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不明 な 理由
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眠りにつくと、夢を見ることがある。それは暗闇の夢。命乞いをする声と叫び声は父親と母親の声。ふすまの隙間から見える人影が襲っていたのだ。
気づかれてはいけない。幼心にもそう思って、私はそのままふすまを閉めた。両親を見殺しにした私もあの殺した人と同罪のような気がした。だから「犯人」を覚えていないと言っていたのだ。
しかしその目の前に一人の男の遺体がある。
青白い顔に刻まれた皺。白髪交じりの髪。細い体。指すべてに火傷の跡がある。それは指紋を取られないようにするためだと、伊勢さんは言う。
「海外に逃亡していたようだ。開発途上国あれば、この国の人くらい紛れることは出来るだろう。」
まっすぐにその遺体をみる。伊勢さんは、私がその遺体を見た瞬間倒れ込むのではないかと心配していたようだが、冷静に見ている私にむしろ別の心配をしているように見える。
「見覚えは?」
「無いです。」
男の死因は腹部を刺されたことによる出血死。逃亡先の国で、金目当てに殺されたらしい。
「…この男には不自然な点がいくつかある。」
まず一つ目。
「後藤喜久夫」という名前は偽名だった。金とつてがあれば、他人になれる世の中にそれは容易いことだっただろう。本名は「戸口三郎」。
戸口は小さな町工場の職人だった。腕のいい職人で人望も厚い。家族もいて、妻と子供が2人いる。そんな彼がどうして海外に失踪しなければいけなかったのか。
二つ目。
海外に偽名を使って逃亡(失踪)した戸口の預金は、その海外で悠々自適に暮らせるくらいの額があった。そしてそれは毎月、決まった額を振り込まれていたのだ。それが彼が殺された理由の一つなのだろう。一町工場の職人がどうしてそんな金を持っていたのか。
三つ目。
死んだ戸口の持ち物の中に、1通の手紙が発見された。
「これがそうだ。」
伊勢さんは私にその手紙を手渡した。手袋をして、私はそれを受け取る。宛名は「戸口三郎」になっているが、差出人の名前はない。中を開けると一通の紙が入っていた。
開いてみると、そこには私の両親が殺された日「12月24日」の日付が書かれていた。そして家があったところの住所、家の間取り、そして両親の名前が書かれている。
それから両親を殺害する方法や銃、ナイフの処理の仕方まで事細かに書いていた。
「これは…。」
「戸口と君の両親に接点はない。それがどうして君の両親のことを書いたモノがあるのか。」
「…。」
「戸口は「誰か」に頼まれて君の両親を殺した。そう思える。」
コーヒーの湯気がゆらゆらと立ち上る。伊勢さんは心配して私を、警察署近くの喫茶店へつれてきたのだ。
たぶん伊勢さんは私が落ち着いて見えるのだろう。それでも私がこの目の前のコーヒーに手を着けていないことに、心配をしていた。
「たぶん…。」
私はぽつりとつぶやいた。
「何だ?」
「私はあの人を見たことがあるんです。」
大きな音がして目を覚ました。急いで隣の部屋の両親の部屋に向かった。ふすまのドアが開けっ放しになっていたのを不思議に思いながら、そっとその隙間から中を見たのだ。
「あの人だった…と思います。」
両親が殺されたその事件はこれで解決した。そう思えた。しかし何だろうこの胸がもやもやするのは。
「そうか…。」
伊勢さんはそういってコーヒーを口に付ける。
「…どうして両親が殺されたのか、今となってはわからないでしょうね。」
「死人にくちなし。そう言うよ。しかし、まだ調べる余地はある。」
「…。」
「それは君が望めばワタシは動くだろう。どうしたい?」
「え?」
「これだけの金を自由に動かせる者が背後についていた。と言うことは、それを調べるのは、そのものを敵に回さないといけないということになる。」
「…。」
「そもそも、この事件はすでに時効が成立している。それに戸口を殺した犯人はすでに捕まっているし、上の判断は「もう必要ない捜査である」と言うのが見解だ。」
「…。」
「だが、釈然としないところは確かにある。それを君が調べてほしいというのであれば、ワタシは喜んで協力をしよう。」
「…でもそんなことをすれば…。」
「心配か。」
伊勢さんの口元がわずかに上がる。
「嬉しいよ。」
「…。」
私の頬が少し赤くなる感覚があった。こんな時に不謹慎なのかもしれない。
「これ以上、失いたくないんです。」
ますます顔が赤くなる。
「何を?」
「…なぜ言わないといけないのですか。」
小さく抗議をする。喉がからからになっているようだった。その目の前のコーヒーに、私も口を付けた。すっかり温くなってしまったコーヒーは、喉を潤してくれるのと冷静さを取り戻すには最適のような気がする。
「依さん。」
「はい。」
