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ライバル
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クリスマスのケーキの予約は去年よりも多い。圭太はその数を見てほくほくしているが、真二郎はげんなりとしている。
「一人で出来る数も限度があるんだけどな。」
真二郎はそういってため息をつく。すると圭太はちらっと功太郎をみた。
「手伝うだろ?あいつ等も。」
「功太郎と?」
「響子も。功太郎はホットショコラもいれれるようになったし、響子が手伝いに行ってもいいわけだ。みんな出来ることがあるから有能だなぁ。」
機嫌が良いのは夕べ、響子が帰ってこなかったからか。圭太のところにいたのだろう。それが真二郎をいらつかせているのも知らないで。
対して響子は少し不機嫌なようだ。原因は、おそらく手首についている跡。力強くぎゅっと握られたような両手の跡は、わずかに痣になっている。それくらい激しく夕べはしたのだろう。
「なぁ、響子。ネルの布が変なんだよ。見てくれないか。」
カウンターでは功太郎がそういって響子に話しかけている。すると響子は呆れたように言った。
「ネルの布はすぐにカビがいく。だから煮沸消毒をしないといけないっていったでしょう?もうそれ、使えないから。」
「マジで?」
「カビ入りのモノをお客様に提供する気?業者が来たら新しいのを発注して。」
「わかったよぉ。」
呆れたように響子はそれを見て、またカタログに目を落とす。コーヒー豆に「国内産」のモノが目に留まるようになってきた。まだ高いが、前よりは仕入れるのに苦労はしないようになってきた。だがここで淹れるのは難しいだろう。
一度もらったモノをみんなで試飲した。確かに相当良いものだし、香りも高い。だがこれを単品で淹れるとなると、コーヒー自体の単価を上げないといけないだろうし、これに合うデザートとなると難しいと真二郎も首を傾げていた。
そのとき、入り口のドアが開いた。それに功太郎が反応して、カウンターを出ようとした。だがそこにいたのは俊と香だった。
「お疲れ。」
「お疲れさまです。オーナーは居ますか?」
「うん。ちょっとキッチンにいるけど、呼ぼうか?」
「お願いします。」
香の顔色が悪い。俊はそのままいすに座らせると、響子のところへいく。
「響子さん。白湯か何かもらえますか。」
「えぇ。どうかした?」
そのとき圭太もカウンターにやってきて、香の様子がおかしいのに俊の方をみた。
「何かあったか?」
「学校が終わってこっちに来ようとしたら、学校の前で香が待ってて。何も言わないから、とりあえず連れてきたんですけど。」
すると功太郎が白湯を手にして、香にそれを手渡す。
「ゆっくり飲めよ。」
「うん……。」
学校にはランドセルで行っていない。ショルダーバックを持っていて、今日は体育もあったのか別の袋も持っている。
「功君。あたしね。走るのもう辞める。」
「どうしたんだよ。」
その言葉に俊も驚いて香に近づいた。
「最近タイムが伸びなくて、先生に手の振り方とか教えてもらってたの。そしたら、別の子が「えこひいきだ」って言ってきたの。」
「何だよ。それ。」
呆れたように功太郎が言うと、俊はため息をついていった。
「斎藤先生だろ?」
「うん。」
「あの先生。しつこいんだよな。」
「しつこい?」
すると俊は自分が小学校の時にクラブ活動をしていたことを言い始める。
「俺も短距離で、小学校の時に全国行ったんですけどね。何か……熱血って言うか。空回りしてるって言うか。」
「身になりそうなヤツだったら目をかけるのは当然だろ?」
「でも小学校なんですよ。」
生徒には平等に接していかないといけない。それが小学校で出来ることなのだ。
「それに触られるのもやだ。」
「触られる?」
「フォームの改善ですよ。別に嫌らしいことじゃないです。香。あまり深く考えんなよ。周りの言うことなんか、無視すればいいだろ。」
「でも……。」
「香は「でも」が多いんだよ。否定されてるように感じるから。」
その言葉に口をとがらせる。
圭太と響子はその様子を見て、ため息をついた。
「大人ねぇ。俊は。」
「大人ばかりと一緒にいるからかもしれないな。」
