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花見
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素足にサンダル穿きで、足下が寒い。夜になれば一気に冷え込むので吐く息も白かった。だが探したい。そう思って圭太はマンションから駅へ行く道を走っていた。
小道から大通りにでる。そこまでくれば駅はもう目の前だ。大通りにでて周りを見る。するとそこには響子と、真二郎の姉である桜子がいた。
「響子。」
圭太は響子に近づいて、声をかけた。すると桜子もそちらを振り返る。
「あら。本当にオーナーさんが恋人だったの。」
「……。」
響子は普段、あまり表情を変えることは少ない。だが桜子の前ではそれがひどくなる。それに言葉もあまり発することはない。言われたい放題なのだ。
「あんたのことを調べたのよ。ろくでもない会社の息子だったなんてね。」
「うるせぇよ。生まれてきた所なんか子供は選べねぇのに。」
「そう。真二郎だってそうじゃない。好きでクォーターで生まれてきたわけじゃないの。」
すると桜子は圭太の方へ近づいていう。
「あんたがやろうとしてることなんかわかってる。」
「は?」
「あんたが昔付き合っていた女が今どうなっているかわかってる?」
「女?」
真子が死んだ跡のことだろうか。確かに付き合ったり、別れたり、一晩限りというのもあったはずだ。その女達と連絡を取り合うことはない。第一、今付き合っているのは響子だ。連絡を取っているなんて死ったら響子はいい気分はしないだろう。
「付き合って別れて、その女は寂しさからホスト通い。そこから借金をして、あんたの実家の会社から融資をされる。首が回らなくなったら、ソープに沈める。そんな人よ。」
いい餌になっていた。そう取れるような言葉だった。響子がそんな話を信じるわけがない。ちらっと響子を見ると、響子はまだおびえたような表情だった。
圭太が云々というよりも、この姉が怖いのだろうか。
「俺はそんなことをした覚えはないけどな。」
「嘘言って。そんな女が……。」
「それっていつの話だ。」
意気揚々と桜子が言っていた話だ。だが自分の心当たりはない。
「あなたが「ヒジカタコーヒー」の営業だったときの話よ。」
「噂を流されたことはある。」
営業の中でもトップセールスマンだった。だから嫉妬をされることも多かった。足を引っ張ってやろうとする輩はどこにでもいるものだ。
「火のないところに煙は立たない。少しは心当たりがあるんじゃないの。」
「無いな。俺は降られてばかりでね。」
いつも言われていたのは、「何か嘘くさい」だの「こんなに尽くしてくれると、不安になる」だの「信用できない」だの「必要とされていないのではないか」など、たいてい女から離れていくのだ。
「実家がしていることは、俺は興味がない。ただ、たまに俺にも火の粉がかかってくることもある。そのときは実家に連絡をするだけだ。」
「……結局実家頼りなのね。お坊ちゃん。」
「あんただってそうだろう。ご立派な家だな。」
その言葉に桜子の言葉が詰まった。
「そのご立派な家に、響子のような女の影があるのは汚点だろうな。」
「……。」
その通りだ。実家から、桜子は響子を真二郎から離せと言われていたのだ。だが真二郎は響子を離すくらいなら、家と縁を切るとまで公言している。
「心配しなくても真二郎には渡さない。そして俺の実家が何か言うなら、俺も実家とは縁を切る。」
「そんなこと出来るわけがない。」
「ヤクザじゃないんだから出来る。」
すると圭太は響子の肩を抱くと、真っ直ぐに桜子を見た。
「……二度と顔を見せないでくれ。」
悔しそうに桜子が大通りを駅の方へ向かっていこうとした。その背中に、響子が声をかける。
「今日はありがとうございました。」
すると桜子は、振り返って響子に言う。
「あんたのそう言うところが嫌いなのよ。良い子ぶって。さっさと真二郎と離れなさい。」
