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焼き菓子の詰め合わせを一馬と話をしている加奈子に圭太が見せる。
「こんな感じでいかがですか。」
「あ、ありがとうございます。大丈夫です。」
「熨斗はおつけになりますか?」
「あ、いいえ。いりません。包装紙でくるんでいただければ。」
「わかりました。」
コーヒーも出来上がり、蓋をしたコーヒーを功太郎に手渡す。
「テイクアウトの単品ブレンド、上がり。」
「はい。」
功太郎はレジへ向かうと、一馬の方を見る。
「テイクアウトのコーヒーです。」
「あぁ。ありがとう。」
そのコーヒーの香は蓋をしていても香るようだ。それを見て、加奈子は少しほほえむ。
「良い香りですね。今度は私もコーヒーを貰います。」
「単品のコーヒーは最近よく出るっす。閉店間際になると出来ないこともあるし。」
「花岡さんはいつもここで?」
「コーヒーもケーキも美味いです。ケーキは進んで食おうと思わないけど、コーヒーだけは欲しくなります。」
それに響子も欲しい。そう思っていたのに、響子はこちらの方を見ようともしない。何か誤解をしているのだろう。これを受け取ったらさっさと離れて響子に連絡をしよう。
「でもほら、木村プロデューサーもコーヒーが好きだし、自分で居れたものを振る舞ってたじゃないですか。あれも美味しかったですよね。」
そう言われたものの、響子のコーヒーに比べれば雲泥の差だ。所詮素人が趣味で淹れているものだし、期待はしない。
「まぁ……そうですね。」
話を合わせてレジをすませる。すると加奈子がまた一馬に近づいてくる。
「少し飲ませてくれませんか?」
「あー……それは困ります。それじゃ。また。」
出て行こうとした一馬に、焼き菓子を包んだ圭太がキッチンから出てくる。
「花岡さん。これ良かったら持って行ってください。」
一馬を追うように、圭太は紙袋を一馬に持たせる。それは小さめに包んだ焼き菓子の詰め合わせだった。
「良いんですか?」
「お土産をいただいたし、年末はこちらから連絡します。」
「わかりました。じゃあ、遠慮なくいただきます。」
そう言って一馬は今度こそ店を出ていく。そして残された加奈子のレジを圭太がする。
「お待たせいたしました。」
「……オーナーさん。花岡さんって親しいんですか?」
「えぇ。最近のお客様ですけど、うちのコーヒーを気に入っていただいて。」
「飲みに行ったりとか?」
「えぇ。何度かみんなで。」
その言葉に加奈子は少し驚いたように目を見開く。
「花岡さんって、あまり飲みに行ったりとかしない人だと思ってた。この間のレコーディングの時も飲んだのは最後の日だけだったし。」
その言葉に圭太は首を横に振る。
「そうだったんですか。最初に会ったときから、がんがん飲んでいたからそのイメージはなかったですね。」
「ストイックって言うんだろ。ああいうヤツ。」
功太郎がそう言うと、加奈子は少し笑う。
「そうですね。レコーディングって言っても遊んでいる人もいたんですけど、花岡さんはずっとスタジオか自室にしか居なかったから。」
「あの人、ちょっと人嫌いがあるよな。って言うかほら、人を選ぶって言うか。」
「こういう世界にいれば、付き合う人間を限った方が良いって事でしょうね。っと……すいません。お会計でしたよね。」
一馬が自室に籠もって人と話などをしなかったのは、おそらく必要以上に親しくなりたくないから。バンドの仲間でも平気で裏切るのだ。それが一馬の心にずっと残っている。響子はそう思いながら、ネルドリップの中に入っているコーヒー豆を捨てた。
電車に揺られながら、響子は一馬からのメッセージを見ていた。レコーディングで一緒になっただけの関係でだと言うこと。そしてそのレコーディングの間、ずっと気があるような感じで接してきて嫌だったことが書かれている。
響子はそれに返信をして、流れる景色に目を向けた。光が行き交い、そしてたまに快速電車が電車が側を走る。そこから見える乗客はみんな疲れている顔をしていた。この町で生きようと思うなら、身を粉にして働かないといけない。中途半端な生き方は出来ないのだ。
それは響子も一馬もそして圭太も一緒だった。嫌なことがあったからとか、嫌な人が居るからと言って職場は放棄できない。収入がなければ食べることは出来ないのだ。だから女性も男性も繋がりがないといけない。わかっている。職場だけの関係なのだ。
なのにもやもやした気持ちが収まらない。
