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偏見
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一台のタクシーが駅で待っている傘を差した功太郎の前に停まった。そして中から出てきたのは、香だった。
「お客さん。足りないよ。」
香は傘を差して半泣きのまま、功太郎を見上げる。すると功太郎はその運転手に聞いた。
「いくら足りねぇんだよ。」
金を払うと、タクシーはドアを閉めて行ってしまった。その間も香は少し泣いているようだった。
「担任が来たんだって?」
「うん……。あたしの言ってることが嘘だって言ってくれって。それから、あたしがクラスに馴染めなかったから全部いけないんだって言ってくれって言ってた。」
「責任逃れかよ。まぁいいや。姉ちゃんとか父ちゃんが居るんだろ?」
「うん。話をするから、出てなさいって言ってた。」
「ったく……こんな事で番号を教えてたのが良かったなんて思いたくなかったな。」
すると香は少しうつむいて功太郎に言う。
「迷惑?」
「何で?」
「番号を教えなきゃ良かったって。」
「あー。じゃないよ。もっと楽しいことで誘われれば良かったって思っててさ。飲みに行くとか、瑞希さんのところでイベントがあるとかさ。」
香はその言葉に少し笑った。
「家に来るか。近くなんだよ。夜はちょっと冷えるしな。何か飲み物でも買うか?それか飯とかは?」
「ご飯は食べたの。お姉ちゃんが作ってくれたのよ。」
「そっか。そこのコンビニで良いか?」
「うん。」
二人が並んでコンビニへ向かう。端から見ると高校生カップルだ。だが香は小学生だし、功太郎は二十三だ。功太郎は年下を相手にしたことはないし、第一まだ心に響子が残っている。響子とは全く違うタイプで、そんな女に何かしようとは全く思わない。
「あ、お姉ちゃんがね。タクシー代が足りなかったら功君に借りといてって言われてたんだっけ。」
「言われなくても戻してもらうよ。俺、ボランティアはしねぇんだ。」
「だったら何で、あたしには面倒を見てくれるの?」
すると功太郎は頭をかいて言う。
「お前だからだよ。」
その言葉に、香の頬が赤くなった。そして功太郎の背中について行く。
ワンルームの部屋は、一人暮らしでは十分だった。功太郎は買った荷物をテーブルに置くと、思い出したように圭太に連絡をした。圭太には弥生から連絡をしていると思っていたが、圭太は驚いたようにすぐにこちらに来ると言ってきた。そしてそこには響子も一緒だという。
付き合っているのだから仕方がない。わかっているが心がこんなに切なかった。
「功君。ご飯食べた?」
「うん。さっきな。」
「何か同じようなトレーが多いね。ずっと買ってるの?」
「料理はしないんだよ。面倒でさ。」
「お姉ちゃんがね。買ったおかずばっかり食べてると太るって言ってた。功君も太る?」
「かもな。響子とか、オーナーが簡単なヤツ教えてくれたけど、結局してないわ。」
すると功太郎は香に、買ってきた飲み物を手渡す。すると香はベッドの上に座った。すると床に座っている功太郎はそのすらっと長い足を目の前で見ることになる。目の毒だ。そう思いながら、自分が買ってきたお茶の蓋を開ける。
「あのねぇ。お姉ちゃんもお父さんも居ないときがあってね。」
「うん。」
「そのときは一人でご飯食べるの。」
「作って?」
「うん。お姉ちゃんみたいに煮物とかは出来ないけど、カレーとかなら作れるから。」
「へぇ。偉いな。」
「へへっ。」
買ってきたモノはココアだった。おそらく香はこういうココアが好きなのだろう。
「ココアって甘くねぇ?」
「これ、あまり甘くないよ。飲んでみる?」
紙パックのココアを差し出される。飲み口にはストローが刺さってた。これに口を付けろと言うのだろうか。無防備にもほどがある。
「あのな。香。あまりそういうのをしない方がいいんだよ。」
「何で?」
「同級生とかにもしてたのか?」
「向こうではね。でもなんか今の学校さ、変なんだよ。掃除当番で一緒に男の子と掃いてるだけで、怪しいとか言われるの。つまんない。男の子でも女の子でも別に良いじゃんね。」
「そんなことはねぇよ。」
お茶を口にして、功太郎は床からベッドに座る。
「男の子だの女の子だのって言わないのは子供だけ。たいていは男、女で分けられるじゃん?」
「何で?普通に人間じゃん。」
