彷徨いたどり着いた先

神崎

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偏見

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 仕事のあと、響子はイチゴミルクのことで試行錯誤していた。
「おい。」
 並べられたコップを目の前にして、響子は首を傾げている。それをみて圭太は声をかけた。
「何?」
「いい加減帰ろうぜ。いつまでやってるつもりだよ。」
 真二郎も功太郎も帰ってしまった。響子はため息を付いて、そのコップをシンクにおく。
「ちょっと考え込んでた。」
「夜間保育の子供たちには好評だったんだろ。それで良いじゃん。」
「でも香ちゃんには駄目だったのよね。」
 香はそれを飲んで、甘すぎると言ってきたのだ。やはりここはもう少しコンポートの甘さを押さえるべきかと思っていた。
「香の味覚は最初の時と比べると、大人になったんじゃねぇの?」
「そうなのかな。」
「甘いのが良いってわけでもなくなったってことだ。でも見た目はピンクで悪くねぇな。」
 バナナミルクは好評だが、時間をおくと少し黒くなってしまう。バナナが酸化しているだけなのだが、見た目が良くない。
「……着替えてくるわ。」
「あぁ。そうだ。響子。今日家に来ないか。」
「家に?」
「遅くなったしさ……。」
 すると響子は首を横に振る。
「辞めとく。」
「何で?用事があるのか。」
「うん。まぁね。」
 昼間に真二郎が言っていたことが引っかかっていた。圭太が何を言ったのかなどわからない。だが自分の中でもやもやしていることが収まらないと、圭太の家になどいけない。
 それに真二郎は今日、仕事がないと言っていたのだが結局仕事が出来てしまって、家に帰るのは遅くなる。そっちの方が寝ていたといえるのだから、都合が良い。
「だったら駅まで送るよ。」
「うん。」
 コップを洗うと、響子はバックヤードへ向かう。そしてエプロンを取り、白いブラウスを脱いだ。
 ブラウスやズボン、エプロンは三日に一度、クリーニングに出す。今日はその日だ。袋に着ていたモノをいれて、Tシャツに袖を通す。
 着替えを終えてフロアに出ると、圭太は戸締まりをしていた。
「ガスもOKだし、よし、帰るか。傘があるか?」
「うん。」
 雨は相変わらず降り続いている。響子は傘をさして表に出ると、その後ろから圭太も出てきた。
「なんかさ。」
「何?」
「……お前、何か言われたか?」
「何かって……何?」
「真二郎と昼に出て行ってから少しおかしかったから。真二郎になんか言われたのか。」
「……。」
 すると響子は傘を持ったまま、圭太を見上げる。
「何だよ。」
「真二郎に何か言ったの?」
「別に。普通だけど。」
「……高校の時は一緒の学校だったんでしょう?」
「そうなんだけどさ。俺、あまり覚えてないんだよ。」
 そう言って圭太は首を傾げた。あれからまた卒業アルバムなんかを開いてみたし、神木にも話をしてみたがやはり覚えていないと言う。
「そう……。」
 言ったことと言うのは取り返せない。おそらく圭太には覚えていないのだろうが、真二郎には圭太を恨むくらいの何かを言われたのだろう。
「それを昼間に聞いてたのか?」
「聞いたんだけど、話せないって言ってて。」
「……。」
「なんかもやもやするのよね。」
 そのとき携帯電話がなった。思わず響子は自分のモノを確かめるが、着信は圭太のようだった。
「もしもし?」
 圭太は電話に出ると、少し表情を変えた。
「え……お前の家にいるのか。」
 それは功太郎からの電話だった。そしてその功太郎の家に香が来ているらしい。
「何で香ちゃんが功太郎の家に?」
「わかんねぇ。でもちょっと俺、功太郎の家に行くから。」
「あ、私も行くわ。」
「そうだな。女が居た方が良い。」
 そう言って二人は功太郎の家まで歩いていく。

 事の発端は転校して数ヶ月たつのに香が学校に全く馴染めないことにあった。担任は若い男で、田舎からやってきたという香のことは少し気にかけていたが、男子に対して癇癪をおこしたり女子にも他愛もない話題すらまじめに受け止めてしまう香は、正直、お荷物だった。
 五年から六年はクラス替えがない。なのでクラスはそこそこ中の良い人たちなんかでまとまっている。そこに香のような生徒は受け入れられなかったのもあったのだろう。
「村瀬さんは、まだ馴染めませんか。」
 女性教師は隣のクラスで、正直香のような人が入らなかったことを安心していたように思えた。
「あんなに孤立した生徒は初めてですよ。」
「頭は悪くないんでしょう?」
 確かにテストの点数だけ見ると、教えたことはすぐに吸収するしその応用だって出来る。今まで学習塾なんかに通ったことはないと言っていたが、それくらいだったら出来る子なのだ。
「なんか……こう、私立とかの学校に行った方が良いと思うんですけどね。」
「あれじゃないんですか。」
「あれ?」
「本当は学校が違うとか。」
「え?」
「あまり公にいえないけれど、ほら……。」
「養護学校とかに行った方が良いと言うことですか。」
「かもしれないって事ですよ。あぁいう子は、頭が良い子だってまれにいるわけですし。」
 それを真に受けてしまったのだろう。担任はそれをほかの教師にも話してしまったのだ。
 それを聞いてしまった香はショックを受けて、学校を黙って出て行ってしまった。それも責任を担任は追求される。
「障害のある子だとか言ったそうですね。」
「そうじゃないかって……。他の子にもなじまないし……。」
 教頭や校長の呼び出された担任は、言い訳のようにそれを繰り返していた。あくまで自分には非がないような言い方だ。
「とにかく先生は、クラス担任を外れてもらいます。そうですね。他の先生に……。」
「待ってください。俺だけが言ったわけじゃなくて……。」
 隣のクラスの教師が言ったのだ。あの女性教師が言い出したことで、自分はそうかもしれないと言っただけだ。
「しかしもう他の保護者にもわかっていることなんですよ。今更変更などききません。こっちだって説明会をしないといけないし、大変なことになっているんですよ。」
「村瀬に……村瀬に聞いてもらえば。」
 元々は香が馴染めなかったのがいけないのだ。香に話を聞けばすぐにわかる。香がどんな子だったか、どれだけ馴染めなかったのか。
 そう思った担任は、すぐに香の自宅へ向かった。
 近くにある団地の一角。そこに担任は足を踏み入れ、そしてそのチャイムを鳴らした。
「すいません。村瀬さんの担任の……。」
 出てきたのは幼そうな女性だった。この人が香の姉だとは一度会って知っている。
「ずいぶんヒドいことを言ったんですね。」
「そもそも香さんが、クラスに馴染まなくて。」
「馴染まなかったんじゃない。馴染めなかったのよ。ふざけんな。家の妹に障害があるって?大概にしてよ。」
 弥生も頭に血が上っていた。玄関先で声が大きくなっていた。それを危惧して、帰ってきていた父親が弥生を中にいれる。
「弥生。いい加減にしなさい。アホがうつる。」
 父親もそう言って担任の前に立った。
「香には会わせられません。元々、うちの子を田舎モノと言っていじめの対象にしようとしていたでしょう。」
「……。」
「それに、体のこともだいぶからかわれたと聞いています。それを黙ってみていたのが担任の仕事ですか。」
「それは……そういう噂があったとか。」
「どこの世界に、そんな噂を鵜呑みにするような担任が居るんですか。あなたも田舎だからとバカにしていたのでしょう。」
「そんなことはないです。」
「良いから……おっと……。」
 その隙間から香が出てきた。そして階段を降りていく。
「村瀬。」
「やー。着いてこないで。」
 香はそう言って走っていく。そして待っていたタクシーに乗り込むと、駅の名前を告げた。
「お父さん。とりあえず香は知り合いのところに行くようにしておいたわ。大丈夫。信頼置ける人だし。」
 出てきた弥生は、功太郎のところへ行きたいと告げたのだ。そして弥生から功太郎に連絡をする。そして近所の目を気にしながら、部屋の中に担任を招き入れた。
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