「ワタシは今夜夜勤だが、明日の夜なら空いている。また食事を作ってもらえないだろうか。」
「…えぇ。わかりました。」
それがどんな意味なのか。私はその意味を理解し、また頬が赤くなる感覚に襲われた。
気づかれてはいけない。幼心にもそう思って、私はそのままふすまを閉めた。両親を見殺しにした私もあの殺した人と同罪のような気がした。だから「犯人」を覚えていないと言っていたのだ。
しかしその目の前に一人の男の遺体がある。
青白い顔に刻まれた皺。白髪交じりの髪。細い体。指すべてに火傷の跡がある。それは指紋を取られないようにするためだと、伊勢さんは言う。
「海外に逃亡していたようだ。開発途上国あれば、この国の人くらい紛れることは出来るだろう。」
まっすぐにその遺体をみる。伊勢さんは、私がその遺体を見た瞬間倒れ込むのではないかと心配していたようだが、冷静に見ている私にむしろ別の心配をしているように見える。
「見覚えは?」
「無いです。」
男の死因は腹部を刺されたことによる出血死。逃亡先の国で、金目当てに殺されたらしい。
「…この男には不自然な点がいくつかある。」
まず一つ目。
「後藤喜久夫」という名前は偽名だった。金とつてがあれば、他人になれる世の中にそれは容易いことだっただろう。本名は「戸口三郎」。
戸口は小さな町工場の職人だった。腕のいい職人で人望も厚い。家族もいて、妻と子供が2人いる。そんな彼がどうして海外に失踪しなければいけなかったのか。
二つ目。
海外に偽名を使って逃亡(失踪)した戸口の預金は、その海外で悠々自適に暮らせるくらいの額があった。そしてそれは毎月、決まった額を振り込まれていたのだ。それが彼が殺された理由の一つなのだろう。一町工場の職人がどうしてそんな金を持っていたのか。
三つ目。
死んだ戸口の持ち物の中に、1通の手紙が発見された。
「これがそうだ。」
伊勢さんは私にその手紙を手渡した。手袋をして、私はそれを受け取る。宛名は「戸口三郎」になっているが、差出人の名前はない。中を開けると一通の紙が入っていた。
開いてみると、そこには私の両親が殺された日「12月24日」の日付が書かれていた。そして家があったところの住所、家の間取り、そして両親の名前が書かれている。
それから両親を殺害する方法や銃、ナイフの処理の仕方まで事細かに書いていた。
「これは…。」
「戸口と君の両親に接点はない。それがどうして君の両親のことを書いたモノがあるのか。」
「…。」
「戸口は「誰か」に頼まれて君の両親を殺した。そう思える。」
コーヒーの湯気がゆらゆらと立ち上る。伊勢さんは心配して私を、警察署近くの喫茶店へつれてきたのだ。
たぶん伊勢さんは私が落ち着いて見えるのだろう。それでも私がこの目の前のコーヒーに手を着けていないことに、心配をしていた。
「たぶん…。」
私はぽつりとつぶやいた。
「何だ?」
「私はあの人を見たことがあるんです。」
大きな音がして目を覚ました。急いで隣の部屋の両親の部屋に向かった。ふすまのドアが開けっ放しになっていたのを不思議に思いながら、そっとその隙間から中を見たのだ。
「あの人だった…と思います。」
両親が殺されたその事件はこれで解決した。そう思えた。しかし何だろうこの胸がもやもやするのは。
「そうか…。」
伊勢さんはそういってコーヒーを口に付ける。
「…どうして両親が殺されたのか、今となってはわからないでしょうね。」
「死人にくちなし。そう言うよ。しかし、まだ調べる余地はある。」
「…。」
「それは君が望めばワタシは動くだろう。どうしたい?」
「え?」
「これだけの金を自由に動かせる者が背後についていた。と言うことは、それを調べるのは、そのものを敵に回さないといけないということになる。」
「…。」
「そもそも、この事件はすでに時効が成立している。それに戸口を殺した犯人はすでに捕まっているし、上の判断は「もう必要ない捜査である」と言うのが見解だ。」
「…。」
「だが、釈然としないところは確かにある。それを君が調べてほしいというのであれば、ワタシは喜んで協力をしよう。」
「…でもそんなことをすれば…。」
「心配か。」
伊勢さんの口元がわずかに上がる。
「嬉しいよ。」
「…。」
私の頬が少し赤くなる感覚があった。こんな時に不謹慎なのかもしれない。
「これ以上、失いたくないんです。」
ますます顔が赤くなる。
「何を?」
「…なぜ言わないといけないのですか。」
小さく抗議をする。喉がからからになっているようだった。その目の前のコーヒーに、私も口を付けた。すっかり温くなってしまったコーヒーは、喉を潤してくれるのと冷静さを取り戻すには最適のような気がする。
「依さん。」
「はい。」
「ワタシは今夜夜勤だが、明日の夜なら空いている。また食事を作ってもらえないだろうか。」
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