彷徨いたどり着いた先

神崎

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チョコレート

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 仕事が終わってみんなが着替え終わった後、圭太は夕べ買ったチョコレートを取り出した。功太郎の調子はだいぶ戻っていたが、アルコール入りのチョコレートにげんなりしているように感じる。
「夕べ飲み過ぎたんだって?」
 真二郎はそう言って少し笑う。アルコールはあまり強くないのだろう。
「ただの飲み会だって聞いたのにさ、がっつり合コンだったよ。めんどくさ。」
「自業自得だ。」
 響子はその飾りたてられたチョコレートだけに、関心を寄せているようだった。功太郎が飲み過ぎなのだとかはあまり興味がないように見える。
「見た目は派手なチョコレートね。だけど派手だけじゃない。ブランデーが入ってて美味しい。紅茶と良く合いそうね。少し濃いめの紅茶が合うかも。香りに負けないように……。」
 口に入れて少し考えているようだ。こういうときも飲み物ことしか考えていない。
「これはイチゴのピューレが入っている。女の子が好きそうだな。」
「一口チョコなんかとは全く別物に感じるな。チョコレート自体も美味いし。」
「多分、アジアの方のカカオを使っているね。」
「土地によって違うのか?」
 功太郎は興味津々で、真二郎にチョコレートについて聞いている。そして相変わらず響子はそのチョコレートで何か考えているようだ。その中に圭太の姿はない。相変わらず甘いものは口にしないのだ。
「それにしても結構数があったのに良く食ったな。」
 そう言って圭太はその箱をばらした。箱もしっかりしていて、見た目がとても高級そうに見える。そこにも手を抜いていないのだ。
「これで二千円か。十二粒で考えると少し割高だと思ったけど、それでもこのクオリティならうなづけるよ。」
「で、うちはどうするんだ。」
 真二郎は少し考えているようだった。六個と十二個でチョコレートを売り出そうと思っていた。だがそれはこのチョコレートのようにバラバラの種類ではなく、二つくらいで分けようと思っていたのだ。確かに種類があれば、いろんな味が楽しめて良いかもしれないがカップルで食べることなどを考えると好きなものに集中する。つまり、おせちで人気のものが真っ先になくなり、結局残ってしまう煮染めがずっとある状態のようなものだ。
「……んー……。」
「真二郎。当初のままで良いんじゃないのかしら。」
 テーブルに人数分のコーヒーをカップに淹れた響子が、そう言って真二郎に聞く。
「アルコール入りのものはブランデー風味と、生チョコっぽいもの。ノンアルコールはフルーツを入れたもの。それでいいと思うけど。」
「せめてホワイトチョコを入れるかと思ってたんだよ。」
「ホワイトチョコとブランデーってあうのか?」
 功太郎がそう聞くと、真二郎は少し考えているようだった。
「うーん……。」
「真二郎。あまり時間はないぞ。結論は早く出せよ。」
 圭太はそう言ってコーヒーを口に入れる。もうバレンタイン用のチョコレートを売り出していることを考えると、ここは少し後手だというのが気になっていたのだろう。こだわるのはかまわないが、それなら早めに手を着けて欲しいと思っていたのだ。
「それからクッキーも焼いてね。」
「クッキー?」
「バレンタインデーが終わったらホワイトデーでしょ?マシュマロとか作れる?」
「何かイベントだらけだな。そんなにこの国の人ってお祭りが好きかね。」
 グチっているのを初めて聞いた。功太郎はそう思いながら、真二郎を見ていた。いつも穏やかで笑っていて、注意するときだけは厳しい。そんなイメージだったのに今日は不機嫌そうに見える。
「文句言うなよ。お前だってこの国で育ってんだろ?」
「そうだけどさ。バレンタインデーはウリセンの店でも重要だし。」
「あぁ、客か。」
「最近は、ベッドまで行くのが珍しくなってきたよ。」
「へぇ……何で?」
「性病が流行っててさ。」
「性病ね……。」
 それを聞いて功太郎はぞっとした。夕べ、すり寄ってきた女に流されてセックスなんかしてしまったら、性病を移される可能性だってあったのだ。不特定多数の人とするということは、そう言うリスクを背負わないといけない。
「あいつ……大丈夫かな。」
 功太郎はコーヒーを飲んでぽつりという。
「何だよ。」
「あぁ……。夕べ、隣の部屋の奴が、女を持ち帰ったみたいでさ。」
「ふーん。盛んだな。」
 おそらく響子が功太郎を止めようとしたとき、その響子を止めた男だろう。牧田という男だった。年頃はおそらく圭太よりも歳を取っているようだが、落ち着きのない男だ。
「さてと。俺、そろそろ仕事でさ。」
 そう言って真二郎はカップを手にする。
「俺も帰ろ。さすがに今日は早く寝るわ。」
 功太郎もカップを手にした。すると圭太は功太郎を見上げて言う。
「お前、明日鍵を開けろよ。」
「えー?」
「遅刻ぎりぎりで来やがって。何様だよ。下っ端なんだから一番に来い。」
「パワハラじゃん。」
「うるさい。酒の臭いさせてくるような奴に、パワハラなんて言う権利あるか?」
 カップがそろって、響子はそのカップを洗う。その間に真二郎は上着を着ると、外に出ようとした。
「じゃあ、お先。」
「待てよ。真二郎。ちょっと駅まで行こうぜ。」
 そう言って圭太も上着を着ると、真二郎を追うように外に出ていった。その姿に功太郎は首を傾げる。
「男二人で何の話だ。」
「さぁね。」
 想像は付く。おそらく圭太は真二郎に聞きたいことがあるはずだ。
「……響子さ。今日駅まで一緒に帰ろうか。」
「あら。送ってくれるの?飲みには行かないわよ。」
「酒は当分良いわ。」
 カップを洗って、それを伏せる。そして暖房を切ると、響子も上着を着た。今日のセーターは昨日と一緒のものだ。ということは、夕べ帰っていないのだろうか。
 夕べ、圭太と一緒にいたはずだ。そしてそれから二人がどこへ行ったのか知らない。寝てしまったからだ。二人でどこかへ行ったとは考えにくい。だいたい、響子には真二郎が居るのだ。同じ職場で二股をかけるような器用なタイプにも見えない。
 やはり、昨日は食事をした後そのまま帰ったのだろう。同じような柄のセーターを持っているのかもしれないし、だいたい、響子の着ているものはパターンが似ている。モノトーンが多い。
 色味があるものは男を誘うからと、わざと着ていないように思えた。もうそんなことを気にしなくていいのに。わざと地味にしなくてもいいのに。功太郎はそう思いながら、店の電気を切った。
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