21 / 339
映画
20
しおりを挟む
明け方やっと解放されて、真二郎はそのまま家に帰ってくる。あのままあの男は初めてを真二郎に捧げ、何度も絶頂に達していた。休むことなく続いた行為に、男は気絶するように意識を失ったが雇い主はそれで満足しているらしい。
何が楽しいのかわからない。いつも相手も違うし、それを見ているだけだという。特に録画されるわけでもなく、写真に収められて脅すこともない。だが男はずっと真二郎を指名し続ける。
少し明るくなってきた空を見ながら部屋に戻ると、リビングにいい匂いがした。キッチンを見ると響子が食事を作っているらしい。
「あぁ。真二郎。帰ってきたの。お帰り。」
「ただいま。どうしたの?」
響子がたまに作る煮込み料理の匂いがした。豚のスペアリブや軟骨と根菜なんかを入れた醤油味のごった煮。それは真二郎が好きなものだ。
「目が覚めちゃって。何かしようと思ってさ。しばらくコレを食べないとね。」
「良いけど……。」
よく見ると響子の目の下にクマが出来ている。それに目が腫れていた。寝ていないのか、それとも泣いていたのかわからない。夕べ、何があったのだろう。
「ん……。いい感じ。ご飯もそろそろ炊けるかな。」
炊飯器が音を立てた。ご飯が炊きあがったらしい。
「ご飯、食べる?」
「うん。ちょっとシャワーを浴びてくるよ。」
「浴びてきたんじゃないの?ロングだったって事は、いつもの金持ちでしょ?」
「何か匂いがあまり好きじゃなくてね。」
置いていたシャンプーやボディソープも全てブランドのものだった。体を洗って行為をするのはマナーだし、下処理だって完璧にしている。だがこの匂いが嫌いだった。響子に嗅がれたくない。
シャワーを浴びてきて、ダイニングテーブルを見るといつもどおりの食事が並んでいた。響子は和食が好きだ。だがコーヒーは欠かせないらしい。
「いただきます。」
「どうぞ。」
食事をしながら、その口元を見る。何かあったのだろうか。誰かにキスでもされたのだろうか。いや、キスだけではなく、セックスをしたというのだろうか。あの「やまとや」の男か。そうではなければ……。
「オーナーと映画を見に行ったんだろう?どうだった?」
すると響子は味噌汁を噴きそうになった。そしてせき込む。やはりあの男ではなく、圭太と何かあったのだろう。
「あー苦しい。ちょっと気管に入っちゃったな。んー映画は良かったよ。パンフレット売っててさ。買って来ちゃった。真二郎もあとで見る?」
「うん。あぁ、俺も行きたかったな。」
真二郎が居てくれれば、あんな事にならなかっただろう。だが自分にも非があるのかもしれないとは思う。のこのこ男の部屋に行ったのだ。圭太だって男なんだし、何があってもおかしくない。
「オーナーが居てくれて良かったわ。」
響子はそう言って漬け物に箸をのばす。
「そうなの?」
「うん。「やまとや」の男、不機嫌そうに映画館の前で帰ったのよ。何をしたいと思ったんだか。」
「何事をしたいと思ったんだろうね。響子は年の割に若く見えるから。それに……。」
体のことを言いたくなかったが、視線でわかるだろう。すると響子は頬を膨らませていった。
「好きで大きくなったわけじゃないのに。」
「ははっ。そうだね。」
体が細いのに、胸や尻だけは肉が付いている。それがコンプレックスだった。もっとも響子よりもさらに大きな胸を持っている妹の夏子は、天職に就いたようだ。
「ご飯食べたら、少し寝た方がいいよ。」
「え?」
「クマが出来てる。寝てないんだろう?」
すると響子は少しうつむいた。そして真二郎の目を見ないで言う。
「オーナーに少しだけ言ったわ。」
「え?」
「昔の事件。全てを言ったわけじゃないけれど、オーナーだって言ってくれたから。」
その言葉に真二郎の手が少し震える。
「……け……オーナーは何て?」
「それは言えない。オーナーのプライベートなことだから。でも私がレイプされたことは言ったの。」
「……。」
「頭がおかしくなりそう。あの犯人たちは全て捕まって、一人はヤクザになった。一人は、女をまたレイプして捕まった。でも女を死んだ方がましだって言うことをしても、のうのうとまだ生きているなんて世の中甘いわ。」
響子の目に涙が溜まっている。それだけ悔しいのだ。
「……俺は……その男たちと一緒かな。」
「違うわ。一緒なら、すぐに出て行けっていうでしょうね。でも真二郎だから。」
同じ男なのに、真二郎は男としてみてないのだ。それが悔しいと思う一方、それだけ信用されていると思って嬉しかった。
「そうだね。だけど今日は俺の言うことをきいてくれる?」
「……。」
「タイマーをかけておくよ。時間ぎりぎりまで寝ていようか。何時間寝れるかな。」
「真二郎も寝ていないんでしょう?起きれる?」
「起きるよ。大丈夫。」
夜明けの空が白み、星は消えていく。
響子は素直に真二郎の腕に抱かれ、眠りについていた。いつもあの事件を思い出すと、響子はこうやって眠っている。真二郎だけは信用できるのだ。
真二郎は他の男と違う。体なんか見たりしない。真二郎は、ずっと側にいてくれるのだ。
「響子は汚くなんかないよ。ずっと綺麗だ。俺の側にいて欲しい。愛しているよ。」
その言葉は響子に届かない。
響子がずっと好きだった。それと同時に、憎しみも沸々と沸いてくるようだった。
「……。」
男であることを恨んだことはあのときだった。そしてその時だけ、響子を忘れられた。なのにその人は真二郎に信じられないことを言ったのだ。
慰めてくれたのはやはり忘れたと思っていた響子だった。だから響子を離したくない。
その時、玄関のチャイムが鳴った。眠っている響子をそのままに、真二郎はベッドから起きあがると、玄関へ向かう。
「はい。」
ドアを開けると、そこには夏子の姿があった。
「あれ?まだ寝てたの?」
「今日、ロンクだったんだ。少しでも寝れたらいいと思って。」
「姉さんも?」
「少し寝付けなかったみたいでね。仮眠してる。」
「そっか……うん。わかった。それなら良いわ。」
「どうしたの?」
夏子は少しため息を付くと、真二郎を見上げる。
「ねぇ。真二郎さ、顔が写んないから男優してって言ったら出来る?」
「無理。」
「そうよねぇ……。ったく……どうしろって言うんだろ。」
「何?」
「汁百人のぶっかけモノ。今時そんなのはやんないっつーの。」
「ははっ。そうだね。それに、俺どっちにしても今日は無理かな。」
「何で?」
「何時間前まで男の尻に突っ込んでたし。」
「なるほどねぇ。そうだったわ。あ、コレ、あげる。」
そう言って夏子は、バッグから自分のソフトとコンドームを手渡す。
「いいの?」
「いいよぉ。この間のオーナーさんにでもあげておいて。じゃあね。」
そう言って夏子は行ってしまった。台風みたいな人だと思いながら、そのソフトとコンドームを手にしてベッドルームに戻った。
このコンドームが響子相手に使うときが来ればいいと思う。
何が楽しいのかわからない。いつも相手も違うし、それを見ているだけだという。特に録画されるわけでもなく、写真に収められて脅すこともない。だが男はずっと真二郎を指名し続ける。
少し明るくなってきた空を見ながら部屋に戻ると、リビングにいい匂いがした。キッチンを見ると響子が食事を作っているらしい。
「あぁ。真二郎。帰ってきたの。お帰り。」
「ただいま。どうしたの?」
響子がたまに作る煮込み料理の匂いがした。豚のスペアリブや軟骨と根菜なんかを入れた醤油味のごった煮。それは真二郎が好きなものだ。
「目が覚めちゃって。何かしようと思ってさ。しばらくコレを食べないとね。」
「良いけど……。」
よく見ると響子の目の下にクマが出来ている。それに目が腫れていた。寝ていないのか、それとも泣いていたのかわからない。夕べ、何があったのだろう。
「ん……。いい感じ。ご飯もそろそろ炊けるかな。」
炊飯器が音を立てた。ご飯が炊きあがったらしい。
「ご飯、食べる?」
「うん。ちょっとシャワーを浴びてくるよ。」
「浴びてきたんじゃないの?ロングだったって事は、いつもの金持ちでしょ?」
「何か匂いがあまり好きじゃなくてね。」
置いていたシャンプーやボディソープも全てブランドのものだった。体を洗って行為をするのはマナーだし、下処理だって完璧にしている。だがこの匂いが嫌いだった。響子に嗅がれたくない。
シャワーを浴びてきて、ダイニングテーブルを見るといつもどおりの食事が並んでいた。響子は和食が好きだ。だがコーヒーは欠かせないらしい。
「いただきます。」
「どうぞ。」
食事をしながら、その口元を見る。何かあったのだろうか。誰かにキスでもされたのだろうか。いや、キスだけではなく、セックスをしたというのだろうか。あの「やまとや」の男か。そうではなければ……。
「オーナーと映画を見に行ったんだろう?どうだった?」
すると響子は味噌汁を噴きそうになった。そしてせき込む。やはりあの男ではなく、圭太と何かあったのだろう。
「あー苦しい。ちょっと気管に入っちゃったな。んー映画は良かったよ。パンフレット売っててさ。買って来ちゃった。真二郎もあとで見る?」
「うん。あぁ、俺も行きたかったな。」
真二郎が居てくれれば、あんな事にならなかっただろう。だが自分にも非があるのかもしれないとは思う。のこのこ男の部屋に行ったのだ。圭太だって男なんだし、何があってもおかしくない。
