彷徨いたどり着いた先

神崎

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花見

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 仕事が終わると大抵、響子が先に着替えてあとの男たちはそのあとに着替える。そして三人が着替えを終えると、響子はその間戸締まりをしていて四人は一緒に出て行く。
 だから圭太が響子を誘うことは出来ないし、功太郎も誘えない。真二郎に至っては仕事があるからといってさっさと帰ってしまう。四人の関係性は平行線のままだった。だが今日は違う。
「なぁ、響子。さっきのさ、甘酒の話だけど。」
「あぁ。甘酒ね。」
「スーパーとかにおいてる酒粕で出来るのか?」
「そうね。本当は麹を使うといいんだけど。」
「麹?」
「麹だと砂糖がいらないから。天然の甘さでそっちの方が私は好きかな。ただ、麹を置いている所って限られるし。」
「そこのスーパーにあるってわけじゃないのか。」
「さぁ。探してみればあるかもしれないわね。」
「行こうぜ。」
 その言葉に圭太が焦ったように言った。
「今作れってわけじゃないんだよ。」
「試作したいじゃん。それに俺、手作りの甘酒って飲んだことないや。すげぇ酒臭い感じ?」
「それは酒粕で作ったものね。子供もいるし、麹の方が良いわ。スーパーとかにあればいいんだけど。」
 響子も乗り気だ。思わず心の中でため息を付く。そのとき真二郎の携帯電話が鳴ってそれを開いた。
「花見の時期って、いつ?」
「祭りに合わせるなら四月くらいか?」
「ほら第二土曜の夜は前から言ってたけど、早上がりするから。」
「そうだっけ。何かあったんだっけな。」
「結婚式があってね。」
 正確には結婚できるわけではないゲイカップルの結婚式だった。籍は入れられないが、形だけでもしておきたいということなのだ。
「あー。そうだ。俺も結婚式があったんだっけ。前の職場の同期から招待状貰ってたな。」
「オーナーのはいつ?」
「えーっと……四月だっけ。やばいな。スーツを虫干ししないと。」
 そういっている間に、響子と功太郎がスーパーへ入っていった。それを見て圭太はため息を付く。
「オーナーもぼやぼや出来ないね。」
「……あんなガキみたいなヤツにとられる訳ないだろ?」
「ガキみたいでも、しっかり大人だよ。色んな所で。それに若いんだから、勢いだってある。響子は押しに弱いからね。」
 マゾヒストなのだ。嫌だ、嫌だと言っても心の奥底が求めているのだ。それは圭太もわかるところで、思わず圭太もまたスーパーの中に入っていこうとした。その後ろ姿に真二郎は声をかける。
「あ、俺、仕事に行くから。お疲れ様でした。」
「お疲れ。」
 急ぎ足でそのスーパーに入っていった圭太の後ろ姿を見て、真二郎は少しため息を付く。

 出来上がった甘酒をポットの中に入れる。そしてそれをテーブルの上に置いた。
「明日には飲めるわ。あなた明日お店に持ってきてくれる?」
 響子はそういって功太郎を見下ろした。
 功太郎の部屋はワンルームで、キッチンも部屋も一緒になっている。一人暮らしだとそれくらいでいいのだろうか。
「今すぐ飲める訳じゃないんだな。」
「置いた方が美味しいわ。ただ、温度が下がりやすいから起きたら一度温めた方が良いかもしれないわね。沸騰しないくらいで鍋でかき混ぜるのよ。」
 余った麹を持って、響子はそれをバッグに入れる。その様子に圭太は不思議そうに響子をみた。
「それ、どうするんだ。」
「麹は別にも使えるから、そうしようと思って。」
「別?」
「塩と一緒に入れると調味料になる。肉と一緒につけ込んだら、肉が軟らかくなるのよ。その花見の時はまたそのときに作るから。」
「ふーん。」
「それにしても全く料理はしてなかったのね。」
 響子はあきれたようにそのキッチンを見ていた。鍋や皿はあるが、使われた形跡がなかったのだ。
「簡単なものは教えておいただろ?」
 圭太がそういうと、功太郎は頬を膨らませていった。
「米だけは炊いてるよ。おかずだけ買ってきてんだ。」
「それだけでも進歩ね。」
 響子はまめに料理をしているのは、真二郎がいるからだろう。真二郎のためにといいながらも、真二郎に言わせれば響子は一人だと何も食べないこともあるらしい。それが心配だという。
 そして圭太もまめに料理はしている。出来ないのは自分だけといわれているようだ。だが料理などする暇は今まで無かったのだから仕方ない。
「ついでに簡単なものを作っておいたから、ご飯と一緒に食べてね。」
「うん。ありがとう。」
「じゃあ、電車の時間もあるだろうし、俺、送るわ。」
「え?」
 圭太も立ち上がると、響子を誘導するように玄関へ向かう。その様子に功太郎は少し焦った。せっかくここに来たのだから、一緒にいて欲しいと思っていたのに、圭太がそれを邪魔する。
「何だよ。」
「いや……。」
「お前、酒飲むなよ。」
「家飲みなんかしないって。」
「どうだか。隣のヤツに誘われたら行くんだろ?」
「あー……。純なぁ……。また合コンに誘われたわ。」
「行けばいいじゃん。」
「やだよ。化粧臭いのも、妙に甲高い声も苦手。」
 すると功太郎はじっと響子の方をみる。すると響子はさっと視線を逸らした。
「俺、あまり女臭いの苦手なのかも。」
「贅沢なヤツだな。お前、つきあってた女もいるんだろ?」
「いるけどさ……。こう……がつがつくるようなヤツばっかで。勝手にくっついて、勝手に別れるみたいな。」
「あの髪型で良く女が付いてきたな。」
「あと、勝手に飯作って、不味いって言ったら逆ギレされて。」
「バカか。お前。」
 すると響子はさめた口調で言う。
「不味かったら捨てて良いからね。」
 自分が作ったもののことを言っているのだろう。それに功太郎が慌てて釈明する。
「いや。響子が作るの不味いって思う訳ないじゃん。」
「そうかしら。」
「だって、真二郎が黙って食ってんだろ?」
「真二郎は普段甘いものを口にするから、出来れば塩味が効いたものを用意することもあるけど。あなたの好みなんかわからないし。」
「親子丼が美味いよな。」
 圭太がそういうと、響子は少し笑った。
「いつか食べさせたことがあったわね。あんな簡単なもので満足してんだから、安い男だこと。」
 その様子に功太郎が焦ってしまった。そして響子に詰め寄ると自分から言う。
「今度作ってよ。親子丼。」
 その雰囲気に響子は目を見開いて言う。
「わかった。わかった。今度ね。」
 こう間近で、あらか様に響子のことが好きなアピールをしていると、妙に腹が立つ。だが手を出すなとも言えない。そして肝心の響子も別に悪い思いをしていないのがさらに腹が立つようだ。
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