「お前みたいな考え方だけじゃないんだよ。例えば、よそでトイレに入ろうとしたら男のトイレと女のトイレで分けられるだろ?」
「うん。」
「それって何でだと思う?」
「うーん。やっぱ男の人に裸を見られるのが嫌だからってのもあるし、男の人の裸を見たくないってのもあるのかな。」
「恥ずかしいって事だ。お前ももう少ししたら、男と話すのも恥ずかしいって思うときが来るよ。」
「功君とは平気だよ。」
「それは、俺を男だって見てないから。」
「……わかんない。功君が言ってるの。」
そういって不服そうに香はココアを飲んでいた。まぁ、今理解しようと思っても無理か。そう思って、功太郎はお茶をテーブルに置くとテレビのリモコンを手にした。すると香もテーブルに紙パックのココアを置くと、目をきらきらさせて言う。
「もう少ししたら、お笑い番組がはじまるの。見て良い?」
「えー?俺、ニュースがみたい。明日の天気だけでも。」
「やだー。あれ、ずっと見てたの。今週ね。好きな芸人さんが出てて。」
「るせぇな。俺んちだぞ。」
「ぶー。」
乗りかかるように香は功太郎の手に持っているリモコンを手にしようとした。しかし功太郎はそれをさっと避ける。
「ざんねーん。」
すると香もムキになったように、功太郎の体にますます寄りかかる。こうなってくると、体が密着してくる。やばい。女の香りがする。柔らかさや温かさが伝わってきて、どうしようもない。
「あー。わかった。わかった。」
ニュースは明日の朝見ればいいだろう。そう思いながら、香にリモコンを手渡す。すると香は少し笑顔になって体を避けた。
「ありがとう。」
すると香はご機嫌そうに、テレビをつける。するとチャンネルを変え始めた。もうお笑い番組がはじまっているらしく、男や女の笑い声が聞こえた。
「ねぇ。功君。」
すると功太郎は寝たまま動かない。そして香に背中を向けていた。やばい。こんな事で反応すると思っていなかった。押さえろ。押さえろと心を落ち着かせる。
「どうしたの?どっか打った?」
「いいや。大丈夫。お前、テレビ見てろよ。」
「ねぇ?本当に大丈夫?」
そういって香が功太郎の肩に手をかける。すると功太郎はその手を振り払った。
「大丈夫。ちょっと落ち着けばいいから。」
「ふーん。わかった。」
そういってまた香はテレビを見ていた。良かった。香が深く考えるタイプではなくて。
「お客さん。足りないよ。」
香は傘を差して半泣きのまま、功太郎を見上げる。すると功太郎はその運転手に聞いた。
「いくら足りねぇんだよ。」
金を払うと、タクシーはドアを閉めて行ってしまった。その間も香は少し泣いているようだった。
「担任が来たんだって?」
「うん……。あたしの言ってることが嘘だって言ってくれって。それから、あたしがクラスに馴染めなかったから全部いけないんだって言ってくれって言ってた。」
「責任逃れかよ。まぁいいや。姉ちゃんとか父ちゃんが居るんだろ?」
「うん。話をするから、出てなさいって言ってた。」
「ったく……こんな事で番号を教えてたのが良かったなんて思いたくなかったな。」
すると香は少しうつむいて功太郎に言う。
「迷惑?」
「何で?」
「番号を教えなきゃ良かったって。」
「あー。じゃないよ。もっと楽しいことで誘われれば良かったって思っててさ。飲みに行くとか、瑞希さんのところでイベントがあるとかさ。」
香はその言葉に少し笑った。
「家に来るか。近くなんだよ。夜はちょっと冷えるしな。何か飲み物でも買うか?それか飯とかは?」
「ご飯は食べたの。お姉ちゃんが作ってくれたのよ。」
「そっか。そこのコンビニで良いか?」
「うん。」
二人が並んでコンビニへ向かう。端から見ると高校生カップルだ。だが香は小学生だし、功太郎は二十三だ。功太郎は年下を相手にしたことはないし、第一まだ心に響子が残っている。響子とは全く違うタイプで、そんな女に何かしようとは全く思わない。
「あ、お姉ちゃんがね。タクシー代が足りなかったら功君に借りといてって言われてたんだっけ。」
「言われなくても戻してもらうよ。俺、ボランティアはしねぇんだ。」
「だったら何で、あたしには面倒を見てくれるの?」
すると功太郎は頭をかいて言う。
「お前だからだよ。」
その言葉に、香の頬が赤くなった。そして功太郎の背中について行く。
ワンルームの部屋は、一人暮らしでは十分だった。功太郎は買った荷物をテーブルに置くと、思い出したように圭太に連絡をした。圭太には弥生から連絡をしていると思っていたが、圭太は驚いたようにすぐにこちらに来ると言ってきた。そしてそこには響子も一緒だという。
