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雨
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雨の音がすると思った。体を起こすと、隣で寝ている女はまだ眠そうに寝返りを打つ。いい思いをさせただろう。真二郎はそう思いながら、ベッドから降りると下着に手を伸ばす。
「真君?もう起きたの?」
たまに連絡をして体を合わせる相手だった。いつもだったらセックスをしてそのまま帰るのだが、今日はそんな気にならずにそのままその女の部屋に泊まった。響子の部屋と似ても似つかないごちゃごちゃした部屋だ。ピンク色のカーテンも、きらきらした香水の瓶も、響子には全く縁がない。
「うん。」
女は裸のまま起きあがると、下着を身につける。女の詳しい名前も素性も知らない。ただ、脱色しすぎて金色になっている髪と右の肩にある薔薇の入れ墨は、普通のOLとは言い難いだろう。真二郎も詳しいことは話をしていない。おそらくホストか何かだと思っているだろう。
「朝ご飯、食べない?」
「ううん。帰るよ。」
「ねぇ。前にも言ったけどさ。つきあわない?あたし達。」
体の相性のことだけを考えて言っているのだろうか。そういう風に合わせているとは考えていないのだ。真二郎は少し笑うと、細身のジーパンに足を入れる。
「体だけだから、つき合えるんだよ。たまにセックスするだけで、満足しない?」
「だって……。」
女には男がいるはずだ。話から聞くと、別れたのだろうか。
「苦労するよ。俺、男もいけるんだから。」
「そうだったわね。ねぇ。男と女どっちがいいの?」
下着だけを身につけた女は、夕べ使ったディルドを手に取る。それを見て、真二郎はシャツを身につけた。
「どっちもどっちだね。カレーとハンバーグはどっちが好きかって言われているみたいだ。」
「食事と一緒なのね。」
女は呆れたように、そのディルドを手にしたまま部屋をあとにする。もうこの女には呼ばれないかもしれない。そしてそれが好都合だと思う。やはり響子以外の女は抱きたくない。
部屋を出ると、朝焼けが広がる。夜は華やかな街だが、この時間になるともう静かなものだ。風俗嬢らしき女がタクシーに声をかけている。これからどこに行くのかわからない。
そう思いながら、真二郎は傘を差して家へ向かう。そしてもう閉まっている店舗を後目に、階段を上がろうとしたそのときだった。そのビルの横にある共同の駐車場に、見たことのある車が停まっていた。青いRV車。それは圭太のものに見える。
「まさか……。」
思わず声に出した。そして階段を駆け上がる。四階にたどり着いて、一息ついた。そして部屋へ向かう。その一歩一歩が死刑台のようだ。外はざあっという音が響く。雨が強くなってきたようだ。
震える手で鍵を開けて、ドアを開ける。するとそこには見覚えのある靴があった。
「……。」
味噌汁らしい匂いと、ご飯が炊けたような香り。響子がいることは間違いない。そして誰と一緒にいるのか、真二郎は想像したくなかった。
「お帰り。」
キッチンにいるのは、響子だった。そしてソファでテレビのニュースを見ながらお茶を飲んでいるのは、圭太の姿。その姿に唖然とする。
「え……何で二人が……。」
「ちょっと話があるんだよ。真二郎。ちょっと座って。」
戸惑っているような真二郎は、訳が分からないように響子を見る。だが響子は冷静に、味噌汁に入れるネギを刻んでいた。
真二郎はバッグを持ったまま、圭太の隣に座る。すると圭太は冷静に真二郎に向かって言う。
「響子はここを出る。」
「え……?」
解約すると言うことだろうか。そして別のところに住むのだろうか。
「お前がここに住みたかったら名義を変更すればいい。住めると思うけどな。他よりも良い給料払ってるんだし。」
「……響子はどこに……。」
すると圭太は冷静に言う。
「俺と住むから。」
「いつの間にそんなことになって……響子。何で……。」
「そういうことなんだよ。」
ご飯が炊けた音がする。その音とともに、響子もキッチンから離れた。
「少ししたらご飯が食べれるわ。」
「あぁ。」
圭太はテレビを消すと、響子を隣に座らせようとした。
「真二郎。」
だが響子は立ったまま真二郎の方を見なかった。
「……そういうことなの。」
「いつ……。いつからそんなことに……。オーナーと何で……。」
真二郎が泣きそうだ。立ち上がると、響子の方に足を進める。だが響子はすっと体を避ける。
「いつからと言われたら……夕べだったかもしれない。でももっと前から惹かれてたのかもしれない。」
その目を知っている。惚れている女の目だ。今朝真二郎に、向けられていた女の目。響子が思っているのは、自分ではなく圭太なのだ。
「響子……。駄目だ。オーナーだけは……。」
「お前に言われる権利なんか無いだろ?まさか本当に兄貴くらいの感覚で居たのか?」
「……俺には、君がそんなに……響子に惚れられるような人に見えない。」
ぐっと手に力を入れて、圭太を見下ろす。
「……君が最低なのを、俺はよく知っている。響子。俺では駄目なら他の人でも良い。だけどオーナーだけは駄目だ。」
「真二郎。」
思わず圭太は真二郎に声をかける。だが真二郎は、首を横に振り響子に近づく。
「……こんな状態で、仕事なんか出来ない。考え直してくれないか。耐えられない。」
ずっと一緒にいたのだ。それを考えると、真二郎の気持ちも分からないでもない。それが苦しい。
「少し……焦りすぎたか。」
圭太もその気持ちが分かったのだろう。少しため息をついて響子を見る。
「響子。もうしばらく、時間をおくか。」
「……いいの?」
「正直イヤだけどな。真二郎、手を出さないのか。」
「今までどれだけ我慢していたと思ってるんだ。」
確かに遊び人の真二郎が今まで手を出さなかったのは、それくらい響子に本気だったからだ。だが今からは違う。もう自分の気持ちを伝えたのだから。
「真二郎。」
「何?」
響子は真二郎を真っ直ぐ見て言う。
「私はあなたの好きという言葉が信じられないのは、あなたが男も女も手を出すからなの。遊び人で言い寄られて断らないし、男のセフレも女のセフレもいるのでしょう?」
その言葉にぐっと言葉を詰まらせた。確かにそうだ。今朝まで女のところにいたのだから。
「あなたとは寝ない。寝るとしたら、それは私が一番嫌がることをしないとそういう関係にはならないと思う。」
その言葉に真二郎は、響子に聞く。一番恐れていることだった。
「響子。オーナーならいいの?望んでそんな関係になったの?」
すると響子はうなづいた。一番恐れていた答えに、真二郎の目の前が暗くなるように感じる。
「真君?もう起きたの?」
たまに連絡をして体を合わせる相手だった。いつもだったらセックスをしてそのまま帰るのだが、今日はそんな気にならずにそのままその女の部屋に泊まった。響子の部屋と似ても似つかないごちゃごちゃした部屋だ。ピンク色のカーテンも、きらきらした香水の瓶も、響子には全く縁がない。
「うん。」
女は裸のまま起きあがると、下着を身につける。女の詳しい名前も素性も知らない。ただ、脱色しすぎて金色になっている髪と右の肩にある薔薇の入れ墨は、普通のOLとは言い難いだろう。真二郎も詳しいことは話をしていない。おそらくホストか何かだと思っているだろう。
「朝ご飯、食べない?」
「ううん。帰るよ。」
「ねぇ。前にも言ったけどさ。つきあわない?あたし達。」
体の相性のことだけを考えて言っているのだろうか。そういう風に合わせているとは考えていないのだ。真二郎は少し笑うと、細身のジーパンに足を入れる。
「体だけだから、つき合えるんだよ。たまにセックスするだけで、満足しない?」
「だって……。」
女には男がいるはずだ。話から聞くと、別れたのだろうか。
「苦労するよ。俺、男もいけるんだから。」
「そうだったわね。ねぇ。男と女どっちがいいの?」
下着だけを身につけた女は、夕べ使ったディルドを手に取る。それを見て、真二郎はシャツを身につけた。
「どっちもどっちだね。カレーとハンバーグはどっちが好きかって言われているみたいだ。」
「食事と一緒なのね。」
女は呆れたように、そのディルドを手にしたまま部屋をあとにする。もうこの女には呼ばれないかもしれない。そしてそれが好都合だと思う。やはり響子以外の女は抱きたくない。
部屋を出ると、朝焼けが広がる。夜は華やかな街だが、この時間になるともう静かなものだ。風俗嬢らしき女がタクシーに声をかけている。これからどこに行くのかわからない。
