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映画
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この間の結婚式で使ったホテルではなくて良かったと、真二郎は内心思っていた。四十階ほどあるホテルの一室でワインを飲みながら向かいに座っている男はずっと真二郎を買っていた。真二郎がまだウリセンのボーイとして駆け出しの頃から世話になっている男で、知識の上でしか知らなかったアレコレをこの男が教えたのだ。
詳しい年齢もどんな仕事をしているかもわからない。ただ飲んでいるワインも、男が身につけているスーツも装飾品もすべて一流品で、それを真二郎にも求めてくる。どうしてこんなによくしてくれるのかわからない。だがこの男だけは特別なのだ。大抵、二、三時間くらいで終わる仕事をこの男だけはロングで買う。つまり夜明けほどまでこの男と一緒にいるのだ。もちろん、他の人の倍の金額を出しているらしい。詳しい値段はわからないが、それが月に一度か二度あるだけで、ウリセンのオーナーがほくほくなのだ。
しかもそのやり方は特別で、真二郎もそれに異論はない。
「今日は真君は気もそぞろだね。」
しまった。仕事中は考えないようにしていたのに、長いつきあいになってしまったこの男には気付かれてしまったのだろうか。
「そう見えますか。」
「新しいデザートのことでも考えていたのかな。」
「夏になりましたからね。生菓子は売れなくなります。」
「君は仕事のことしか考えていないようだ。」
歳はいくつぐらいだろう。自分の父親はテレビ越しでしか見たことがないが、それくらいの歳かもしれない。顔に刻まれた深い皺がそれを物語っている。
「この仕事で生きて行くには歳もありますからね。どうしても手に職は持っていたかったんです。ここまではまるとは思ってませんでしたけど。」
「君の作るデザートと、君の相方が入れるコーヒーはこのホテルでも味わえない幸福な味だ。それを口に出来る人は、幸せ者だな。」
薄っぺらい会話だ。そんなことを思っているわけではないのに、自然と口にする。そんな男なのだろう。
食事が終わる頃、その食器を片づけるボーイと入れ替わるように一人の男がやってくる。真二郎よりも遙かに年下の男。二十歳くらいだろうか。ホストクラブの男のようで、長髪でどこか儚げに見える。おそらく女であれば誰でも振り向くであろう男だった。
「真君。誠君だ。」
「よろしく。」
「はい……よろしくお願いします。」
男はがちがちに緊張しているようだ。今からする事に期待と、不安が入り交じっているのかもしれない。手が震えている。
「そんなに緊張しなくても良いよ。シャワーでも浴びて、処理をしてくると良い。」
「はい……。」
男は少し特殊な性癖をしていた。決して真二郎を抱こうとはしない。男に言わせると、男は不全なのだ。代わりに男も女も知らない童貞の男を捕まえて、真二郎にセックスをさせる。それを見るのが良いらしい。
「あ……。何か……変です。体がおかしくて……。」
「ここ、好きなんだ。本当に初めてなの?すごい感じてる。」
膨らみも何もないその乳首に舌を這わせて、少し歯を立てるだけで乳首が立ってきた。もうその下の性器も、がちがちに勃起している。
そこに手を這わせると、まるで女の子のように男があえいだ。
「あ……。」
それをいすに腰掛けて品定めしているように、その男はその行為を見ていた。正直不快に思うが、自分が抱くわけではなくそれを見るだけで良いというのはどういう感情なのだろう。
尻の穴に指を這わせると、またびくっと体が震えた。初々しい。真二郎もまたこういう初めての男が好きだった。そして真二郎はその顔に、響子を重ねる。
響子は圭太と、そして「やまとや」の男と映画を見に行ったはずだ。どうしてこんな時に、一緒にいてやれないのだろう。それが一番真二郎が気にかけていることだった。
ローションを手に取ると、そこをゆっくりほぐしていく。それでも男が感じているようだった。性器が少し濡れてきた。
「ここも感じてきてるね。触ってあげようか。」
「あっ……。」
男の声と、体液と、ローションが混ざり合い、部屋に卑猥な音が響いていた。
タクシーに連絡してみると、やはりかなり待つらしい。やはり電車の遅延はどこにも影響がある。
「一時間は待つって。」
「そんなに待つのか。」
圭太は時計を見ると、ここから一時間も待ったら日を越えてしまう。そんなときにあんな繁華街を歩かせていいのだろうか。慣れているとはいえ、深夜になれば様相も違うのだ。
