彷徨いたどり着いた先

神崎

文字の大きさ
上 下
127 / 339
偏見

126

しおりを挟む
 雨の降る中で、圭太と響子は功太郎の家を目指していた。功太郎に限って何もないとは思うが、香の天真爛漫さで無意識に男を誘っているのかもしれないと思うと、その足は速くなる。
「無理に行こうとすんなよ。こけるぞ。」
「だって……。」
 響子は香が昔の自分を見ているようだと思った。男だの、女だのを言うのが嫌いで、わけへ立てなく接していたように思える。男女の営みも全く知らないまま、響子は拉致されたのだ。
「功太郎だぞ。何もないに決まってる。それに……あいつ、まだお前のことを想ってるだろ。」
「たぶん……。」
 数ヶ月で忘れるわけはない。圭太など真子のことを五年も忘れなかったのだ。
「功太郎もそこまで節操はないと思うんだけどな。」
「ねぇ。そういえば気になっていることがあったの。」
「何だ。」
「瑞希さんが言ってたわよね。香ちゃんはお母さんがお父さん以外の人とセックスをしていたのを見たって。」
「あぁ。」
「それを別に悪いことだと伝えてないって。」
「……自分を否定したくないから言ったことか。だとしたら、香は……。」
「訳が分からないまま、セックスをすることだってあり得るわ。」
 その言葉に圭太の表情が、焦りを生む。そうだ。功太郎は何も思わないかもしれないが、香が迫ることだってあり得るのだ。そうなれば、言い訳なんかできない。
「……急ごうか。」
「うん。」
 雨の中、二人はそのアパートへ向かっていく。

 しばらくしてやっと功太郎がベッドから起きあがった。そして頭をかくと、トイレへ向かう。それを香は不思議そうに見ていた。
 何で寝たままだったのだろう。何か悪いことでもしたのだろうかと思っていた。見たかったお笑いの番組なのに、頭に入らない。
 口を尖らせてベッドから降りようとしたときだった。パイプベッドの下に何かがあるのに気が付いた。それは本のようなモノだった。
 手に取ってみるとそれは雑誌だった。中を開くと、写真で女性が悩ましげな顔をして裸体を写し出されている。
「何これ。」
 思わず手から離し、それを元の位置に戻す。そして気分を変えようと、またテレビに目を移した。だがどうしてもさっきの女性の写真が頭から離れない。
 畳の上で黒い喪服を着崩した女性が、胸を露わにしていた。そして足下も太股が露わだった。
 男と女は違う。確かにその通りだった。そして男は、キットソンな女を見たくてこういう雑誌を買うのだ。それは功太郎だって例外ではない。
 急に頬が赤くなる。そして胸がどきどきと高鳴り始めた。
 そのときトイレから音がして、功太郎が戻ってくる。
「お笑い。面白いか?」
「う……うん。面白いよ。この人ね。あたしもお姉ちゃんも好きでね。」
「そっか。」
 お笑いなんかにはあまり興味がなかった。そして功太郎はベッドに座ろうとしたときだった。香が急に立ち上がると、紙パックのココアに手を伸ばす。
「どうしたんだよ。好きなんだろ?これ。」
「うん……。」
 まだどきどきが止まらない。今ベッドの隣なんかに座ったらアウトだ。そう思いながら、香は床に座る。だがそこは畳だった。と同時に、さっきの和服の女性が頭をよぎる。
「あー……。圭君たちまだかなぁ。」
「もうすぐ来ると思うんだけどな。」
 そういってテーブルに置いてある携帯電話を手にする。そのときふと違和感を覚えた。そしてパイプベッドの下をのぞく。少し手前においてあったのに、今は奥にある。それを見て、功太郎恥じろっと香を見る。
「お前さぁ……。」
「何?」
「……ったく。人がせっかく隠してるものを……。」
「あー……うん。功君だって見るよね。そういうの。」
 急激に恥ずかしくなったのだろう。その挙動不審は、そういう意味なのだ。
「大丈夫だって。」
「え?」
「お前にそういうことはしないから。」
 あくまでセックスがしたいと思っているのは、響子だけだ。一度触れたあの感触を忘れられない。
「……え……。」
「小学生にするかよ。バーカ。」
「ヒドい。功君。」
 ぷっと頬を膨らませ、紙パックのココアをテーブルに置くとベッドに腰掛けた。
「……でも、何となくわかった気がする。」
「え?」
「男と女って違うんだよね。みんな同じじゃないって。」
 怪我の功名だったか。そう思いながら、功太郎は少し笑う。
「でもお前、簡単にさせるなよ。」
「え?」
「初潮来てるんだろ。子供が出来るから。」
「そうだね。うん……。ねぇ。いつになったら出来るの?」
 すると功太郎は少し考えたあと、香に言う。
「好きな奴が出来たらな。」
「好き?」
「うん。」
「あたし、功君好きだよ。」
「うん。ありがとうな。」
 そういって功太郎は香の頭をなでる。すると香は頬を膨らませた。
「何?」
「そういう事じゃないの。あのね……。あたし功君が好きだよ。」
 すると功太郎は困ったような表情になる。それは男と女がどうだとかをやっと知ったのに、それで好きとか何とか言っているのだろうかと思ったのだ。
「駄目だよ。香。」
「何で?」
「俺、二十三だし、お前いくつだっけ。」
「十一。」
「だろ?普通だったら駄目なことなんだ。」
「何で?好きなのに?」
「淫行っていうんだよ。」
「淫行?」
「大人が子供に手を出したって事。せめてあと十年待てばいいけど。」
「十年も?」
 今の自分の年をもう一度過ごさないと、功太郎と一緒になれないのだ。そう思うと、悲しくなってくる。
「そう悲観するなって。お前にはお前にあったヤツが出てくるから。」
「うん……。」
 そういった香の目から涙がこぼれた。そのとき玄関のチャイムが鳴る。やばい。圭太たちがきたのだ。それなのに香が泣いている。これは誤解されるパターンだ。
「香。とりあえず泣きやめ。」
「え?」
「オーナーとか響子に誤解される。」
 そういってタオルを渡した。そして急ぎ足で玄関へ向かう。
「はい。」
 ドアを開けると、そこには純の姿があった。
「何だよ……。純か。」
「何だよはねぇよな。俺のお宝本、他のヤツに貸したいんだよ。ちょっと返してくれないか。」
「うーん……。」
「何だよ。女か?」
 そのときふと部屋の中を見た。そこには確かに女の姿がある。その姿に純はにやっとした。
「おー。ついに。」
「違うんだよ。純。」
「やったじゃん。ついに女が出来たか。」
 そのとき奥から、圭太と響子がやってきた。これで、何もかも終わったと、功太郎は天を仰ぐ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...