153 / 339
二番目
152
しおりを挟む
休憩にはいり、圭太は弁当を取り出した。今日は余裕があったので、夕べ作って置いて余ったモノをタッパーに入れて持ってきていたのだ。それを真二郎が見て少し笑う。
「ご飯作ってきたんだ。」
「夕べ作ったヤツの残りだよ。今朝作ったのは卵焼きくらいだし。」
お茶だけは買ってきたものだ。ペットボトルのお茶を取り出して、テーブルにそれを置く。おかずは肉じゃがやサラダなどがあり、そして卵焼きもある。
「響子は煮込み料理がうまいよ。」
「あぁ。何か言ってたな。俺まだ食ったことが無くて。」
「寒い時じゃないと作らないから。」
だったら少し冷えたときにでも作ってもらおう。そう思いながらご飯に口を付ける。
「真中さんって言ってたっけ。」
「あぁ。今日、来てた客な。」
「合コンの時に来てた人で、連絡先は交換したの?」
「趣味が合うんだよ。でも進んで連絡はしてないな。」
「オーナーからは?」
「してないよ。」
嘘だ。東から聞くところによると、もう喜美子とは二人で食事へ行ったり酒を飲んだりしているらしい。嘘を付いたのは、真二郎に遠慮をしているからだろう。
だが嘘はすぐにばれる。それを知ったときの響子はどんな反応をするだろうか。
「別に俺、黙っとくからさ。別にいいんじゃない?」
「何が?」
「遊ぶくらいだったら。」
「聡子の時で懲りた。」
そうだった。聡子とセックスをするつもりだったのに、圭太は立たなかったのだ。遊びは出来ないタイプだ。だったら本気にさせればいい。そのためにはどうすればいいのだろう。
「そっか。そうだよね。」
「お前みたいに割り切れないわ。」
「そうかな。俺、男でも女でも抱くときはその人しか見てないよ。重ねてない。」
その言葉に、わずかだが嫌みがあった。だが圭太には通じていない。食事をしているのを見て、真二郎はそのままコックコートを脱ぐとバッグを手にフロアに出た。
圭太は相変わらず真子を響子に重ねている。それがさらに圭太に対していらつかせた。やはりぼんぼん育ちは抜けないし、それで響子を振り回している。そして言ったことに責任を持てない。
「くそ。」
フロアに出ると、見覚えのある人が居た。それは花岡一馬だった。相変わらずがたいが良く、真二郎の好みのタイプだった。
「花岡さん。こんにちは。」
「あぁ。パティシエの……。」
「コーヒーですか?」
「あーうん。まぁそれもあるが、ちょっと土産を渡したくてな。」
功太郎はオーダーへ行っているし、響子はケーキを盛りつけている。どうやらどちらも手が放せないらしい。
「時間は大丈夫ですか?」
「あぁ。予定は夕方からだ。ゆっくりでも良い。」
休憩に行くときは、店の状況を見て休憩に行くしだいたい暇な時間帯を選ぶ。だが予想外のことはあるのだ。
「すんません。お待たせしました。」
オーダーを取った功太郎が一馬に近づいてくる。すると一馬は紙袋を功太郎に手渡した。
「とりあえずこれをみんなで。」
「はぁ……どうしたんですか。」
中身を見ると、五合瓶の酒と漬け物を真空パックしたモノが入っている。
「歌手のツアーに同行してて、さっき帰ってきた。コーヒーを飲みたいと思ったんだが、手は離せないようだな。」
「ちょっと待っていただければ淹れれますよ。」
「いい。あとでまた来るから。とりあえずこれだけ渡しておく。酒はともかく漬け物は、冷蔵庫に入れておいた方が良いから。」
「ありがとう。」
「あとでまた来る。」
一馬はそう言って出ていった。そのあとを真二郎が追うように出ていく。
「花岡さん。」
キャリーケースを引き、ダブルベースを背負っているその一馬の広い背中に声をかけた。すると一馬は振り返る。
「どうしました。」
「あー……。ご飯って食べました?」
「いいや。適当にすませて、また来ようと思っていたんですけどね。」
「だったら一緒に行きませんか。」
「良いですけど、そんな外で食えるような暇があるんですか。」
「オーナーが中にいるんで大丈夫ですよ。」
最近はパフェやクレープを響子が作ってくれることもある。見た目は真二郎が作っているのとあまり変わらないように感じた。
「どこか美味いところがあるんですか?」
「えぇ。」
もし、響子に惹かれているなら。気があるのだったら、早いうちにあきらめてもらわないといけない。こういう男は驚異なのだから。
いつか響子と来た食堂だった。向かい合って真二郎と一馬は座り、一馬は壁に貼られているポスターやメニューを見ていた。