「お前も「でも」をなるべく言わないようにしろよ。」
「私、言ってる?」
「結構な。」
幸い、店内はゆっくりしている。しばらく三人で話せばいいと思った。
駅へ帰る途中で響子は、一馬に会った。一馬も練習終わりのようで、背中には今日はエレキベースが背負われている。真二郎は仕事へ言ってしまったので二人きりだ。
「何か……身につまされる話だ。」
一馬はあまり口数が多い方ではない。それでも口を開けば、人生を悟ったような言い方をしてしまう。それを気にしているのだろう。
「功太郎は同調することで香ちゃんに寄り添ってた。だから香ちゃんが「自分を理解してくれる人」と思って慕ってたんでしょうね。でも俊は違う。」
「あえて否定をするんだろう。」
「そうみたいですね。」
結局香は陸上を続けるようにした。もう少ししたら卒業だし、中学生になれば陸上部にはいる。そうすればもっと集中できるだろうと思っていたのだ。
「……今朝はランニングしなかったのか?」
一馬はいつものように今朝も川岸まで走った。だが響子の姿はなかったのを不自然に思ったのだろう。
「あ……夕べはですね。その……。」
「オーナーのところにいたのか。」
恋人なのだから仕方がない。だが自分の中にもやもやしたモノが残る。
「はい。」
夕べは圭太も少しおかしかった。あんなに強く手を掴んだりすることなど一度もなかった。まるで自由を利かせないようにしているようだった。そしてそれは昔をまた思い出させる。それなのに体はいつもよりも感じているようだった。
「何だ。それは。」
手で掴んでいるポールに違和感を感じた。駅でいったん止まったときに、その手を掴む。するとその手首には痣のようなモノがある。だいぶ薄くなっているが、それははっきり指の跡だとわかった。
「あの……これはですね。」
「そんな趣味があるのか?あいつは。」
表情があまり読めないが、一馬は少し怒っているように感じる。すると響子は首を横に振った。
「いいえ。別にそんなことはないんですけど。夕べは何かおかしくて。」
「だからといって跡がつくまでこんなことをするなんて。」
「一馬さん。」
手を離して、響子は一馬を見上げる。
「いいですから。」
「響子さん……。」
「大事にしてもらう方が……不安になります。」
その言葉の意味がわかり、一馬は視線をそらせた。だがもやっとしたモノは残る。
「一人で出来る数も限度があるんだけどな。」
真二郎はそういってため息をつく。すると圭太はちらっと功太郎をみた。
「手伝うだろ?あいつ等も。」
「功太郎と?」
「響子も。功太郎はホットショコラもいれれるようになったし、響子が手伝いに行ってもいいわけだ。みんな出来ることがあるから有能だなぁ。」
機嫌が良いのは夕べ、響子が帰ってこなかったからか。圭太のところにいたのだろう。それが真二郎をいらつかせているのも知らないで。
対して響子は少し不機嫌なようだ。原因は、おそらく手首についている跡。力強くぎゅっと握られたような両手の跡は、わずかに痣になっている。それくらい激しく夕べはしたのだろう。
「なぁ、響子。ネルの布が変なんだよ。見てくれないか。」
カウンターでは功太郎がそういって響子に話しかけている。すると響子は呆れたように言った。
「ネルの布はすぐにカビがいく。だから煮沸消毒をしないといけないっていったでしょう?もうそれ、使えないから。」
「マジで?」
「カビ入りのモノをお客様に提供する気?業者が来たら新しいのを発注して。」
「わかったよぉ。」
呆れたように響子はそれを見て、またカタログに目を落とす。コーヒー豆に「国内産」のモノが目に留まるようになってきた。まだ高いが、前よりは仕入れるのに苦労はしないようになってきた。だがここで淹れるのは難しいだろう。
一度もらったモノをみんなで試飲した。確かに相当良いものだし、香りも高い。だがこれを単品で淹れるとなると、コーヒー自体の単価を上げないといけないだろうし、これに合うデザートとなると難しいと真二郎も首を傾げていた。
そのとき、入り口のドアが開いた。それに功太郎が反応して、カウンターを出ようとした。だがそこにいたのは俊と香だった。
「お疲れ。」
「お疲れさまです。オーナーは居ますか?」
「うん。ちょっとキッチンにいるけど、呼ぼうか?」
「お願いします。」
