彷徨いたどり着いた先

神崎

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二番目

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 このホテルは、圭太の先輩がホテルマンとしている。大学を出て職を転々としていたが、このホテルに勤めてもう三年になるのだ。真子のこともよく知っている人で、喜美子を見たとき「やっぱりこういう女が好きなのか」と思いながら鍵を渡してくれた。
 二番目でもいい。二番目には慣れていると、喜美子は言っていた。奥さんのいる人とつきあっていて、それを忘れるために今度は彼女の居る圭太を利用するのだ。
 エレベーターに乗りながら、「やっぱり辞めよう」と何度言い掛けただろう。だが喜美子の決心は固いようで、圭太にぴったりとくっついてくる。
 エレベーターのドアが開き、エレベーターホールに足を踏み入れた。そして鍵に書かれている部屋の前にやってきて、ドアを開ける。
 ビジネスホテルよりも広めで、ベッドに占領されているような部屋ではない。風呂も広めで、アメニティが充実していた。てっきりラブホテルなんかに連れて行かれると思っていた喜美子は、少し意外そうに圭太をみる。
「……広い部屋ですね。」
「うん。久しぶりに来たから。」
「彼女とは来ないんですか?」
「そうだね。外で会ったりはあまりしないかな。向こうは一人が気楽みたいでね。」
「新山さんは外に出るのが好きなんでしょう?」
「うん。」
「きつくないんですか?ずっとそうやって彼女に合わせているのって。」
「どうかな。彼女だからって、別に合わせてもらう必要なんか無いと思うけど。きっと同じ環境で育った人たちでも、何もかも同じというわけじゃないと思う。」
「……。」
「全部が好みで、価値観が一緒の人なんかいないと思う。当然、俺も彼女に合わせているし、彼女も合わせてもらっているところもある。恋人ってそう言うことじゃないのかな。」
「私も合わせていたんです。彼に……。」
「うん。」
「でもどこかで無理が出てる気がして。窮屈だと思いました。」
 響子の好きな音楽も、本も、映画も、そして外に出ることも、ツボが少しずれている。それでも響子は圭太に会わせるときには、自分なりの楽しさを見つけていた。それは圭太も一緒だった。それが窮屈なのだろうか。
 もしかしたら圭太よりも遙かに気が合う一馬の方が、良いと思わないだろうか。
 そしてこの一緒の部屋にいる喜美子の方が、自分にとって良いのではないのだろうか。
 圭太もまだ揺れていた。
「あの……新山さん。」
「ん?」
「シャワーを浴びてきても良いですか。昼間は暑かったし……。」
「そうだね。そうして来なよ。」
 ソファに座っていた喜美子が立ち上がり、バスルームへ向かう。その間、圭太は自分の携帯電話を取り出してメッセージをチェックしていた。その中に響子のものはない。
「……。」
 仕事が終わって響子は駅へ向かっていた。真二郎は仕事があると言って、駅には向かっていたが路線は違う電車に乗ったはずだ。
 大人しく帰っているなら、もう寝ているか。そう思ったが、自然に通話を押していた。
「うん……まだ起きてた?」
 今から寝るようだ。声が少し機嫌が悪い。
「いいや。何でもないけど……。だったらいいんだ。」
 そう言って電話を切る。そのままソファにもたれ掛かった。
 そして体を起こし、ふと喜美子のバッグに目を移す。そこからファイルが見えて、立ち上がりそのファイルを目にする。するとそこにはジャズの歴史が書いているインターネットのページのコピーがあった。
「……え?」
 思わず手にしてファイルを取り出す。そしてその一つ一つの紙を見る。
 喜美子はジャズに詳しいと思っていた。それだけではなく圭太が好きなものや、嫌いなものなんかも全部つぼにはまっていた。それは、作られたものだったのだろうか。
 バスルームのドアが開く音がして、そのファイルをバックに戻す。そして携帯電話をまた手にした。するとそこには見覚えのないアドレスからのメッセージが届いている。不思議に思いながら、それを開く。
「……。」
 喜美子はバスローブに身を包んで、眼鏡をかけていた。
「シャワー先に浴びました。すっきりした。」
 バスローブ一枚なのかもしれない。その胸のあたりが大きく膨らんでいる。それは男なら期待させる大きさだった。
 真子は体が小さい割に胸が大きかった。そこもやはり似ていたのだろう。
「ねぇ。真中さん。」
「はい?」
「誰に頼まれたの?」
 その言葉に喜美子の表情が青くなる。そして自分のバッグを見た。そこから少しファイルが見えている。よりにもよって東からもらったファイルが見えているようだ。
「誰って……。」
「東さんかな。あのときの合コンを主催したのは、東さんだったし。」
「……それは……。」
 言葉に詰まってしまった。だが喜美子はめげなかった。
「確かに……東さんに、あなたに近づいてくれっていわれたのは確かです。こうして、あなたが好きそうな本や、音楽とか勉強してくれって。正直、こういうジャンルの音楽を聴いたことがなかったので、新鮮でした。」
「……。」
「好きだなとは思いました。そしてこれからもっと好きになれると思います。」
「そっか……。」
 納得してくれたのだろうか。喜美子はほっとしたように、そのファイルをしまう。
「あの……疑ってましたか?」
「何か狙いがあって近づいたんだろうとは思っていた。俺、モテるタイプではないしね。もう歳だし。」
「そんなことないですよ。とても格好いいと思います。」
「ありがとう。」
 すると喜美子はうつむくと、圭太にいう。
「好きなんです。」
「……。」
「確かに近づいたのはこちらの事情があったからです。でも……もうそんなことなんかどうでもいい。」
「真中さん。」
「新山さんに抱かれたい。」
 涙を溜めて、見上げられる。バスローブから少し見える白い胸。そこに傷跡はない。響子とは違うのだ。
「本当にそう思う?」
「そう言ってますけど。」
「……だったら、一つ、良いかな。」
「何ですか?何でも聞きますから。」
 すると圭太は自分のバッグの中から、携帯電話を取り出す。そしてその画像を見せた。
「これ、君?それを答えてくれる?」
 その画像に、喜美子は少しうつむいた。
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