そう思いながら、真二郎は傘を差して家へ向かう。そしてもう閉まっている店舗を後目に、階段を上がろうとしたそのときだった。そのビルの横にある共同の駐車場に、見たことのある車が停まっていた。青いRV車。それは圭太のものに見える。
「まさか……。」
思わず声に出した。そして階段を駆け上がる。四階にたどり着いて、一息ついた。そして部屋へ向かう。その一歩一歩が死刑台のようだ。外はざあっという音が響く。雨が強くなってきたようだ。
震える手で鍵を開けて、ドアを開ける。するとそこには見覚えのある靴があった。
「……。」
味噌汁らしい匂いと、ご飯が炊けたような香り。響子がいることは間違いない。そして誰と一緒にいるのか、真二郎は想像したくなかった。
「お帰り。」
キッチンにいるのは、響子だった。そしてソファでテレビのニュースを見ながらお茶を飲んでいるのは、圭太の姿。その姿に唖然とする。
「え……何で二人が……。」
「ちょっと話があるんだよ。真二郎。ちょっと座って。」
戸惑っているような真二郎は、訳が分からないように響子を見る。だが響子は冷静に、味噌汁に入れるネギを刻んでいた。
真二郎はバッグを持ったまま、圭太の隣に座る。すると圭太は冷静に真二郎に向かって言う。
「響子はここを出る。」
「え……?」
解約すると言うことだろうか。そして別のところに住むのだろうか。
「お前がここに住みたかったら名義を変更すればいい。住めると思うけどな。他よりも良い給料払ってるんだし。」
「……響子はどこに……。」
すると圭太は冷静に言う。
「俺と住むから。」
「いつの間にそんなことになって……響子。何で……。」
「そういうことなんだよ。」
ご飯が炊けた音がする。その音とともに、響子もキッチンから離れた。
「少ししたらご飯が食べれるわ。」
「あぁ。」
圭太はテレビを消すと、響子を隣に座らせようとした。
「真二郎。」
だが響子は立ったまま真二郎の方を見なかった。
「……そういうことなの。」
「いつ……。いつからそんなことに……。オーナーと何で……。」
真二郎が泣きそうだ。立ち上がると、響子の方に足を進める。だが響子はすっと体を避ける。
「いつからと言われたら……夕べだったかもしれない。でももっと前から惹かれてたのかもしれない。」
その目を知っている。惚れている女の目だ。今朝真二郎に、向けられていた女の目。響子が思っているのは、自分ではなく圭太なのだ。
「響子……。駄目だ。オーナーだけは……。」
「お前に言われる権利なんか無いだろ?まさか本当に兄貴くらいの感覚で居たのか?」
「……俺には、君がそんなに……響子に惚れられるような人に見えない。」
ぐっと手に力を入れて、圭太を見下ろす。
「……君が最低なのを、俺はよく知っている。響子。俺では駄目なら他の人でも良い。だけどオーナーだけは駄目だ。」
「真二郎。」
思わず圭太は真二郎に声をかける。だが真二郎は、首を横に振り響子に近づく。
「……こんな状態で、仕事なんか出来ない。考え直してくれないか。耐えられない。」
ずっと一緒にいたのだ。それを考えると、真二郎の気持ちも分からないでもない。それが苦しい。
「少し……焦りすぎたか。」
圭太もその気持ちが分かったのだろう。少しため息をついて響子を見る。
「響子。もうしばらく、時間をおくか。」
「……いいの?」
「正直イヤだけどな。真二郎、手を出さないのか。」
「今までどれだけ我慢していたと思ってるんだ。」
確かに遊び人の真二郎が今まで手を出さなかったのは、それくらい響子に本気だったからだ。だが今からは違う。もう自分の気持ちを伝えたのだから。
「真二郎。」
「何?」
響子は真二郎を真っ直ぐ見て言う。
「私はあなたの好きという言葉が信じられないのは、あなたが男も女も手を出すからなの。遊び人で言い寄られて断らないし、男のセフレも女のセフレもいるのでしょう?」
その言葉にぐっと言葉を詰まらせた。確かにそうだ。今朝まで女のところにいたのだから。
「あなたとは寝ない。寝るとしたら、それは私が一番嫌がることをしないとそういう関係にはならないと思う。」
その言葉に真二郎は、響子に聞く。一番恐れていることだった。
「響子。オーナーならいいの?望んでそんな関係になったの?」
すると響子はうなづいた。一番恐れていた答えに、真二郎の目の前が暗くなるように感じる。
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