香の顔色が悪い。俊はそのままいすに座らせると、響子のところへいく。
「響子さん。白湯か何かもらえますか。」
「えぇ。どうかした?」
そのとき圭太もカウンターにやってきて、香の様子がおかしいのに俊の方をみた。
「何かあったか?」
「学校が終わってこっちに来ようとしたら、学校の前で香が待ってて。何も言わないから、とりあえず連れてきたんですけど。」
すると功太郎が白湯を手にして、香にそれを手渡す。
「ゆっくり飲めよ。」
「うん……。」
学校にはランドセルで行っていない。ショルダーバックを持っていて、今日は体育もあったのか別の袋も持っている。
「功君。あたしね。走るのもう辞める。」
「どうしたんだよ。」
その言葉に俊も驚いて香に近づいた。
「最近タイムが伸びなくて、先生に手の振り方とか教えてもらってたの。そしたら、別の子が「えこひいきだ」って言ってきたの。」
「何だよ。それ。」
呆れたように功太郎が言うと、俊はため息をついていった。
「斎藤先生だろ?」
「うん。」
「あの先生。しつこいんだよな。」
「しつこい?」
すると俊は自分が小学校の時にクラブ活動をしていたことを言い始める。
「俺も短距離で、小学校の時に全国行ったんですけどね。何か……熱血って言うか。空回りしてるって言うか。」
「身になりそうなヤツだったら目をかけるのは当然だろ?」
「でも小学校なんですよ。」
生徒には平等に接していかないといけない。それが小学校で出来ることなのだ。
「それに触られるのもやだ。」
「触られる?」
「フォームの改善ですよ。別に嫌らしいことじゃないです。香。あまり深く考えんなよ。周りの言うことなんか、無視すればいいだろ。」
「でも……。」
「香は「でも」が多いんだよ。否定されてるように感じるから。」
その言葉に口をとがらせる。
圭太と響子はその様子を見て、ため息をついた。
「大人ねぇ。俊は。」
「大人ばかりと一緒にいるからかもしれないな。」
「お前も「でも」をなるべく言わないようにしろよ。」
「私、言ってる?」
「結構な。」
幸い、店内はゆっくりしている。しばらく三人で話せばいいと思った。
駅へ帰る途中で響子は、一馬に会った。一馬も練習終わりのようで、背中には今日はエレキベースが背負われている。真二郎は仕事へ言ってしまったので二人きりだ。
「何か……身につまされる話だ。」
一馬はあまり口数が多い方ではない。それでも口を開けば、人生を悟ったような言い方をしてしまう。それを気にしているのだろう。
「功太郎は同調することで香ちゃんに寄り添ってた。だから香ちゃんが「自分を理解してくれる人」と思って慕ってたんでしょうね。でも俊は違う。」
「あえて否定をするんだろう。」
「そうみたいですね。」
結局香は陸上を続けるようにした。もう少ししたら卒業だし、中学生になれば陸上部にはいる。そうすればもっと集中できるだろうと思っていたのだ。
「……今朝はランニングしなかったのか?」
一馬はいつものように今朝も川岸まで走った。だが響子の姿はなかったのを不自然に思ったのだろう。
「あ……夕べはですね。その……。」
「オーナーのところにいたのか。」
恋人なのだから仕方がない。だが自分の中にもやもやしたモノが残る。
「はい。」
夕べは圭太も少しおかしかった。あんなに強く手を掴んだりすることなど一度もなかった。まるで自由を利かせないようにしているようだった。そしてそれは昔をまた思い出させる。それなのに体はいつもよりも感じているようだった。
「何だ。それは。」
手で掴んでいるポールに違和感を感じた。駅でいったん止まったときに、その手を掴む。するとその手首には痣のようなモノがある。だいぶ薄くなっているが、それははっきり指の跡だとわかった。
「あの……これはですね。」
「そんな趣味があるのか?あいつは。」
表情があまり読めないが、一馬は少し怒っているように感じる。すると響子は首を横に振った。
「いいえ。別にそんなことはないんですけど。夕べは何かおかしくて。」
「だからといって跡がつくまでこんなことをするなんて。」
「一馬さん。」
手を離して、響子は一馬を見上げる。
「いいですから。」
「響子さん……。」
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