「オーナーが居てくれて良かったわ。」
響子はそう言って漬け物に箸をのばす。
「そうなの?」
「うん。「やまとや」の男、不機嫌そうに映画館の前で帰ったのよ。何をしたいと思ったんだか。」
「何事をしたいと思ったんだろうね。響子は年の割に若く見えるから。それに……。」
体のことを言いたくなかったが、視線でわかるだろう。すると響子は頬を膨らませていった。
「好きで大きくなったわけじゃないのに。」
「ははっ。そうだね。」
体が細いのに、胸や尻だけは肉が付いている。それがコンプレックスだった。もっとも響子よりもさらに大きな胸を持っている妹の夏子は、天職に就いたようだ。
「ご飯食べたら、少し寝た方がいいよ。」
「え?」
「クマが出来てる。寝てないんだろう?」
すると響子は少しうつむいた。そして真二郎の目を見ないで言う。
「オーナーに少しだけ言ったわ。」
「え?」
「昔の事件。全てを言ったわけじゃないけれど、オーナーだって言ってくれたから。」
その言葉に真二郎の手が少し震える。
「……け……オーナーは何て?」
「それは言えない。オーナーのプライベートなことだから。でも私がレイプされたことは言ったの。」
「……。」
「頭がおかしくなりそう。あの犯人たちは全て捕まって、一人はヤクザになった。一人は、女をまたレイプして捕まった。でも女を死んだ方がましだって言うことをしても、のうのうとまだ生きているなんて世の中甘いわ。」
響子の目に涙が溜まっている。それだけ悔しいのだ。
「……俺は……その男たちと一緒かな。」
「違うわ。一緒なら、すぐに出て行けっていうでしょうね。でも真二郎だから。」
同じ男なのに、真二郎は男としてみてないのだ。それが悔しいと思う一方、それだけ信用されていると思って嬉しかった。
「そうだね。だけど今日は俺の言うことをきいてくれる?」
「……。」
「タイマーをかけておくよ。時間ぎりぎりまで寝ていようか。何時間寝れるかな。」
「真二郎も寝ていないんでしょう?起きれる?」
「起きるよ。大丈夫。」
夜明けの空が白み、星は消えていく。
響子は素直に真二郎の腕に抱かれ、眠りについていた。いつもあの事件を思い出すと、響子はこうやって眠っている。真二郎だけは信用できるのだ。
真二郎は他の男と違う。体なんか見たりしない。真二郎は、ずっと側にいてくれるのだ。
「響子は汚くなんかないよ。ずっと綺麗だ。俺の側にいて欲しい。愛しているよ。」
その言葉は響子に届かない。
響子がずっと好きだった。それと同時に、憎しみも沸々と沸いてくるようだった。
「……。」
男であることを恨んだことはあのときだった。そしてその時だけ、響子を忘れられた。なのにその人は真二郎に信じられないことを言ったのだ。
慰めてくれたのはやはり忘れたと思っていた響子だった。だから響子を離したくない。
その時、玄関のチャイムが鳴った。眠っている響子をそのままに、真二郎はベッドから起きあがると、玄関へ向かう。
「はい。」
ドアを開けると、そこには夏子の姿があった。
「あれ?まだ寝てたの?」
「今日、ロンクだったんだ。少しでも寝れたらいいと思って。」
「姉さんも?」
「少し寝付けなかったみたいでね。仮眠してる。」
「そっか……うん。わかった。それなら良いわ。」
「どうしたの?」
夏子は少しため息を付くと、真二郎を見上げる。
「ねぇ。真二郎さ、顔が写んないから男優してって言ったら出来る?」
「無理。」
「そうよねぇ……。ったく……どうしろって言うんだろ。」
「何?」
「汁百人のぶっかけモノ。今時そんなのはやんないっつーの。」
「ははっ。そうだね。それに、俺どっちにしても今日は無理かな。」
「何で?」
「何時間前まで男の尻に突っ込んでたし。」
「なるほどねぇ。そうだったわ。あ、コレ、あげる。」
そう言って夏子は、バッグから自分のソフトとコンドームを手渡す。
「いいの?」
「いいよぉ。この間のオーナーさんにでもあげておいて。じゃあね。」
そう言って夏子は行ってしまった。台風みたいな人だと思いながら、そのソフトとコンドームを手にしてベッドルームに戻った。
このコンドームが響子相手に使うときが来ればいいと思う。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生
花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。
女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感!
イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる