彷徨いたどり着いた先

神崎

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花見

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 弁当を積めていた重箱を片づけて、持ってきた紙コップや缶や紙皿を片づける。そしてブルーシートを真二郎と圭太で片づけ始めた。夕方近くになり、周りももうそろそろ終わりらしくやはり片づけているようだ。
 夜桜を楽しもうとしている人で今度はもっと柄が悪くなる。香を連れてこないなら夜でも良かったのだが、本来香が祭りに来たいといっていたので昼間にしたのだから。
「このあとお前、仕事?」
 圭太は真二郎にそう聞くと、真二郎は首を横に振った。
「いいや。酒を飲むと立ちも悪くなるから。今日は入れてないな。」
 ということはあの家で響子と二人きりなのだ。立ちが悪くなるかどうかはおいておいて、あの家で二人きりという状況がいらつかせる。
「これ、洗うの?」
「そうだな。前の会社から借りたヤツだし。さすがに洗って返さないとな。」
「会社で?」
「「ヒジカタコーヒー」は部署ごとで新入社員が入ってきたら、いつも花見しながら歓迎会するんだよ。そのためのビニールシート。」
「大きかったから、どこで借りてきたのかと思ったよ。でも新入社員が入った時期って、もう桜なんか咲いてないのに。」
「桜じゃなくても良いんだよ。別に、飲めればいいってことで。」
 真子は下戸だった。それに圭太がいち早く気が付いて、ウーロンハイをすぐにウーロン茶とすり替えたのだ。それがきっと真子が圭太を意識したきっかけだと思う。
「さて、終わったら約束通り、行かないとね。」
「えー?面倒。」
 弥生の言葉に香は頬を膨らませた。
「約束したでしょ?行かなきゃダメ。」
 その言葉に瑞希が香をなだめる。
「香ちゃん。さっき怖い思いをしたんだろ?」
「うん……。」
 ナンパされて連れて行かされそうになった。それは香がどう見ても小学生に見えないからだ。
「だったら行かないと。」
「おっぱいなんてすぐ大きくなるよ。わざわざブラなんか買わなくても……。」
 その言葉に思わず真二郎の手がビニールシートから離れた。動揺したのだろう。
「あら。香ちゃんはまだしてなかったの?」
 響子がゴミを集めながらそう聞くと、香は口を尖らせて言う。
「そんなに大きくないのにさぁ。響ちゃんくらい大きくなったら考える。」
「あのね……香ちゃん。」
 響子も窮屈だといって頑なに下着を付けなかった。それが間違いの元だったのかもしれない。逆に妹の夏子は、早いうちから胸が大きく鳴り始めて可愛いブラや下着のカタログを見ていた。その辺で早熟だったのだろう。
「大きくなってからでは遅いの。変な人に連れ込まれるのよ。」
「んー。それってあれ?」
 香はそう言って弥生の方を見る。すると弥生は首を横に振った。
「香。それ以上言ったらダメ。」
「でもぉ、お母さんは悪いことをしてるわけじゃないって言ってたよ。」
「お母さんが言っただけよ。本当は悪いことなの。」
「訳わかんない。お姉ちゃん、たまに変なことを言うよね。」
「香。」
 すっかりむくれたように、香はまた屋台の方をみた。
「……何かあったのか?」
 功太郎が瑞希に聞くと、瑞希は首を横に振っていった。
「まぁ……ちょっとな。」
 深くは聞けないかと、功太郎は香の方へ近づいた。
「香。」
「……何でさぁ。女だからって身を守らないといけないのかな。さっきも男の人が連れて行こうとしたのも超怖かったけど、本当はわぁって騒いでも良かったのに。」
「騒ぐくらいしか出来ないだろ?それに助けるのも男じゃないと助けられない。犯罪をするヤツも馬鹿だけどさ、犯罪を呼ぶような格好をしてる女も馬鹿なんだよ。」
「ちょ……。」
 それを聞いていた響子が言い過ぎだと、止めようとした。だがそれを止めたのは、真二郎の方だった。
「あたしの格好おかしい?」
「おかしくはねぇけど、頭と違って体はしっかり大人になりかけてんだよ。それにブラしねぇとおっぱい垂れるぞ。響子の歳になってたくわんみてえなおっぱいになりたくねぇだろ?」
 その言葉に香は少し笑った。
「それっておばあちゃんのおっぱいみたいな?」
「そう。垂れるんだってさ。でかくなると。」
「そっか。それはやだな。わかった。お姉ちゃん。」
 香はそう言って弥生の方へ向かう。すると圭太が功太郎に近づいてくる。
「お前、すんなり納得させたな。」
「あ?別に普通のことを言っただけだろ?」
「難しいことを言ってないだけね。頭が同じくらいだから良いんじゃない?」
「は?」
「あ。ごめん。言い過ぎたわ。」
 響子はそう言ってゴミ袋の口を締める。
「真。」
 丘の下の方から、数人の男が真二郎に声をかける。
「あぁ。オーナー。」
 その言葉に、響子もそちらをみた。一度あったことのある人だ。そう思いながら少し頭を下げると、男も頭を下げる。
「あれ。誰だ。」
 圭太も不思議そうに言ってしまった二人を見る。
「真二郎はウリセンの店に籍があるでしょ?」
「あぁ。」
「そこのオーナーね。」
「ゲイに見えなかったけどな。」
「いかにもって人じゃないのよ。」
 ウリセンの店で働くと言ったときに、一度会ったことがある。柔らかそうな感じに見えるが、実は相当厳しいと真二郎に聞いたことがあった。
 指名が落ちているようなボーイは、すぐに切るらしい。その中で真二郎は、異例中の異例だった。
「ゴミはお店に置いていて良いの?」
「ゴミの日に出すわ。功太郎。お前缶をもてよ。」
「えー。俺だけ重い。」
「がたがた言うな。」
 すると真二郎が戻ってきて圭太に言う。
「ごめん。俺、ちょっと片づけ出れなくてさ。」
「あぁ、そっちの店で何かあるんだろ。行ってこい。」
「明日は早くでるよ。悪いね。」
 そう言って真二郎はそのウリセンの店の方へ行ってしまった。
「俺、手伝うよ。」
 瑞希はそう言ってプラスチックのゴミを手にする。
「良いのか?」
「俺が下着売場に行けると思うか?」
「確かにね。」
 響子は納得してそう言うと、功太郎が目を丸くして言う。
「そんなの気にするか?」
「お前気にしないのか?」
「姉さんについて行って、あれが良いとかこれが良いとか言ってたけど。」
 真子の下着が媚びていると思ったのはそのせいか。圭太は心の中で舌打ちをしていた。
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