタイではなくクラバットを付けた。鏡の向こうの自分を見て、「恥ずかしくて死ぬ」と思ったくらいだ。こんな仕事も受けないといけないのは本意ではない。
「一馬。これから飲みに行かないか?」
「え?どこに行ってもこの辺は一杯だろう?」
「穴場があるんだよ。お前日本酒が好きじゃん。そこ地酒が結構置いててさ。」
ちらっと響子を見る。響子は少しうなづいて行ってこいと促しているようだ。だがそれも響子の本意ではない。
「悪い。これから家に送らないといけなくてな。」
「彼女を?」
響子をちらっと見て、一馬の恋人だと思ったのだ。二人でいたい時間を気にするのだろうか。だから断っているのか。
「お姉さんも来て良いよ。酒は飲める?」
「まぁ……程々に。」
「程々?」
一馬はからかうように響子に言う。だが響子は頬を膨らませて、一馬を責めた。
「酒豪みたいに言わない。」
「ざるのくせに。」
すると裕太は少し笑うと、響子に言う。
「地酒が美味しい店があるんだ。一緒に来ないかな。」
「あー……。」
「悪いな。裕太。本当に彼女を送らないといけないんだ。この人の家に送り届けるようにと、この人の恋人から言われている。」
その言葉に響子は驚いて一馬を見る。だが裕太はその言葉に納得したようにうなづいた。
「あぁ。そうだったのか。それは無理を言えないな。一馬、また連絡をするよ。番号変わってないか?」
「変わっていない。都合が合えば、その……地酒か?美味いところに連れて行ってくれ。」
「お姉さんも彼氏の許可が出たら一緒に行こうか。ザルなんだったら楽しみだ。」
「えぇ。そうですね。」
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