ヒールを鳴らして、駅へ向かう。その背中に響子はため息を付いた。
「寒いし、帰るか。」
「……どこに?」
「俺の部屋。連れて帰って良いか?」
すると響子は少しうなづいた。手足が冷たいだろう。素足にサンダル穿きで、少し足先が赤くなっている。
「レモンある?」
「レモン?」
「レモネード淹れるわ。」
「そうしてくれるか。」
肩を抱いたまま、圭太は響子と歩く。
「ねぇ。」
「どうした。」
「ホストに知り合いはいないの?」
桜子の言葉に、圭太は少し苦笑いをした。そんなことを信じているのかと思ったのだ。
「親の会社では確かに子飼いにしているホストはいるようだな。俺も個人的には知っているヤツはいる。でも親が子飼いにしているホストにはとうてい及ばないし、そいつも真二郎よりは劣ると思うけど。」
「……真二郎ってそんなに男前かしら。」
「お前なぁ……あれが男前じゃなかったら、何だって言うんだ。テレビとかにでているような芸能人よりもずっと男前じゃん。」
「わからないわねぇ。顔だけ見てるとってことかしら。」
「お前は何を見てるんだ。接客してたら一瞬で印象を決められるのに。」
「真二郎は接客なんかしてないわ。それに中身を知ると、何でモテるのかわからない。遊び人よ。どれだけの男とか女が泣いているか。」
「言いたい放題だな。」
「顔で見なくて良かったわ。」
それは圭太がそこまで男前ではないことをいっているのだ。それに気が付いて圭太が、口を挟む。
「お前なぁ……。迎えに来てやってんのに。」
響子の顔に笑顔が戻った。
「顔じゃないわよ。ごめんね。自信を持って恋人だって言えなかったわ。」
「あの姉さんに、何か怖いことでも言われたのか?」
「頭が上がらないのよ。あの人には。」
「あぁ。前に聞いたな。祖父さんの店の世話をしてくれたとか。」
「えぇ。それに……。」
「どうした。」
「……真二郎の一番の理解者だから。」
ゲイだと知って、絶望した家から真二郎をかばったのは桜子だったし、響子が拉致監禁されたときに「そんなことくらい」といい放ったのも桜子だった。
いくらひどいことを言われても、桜子を恨めなかったのだ。
小道から大通りにでる。そこまでくれば駅はもう目の前だ。大通りにでて周りを見る。するとそこには響子と、真二郎の姉である桜子がいた。
「響子。」
圭太は響子に近づいて、声をかけた。すると桜子もそちらを振り返る。
「あら。本当にオーナーさんが恋人だったの。」
「……。」
響子は普段、あまり表情を変えることは少ない。だが桜子の前ではそれがひどくなる。それに言葉もあまり発することはない。言われたい放題なのだ。
「あんたのことを調べたのよ。ろくでもない会社の息子だったなんてね。」
「うるせぇよ。生まれてきた所なんか子供は選べねぇのに。」
「そう。真二郎だってそうじゃない。好きでクォーターで生まれてきたわけじゃないの。」
すると桜子は圭太の方へ近づいていう。
「あんたがやろうとしてることなんかわかってる。」
「は?」
「あんたが昔付き合っていた女が今どうなっているかわかってる?」
「女?」
真子が死んだ跡のことだろうか。確かに付き合ったり、別れたり、一晩限りというのもあったはずだ。その女達と連絡を取り合うことはない。第一、今付き合っているのは響子だ。連絡を取っているなんて死ったら響子はいい気分はしないだろう。
「付き合って別れて、その女は寂しさからホスト通い。そこから借金をして、あんたの実家の会社から融資をされる。首が回らなくなったら、ソープに沈める。そんな人よ。」
いい餌になっていた。そう取れるような言葉だった。響子がそんな話を信じるわけがない。ちらっと響子を見ると、響子はまだおびえたような表情だった。
圭太が云々というよりも、この姉が怖いのだろうか。
「俺はそんなことをした覚えはないけどな。」
「嘘言って。そんな女が……。」
「それっていつの話だ。」
意気揚々と桜子が言っていた話だ。だが自分の心当たりはない。
「あなたが「ヒジカタコーヒー」の営業だったときの話よ。」
「噂を流されたことはある。」
営業の中でもトップセールスマンだった。だから嫉妬をされることも多かった。足を引っ張ってやろうとする輩はどこにでもいるものだ。
「火のないところに煙は立たない。少しは心当たりがあるんじゃないの。」
「無いな。俺は降られてばかりでね。」
いつも言われていたのは、「何か嘘くさい」だの「こんなに尽くしてくれると、不安になる」だの「信用できない」だの「必要とされていないのではないか」など、たいてい女から離れていくのだ。
「実家がしていることは、俺は興味がない。ただ、たまに俺にも火の粉がかかってくることもある。そのときは実家に連絡をするだけだ。」
「……結局実家頼りなのね。お坊ちゃん。」
「あんただってそうだろう。ご立派な家だな。」
その言葉に桜子の言葉が詰まった。
「そのご立派な家に、響子のような女の影があるのは汚点だろうな。」
「……。」
その通りだ。実家から、桜子は響子を真二郎から離せと言われていたのだ。だが真二郎は響子を離すくらいなら、家と縁を切るとまで公言している。
「心配しなくても真二郎には渡さない。そして俺の実家が何か言うなら、俺も実家とは縁を切る。」
「そんなこと出来るわけがない。」
「ヤクザじゃないんだから出来る。」
すると圭太は響子の肩を抱くと、真っ直ぐに桜子を見た。
「……二度と顔を見せないでくれ。」
悔しそうに桜子が大通りを駅の方へ向かっていこうとした。その背中に、響子が声をかける。
「今日はありがとうございました。」
すると桜子は、振り返って響子に言う。
「あんたのそう言うところが嫌いなのよ。良い子ぶって。さっさと真二郎と離れなさい。」
ヒールを鳴らして、駅へ向かう。その背中に響子はため息を付いた。
「寒いし、帰るか。」
「……どこに?」
「俺の部屋。連れて帰って良いか?」
すると響子は少しうなづいた。手足が冷たいだろう。素足にサンダル穿きで、少し足先が赤くなっている。
「レモンある?」
「レモン?」
「レモネード淹れるわ。」
「そうしてくれるか。」
肩を抱いたまま、圭太は響子と歩く。
「ねぇ。」
「どうした。」
「ホストに知り合いはいないの?」
桜子の言葉に、圭太は少し苦笑いをした。そんなことを信じているのかと思ったのだ。
「親の会社では確かに子飼いにしているホストはいるようだな。俺も個人的には知っているヤツはいる。でも親が子飼いにしているホストにはとうてい及ばないし、そいつも真二郎よりは劣ると思うけど。」
「……真二郎ってそんなに男前かしら。」
「お前なぁ……あれが男前じゃなかったら、何だって言うんだ。テレビとかにでているような芸能人よりもずっと男前じゃん。」
「わからないわねぇ。顔だけ見てるとってことかしら。」
「お前は何を見てるんだ。接客してたら一瞬で印象を決められるのに。」
「真二郎は接客なんかしてないわ。それに中身を知ると、何でモテるのかわからない。遊び人よ。どれだけの男とか女が泣いているか。」
「言いたい放題だな。」
「顔で見なくて良かったわ。」
それは圭太がそこまで男前ではないことをいっているのだ。それに気が付いて圭太が、口を挟む。
「お前なぁ……。迎えに来てやってんのに。」
響子の顔に笑顔が戻った。
「顔じゃないわよ。ごめんね。自信を持って恋人だって言えなかったわ。」
「あの姉さんに、何か怖いことでも言われたのか?」
「頭が上がらないのよ。あの人には。」
「あぁ。前に聞いたな。祖父さんの店の世話をしてくれたとか。」
「えぇ。それに……。」
「どうした。」
「……真二郎の一番の理解者だから。」
ゲイだと知って、絶望した家から真二郎をかばったのは桜子だったし、響子が拉致監禁されたときに「そんなことくらい」といい放ったのも桜子だった。
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