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ベーシスト
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休みの前の日は仕込みがあまりないので、掃除が出来ないようなところをする。真二郎と響子はそれぞれが使う器具のメンテナンス。功太郎は食器の漂白。圭太は電気の傘の埃を落としていた。
「そろそろ終わりそうか?」
脚立から降りた圭太は響子たちにそう聞くと、響子はうなづいた。奥にいる真二郎にも目をやると、だいぶ終わったようだ。
「食器はあと一日くらい自然乾燥した方が良いよ。」
「そうだな。よし、じゃあ帰るか。」
圭太は今日はよく頑張ったと思う。夜更かしで疲れているのだろうに、忙しかっただろうに功太郎の倍は動いていた。
「オーナー。今日、食事でも作ろうか。」
響子から言ってくると思わなかった。圭太は笑顔を隠しきれない。
「いいのか?」
「別に良いならそれで良いけど。」
「いや。リクエストして良い?」
その会話を聞きながら真二郎はため息をついた。響子の近くに響子の趣味に合う男が居るというのに、やはり選ぶのは圭太なのだ。そんなにいい男かと真二郎は思っていた。
「俺、親子丼。」
功太郎がそういうと、圭太は少し笑って言う。
「お前は来るな。」
「えー?」
「当然だろう。ん?」
ドアベルが鳴った。電気がついているので、まだ開店していると勘違いしている客も多い。それに圭太は脚立をおいて、入り口へ向かう。
「すいません。もう閉店していて……。」
「響子さん。」
そこには昼にも来た、一馬の姿があったのだ。
「一馬さん。どうしました?」
カウンターから出てきて、響子は一馬の方へ駆け寄った。そしてその後ろには、水川有佐の姿がある。
「有佐さん。」
「閉店はわかってるのよ。でもちょっとご飯でもどうかと思ってね。」
「知り合いですか?」
「スタジオに来ていた。コーヒーを持ってスタジオに行ったら、めざとく見つけられて。」
「めざとくって何なのよ。もうっ。昔なじみだっていう関係よ。」
これはこれでいいコンビだ。響子は苦笑いをして、圭太を見る。有佐に連れられれば、圭太のところへいくという計画はなくなってしまうだろう。
「あー。ごめんなさい。有佐さん。ちょっと今日は用事が……。」
「花岡君って、「古時計」のお客様だったのよね。」
有佐は何も話を聞かずに話を進める。「古時計」の名前を出されると、響子も黙ってしまうしかないのだ。
「そうだったんですか?」
「あぁ。あのときのコーヒーで、バンドの息が続いた。あのときのマスターは……。」
「祖父です。」
「健在か?」
「いいえ。亡くなって……。」
「そうか。もう一度あの味を味わいたいと持ったんだが……。響子さん。頼みがあるんだ。」
「頼み?」
「昼に淹れたコーヒーはケーキに合わせたものだろう。」
「えぇ。」
ケーキを買うと言っていたのを聞いて、それに合わせたコーヒーを淹れた。それは響子の心遣いと、いつもの習慣で手が淹れたというモノでケーキに合うようにコーヒーを淹れたのだ。
「それとは違う……純粋にコーヒーだけを楽しむモノが飲みたい。」
「それは……。」
ちらっと圭太を見る。すると圭太は少し笑っていった。
「花岡さん。すいません。もう閉店時間なんですよ。」
「そうだったな。」
案外あっさり引き下がるものだ。だがそれに有佐が文句を言うようにいった。
「わざわざここまで足を運んだのよ。良いじゃない。あたしもコーヒーが飲みたいわ。ネルドリップのヤツ。」
「はぁ……。」
板挟みになっているようで響子が困っている。それを感じて功太郎が声をかけた。
「いつか時間外でも淹れてくれたじゃん。」