「大丈夫だって。慣れてるから。」
「そこに住んでどれくらいになるんだ。」
「さぁ……。二、三年くらいじゃないかしら。真二郎がホテルの勤務を辞めて、二、三件の洋菓子店で働いていたのを辞めたときくらいだったから。」
「何であいつやめたんだ。そっちの方が実入りが良かっただろうに。」
「どうしてもね。男もだけど、女も真二郎に言い寄ってたから、店の中がごたごたになるって。そのホテルでは、学生アルバイトが、真二郎を思うあまり自殺未遂をしたわ。それ以外もたくさんある。オーナーが真二郎に入れ込みすぎて奥さんと別れたりね。腕はいいけど、真二郎は拒否しないから。」
「……なんだよそれ。」
「だから、この業界では鼻つまみものなのよ。あなたもそうならないと限らなかったのに。」
「俺はストライクじゃねぇんだってさ。」
ソファにもたれ掛かり、ため息を付いた。自分だって男の趣味があるわけではない。女がいいに決まっている。だが真子のことを思うと、他の女に目を向けたくない。いや、向けれないのかもしれない。なのにこの隣で座っている響子はどうしても意識してしまう。さっきからずっと緊張していたのだ。
「……やっぱビールでも飲むか。お前も飲む?」
「もらおうかな。もう終電とか関係ないでしょ?」
圭太は立ち上がるとキッチンにある冷蔵庫を開けた。そしてビールの缶を二つ手にとって、ソファに戻る。
「ほら。」
ビールの缶を受け取った響子は、少し笑ってその蓋を開ける。
「あなたは真二郎のドストライクに見えるけどね。」
「は?」
「黙っていれば綺麗な顔をしているもの。髪を短くして、髭でも生やせばゲイからもてそうだけど。」
「勘弁してくれよ。男のアレに突っ込む気もないし、俺のアレに突っ込まれる趣味もねぇよ。」
圭太もソファに座ると、ビールの缶を開けた。そして響子の持っている缶に軽くあわせた。
「お前はどうなんだよ。」
「え?」
「ずっとセックスしてねぇんだろ?したいとか思わないのか。それとも自己処理だけでいいのか?」
「下世話。」
「お前が言い出したんだろ。」
ビールに口を付けると、響子は少しうつむいていう。
「セックスをする必要性も感じないし、したくもない。」
「……。」
「一つ、言えることは、私は望んでセックスをしたことは一度もないの。」
「レイプされたって事か?それとも……押し倒されたとか。」
「……そうね。そんなところ。」
詳しいことは言いたくなかった。そして響子もまたビールに口を付ける。
詳しい年齢もどんな仕事をしているかもわからない。ただ飲んでいるワインも、男が身につけているスーツも装飾品もすべて一流品で、それを真二郎にも求めてくる。どうしてこんなによくしてくれるのかわからない。だがこの男だけは特別なのだ。大抵、二、三時間くらいで終わる仕事をこの男だけはロングで買う。つまり夜明けほどまでこの男と一緒にいるのだ。もちろん、他の人の倍の金額を出しているらしい。詳しい値段はわからないが、それが月に一度か二度あるだけで、ウリセンのオーナーがほくほくなのだ。
しかもそのやり方は特別で、真二郎もそれに異論はない。
「今日は真君は気もそぞろだね。」
しまった。仕事中は考えないようにしていたのに、長いつきあいになってしまったこの男には気付かれてしまったのだろうか。
「そう見えますか。」
「新しいデザートのことでも考えていたのかな。」
「夏になりましたからね。生菓子は売れなくなります。」
「君は仕事のことしか考えていないようだ。」
歳はいくつぐらいだろう。自分の父親はテレビ越しでしか見たことがないが、それくらいの歳かもしれない。顔に刻まれた深い皺がそれを物語っている。
「この仕事で生きて行くには歳もありますからね。どうしても手に職は持っていたかったんです。ここまではまるとは思ってませんでしたけど。」
「君の作るデザートと、君の相方が入れるコーヒーはこのホテルでも味わえない幸福な味だ。それを口に出来る人は、幸せ者だな。」
薄っぺらい会話だ。そんなことを思っているわけではないのに、自然と口にする。そんな男なのだろう。
食事が終わる頃、その食器を片づけるボーイと入れ替わるように一人の男がやってくる。真二郎よりも遙かに年下の男。二十歳くらいだろうか。ホストクラブの男のようで、長髪でどこか儚げに見える。おそらく女であれば誰でも振り向くであろう男だった。
「真君。誠君だ。」
「よろしく。」
「はい……よろしくお願いします。」
男はがちがちに緊張しているようだ。今からする事に期待と、不安が入り交じっているのかもしれない。手が震えている。