付き合っているのだから仕方がない。わかっているが心がこんなに切なかった。
「功君。ご飯食べた?」
「うん。さっきな。」
「何か同じようなトレーが多いね。ずっと買ってるの?」
「料理はしないんだよ。面倒でさ。」
「お姉ちゃんがね。買ったおかずばっかり食べてると太るって言ってた。功君も太る?」
「かもな。響子とか、オーナーが簡単なヤツ教えてくれたけど、結局してないわ。」
すると功太郎は香に、買ってきた飲み物を手渡す。すると香はベッドの上に座った。すると床に座っている功太郎はそのすらっと長い足を目の前で見ることになる。目の毒だ。そう思いながら、自分が買ってきたお茶の蓋を開ける。
「あのねぇ。お姉ちゃんもお父さんも居ないときがあってね。」
「うん。」
「そのときは一人でご飯食べるの。」
「作って?」
「うん。お姉ちゃんみたいに煮物とかは出来ないけど、カレーとかなら作れるから。」
「へぇ。偉いな。」
「へへっ。」
買ってきたモノはココアだった。おそらく香はこういうココアが好きなのだろう。
「ココアって甘くねぇ?」
「これ、あまり甘くないよ。飲んでみる?」
紙パックのココアを差し出される。飲み口にはストローが刺さってた。これに口を付けろと言うのだろうか。無防備にもほどがある。
「あのな。香。あまりそういうのをしない方がいいんだよ。」
「何で?」
「同級生とかにもしてたのか?」
「向こうではね。でもなんか今の学校さ、変なんだよ。掃除当番で一緒に男の子と掃いてるだけで、怪しいとか言われるの。つまんない。男の子でも女の子でも別に良いじゃんね。」
「そんなことはねぇよ。」
お茶を口にして、功太郎は床からベッドに座る。
「男の子だの女の子だのって言わないのは子供だけ。たいていは男、女で分けられるじゃん?」
「何で?普通に人間じゃん。」
「お前みたいな考え方だけじゃないんだよ。例えば、よそでトイレに入ろうとしたら男のトイレと女のトイレで分けられるだろ?」
「うん。」
「それって何でだと思う?」
「うーん。やっぱ男の人に裸を見られるのが嫌だからってのもあるし、男の人の裸を見たくないってのもあるのかな。」
「恥ずかしいって事だ。お前ももう少ししたら、男と話すのも恥ずかしいって思うときが来るよ。」
「功君とは平気だよ。」
「それは、俺を男だって見てないから。」
「……わかんない。功君が言ってるの。」
そういって不服そうに香はココアを飲んでいた。まぁ、今理解しようと思っても無理か。そう思って、功太郎はお茶をテーブルに置くとテレビのリモコンを手にした。すると香もテーブルに紙パックのココアを置くと、目をきらきらさせて言う。
「もう少ししたら、お笑い番組がはじまるの。見て良い?」
「えー?俺、ニュースがみたい。明日の天気だけでも。」
「やだー。あれ、ずっと見てたの。今週ね。好きな芸人さんが出てて。」
「るせぇな。俺んちだぞ。」
「ぶー。」
乗りかかるように香は功太郎の手に持っているリモコンを手にしようとした。しかし功太郎はそれをさっと避ける。
「ざんねーん。」
すると香もムキになったように、功太郎の体にますます寄りかかる。こうなってくると、体が密着してくる。やばい。女の香りがする。柔らかさや温かさが伝わってきて、どうしようもない。
「あー。わかった。わかった。」
ニュースは明日の朝見ればいいだろう。そう思いながら、香にリモコンを手渡す。すると香は少し笑顔になって体を避けた。
「ありがとう。」
すると香はご機嫌そうに、テレビをつける。するとチャンネルを変え始めた。もうお笑い番組がはじまっているらしく、男や女の笑い声が聞こえた。
「ねぇ。功君。」
すると功太郎は寝たまま動かない。そして香に背中を向けていた。やばい。こんな事で反応すると思っていなかった。押さえろ。押さえろと心を落ち着かせる。
「どうしたの?どっか打った?」
「いいや。大丈夫。お前、テレビ見てろよ。」
「ねぇ?本当に大丈夫?」
そういって香が功太郎の肩に手をかける。すると功太郎はその手を振り払った。
「大丈夫。ちょっと落ち着けばいいから。」
「ふーん。わかった。」
そういってまた香はテレビを見ていた。良かった。香が深く考えるタイプではなくて。
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