それは功太郎と初めて出会ったときのことを言っているのだろう。確かにあのときはイレギュラーだがコーヒーを淹れたのだ。
「そうだな。わざわざ足を運んでくれたし。まぁ……良いか。」
最後は圭太も折れてしまった。こんなオーナーで良いのかと思いながら、響子はカウンターの向こうへ行く。そしてお湯を沸かして、コーヒー豆を選んだ。
「コーヒー単品だとネルになるのか?」
功太郎はその隣に来て、そのコーヒーを淹れている所作を見ていた。
「別にそうとは限らない。今日破棄しようと思っていた豆だから、よけいな雑味がない方がいいの。」
ミルでコーヒー豆をつぶす。それだけで香りが立ち上るようだ。そして冷蔵庫からネルを取り出す。よけいな水気を払い、サーバーにセットした。そして豆をネルの中に入れる。
「あの子はバリスタになりたいの?」
有佐が真二郎にそう聞くと、真二郎は少しうなづいた。
「直々の弟子ですよ。響子にとって初めてですね。」
「偉くなったものだわ。「古時計」に通っていたときは、おじいさんから相当言いやられていたみたいなのに。」
「でも、響子のコーヒーは一番はサイフォンですよ。」
「そうね。ここでは難しいでしょうけど。」
ケーキにコーヒーを合わせるようなやり方だ。ここは洋菓子店で、喫茶店ではない。それを響子もわかっていて、豆にもこだわらない。水にもこだわらないと出来る限り最高のコーヒーを淹れている。
「惜しいのよね。いつも思うけど。」
「そうですか?」
「「古時計」のような喫茶店を構えられるだろうに、わざとこういう店に居るような気がする。」
「……そうですね。」
「あなたのためでしょう?」
有佐はそういって少し笑う。その様子に、一馬は少しため息をついた。
最初「flipper」に二人で来ていた。様子から見ても、きっと圭太と強固が恋人同士だと思っていたが、どうやら様子が違う。つきあっているのはこの男なのだろう。細身で、どうやらハーフなのかクォーターなのかわからない色素の薄い男。そして儚そうなのにどこか色気がある。
自分には何一つ無いものだ。こういう男が好きならば、自分など眼中にもない。そう思えた。
「そろそろ終わりそうか?」
脚立から降りた圭太は響子たちにそう聞くと、響子はうなづいた。奥にいる真二郎にも目をやると、だいぶ終わったようだ。
「食器はあと一日くらい自然乾燥した方が良いよ。」
「そうだな。よし、じゃあ帰るか。」
圭太は今日はよく頑張ったと思う。夜更かしで疲れているのだろうに、忙しかっただろうに功太郎の倍は動いていた。
「オーナー。今日、食事でも作ろうか。」
響子から言ってくると思わなかった。圭太は笑顔を隠しきれない。
「いいのか?」
「別に良いならそれで良いけど。」
「いや。リクエストして良い?」
その会話を聞きながら真二郎はため息をついた。響子の近くに響子の趣味に合う男が居るというのに、やはり選ぶのは圭太なのだ。そんなにいい男かと真二郎は思っていた。
「俺、親子丼。」
功太郎がそういうと、圭太は少し笑って言う。
「お前は来るな。」
「えー?」
「当然だろう。ん?」
ドアベルが鳴った。電気がついているので、まだ開店していると勘違いしている客も多い。それに圭太は脚立をおいて、入り口へ向かう。
「すいません。もう閉店していて……。」
「響子さん。」
そこには昼にも来た、一馬の姿があったのだ。
「一馬さん。どうしました?」
カウンターから出てきて、響子は一馬の方へ駆け寄った。そしてその後ろには、水川有佐の姿がある。
「有佐さん。」
「閉店はわかってるのよ。でもちょっとご飯でもどうかと思ってね。」
「知り合いですか?」
「スタジオに来ていた。コーヒーを持ってスタジオに行ったら、めざとく見つけられて。」
「めざとくって何なのよ。もうっ。昔なじみだっていう関係よ。」
