彷徨いたどり着いた先

神崎

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チョコレート

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 そのころ真二郎はウリセンの仕事が休みなコトもあり、ゲイバーへ足を運んでいた。たまにやってくるこの店で、一晩限りの相手を見つけているのだ。
 だが今日は事情が違う。最近はゲイバーも経営が苦しいらしく、ノンケや女性の姿も見ることが容易くなった。その空気に少し戸惑いながらも、カウンター席で酒を飲んでいた。
「あの……真さんですよね。」
「えぇ。」
「梓から聞いてたんですけど、やっぱ格好良い。」
 まるでアイドルだな。そう思いながら、真二郎は愛想笑いをする。可愛い男の子だがここに来ているというコトは、成人済みなのはわかる。これだけあこがれられているのだ。一発くらいしておけば気が済むだろうか。
「俺、でももう三十のおっさんだよ。」
「見えないですよ。」
 するとバーテンダーの男が、少し笑いながらその様子を見ていた。三十になったと言っても真二郎の男たらしは健在なのだ。
「あの……良かったらこのあと……。」
 そう言って男は顔を赤らめる。ここではこういう場でもあるのだ。フリーの男が、男を誘って、この裏にあるホテルへ行く。ゲイのカップルでは使えないラブホテルが多い中、そのラブホテルは案外そう言うことに寛容だった。
「ごめんね。ちょっと先約があってさ。」
 しょぼんとして男は去っていく。本当は先約なんかはない。だが最近、気を使っているのだ。と言うのも、最近この界隈では性病がはやっている。性病などになったら食いっぱぐれるのが、この仕事だ。だから見境無く寝たくなかった。
 そしてその理由のもう一つに、響子のことがあった。一度キスをしたからといっても、響子は全く動じない。キスをしたそのテクニックだって、誰よりも自信がある。響子だって感じていたはずなのに、それでも響子は自分ではなく圭太を求めているのだ。
 そして功太郎は論外だろう。どう考えても功太郎は響子ではなく、別の女を見ている。それはつまり、真子だ。そう思うと功太郎が許せなくなる。響子に真子を重ねるのが一番腹が立つ。第一失礼だ。
「真ちゃん。」
 声をかけられて真二郎は振り返った。そこには一人の女性がいる。髪はショートカットで、可愛らしい女性だった。
「やぁ。鈴ちゃん。」
「今日、ステージだったのよ。見てくれれば良かったのにぃ。」
「ははっ。そうだね。たまには行ってみるのも良いかもしれないね。」
 鈴といわれたその女性は、正確には女性ではない。女装した男で、つまり男の娘ということだ。そして鈴が勤めるストリップ劇場には、そういう男や男装をした女性がいる。もちろん絡みもあるが、どちらもビジネスとして割り切っているようだ。
「あれよね。こう……女の子が男の格好をしてるとさ、「きゃあ格好いい」って黄色い声援が飛ぶの。だけどあたしみたいなのって、男がケツの穴に突っ込みたいとかそう言うことしか考えてなくてさ。」
「そんなものかな。」
「そうよ。この間さ、危うく警察沙汰になるところだった。」
「え?手入れでも入った?」
 絡みが有りとは言ってもセックスショーではない。そう言うことをしているところが、最近軒並み手入れが入っていたのだ。
「ストーカーよ。」
「ストーカー?」
「どっかの金持ちのボンボンがさ、男装している女子を見つけて「自分の婚約者」だって言い張るのよ。」
「本当に婚約者なの?」
「一年前までね。でもこういう趣味も何もかも辞めて嫁に来いって言うような男よ?我慢してまで行けますかっての。」
「鈴はもう嫁をもらう気はないの?」
「ないわぁ。客の前で裸になって、お尻の穴に野菜突っ込むのを見せるような男さ、誰が嫁に来てもらえるかしら。」
「ははっ。」
 こういう会話は、響子とは出来ない。
 それに寝るならこういう男が良い。商売をしているような男だから、きっちり性病の検査もしている。無理矢理生で突っ込むようなこともしない。それに何より割り切れるのだ。
「鈴。今日は遊びに行く?」
 そう言って真二郎は上目遣いに鈴をみる。すると鈴は少し笑って言う。
「あら。珍しいわね。真ちゃんから誘ってくるなんて。」
「最近溜まっちゃってさ。」
「ウリセンの仕事は?」
「最近はほら、性病も流行っているしベッドまで行くようだったら、性病検査の証明をしてからっていう条件になったしね。」
「そこまでして買いたいかしらね。そう思うと、ちょっと気が引けるわ。」
 それでも数日後の休日の前日は、上客が予約している。それはあの変わった男だった。また童貞のような男を抱かせて、自分はそれを見ているだけというプレイをするのだろうか。
「真ちゃんみたいな人だったら、女もいけそうなんだけどな。女は趣味じゃないの?」
 すると真二郎は少し笑っていう。
「昔さ……俺、虐められてて。女の子に。」
 育ちのせいからか、所作が綺麗だった。それに小さくてなよっとしていたのをみた女子生徒が、からかうように真二郎の顔を見て笑いあっていたのを思い出す。
「可愛そうね。」
 桜子はそんな声は無視していいといっていた。だがどうしても意識すればするほど、耳に届いてしまう。
 そしてそれで登校拒否気味になってしまったその真二郎に、声をかけたのは退院したての響子だった。
「贅沢ね。真二郎。」
 学校に行きたかった。なのに根も葉もない噂を立てられて、元の学校には行けなくなってしまったのだ。それに比べて、笑われたくらいで学校へ行かないと良う選択をした真二郎が贅沢に見えたのだ。
「じゃあ、行きましょうか。」
 見た目は普通の男女のカップルだろう。普通のゲイカップルはお断りのホテルでも拒否されそうにない。
 だが少し奥まって、そして古いそのホテルにしか行けなかったのだ。そんなホテルだが、休日前は部屋が取れないこともある。それはやはりゲイカップルが行けるホテルだということで、人気なのだろう。
 平日の今日は、割とすんなり部屋にはいることが出来た。
 シャワーを浴びて、鈴が戻ってきた。そこには男であることが嘘のように、バスタオルの下には小振りな膨らみがあった。
 バスタオルに手を伸ばすとそこには胸もあったが、下半身にはしっかり男として立派なものがある。
「真ちゃんも脱いでよ。」
 鈴はそう言って腰のバスタオルを取ると、そこにはきっちり男としての役割があった。鈴はいきなり足下にしゃがみ込むと、その性器に口を付ける。とても慣れていて、そのテクニックは女性でもなかなかいないだろう。
 だがその姿にどうしても響子を重ねる。響子は今日、圭太と出かけたのだ。そのまま別れるわけがない。きっとセックスをしている。あの体を好きにしているのだ。そう思うと腹が立って思わず鈴の口の喉元奥に入れ込んでしまう。
「げほっ……。」
 せき込んで、涎や違うもので口の周りが汚れても、鈴は笑顔だった。
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