「こっちに正式なメニューがありますよ。」
そう言って真二郎はテーブルにおいてあるメニューを一馬に手渡した。
「大盛りは出来るんですか。」
「でも普通に頼んでも大盛りくらいの量がありますよ。」
「そうですか。」
「響子と来たことがありますけど、響子は途中であきらめてましたから。」
「食が細い女ですね。酒で動いているのか。」
その言葉に真二郎は少し笑う。こういう冗談も言える男なのだろう。そしてやはり響子とは一番合っている気がする。それだからこそ、驚異なのだ。
「鯖の味噌煮が良さそうですね。」
「良いですね。俺もそうしよう。すいません。一つ小盛りで、鯖味噌の定食を二つ。」
その声にカウンターの向こうにいるおじさんがうなづく。
「小盛りでいいんですか?」
「それでも普通並ですよ。花岡さんは食べるんですか。」
すると一馬は頭をかいて言う。
「兄嫁からいつも「一馬さんはどこに食事が消えていくのだろう」と言われます。」
「体を作っているからじゃないんですか。」
「体づくりはただの趣味ですね。」
「ジムへ行ったり?」
「えぇ。週に何度か行ったり、朝走ったり、ライブは体力勝負ですから。」
レコーディングだけではなく、歌手のバックでライブをすることもあるのだ。こういう所もストイックで、ますます響子が気に入る素質がある。
セックスばかりしている真二郎とは違うのだと言われているようだ。
「……でも花岡さんはもてるでしょう?」
水に口を付けて、一馬は首を横に振る。
「水川さんが言っていたでしょう?」
「あぁ。絶倫って。」
そこも真二郎が気になるところだった。出来れば相手をしたい。
「その噂が一人歩きしていて、一時期大変な目にあったんです。」
そういう噂があれば試してみたいと思うのだろうか。どこから過レコーディングが終わったスタジオの前で、女が一馬を誘ってくることもあった。
「コートの下に何も着ていない女が居たりしてですね。」
「それはちょっと引きますね。」
「それからはあまり恋人なんかは作ってないですね。」
響子が男に対して斜に構えているように、一馬もそういうコンプレックスがあるのだ。そしてぞっとする。やはり早いうちに手を打っておかないと危険だ。
響子も一馬も惹かれ合うのが目に見えるようだから。
「ご飯作ってきたんだ。」
「夕べ作ったヤツの残りだよ。今朝作ったのは卵焼きくらいだし。」
お茶だけは買ってきたものだ。ペットボトルのお茶を取り出して、テーブルにそれを置く。おかずは肉じゃがやサラダなどがあり、そして卵焼きもある。
「響子は煮込み料理がうまいよ。」
「あぁ。何か言ってたな。俺まだ食ったことが無くて。」
「寒い時じゃないと作らないから。」
だったら少し冷えたときにでも作ってもらおう。そう思いながらご飯に口を付ける。
「真中さんって言ってたっけ。」
「あぁ。今日、来てた客な。」
「合コンの時に来てた人で、連絡先は交換したの?」
「趣味が合うんだよ。でも進んで連絡はしてないな。」
「オーナーからは?」
「してないよ。」
嘘だ。東から聞くところによると、もう喜美子とは二人で食事へ行ったり酒を飲んだりしているらしい。嘘を付いたのは、真二郎に遠慮をしているからだろう。
だが嘘はすぐにばれる。それを知ったときの響子はどんな反応をするだろうか。
「別に俺、黙っとくからさ。別にいいんじゃない?」
「何が?」
「遊ぶくらいだったら。」
「聡子の時で懲りた。」
そうだった。聡子とセックスをするつもりだったのに、圭太は立たなかったのだ。遊びは出来ないタイプだ。だったら本気にさせればいい。そのためにはどうすればいいのだろう。
「そっか。そうだよね。」
「お前みたいに割り切れないわ。」
「そうかな。俺、男でも女でも抱くときはその人しか見てないよ。重ねてない。」
その言葉に、わずかだが嫌みがあった。だが圭太には通じていない。食事をしているのを見て、真二郎はそのままコックコートを脱ぐとバッグを手にフロアに出た。
圭太は相変わらず真子を響子に重ねている。それがさらに圭太に対していらつかせた。やはりぼんぼん育ちは抜けないし、それで響子を振り回している。そして言ったことに責任を持てない。
「くそ。」
フロアに出ると、見覚えのある人が居た。それは花岡一馬だった。相変わらずがたいが良く、真二郎の好みのタイプだった。
「花岡さん。こんにちは。」
「あぁ。パティシエの……。」
「コーヒーですか?」
「あーうん。まぁそれもあるが、ちょっと土産を渡したくてな。」
功太郎はオーダーへ行っているし、響子はケーキを盛りつけている。どうやらどちらも手が放せないらしい。
「時間は大丈夫ですか?」
「あぁ。予定は夕方からだ。ゆっくりでも良い。」
休憩に行くときは、店の状況を見て休憩に行くしだいたい暇な時間帯を選ぶ。だが予想外のことはあるのだ。
「すんません。お待たせしました。」
オーダーを取った功太郎が一馬に近づいてくる。すると一馬は紙袋を功太郎に手渡した。
「とりあえずこれをみんなで。」
「はぁ……どうしたんですか。」
中身を見ると、五合瓶の酒と漬け物を真空パックしたモノが入っている。
「歌手のツアーに同行してて、さっき帰ってきた。コーヒーを飲みたいと思ったんだが、手は離せないようだな。」
「ちょっと待っていただければ淹れれますよ。」
「いい。あとでまた来るから。とりあえずこれだけ渡しておく。酒はともかく漬け物は、冷蔵庫に入れておいた方が良いから。」
「ありがとう。」
「あとでまた来る。」
一馬はそう言って出ていった。そのあとを真二郎が追うように出ていく。
「花岡さん。」
キャリーケースを引き、ダブルベースを背負っているその一馬の広い背中に声をかけた。すると一馬は振り返る。
「どうしました。」
「あー……。ご飯って食べました?」
「いいや。適当にすませて、また来ようと思っていたんですけどね。」
「だったら一緒に行きませんか。」
「良いですけど、そんな外で食えるような暇があるんですか。」
「オーナーが中にいるんで大丈夫ですよ。」
最近はパフェやクレープを響子が作ってくれることもある。見た目は真二郎が作っているのとあまり変わらないように感じた。
「どこか美味いところがあるんですか?」
「えぇ。」
もし、響子に惹かれているなら。気があるのだったら、早いうちにあきらめてもらわないといけない。こういう男は驚異なのだから。
いつか響子と来た食堂だった。向かい合って真二郎と一馬は座り、一馬は壁に貼られているポスターやメニューを見ていた。
「こっちに正式なメニューがありますよ。」
そう言って真二郎はテーブルにおいてあるメニューを一馬に手渡した。
「大盛りは出来るんですか。」
「でも普通に頼んでも大盛りくらいの量がありますよ。」
「そうですか。」
「響子と来たことがありますけど、響子は途中であきらめてましたから。」
「食が細い女ですね。酒で動いているのか。」
その言葉に真二郎は少し笑う。こういう冗談も言える男なのだろう。そしてやはり響子とは一番合っている気がする。それだからこそ、驚異なのだ。
「鯖の味噌煮が良さそうですね。」
「良いですね。俺もそうしよう。すいません。一つ小盛りで、鯖味噌の定食を二つ。」
その声にカウンターの向こうにいるおじさんがうなづく。
「小盛りでいいんですか?」
「それでも普通並ですよ。花岡さんは食べるんですか。」
すると一馬は頭をかいて言う。
「兄嫁からいつも「一馬さんはどこに食事が消えていくのだろう」と言われます。」
「体を作っているからじゃないんですか。」
「体づくりはただの趣味ですね。」
「ジムへ行ったり?」
「えぇ。週に何度か行ったり、朝走ったり、ライブは体力勝負ですから。」
レコーディングだけではなく、歌手のバックでライブをすることもあるのだ。こういう所もストイックで、ますます響子が気に入る素質がある。
セックスばかりしている真二郎とは違うのだと言われているようだ。
「……でも花岡さんはもてるでしょう?」
水に口を付けて、一馬は首を横に振る。
「水川さんが言っていたでしょう?」
「あぁ。絶倫って。」
そこも真二郎が気になるところだった。出来れば相手をしたい。
「その噂が一人歩きしていて、一時期大変な目にあったんです。」
そういう噂があれば試してみたいと思うのだろうか。どこから過レコーディングが終わったスタジオの前で、女が一馬を誘ってくることもあった。
「コートの下に何も着ていない女が居たりしてですね。」
「それはちょっと引きますね。」
「それからはあまり恋人なんかは作ってないですね。」
響子が男に対して斜に構えているように、一馬もそういうコンプレックスがあるのだ。そしてぞっとする。やはり早いうちに手を打っておかないと危険だ。
響子も一馬も惹かれ合うのが目に見えるようだから。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる