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映画
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圭太の家は駅からほど近いマンションだった。十階建ての六階。一番端の部屋で、慣れたようにそのマンションの部屋の鍵を開ける。
「立派なマンションね。」
「家から紹介されただけだよ。別に俺が立派な訳じゃないんだけどな。」
中にはいると几帳面に片づけられている。一人暮らしの男の部屋なのだ。もっと散乱していると思っていたが、その辺も几帳面なのだろう。
リビングダイニングで、横には寝室らしいドアがある。思えばあまり男の部屋に入ったことはない。真二郎が実家にいたときは、周りの目もあって行くことはなかったし、響子の家に真二郎が来ることはあまりなかった。母親がそれを厳しく禁止していたのだ。
「男の部屋にしては片づいているわね。」
エアコンのスイッチを入れて、圭太はキッチンへ向かう。そして冷蔵庫を開けた。
「何か飲むか?っていってもお茶か水くらいしかねぇか。あとビール。」
「お茶、さっき買ったもの。」
人混みは喉が渇く。それに汗臭い。人混みで車内はクーラーが利いていたはずなのに、それも全く意味がないようだ。
「真二郎の部屋はどうだったんだ。」
「行ったこと無いわ。」
「近所に住んでんだから出入りくらいあるだろ?」
そうか。今の話をしているのだ。今は一緒に寝たりしているのだ。几帳面なのかどうなのかわからない。
「綺麗よ。あの子も結構潔癖だし。」
「あの子って、年上だろ?」
「そうだけどね。あんなにずっと一緒にいたら年上なのか何なのかわからなくなるわ。」
そういってソファに座ると、響子はお茶の蓋をまた開ける。そのとき、ふと棚に置いていた写真たてが目に付いた。それには今よりも若い圭太の姿と、髪が短い女性が写っている。これが「真子」という人なのだろうか。
「この人が例の人?」
コップにお茶を注いで、ソファに持って行こうとした圭太は、響子が手にしたその写真たてを見てひきつった笑いを浮かべた。
「そう。」
あの結婚式の時、圭太の兄の嫁である小百合という女性が言っていた。響子を見て真子に似ているという。だがこうしてみてみるとあまり似ていないような気がした。
「似てないわね。」
「何が?」
「結婚式の時、あなたのお兄さんの奥様かしら。」
「小百合さんが何か言ったっけ。」
「私の顔を見て似てるって言ったのよ。」
すると圭太もその棚に近づいて、その写真たてを手にした。
「確かに似てねぇな。」
「……どこを見て似てるって言ったのかしら。」
「あの人はそうやって波風を立てようとするところがあるからな。あまり気にするな。」
そういって写真たてを元に戻す。だが違和感は少しずつ強くなっていくようだ。
「タクシー。連絡したっけ。」
「待つって言ってたけど、連絡はしてねぇな。」
「あまり長居をしても良くないわ。」
「そんなに早く帰りたいのかよ。」
「明日は休みだけど、行きたい所があるのよ。」
そういって響子はソファに戻って携帯電話を手にする。タクシーが来たらすぐ帰ってしまう。家にのこのこやってきたのは、少しでも期待しているからなのか。それとも本当に危機管理がないからなのかわからない。
「……なぁ、響子。」
「ん?」
響子は携帯電話でタクシー会社を調べている手を止めて、圭太の方を見る。すると圭太はその隣に座ってきた。
「あの映画のパンフ見せてくれないか。」
「あぁ。見せるって約束だったものね。これよ。」
そういってパンフレットを取り出した。その表表紙は、まるで一昔前のピンク映画のような作りになっている。そこもこだわったのだろうか。
「この作家さ。別の作品だけど、子供を拉致して性奴隷にしてたヤツがあるじゃん。アレも映画になったけど。」
「見る気はしないわ。」
「それも面白かったけどな。」
「そんなことがしたいの?」
響子は驚いたように圭太をみた。そんなことがしたいのかと思ったのだ。
「そうじゃねぇよ。ただエロ本みたいだなと思って。」
「エロばかり書いていた人だもの。純文学を書いても、結局それから抜けられないのね。」
ページを開くと、まるで写真集のように映画のワンシーンが映し出されている。主役の男も確かに綺麗だが、悪役ででているその男もまた相当綺麗な人だと思った。
「これがAV男優ね……。世も末だな。」
「その人が出てるソフト無いの?」
「ねぇよ。男ならAV持ってると思ってんのか。真二郎は持ってんのかよ。」
「あの子のソフトはゲイビばかりだもの。」
「そっか。そうだよな。」
それもそうだ。ウリセンと言うことは男ばかり相手にしているのだから、ゲイ向けのソフトしかないはずだ。
「そう言えば、昔、仲間内で真二郎の話をしたことがあるわ。」
「何の?」
「んー……。今となっては納得するけど、ちょっとあいつ所作とか綺麗じゃん。」
「お姉さんが相当うるさかったもの。」
「それに他の女よりも綺麗でさ。すげぇブスの女と真二郎と並べて、どっちと寝るかっていったら真二郎を選ぶだろうなって。」
「失礼ね。どんな容姿に生まれても、その人が選んだ訳じゃないのに。」
「全くだ。俺もそう思うよ。」
響子がどんな家に生まれたのか、どんな環境にいたのかなど響子自身が選んだわけではない。それは圭太だってそうだ。半分ヤクザのような家に生まれたのは、圭太のせいではない。たまたまそういう家だったのだ。
「この家ってさ、立派だろ?」
「収入があるから?」
「じゃなくて、親が選んだんだ。」
「親?」
「ここか、別のところか、ってこっちが不動産屋に行く前に間取りを並べられてさ。多分、うちの会社の息がかかってるからだろうな。」
立派なところだが格安なのはそのせいだろう。そして圭太を監視したいのだ。
「そうだったの。家がそんなのだと大変ね。」
「お前は?進んであんな繁華街に家を選んだのか?」
「そうね。親は反対したけど、お祖父さんは私らしいって言ってくれた。それに……近くに真二郎が居るなら良いっていってくれたし。」
「信用されてるな。」
「それだけじゃないけどね。」
きっと形は違うが、響子もまた監視されているのだ。その理由はまだいえない。
「立派なマンションね。」
「家から紹介されただけだよ。別に俺が立派な訳じゃないんだけどな。」
中にはいると几帳面に片づけられている。一人暮らしの男の部屋なのだ。もっと散乱していると思っていたが、その辺も几帳面なのだろう。
リビングダイニングで、横には寝室らしいドアがある。思えばあまり男の部屋に入ったことはない。真二郎が実家にいたときは、周りの目もあって行くことはなかったし、響子の家に真二郎が来ることはあまりなかった。母親がそれを厳しく禁止していたのだ。
「男の部屋にしては片づいているわね。」
エアコンのスイッチを入れて、圭太はキッチンへ向かう。そして冷蔵庫を開けた。
「何か飲むか?っていってもお茶か水くらいしかねぇか。あとビール。」
「お茶、さっき買ったもの。」
人混みは喉が渇く。それに汗臭い。人混みで車内はクーラーが利いていたはずなのに、それも全く意味がないようだ。
「真二郎の部屋はどうだったんだ。」
「行ったこと無いわ。」
「近所に住んでんだから出入りくらいあるだろ?」
そうか。今の話をしているのだ。今は一緒に寝たりしているのだ。几帳面なのかどうなのかわからない。
「綺麗よ。あの子も結構潔癖だし。」
「あの子って、年上だろ?」
「そうだけどね。あんなにずっと一緒にいたら年上なのか何なのかわからなくなるわ。」
そういってソファに座ると、響子はお茶の蓋をまた開ける。そのとき、ふと棚に置いていた写真たてが目に付いた。それには今よりも若い圭太の姿と、髪が短い女性が写っている。これが「真子」という人なのだろうか。
「この人が例の人?」
コップにお茶を注いで、ソファに持って行こうとした圭太は、響子が手にしたその写真たてを見てひきつった笑いを浮かべた。
「そう。」