そう思いながら駅に着く。そしてホームを降りて改札口へ向かった。カードをかざしてそこをくぐると、見覚えのある人が立っている。思わず響子はその人に駆け寄った。
「一馬さん。」
「待ってた。」
「連絡してくれれば良かったのに。」
「あんたが誤解していたみたいだったから。直接言いたかった。それに、二人で会いたかったから。」
その言葉に響子の頬が赤くなる。そんなにまっすぐに言われると思ってなかったからだ。だが一馬は元々口数が少ない人だ。そしてその中で伝えようとしていることが、全部含まれている。だからオブラートに包むことが出来なくて、こういう直接的な言い方になるのだ。
「……あんたに土産があってな。」
「私に?お店にはいただいているのに。」
「いいや。あんた個人的にだ。良かったら、家まで付き合う。」
すると響子は頷いて、その一馬の背中を追う。街中は酔っぱらいばかりだが、中にはいかにもヤクザのような人もいる。一馬も一人である居ていれば、ヤクザに見えないこともないだろう。その隣にいる響子は何に見えるのだろう。ヤクザの女には見えない。こんなに色気がなくて、体が傷跡や火傷の跡だらけの女をヤクザが選ぶわけがない。
一馬の隣で笑っていたあの加奈子という女性。あぁいう綺麗な女性が、一馬には合っていると思う。
外見だけではない。音楽をしているその話も響子にはわからないことばかりだ。
「響子。」
暗い表情をしていた響子に、一馬が話しかける。
「どうしたの?」
「これを渡そうと思ってな。」
そう言って一馬は、バッグから瓶を取り出した。それは一合サイズの日本酒でレコーディングの最終日の夜に飲んだもので、一馬はそれを飲んだとき響子と一緒に飲みたいと思ったのだ。
「……いただけるんですか?」
「あぁ。でも一人で飲まないで欲しい。もちろんオーナーとも。」
すると響子は不思議そうに瓶を手にして、一馬を見上げる。
「俺がそっちへ行ったときに一緒に飲もう。」
その言葉に響子の顔が初めて笑顔になった。響子は頷くと、その瓶をバッグに入れる。
「今日、真二郎は遅くなると言ってた。お茶でも飲んでいく?」
「そのつもりで送ってる。送り狼になって良いか。」
「いつ帰ってくるかわからないわ。」
冗談を言ってきた。今は手を繋ぐことも出来ない。だがもっと大事なところで繋がれる気がした。
「こんな感じでいかがですか。」
「あ、ありがとうございます。大丈夫です。」
「熨斗はおつけになりますか?」
「あ、いいえ。いりません。包装紙でくるんでいただければ。」
「わかりました。」
コーヒーも出来上がり、蓋をしたコーヒーを功太郎に手渡す。
「テイクアウトの単品ブレンド、上がり。」
「はい。」
功太郎はレジへ向かうと、一馬の方を見る。
「テイクアウトのコーヒーです。」
「あぁ。ありがとう。」
そのコーヒーの香は蓋をしていても香るようだ。それを見て、加奈子は少しほほえむ。
「良い香りですね。今度は私もコーヒーを貰います。」
「単品のコーヒーは最近よく出るっす。閉店間際になると出来ないこともあるし。」
「花岡さんはいつもここで?」
「コーヒーもケーキも美味いです。ケーキは進んで食おうと思わないけど、コーヒーだけは欲しくなります。」
それに響子も欲しい。そう思っていたのに、響子はこちらの方を見ようともしない。何か誤解をしているのだろう。これを受け取ったらさっさと離れて響子に連絡をしよう。
「でもほら、木村プロデューサーもコーヒーが好きだし、自分で居れたものを振る舞ってたじゃないですか。あれも美味しかったですよね。」
そう言われたものの、響子のコーヒーに比べれば雲泥の差だ。所詮素人が趣味で淹れているものだし、期待はしない。
「まぁ……そうですね。」
話を合わせてレジをすませる。すると加奈子がまた一馬に近づいてくる。
「少し飲ませてくれませんか?」
「あー……それは困ります。それじゃ。また。」
出て行こうとした一馬に、焼き菓子を包んだ圭太がキッチンから出てくる。
「花岡さん。これ良かったら持って行ってください。」
一馬を追うように、圭太は紙袋を一馬に持たせる。それは小さめに包んだ焼き菓子の詰め合わせだった。
「良いんですか?」
「お土産をいただいたし、年末はこちらから連絡します。」
「わかりました。じゃあ、遠慮なくいただきます。」
そう言って一馬は今度こそ店を出ていく。そして残された加奈子のレジを圭太がする。
「お待たせいたしました。」
「……オーナーさん。花岡さんって親しいんですか?」
「えぇ。最近のお客様ですけど、うちのコーヒーを気に入っていただいて。」
「飲みに行ったりとか?」
「えぇ。何度かみんなで。」
その言葉に加奈子は少し驚いたように目を見開く。
「花岡さんって、あまり飲みに行ったりとかしない人だと思ってた。この間のレコーディングの時も飲んだのは最後の日だけだったし。」
その言葉に圭太は首を横に振る。
「そうだったんですか。最初に会ったときから、がんがん飲んでいたからそのイメージはなかったですね。」
「ストイックって言うんだろ。ああいうヤツ。」
功太郎がそう言うと、加奈子は少し笑う。
「そうですね。レコーディングって言っても遊んでいる人もいたんですけど、花岡さんはずっとスタジオか自室にしか居なかったから。」
「あの人、ちょっと人嫌いがあるよな。って言うかほら、人を選ぶって言うか。」
「こういう世界にいれば、付き合う人間を限った方が良いって事でしょうね。っと……すいません。お会計でしたよね。」
一馬が自室に籠もって人と話などをしなかったのは、おそらく必要以上に親しくなりたくないから。バンドの仲間でも平気で裏切るのだ。それが一馬の心にずっと残っている。響子はそう思いながら、ネルドリップの中に入っているコーヒー豆を捨てた。
電車に揺られながら、響子は一馬からのメッセージを見ていた。レコーディングで一緒になっただけの関係でだと言うこと。そしてそのレコーディングの間、ずっと気があるような感じで接してきて嫌だったことが書かれている。
響子はそれに返信をして、流れる景色に目を向けた。光が行き交い、そしてたまに快速電車が電車が側を走る。そこから見える乗客はみんな疲れている顔をしていた。この町で生きようと思うなら、身を粉にして働かないといけない。中途半端な生き方は出来ないのだ。
それは響子も一馬もそして圭太も一緒だった。嫌なことがあったからとか、嫌な人が居るからと言って職場は放棄できない。収入がなければ食べることは出来ないのだ。だから女性も男性も繋がりがないといけない。わかっている。職場だけの関係なのだ。
なのにもやもやした気持ちが収まらない。
そう思いながら駅に着く。そしてホームを降りて改札口へ向かった。カードをかざしてそこをくぐると、見覚えのある人が立っている。思わず響子はその人に駆け寄った。
「一馬さん。」
「待ってた。」
「連絡してくれれば良かったのに。」
「あんたが誤解していたみたいだったから。直接言いたかった。それに、二人で会いたかったから。」
その言葉に響子の頬が赤くなる。そんなにまっすぐに言われると思ってなかったからだ。だが一馬は元々口数が少ない人だ。そしてその中で伝えようとしていることが、全部含まれている。だからオブラートに包むことが出来なくて、こういう直接的な言い方になるのだ。
「……あんたに土産があってな。」
「私に?お店にはいただいているのに。」
「いいや。あんた個人的にだ。良かったら、家まで付き合う。」
すると響子は頷いて、その一馬の背中を追う。街中は酔っぱらいばかりだが、中にはいかにもヤクザのような人もいる。一馬も一人である居ていれば、ヤクザに見えないこともないだろう。その隣にいる響子は何に見えるのだろう。ヤクザの女には見えない。こんなに色気がなくて、体が傷跡や火傷の跡だらけの女をヤクザが選ぶわけがない。
一馬の隣で笑っていたあの加奈子という女性。あぁいう綺麗な女性が、一馬には合っていると思う。
外見だけではない。音楽をしているその話も響子にはわからないことばかりだ。
「響子。」
暗い表情をしていた響子に、一馬が話しかける。
「どうしたの?」
「これを渡そうと思ってな。」
そう言って一馬は、バッグから瓶を取り出した。それは一合サイズの日本酒でレコーディングの最終日の夜に飲んだもので、一馬はそれを飲んだとき響子と一緒に飲みたいと思ったのだ。
「……いただけるんですか?」
「あぁ。でも一人で飲まないで欲しい。もちろんオーナーとも。」
すると響子は不思議そうに瓶を手にして、一馬を見上げる。
「俺がそっちへ行ったときに一緒に飲もう。」
その言葉に響子の顔が初めて笑顔になった。響子は頷くと、その瓶をバッグに入れる。
「今日、真二郎は遅くなると言ってた。お茶でも飲んでいく?」
「そのつもりで送ってる。送り狼になって良いか。」
「いつ帰ってくるかわからないわ。」
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