彷徨いたどり着いた先

神崎

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 着替えを終わって、ガスや電気のチェック、鍵のチェックをする。住宅街の中にあるからか、あまりこの辺は治安が悪い方ではないが最近は空き巣なんかも多いらしい。売り上げは圭太がいつも持っていて、朝通勤する前にメインバンクである銀行に納めに行く。そこから引き落としなどをするのだ。
 響子はそのまま帰ったのだろうか。告白されて、断って、それでも同居人としてあの家にのほほんと二人で住めるのだろうか。住むだけならまだしも、同じベッドで寝ることもあるのだという。それは響子が時々うなされるからだ。親切心からなら何も思わない。だがそれだけではないことを今日知らされた。それでも響子は、真二郎を普通に同居人としてのスタンスを保てるのだろうか。
 駅へ行く途中、公園がある。ここは割と広い公園で、昼間は遊具目当ての子供やランニングをする人、楽器の練習をする人なんかが居るところだが、夜はセンサー公園と呼ばれて、公園の道を歩くと脇にあるライトが光を付ける。幻想的でカップルのデートスポットになるのだ。
 そして知る人ぞ知るナンパのスポットでもある。女が声をかけることもあるし男が待っている女に声をかけるのが一般的で、中には男同士、女同士のナンパもある。真二郎は、ウリセンの仕事をするとき、ゲイが集まるハッテン場の公園へ行くこともあるが、ここで待ち合わせをしているところを何度かみた。普通の男同士で、飲みに行くような感じだったので、本当にこれが仕事なのだろうかと首を傾げたこともあるのだ。
 公園の反対側にも入り口があり、そこから出ると少し行ったところにラブホテルがある。ここでデートをしたあと、そこでセックスをするのだろう。真二郎の話ではそのラブホテルは男同士が使えないらしい。男同士や女同士のセックスはかなり汚れることもあり、知識がなければ尚更だ。なので断るラブホテルも多いらしい。
「男同士ねぇ。」
 圭太はそうつぶやいて、先を行こうとした。気にならないことはないのだが、自分がその立場になるといくら綺麗な男でもその気にはなれないだろう。一度、神木という幼なじみと同じような幼なじみから冗談混じりでそういう動画を見せられたこともあるが、自分にはしっくりこなかったしむしろ気持ち悪いと思った。
「尻の穴にさ、こう……気持ちいいスポットがあってさ、そこを刺激すると信じられないくらい気持ちいいらしいわ。」
「そうは言ってもなぁ……。興味ねぇな。いくら綺麗でも俺は女の方が良いし。」
 あの男はきっと神木に気があったはずだ。しかし神木は全くその気はなかったし、圭太だってそうだった。高校を出てあの男とは別の大学へ行ったのでどうなったかはわからなくなったが、たぶん真二郎と同じような道に進んでいるのだろう。
「行かないって。」
 聞き慣れた声が聞こえて、思わず圭太は公園の方へ戻っていく。そこには響子が二人組の男に声をかけられているところだったのだ。
「こんな所で立ちんぼしてんだから、ナンパ待ってたんだろ?行こうぜ。」
「違うから。触らないでよ。」
 思わず圭太はそちらに向かうと、響子に声をかけた。
「響子。」
 響子は圭太に気がついて、圭太の方へ向かう。すると男たちは顔を見合わせる。
「男連れかよ。」
「あんなところで立ちんぼしてんだから、ナンパかと思うよな。」
「だよ。思わせぶり。」
「どうせババァだよ。若くねぇし。」
 そんな勝手なことを言いながら、男たちは行ってしまった。それを見て、圭太は響子の肩を抱く。
「ちょっと……。」
 反抗するように響子が言うと、圭太はわざと男たちに聞こえるように言った。
「ババァにも相手にされないようなヤツ、家に帰って大人しくオ○ニーしてろ。バーカ。」
 そういってそのまま響子の手を引くと、駆け足で公園をあとにする。後ろから何か言っている声が聞こえたが、いちいち反応していられない。
 しばらくして足を止める。駅はすぐだった。
「お前、少し前に出たんじゃなかったのか。」
「ちょっとね……帰りづらくて。」
 家に帰れば真二郎が帰ってくる。真二郎に告白されたのだ。その気持ちに答えられないと断っていたが、はいそうですかと気持ちを切り替えて家に戻るほどまだ気持ちの整理がついていなかったのだろう。
「……どっか行くか?気持ちを切り替えるのに……そうだな……車を出そうか。」
「実家にあるんじゃないの?」
「電話すれば持ってきてくれる。ちょっと待ってろ。」
 そういって圭太は携帯電話を取り出して、どこかに電話を始めた。
 その間、響子は駅の方を見る。終電までにはまだ時間があるようだ。このまま帰ってもかまわない。やっぱり帰るわといえるのに、それをしないのはやはり圭太のことが気にかかるのかもしれない。
「実家ってどこなの?」
 電話を終えた圭太にそう聞くと、圭太は少し考えて言う。
「Aかな。ちょっとはずれてるけど。」
「高級住宅街ね。」
「一般的にはな。」
 芸能人とかどこかの社長とかが広い家を建てているような所だ。そこに家をたてたのは、おそらく家を建てて首が回らなくなったような人たちに目を光らせるためだ。実際、立派な家ばかりだがその中は空き家という家は少なくない。

 前にもみた青いRV車は、中が広い。だからウェディングケーキを運んだりも出来るし、たまにある焼き菓子の大口注文も運んだり出来るのだ。
 だからかもしれないが、とても車の中は片づいている。
「普段は兄嫁が使っているって言ってたわね。」
「んー。でも最近しょっちゅう使ってるからかな。兄嫁が自分の車を欲しがっているって言ってた。まぁ、そっちの方がこっちは助かるけどな。」
 信号で停まり、その標識を見る。その先は港と書いてあった。
「港?」
「行ったことがあるか?対岸の光が綺麗でさ……。」
 カップルのデートスポットなのだ。真子と一度行ったことがあるが、真子は海が苦手ですぐに帰りたいと言っていたのを覚えている。
「女性が好きそうな所をよく知っているのね。」
「まぁな。俺、三十だし、それなりにな。」
「それもそうね。」
 気にしていない。一度キスをしたと言っても明確に恋人同士というわけではないし、嫉妬すら出来ないのだ。
 好きだという言葉も、まだ響子の心に届いていない。
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