「そんなに緊張しなくても良いよ。シャワーでも浴びて、処理をしてくると良い。」
「はい……。」
男は少し特殊な性癖をしていた。決して真二郎を抱こうとはしない。男に言わせると、男は不全なのだ。代わりに男も女も知らない童貞の男を捕まえて、真二郎にセックスをさせる。それを見るのが良いらしい。
「あ……。何か……変です。体がおかしくて……。」
「ここ、好きなんだ。本当に初めてなの?すごい感じてる。」
膨らみも何もないその乳首に舌を這わせて、少し歯を立てるだけで乳首が立ってきた。もうその下の性器も、がちがちに勃起している。
そこに手を這わせると、まるで女の子のように男があえいだ。
「あ……。」
それをいすに腰掛けて品定めしているように、その男はその行為を見ていた。正直不快に思うが、自分が抱くわけではなくそれを見るだけで良いというのはどういう感情なのだろう。
尻の穴に指を這わせると、またびくっと体が震えた。初々しい。真二郎もまたこういう初めての男が好きだった。そして真二郎はその顔に、響子を重ねる。
響子は圭太と、そして「やまとや」の男と映画を見に行ったはずだ。どうしてこんな時に、一緒にいてやれないのだろう。それが一番真二郎が気にかけていることだった。
ローションを手に取ると、そこをゆっくりほぐしていく。それでも男が感じているようだった。性器が少し濡れてきた。
「ここも感じてきてるね。触ってあげようか。」
「あっ……。」
男の声と、体液と、ローションが混ざり合い、部屋に卑猥な音が響いていた。
タクシーに連絡してみると、やはりかなり待つらしい。やはり電車の遅延はどこにも影響がある。
「一時間は待つって。」
「そんなに待つのか。」
圭太は時計を見ると、ここから一時間も待ったら日を越えてしまう。そんなときにあんな繁華街を歩かせていいのだろうか。慣れているとはいえ、深夜になれば様相も違うのだ。
「大丈夫だって。慣れてるから。」
「そこに住んでどれくらいになるんだ。」
「さぁ……。二、三年くらいじゃないかしら。真二郎がホテルの勤務を辞めて、二、三件の洋菓子店で働いていたのを辞めたときくらいだったから。」
「何であいつやめたんだ。そっちの方が実入りが良かっただろうに。」
「どうしてもね。男もだけど、女も真二郎に言い寄ってたから、店の中がごたごたになるって。そのホテルでは、学生アルバイトが、真二郎を思うあまり自殺未遂をしたわ。それ以外もたくさんある。オーナーが真二郎に入れ込みすぎて奥さんと別れたりね。腕はいいけど、真二郎は拒否しないから。」
「……なんだよそれ。」
「だから、この業界では鼻つまみものなのよ。あなたもそうならないと限らなかったのに。」
「俺はストライクじゃねぇんだってさ。」
ソファにもたれ掛かり、ため息を付いた。自分だって男の趣味があるわけではない。女がいいに決まっている。だが真子のことを思うと、他の女に目を向けたくない。いや、向けれないのかもしれない。なのにこの隣で座っている響子はどうしても意識してしまう。さっきからずっと緊張していたのだ。
「……やっぱビールでも飲むか。お前も飲む?」
「もらおうかな。もう終電とか関係ないでしょ?」
圭太は立ち上がるとキッチンにある冷蔵庫を開けた。そしてビールの缶を二つ手にとって、ソファに戻る。
「ほら。」
ビールの缶を受け取った響子は、少し笑ってその蓋を開ける。
「あなたは真二郎のドストライクに見えるけどね。」
「は?」
「黙っていれば綺麗な顔をしているもの。髪を短くして、髭でも生やせばゲイからもてそうだけど。」
「勘弁してくれよ。男のアレに突っ込む気もないし、俺のアレに突っ込まれる趣味もねぇよ。」
圭太もソファに座ると、ビールの缶を開けた。そして響子の持っている缶に軽くあわせた。
「お前はどうなんだよ。」
「え?」
「ずっとセックスしてねぇんだろ?したいとか思わないのか。それとも自己処理だけでいいのか?」
「下世話。」
「お前が言い出したんだろ。」
ビールに口を付けると、響子は少しうつむいていう。
「セックスをする必要性も感じないし、したくもない。」
「……。」
「一つ、言えることは、私は望んでセックスをしたことは一度もないの。」
「レイプされたって事か?それとも……押し倒されたとか。」
「……そうね。そんなところ。」
詳しいことは言いたくなかった。そして響子もまたビールに口を付ける。
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