彷徨いたどり着いた先

神崎

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ベーシスト

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 駅へ向かいながら圭太が居て良かったと有佐は内心思っていた。功太郎一人では警察官に淫行ではないかと声をかけられるだろうし、何より圭太には少し聞きたいこともあった。だが功太郎がそれを知っているかわからない。どうしたものかと考えていると、功太郎がふとヤクザか反グレかわからない男が、風俗嬢のような女性を車に入れているのを見かけた。
「進んで乗るのは別に良いのかなぁ。」
「何が?」
 圭太もそれを見て少し頷いた。
「売られてるな。本人の自業自得だろう。俺の家もあぁいうことをしていたから。」
「金融会社だっけ。」
「あぁ。」
 金貸しの家か。有佐は少し納得したように、圭太を見ていた。
「ご実家が?」
「あぁ。そうだけど。」
「返せない借金を作った人ってのはどうなるかわかってる?」
「自業自得だ。でも俺には性に合わない。」
 頭をかいて圭太はその行ってしまった車を見ていた。その車に見覚えがある。おそらく父親の会社のものだろう。
「女はホストに貢がせて借金を作らせたりするんだろ?あと男はギャンブルとか。」
「そんな感じだ。女の方が稼げると兄は言っていたな。男は根を上げる。そんなときは内臓の一つでも売ればいい。」
「怖い。怖い。」
 有佐は肩をすくませて、足を進めていった。
「望んでいったんなら別に問題はないだろ。でも……望んでないのにやられるのもあるわけじゃん。」
「功太郎。」
 圭太はそれを止める。すると有佐はため息をついていった。
「何も知らないで、つきあっているとは思えなかった。やっぱりそうなのね。」
「えぇ。響子のことでしょう?」
 拉致されて監禁された。最近はセックスよりも恐怖なのは、自分が自由になるために人を刺してしまったという罪悪感でうなされている。
「つきあっているってことはセックスだってしてるでしょう?」
 ちらっと功太郎を見る。功太郎には酷なことかもしれないと思ったのだ。
「……まぁ……それなりに。」
「怖くないのかしら。」
 そうか。有佐は、真二郎の姉である桜子と仲が良いのだ。当然、響子のことを知っていて当然だ。
「最初はずいぶん卑屈でした。それに怖かったようです。でも……響子には意志がある。それを乗り越えたいとも思っていた。」
「……そう思ってくれれば、前向きになれたと思うわ。あなたのおかげね。」
「俺はそんな大したことはしてませんけど。」
「いいえ。大したことよ。あれだけ自分に価値がないとか、男は真二郎以外の人は、敵くらいに思っていたのに。」
「ん?でもあれじゃん。」
「何?」
 功太郎が首を傾げて言う。
「真二郎以外にも居たけどな。響子が怖がらない相手。」
「誰だっけ。」
 圭太も思いだしてた。
「望月さんって言ってたっけ。警察の。」
 すると有佐が驚いて、功太郎に詰め寄った。
「望月って、望月雅?」
「そうだけど……何?」
「あの男はまだ響子の周りをうろうろしていたの……ったく、疫病神め。」
「疫病神?」
 舌打ちをして、有佐は不機嫌そうに言う。
「あの人はあまり響子の周りをうろうろさせないで。」
「何で?別に悪い人じゃ……。」
「功太郎君は会ってるの?」
「会ったよ。一度この辺を響子と歩いてたら、淫行だって補導されかけた。」
「ったく……。」
 さっきのジャズ談義の時よりも不機嫌になった。何かあるのだろうか。
「何かあるの?」
 その言葉に、圭太も功太郎も驚いて足を止めた。

 K町の方でも少しディープな地域へ足を進めている。小さい頃からこの辺で過ごした一馬だが、この辺はあまり行かない方が良いと、両親から言われていたのだ。小さい頃はその意味もわからなかったが、今となっては理解が出来る。
 ピンク色の看板は電飾がちかちかしている。そして呼び込みの男はピンク色の法被を着ていて、酔っぱらっているサラリーマンなんかを店に呼び込もうとしているのだ。
「お兄さん。良い子いるよ。おっぱいがKカップあるのに、ほら、顔はロリ系。あっちも絞まりは抜群でさ。」
「たまんねぇな。いくらだい?」
 あちらこちらからそんな会話が聞こえてくる。あまり奥に行けば、帰ってくるときに自分も声をかけられるかもしれない。一馬はそう思って頭をかいた。
「大丈夫ですよ。一馬さん。心配しなくても私と歩いているだけで、私の知り合いだとみんな認識していますから。」
「この辺のヤツも顔は知られているのか。」
「一通りは。そこの奥にあるバーのお酒も美味しいですよ。」
「一人では来れないな。」
 相当心配している。嫌なら嫌と言えるような強さはありそうだが、どこか気が弱いところもあるのだろう。
「心配ならこうすればいいです。」
 そういって響子はその丸太のような腕に手を伸ばした。すると慌てて一馬はその腕を放す。
「いいや。大丈夫だ。」
「そうですか。」
 考えてみれば有名人なのだ。こうして二人で歩いていても危険ではないだろうか。週刊誌なんかのゴシップネタになりそうだ。そう思って響子は少し離れて歩こうとした。
「どうした。」
「いいえ……ちょっと考えていることが。」
 すると一馬は口元だけで笑う。
「気にしなくても良い。確かにテレビなんかに出ないこともないが、ほとんど一般人だ。」
「そうですかね。」
「スポットライトに当たっているのは、顔が良い歌手やアイドルばかりだ。バックミュージックなんかは誰も聴いてない。」
 一馬も顔が悪い方ではない。むしろこのニヒルな感じが、黙っても女が近寄ってきそうなのに、女の一人もいないのが不思議だ。
「彼女がいないと言っていましたね。」
「あぁ。何ヶ月前だったか。女というのはイベントが好きだろう。」
「否定はしません。」
 クリスマスだ、バレンタインだと、限定のケーキや飲み物を売っていたのでその辺は敏感になる。
「歌手のディナーショーに呼ばれて演奏して、そのまま打ち上げに行ったら、そのまま別れを切り出された。」
「つまり、彼女よりも仕事を優先させたと?」
「そういうことだ。」
 同じ職場だから毎日のように会う。だが響子と圭太だってそうなりかねないのだ。圭太も仕事ばかりに思えるが、響子の方がひどい。
 いつか別れを切り出されるよと言う真二郎の言葉が頭に響いた。
「私たちの仕事も、先へ、先へと生み出さなければ生き残れません。たぶん、音楽だってそうでしょう?」
「あぁ。」
「「古時計」にいたときも、次々と進化させていたんです。同じ所に立ち止まらないように。祖父もそうしていました。」
「……。」
「それが理解できなければ、同じことの繰り返しです。もっと相手を見るべきでしたね。」
「あぁ。そう思う。」
 響子とは響子の方が少し年上と言うだけだ。なのにこんなに響子は人生を悟りきったような言い方をする。自分はそれに頼っていて良いのだろうか。
 響子といると少し不安になる。
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