彷徨いたどり着いた先

神崎

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 シャワーを浴びて、功太郎はベッドに腰掛ける。そしてテーブルに置いていた雑誌を手にした。それは隣に住んでいる牧野純が、功太郎にとこの間飲んでいたときに置いていったもので、中を開くと高校生の制服だろうというブレザーを着たモデルが、スカートを託しあげてその白い下着を見せながら笑顔になっている。もちろんそのモデルは高校生なんかではない。
「ロリコンの趣味があるんだったら、こっちだろ。」
 純はそう言って、その雑誌を置いていったのだ。だが功太郎には何も響かない。
 中には赤いランドセルとパステルカラーのシャツを着た女の子が足を広げて、モザイクをかけられているがその性器をさらしている。わざと小学生に見せかけているのか、ツインテールにした髪で胸もほとんどない。おそらくそのモザイクの向こうには茂み一つ無いのだろう。
 香はどうなのだろうか。ふとそう思ったが、その考えを打ち消して本を閉じる。そして棚に置いている文庫本を手にした。それは俊が好きだと言っていた作家の本で、たまたま古本屋で見つけた女流作家のモノだ。
 時代物で、遊郭が舞台。遊郭には女衒が間だと芝も行かない女の子を店に売るのだ。理由は様々だが、大半は経済的な理由でまともに遊女になれるのはその中でも一握り。その中でもトップクラスになる太夫になれるモノは、その遊郭の中でも数人居るかどうかといったところだろう。
 この本の主人公もまた貧しい実家に売られて、遊郭に十歳の頃に入る。当然、初潮も来ていないまだ子供だ。
 香だったらもしこの世界にはいっていたら即水揚げをされるだろう。年の割に体が大人びているからだ。しかも何も知らないのだ。こういう女を男は調教したいと思うのだろう。
 ふと手を見る。今日、香の胸に触れた。まだ小さいが、しっかり柔らかくて、しかしまだ発達途中なのかわずかに堅い。それでも顔を赤くして声を漏らした。それは感じているからだろう。
 そのとき携帯電話が鳴った。それは香からだった。
「どうしたんだ。お前もう寝ろよ。明日起きれないぞ。」
 時計を見るともう日が越えている。さっさと寝てほしいと思った。
「んー?羊でも数えれば?」
 寝れなくて功太郎に電話をしたのだという。香も家の中での出来事に、戸惑っていたのかも知れない。
「功君。今度、家に行っても良い?」
 駄目だ。部屋なんかに来たら、大変なことになる。そう思って功太郎は香に言う。
「駄目。良いから寝ろよ。俺も寝るから。じゃあお休み。」
 ほぼ無理矢理のように電話を切り、功太郎はそのまま携帯電話を充電器に繋げると、電気を消してベッドに潜り込んだ。
 この間の休みの日にシーツを洗い、布団を干した。まだその名残があるのか、布団からは良い香りがする。お日様の匂いのようで、それが功太郎を落ち着かせるようだった。
 だが目をつぶれば思い出すのは、香の胸の感触と赤くなる顔。そして一度触れた響子の胸の感触。まだ響子を思い出せる。そして響子がまだ好きだと言える。
 しかし響子は今日気になることを言われた。
「一馬と一緒に歩いていた。」
 一馬と浮気をしているとすれば驚異だ。体が大きいと、どうしてもあっちだって強いのだと想像できるし、何より絶倫だという噂がある。何より、響子ととても気が合っているような気がした。
 ライブへ行くのだという。それを圭太は良いよ、行って来いよと大人の対応をしたと思うが、それが本意なのかはわからない。圭太は不安にならないのだろうか。真二郎の言うように、それだけ圭太の頭の中がお花畑なのだろうか。
 響子が他の男に抱かれている。傷跡や火傷の跡がコンプレックスだった響子がその体をさらし、あの何度もキスをした唇に他の男がキスをし、大きな手が胸に触れる。
 それを想像するとため息が出る。そして寝返りをうとうとしたときに、ふと自分のモノが大きくなっているのがわかった。
「くそ……。」
 体は正直だ。想像だけで大きくなる。布団を避けて、ティッシュを自分の側に寄せた。そして薄い明かりの中で、ズボンと下着を取るとそこに手をはわせた。
 いずれ香もそれをする。そのときは自分ではない誰かわからない相手だろう。それが俊なのか、または同じクラスの男なのか、それとも中学とか高校に進学したときに出会った男なのかも知れない。
 響子とは違う傷跡の無い体。そこに茂みがあるのかはわからない。自分ではない男の名前を口にして、きっとその体を抱き寄せる。
「あっ……。」
 間一髪だった。ティッシュで押さえ込む。息を切らして、ティッシュを避ける。
 射精したとき、自分の頭をよぎったのは響子ではなく香だった。
「ロリコンかよ……。」
 そう思いながら功太郎はそのティッシュを、ゴミ箱に捨ててベッドから降りるとキッチンで手を洗う。

 夜遅くに、真二郎は家に帰ってきた。当然、響子はもう寝ているらしく寝室をのぞくと静かな寝息が聞こえる。
 響子の隣には誰も居ない。圭太も居ないし、当然、一馬の姿もないのだ。少しほっとした。
 今日の二人目の客は、いきなりホテルへ誘ってきた。初めての客なのにその辺の知識はなかったようだ。だがそれを告げると客は少し気を落として、飲みにだけ行こうとハッテン場の側にあるバーで酒を飲みながら少し話をした。だがその途中で、男の狙いが見えるとすぐにウリセンの店に連絡をする。
 すぐに店のモノが来て、男は連れて行かれた。どうやら薬のバイヤーだったらしい。真二郎を誘って、薬漬けにして店を移動させる。それが狙いだった。
 そんなことをしても真二郎の気は動かない。
 今の店のオーナーはやりやすい人だ。それに徐々にその内情もわかってきた。
「あいつだろうな。」
 真二郎はそうつぶやくと、ソファに腰掛けて携帯電話のメモリーを呼び出す。そこには、「新山信也」の名前がある。それは圭太の兄だった。
「……。」
 圭太は何も知らない。自分の兄が、響子を拉致した主犯格である可能性があること。そして響子も一度会っているが気が付いていないのだろう。
 だからといってどうすればいいのだろう。真二郎はため息を付いて携帯電話をテーブルに置くと、また寝室をのぞいた。相変わらず響子は広いベッドなのに体を丸めるようにして眠っている。最近はよく寝れているらしい。
 そっとベッドに近づくと、そのベッドに腰掛けた。そして響子の頬にかかっている髪をそっと避ける。するとそれに伴って、首筋が見えて少し驚いた。そこには赤い跡のようなモノがあったのだ。
「跡?」
 キスマークのようなものだ。圭太がここへ来て、帰ったのだろうか。いや、それはない。圭太は今日それどころではないはずだ。
 だったら誰が……。
 考えを巡らせて、やっとたどり着いた。一馬がここへ来たのだろうか。一馬に付けられたのだろうか。こんな跡が付くくらい激しくセックスをしたのだろうか。
 そう思うと、真二郎は響子を起こしたくなる。だがだからといって責められない。それは自分の役割ではないからだ。
 手を避けて、ベッドを降りようとした。だがどうしてももやもやしている。そう思って真二郎は、そのまま響子のその首筋に唇を当てる。自分で上書きするように。
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