あの結婚式の時、圭太の兄の嫁である小百合という女性が言っていた。響子を見て真子に似ているという。だがこうしてみてみるとあまり似ていないような気がした。
「似てないわね。」
「何が?」
「結婚式の時、あなたのお兄さんの奥様かしら。」
「小百合さんが何か言ったっけ。」
「私の顔を見て似てるって言ったのよ。」
すると圭太もその棚に近づいて、その写真たてを手にした。
「確かに似てねぇな。」
「……どこを見て似てるって言ったのかしら。」
「あの人はそうやって波風を立てようとするところがあるからな。あまり気にするな。」
そういって写真たてを元に戻す。だが違和感は少しずつ強くなっていくようだ。
「タクシー。連絡したっけ。」
「待つって言ってたけど、連絡はしてねぇな。」
「あまり長居をしても良くないわ。」
「そんなに早く帰りたいのかよ。」
「明日は休みだけど、行きたい所があるのよ。」
そういって響子はソファに戻って携帯電話を手にする。タクシーが来たらすぐ帰ってしまう。家にのこのこやってきたのは、少しでも期待しているからなのか。それとも本当に危機管理がないからなのかわからない。
「……なぁ、響子。」
「ん?」
響子は携帯電話でタクシー会社を調べている手を止めて、圭太の方を見る。すると圭太はその隣に座ってきた。
「あの映画のパンフ見せてくれないか。」
「あぁ。見せるって約束だったものね。これよ。」
そういってパンフレットを取り出した。その表表紙は、まるで一昔前のピンク映画のような作りになっている。そこもこだわったのだろうか。
「この作家さ。別の作品だけど、子供を拉致して性奴隷にしてたヤツがあるじゃん。アレも映画になったけど。」
「見る気はしないわ。」
「それも面白かったけどな。」
「そんなことがしたいの?」
響子は驚いたように圭太をみた。そんなことがしたいのかと思ったのだ。
「そうじゃねぇよ。ただエロ本みたいだなと思って。」
「エロばかり書いていた人だもの。純文学を書いても、結局それから抜けられないのね。」
ページを開くと、まるで写真集のように映画のワンシーンが映し出されている。主役の男も確かに綺麗だが、悪役ででているその男もまた相当綺麗な人だと思った。
「これがAV男優ね……。世も末だな。」
「その人が出てるソフト無いの?」
「ねぇよ。男ならAV持ってると思ってんのか。真二郎は持ってんのかよ。」
「あの子のソフトはゲイビばかりだもの。」
「そっか。そうだよな。」
それもそうだ。ウリセンと言うことは男ばかり相手にしているのだから、ゲイ向けのソフトしかないはずだ。
「そう言えば、昔、仲間内で真二郎の話をしたことがあるわ。」
「何の?」
「んー……。今となっては納得するけど、ちょっとあいつ所作とか綺麗じゃん。」
「お姉さんが相当うるさかったもの。」
「それに他の女よりも綺麗でさ。すげぇブスの女と真二郎と並べて、どっちと寝るかっていったら真二郎を選ぶだろうなって。」
「失礼ね。どんな容姿に生まれても、その人が選んだ訳じゃないのに。」
「全くだ。俺もそう思うよ。」
響子がどんな家に生まれたのか、どんな環境にいたのかなど響子自身が選んだわけではない。それは圭太だってそうだ。半分ヤクザのような家に生まれたのは、圭太のせいではない。たまたまそういう家だったのだ。
「この家ってさ、立派だろ?」
「収入があるから?」
「じゃなくて、親が選んだんだ。」
「親?」
「ここか、別のところか、ってこっちが不動産屋に行く前に間取りを並べられてさ。多分、うちの会社の息がかかってるからだろうな。」
立派なところだが格安なのはそのせいだろう。そして圭太を監視したいのだ。
「そうだったの。家がそんなのだと大変ね。」
「お前は?進んであんな繁華街に家を選んだのか?」
「そうね。親は反対したけど、お祖父さんは私らしいって言ってくれた。それに……近くに真二郎が居るなら良いっていってくれたし。」
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