これはこれでいいコンビだ。響子は苦笑いをして、圭太を見る。有佐に連れられれば、圭太のところへいくという計画はなくなってしまうだろう。
「あー。ごめんなさい。有佐さん。ちょっと今日は用事が……。」
「花岡君って、「古時計」のお客様だったのよね。」
有佐は何も話を聞かずに話を進める。「古時計」の名前を出されると、響子も黙ってしまうしかないのだ。
「そうだったんですか?」
「あぁ。あのときのコーヒーで、バンドの息が続いた。あのときのマスターは……。」
「祖父です。」
「健在か?」
「いいえ。亡くなって……。」
「そうか。もう一度あの味を味わいたいと持ったんだが……。響子さん。頼みがあるんだ。」
「頼み?」
「昼に淹れたコーヒーはケーキに合わせたものだろう。」
「えぇ。」
ケーキを買うと言っていたのを聞いて、それに合わせたコーヒーを淹れた。それは響子の心遣いと、いつもの習慣で手が淹れたというモノでケーキに合うようにコーヒーを淹れたのだ。
「それとは違う……純粋にコーヒーだけを楽しむモノが飲みたい。」
「それは……。」
ちらっと圭太を見る。すると圭太は少し笑っていった。
「花岡さん。すいません。もう閉店時間なんですよ。」
「そうだったな。」
案外あっさり引き下がるものだ。だがそれに有佐が文句を言うようにいった。
「わざわざここまで足を運んだのよ。良いじゃない。あたしもコーヒーが飲みたいわ。ネルドリップのヤツ。」
「はぁ……。」
板挟みになっているようで響子が困っている。それを感じて功太郎が声をかけた。
「いつか時間外でも淹れてくれたじゃん。」
それは功太郎と初めて出会ったときのことを言っているのだろう。確かにあのときはイレギュラーだがコーヒーを淹れたのだ。
「そうだな。わざわざ足を運んでくれたし。まぁ……良いか。」
最後は圭太も折れてしまった。こんなオーナーで良いのかと思いながら、響子はカウンターの向こうへ行く。そしてお湯を沸かして、コーヒー豆を選んだ。
「コーヒー単品だとネルになるのか?」
功太郎はその隣に来て、そのコーヒーを淹れている所作を見ていた。
「別にそうとは限らない。今日破棄しようと思っていた豆だから、よけいな雑味がない方がいいの。」
ミルでコーヒー豆をつぶす。それだけで香りが立ち上るようだ。そして冷蔵庫からネルを取り出す。よけいな水気を払い、サーバーにセットした。そして豆をネルの中に入れる。
「あの子はバリスタになりたいの?」
有佐が真二郎にそう聞くと、真二郎は少しうなづいた。
「直々の弟子ですよ。響子にとって初めてですね。」
「偉くなったものだわ。「古時計」に通っていたときは、おじいさんから相当言いやられていたみたいなのに。」
「でも、響子のコーヒーは一番はサイフォンですよ。」
「そうね。ここでは難しいでしょうけど。」
ケーキにコーヒーを合わせるようなやり方だ。ここは洋菓子店で、喫茶店ではない。それを響子もわかっていて、豆にもこだわらない。水にもこだわらないと出来る限り最高のコーヒーを淹れている。
「惜しいのよね。いつも思うけど。」
「そうですか?」
「「古時計」のような喫茶店を構えられるだろうに、わざとこういう店に居るような気がする。」
「……そうですね。」
「あなたのためでしょう?」
有佐はそういって少し笑う。その様子に、一馬は少しため息をついた。
最初「flipper」に二人で来ていた。様子から見ても、きっと圭太と強固が恋人同士だと思っていたが、どうやら様子が違う。つきあっているのはこの男なのだろう。細身で、どうやらハーフなのかクォーターなのかわからない色素の薄い男。そして儚そうなのにどこか色気がある。
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