彷徨いたどり着いた先

神崎

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ライバル

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 バーで有佐と真二郎と別れた。バーの料理は美味しかったし、酒も良かった。そしておそらく二人はそのままホテルへ行く。まだ終電があるはずだと、圭太は駅へ向かっていた。だが心の中ではまだもやもやとしている。
「あたしは響子だけが被害者だとは思わない。そりゃね、車に押し込まれて拉致されて、何も知らないまま男に輪姦されたなんて倫子に全く非がないように聞こえるわ。だけどその部屋の鍵は開いていたの。逃げ出そうと思えば逃げ出せた。だけど響子はそこにいたのよ。結局響子も望んでいたのかもしれないとも言えるわ。」
 確かにインターネットの中では、響子がその部屋の中にずっといたというのも不自然だと言われているし、望んでいたのではないかというのもうなづける。だがそれはあくまで一般論だ。
 何があっても響子の味方で居たい。そして響子の過去に何があっても、今の響子が好きなのだから。
 駅について帰る電車のホームへ向かう。その途中には女性がたまに立っていることがある。待ち合わせかと最初は思ったが、そうではないらしい。
「いくら?」
 雨や風がしのげるので、ここで体を売っているらしい。サラリーマン風の男が、女性に声をかける。それを横目で見ながら、こんな風にはなりたくないと思っていた。
 駅のホームでビニール袋の中身をチェックする。気を使ってそのビニール袋の中に、紙袋がある。なので中身が何なのかまではわからない。
「お兄さん。良い体しているね。あたしと付き合わない?」
 声をかけられてそちらをみる。するとそこには、見覚えのある人がいた。
「……夏子……さん。」
「あはは。さんなんていらないわよ。何暗い顔をしてんの?」
 響子の妹である夏子はいつもとは違って、ジーパンとシャツ。それに眼鏡をかけていた。そして髪も一つに結んだだけ。どこでもいるような若い女性に見えた。
「どっか行ってたの?」
「普通に仕事。」
「撮影?」
「ううん。年がら年中撮影しているわけじゃないわよ。売ったソフトの売り込みなんかもするのよ。」
「あぁ。だからそういう格好を?」
「そう。なるだけ脱ぎやすいモノとか、メイクしやすいようにすっぴんで行くとかね。」
 響子とは違うが、夏子もまたプロ意識が高い。AVというのはそんなに長くできる仕事ではないだろう。だからこそ、稼げるときに稼いでおこうと思っているのかもしれない。
「オーナーさんは?」
「んー。買い物と、それから知り合いにあって飲んでて。」
「姉さんは?」
「帰ったけど?なんで?」
「……お正月には帰ってきて欲しいって言っておいてくれないかなぁ。」
「何かあったのか?」
 すると夏子は複雑そうに圭太にいう。
「お母さんがこの間、ちょっとこけて足の骨を折ったの。お見舞いがてら来てくれるとお母さんも安心するわ。」
「……でもなぁ……。」
 母親を一番響子は嫌がっている。子供のことも信じられないような母親なのだといっていた。
「お母さんも仲直りしたいと思ってるわ。心にもないことをいってしまったって。」
「……。」
「一度、口に出た言葉って取り返しがつかないけど、それをいつまでも根に持っているのは時間の無駄だと思わない?」
「そうだけど。」
「オーナーさんは、そんなことはないの?言って後悔したこととかない?」
「あるよ。」
 それで真子を亡くしたのだ。一生後悔すると思う。
「あたしも家に帰ってさ、お風呂の中でいつも一人反省会するよ。泣いたりすることもあるし、なんであんなことを言ったんだろうって思う。でも人間ってさ完璧じゃないもの。」
「お前も悟りきったようなことを言うんだな。」
 圭太はそういってやってきた電車に乗り込む。すると夏子もその電車に乗り込んだ。
「オーナーさんさ。姉さんとはうまくやってるの?」
「やってるよ。」
「でもまだ真二郎と住んでるじゃない?」
「そうなんだよな……。」
 それだけがネックだった。前のように一緒のベッドで寝ることはなくなったし、別々の部屋で眠っているようだがそれでも複雑だと思う。
「でも姉さんは真二郎とは絶対くっつかない。」
「どうして?一番頼りにしてるんだろう?」
「真二郎が姉さんと寝るとしたら、レイプのようなことをしないと絶対寝ないと思うから。今までの信頼関係を捨ててまで寝たいと思うかしら。」
「……そこが真二郎の臆病なところだと思う。自分でも言ってたな。」
「自覚はあるんだ。それだけ本気ってことなのかな。」
「だろうな。」
「まぁ、それだけじゃないと思うけど。」
「何かあったのか?」
 すると夏子は一瞬暗い顔をした。だが顔をぱっと上げて、圭太を見上げる。
「これ以上聞きたかったら、あたしと一晩付き合う?」
「あんたと?」
「そ。あ、姉さんには黙っておくから。」
 すると圭太は首を横に振る。
「あー。俺無理でさ。」
「ビビり。姉さんが怖いんだ。」
「じゃない。俺、他の女と寝ようとしたことがあったんだけど、ぴくりともしなくて。」
「はぁ?EDなの?」
 呆れたように夏子が聞くと、電車に貼られているポスターを指さした。
「ほら。ここのクリニック良いんじゃない?」
「じゃないって。俺、好きな相手としか……。」
「あー。すごい。ロマンチストねぇ。」
「じゃない。」
「オーナーさんさ。姉さんのためなら何でもするんじゃないの?」
 その言葉に言葉を詰まらせた。
「……寄り添うだけが好きってことじゃないわ。」
「……。」
「真二郎だってずっと……姉さんを想ってる。だから抱かなくても良い。真二郎がやれることをやっているのに……。オーナーさんって、ただ隣にいて、セックスするだけじゃないの?思い出さないように優しくして、嫌がることはしないんじゃない?」
「したくないよ。」
「それだけだったら離れるから。」
 夏子はそういっていすから立ち上がる。夏子の最寄り駅に着いたのだ。
「どうする?オーナーさん。降りる?」
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